566話:ヘルプを要請される1
ルキウサリアの冬はまだ終わらない。
春の新学期が不安になる新入生いるけど、今はちょっと忘れよう。
さすがに雪が積もりすぎて学園にも行けなくなった日、僕は大人しく除雪が終わるまで屋敷で待機してた。
そしたら、錬金術部屋でレーヴァンが泣き言を言い出したんだ。
「あ、待って。待ってください。ちょっと、殿下? なんかおかしくなりました! 殿下ー!」
「なんかおかしくなったじゃわからないよ。何がおかしいかをちゃんとわかって直せるようになってもらわないと」
「え、あの、俺に課せられたノルマが跳ね上がってません?」
錬金術部屋の床に座り込んだレーヴァンの元へ向かう。
レーヴァンは今、錬金術で作った伝声装置を組み立てる途中。
その中でも据え置きで、鍵盤を組み合わせた持ち運びできるものを弄ってる。
「あ、配線が間違ってるよ。だから変なところに繋がって異音がしてるんだ」
「なんで組み立てるだけでこんな難しいんですか?」
「だから、構造理解してればわかるんだって」
「その理解が難しいから、組み立てる見た目だけを整えてお役御免したいんですけど」
そもそもの造りをわかれという僕に、それができないからガワだけでいいって言うレーヴァン。
そんな言い合いをしながら、伝声装置の組み立てと受信状況の確認をする。
ひと段落するのを待って、今まで壁際で大人しく見ていた従僕のメンスが申し出た。
「質問をよろしいでしょうか」
「あ、そっちが興味持ったなら、このお役目そちらにでも」
レーヴァンがすぐに、ずいぶん年下相手に押しつけようとする。
けどメンスは、テリーが入学するまでの一年、こっちにいるだけ。
春には帝都に戻るレーヴァン以外に、テリーに伝声装置を届ける適任はいない。
レーヴァンは無視して、僕はメンスに応じた。
「いいよ、何がわからない?」
「ありがとうございます。…………何故、そちらの方が錬金術を?」
言って目を向けるのは、全く手を出さないイクト。
うん、つき合いで言えばイクトが長いから、同じ所属なのに触らせないのは不思議だね。
それにレーヴァンが扱い違うのも、見てわかってる。
つまり、側近じゃないのに教えてるのは何故かってことだ。
まぁ、成り行きでしかないんだけど。
「そう言えばメンスは、宮殿が占拠された時は何処に? あの時、宮殿内部と連絡取るために、テリーの部屋に置いてた伝声装置をレーヴァンに使わせたんだよ。それで、錬金術の伝声装置があることは一部に知られてる」
なんでレーヴァンにって聞くってことは、その流れをメンスは知らないんだろう。
たぶんテリーとか家族の間だけで共有されてると思う。
「テリー知ってるから、派兵視野に入れて伝声装置欲しがったと思ったんだけど?」
「申し訳ございませんが、私は当時本館にて不埒な企みを持つ者どもに、他の使用人たちと捕まっており」
テリーたちは左翼棟にいたから、その時に連れて行くのは、僕でも顔見知りの騎士と宮中警護たちだけ。
だからメンスが離れていたのは知ってる。
その上でまだ子供だから、武装した相手に捕まった当時、何もできなかったのはしょうがない。
「レーヴァン、帝都行ったらその辺りの確認もね」
「ご存じでなかったらどうするんですかねー」
仕事増やされてやさぐれぎみに答える。
「もちろん、うるさく寄って来る相手伝えて、テリーに自衛を促して」
「だったらもうこれ、渡すのやめればいいじゃないですか。今までみたいに隠れてこそこそやってくださいよ」
知らなければ気づかない振りできる。
今までもそうやって、僕は面倒ごとを回避してきた。
けどこれはばれてるし、レーヴァンも完全にロックオンされてるし、今さらこそこそしても無駄な案件だ。
「僕としてはレーヴァンが盾になってくれる分には困らないから」
嫌そうな顔されたけど、今さらレーヴァンが知らないとか言っても、実際やったのは見られてるんだよね。
しかもそれを鈍間と噂の第一皇子がやりました、なんて言っても信憑性低いし、そもそも僕には繋ぎ取れないからレーヴァンがアタックされるのは変わらない。
未だにルカイオス公爵もユーラシオン公爵も表面上敵対やめたわけじゃないから、僕に近寄る相手はブロックされる。
何より僕自身はルキウサリアだから、宮殿に戻る限りレーヴァンが狙われるんだ。
「せめて、説明書き作るのは駄目なんですかね?」
「漏洩怖いから却下」
メモも取らせず覚えさせる方向に、レーヴァンはがっくりした。
「レーヴァン専用で、こっちにしか繋がらないの作って渡してもいいよ? うん、そうしたら、改良思いつけば反映もしてもらえるね」
「いらないでーす。これ以上業務外の仕事増やさないでほしいんですよ、本当」
ぶつくさ言いながら、ちゃんと手は動いてる。
レーヴァンはほどほどにセンスあると思うんだけど、念のためイクトにも確認しよう。
「イクト、少しは弄れそう?」
「まず音の聞きわけが未だにおぼつきません。配線も内部の様子を記憶するだけならまだしも、必要に応じてつなぎ直すのは無理でしょう」
どうやら見たままを覚えることはできるそうだ。
かといって、調整はできそうにないって返答。
やっぱり第一に音階聞いてわからないと、どうにもならないしなぁ。
今、音だしてノイズがないか見てるレーヴァンは、音感には問題なさそうだし。
「あれ? ここ半音おかしい?」
「たまに配線が接触して音がぶれるんだよ。破断の要因にもなるから気をつけて」
「あ、ほんとですね。弦に触れてましたわ」
中を確認して、鍵盤から繋がる弦に配線が当たって音が外れたのを自分で気づいた。
うん、やっぱりレーヴァンが今のところ手近で一番の適任だ。
僕が頷く様子に気づいたレーヴァンが、さらに嫌そうに別案を出す。
「というか、改良するならこれより城のほう、どうにかしましょうよ」
メンスが知ってか知らずかわからないので、レーヴァンは曖昧に言った。
魔導伝声装置はウェアレルの管轄だけど、僕が口出してるのはすでに見てる。
「けど、僕がやると別物になるんだよね」
言って、同じく水晶玉使ったレーヴァンの手元にある伝声装置を見た。
途端にレーヴァンは溜め息を長々と吐いて見せる。
「帝都に骨埋めるつもりなかったのに、なんかこっちにも帰りづらくされてる」
「あ、そう言われて思い出した。僕は最近王城によく呼ばれるんだよ」
「えぇ、はい。なんだかんだ説明だ改良だ報告だと、冬ごもりもせず色々やってますね」
その辺りはレーヴァンも把握してるようだ。
「だからか、ルキウサリアの貴族でも僕の動きを見て、張ってる人がいてさ」
「えー? まぁ、いちおう余計な接触しないよう釘差すんで、相手方教えてもらえます?」
そこら辺は仕事の内だと思ってるのかな?
けど相手は完全に私情だったんだよね。
「レーヴァンが仕事忙しすぎてデートもしてくれないって言うご令嬢からの苦情だったんだけど」
「ごっふ…………!?」
一気に息吸いこんで、レーヴァンが咽た。
「イクトが、ストラテーグ侯爵もレーヴァンにちゃんと相手しろって怒ってたって聞いたんだよね」
「うぅん!? ちょっと、トトスさん?」
レーヴァンの絞り出すような非難の声も、イクトは無視して目も合わせない。
「婚約してるなら、結婚しないの?」
はっきり聞いたら、眉間にふっかい皺を刻まれた。
その上で自棄ぎみに答える。
「こっち戻って結婚予定が、こうして戻る予定立たなくなってんですよ」
「それはそれで、デートもしない理由にはならないと相手方は思ってるけど」
「うぐぅ…………」
僕が訴えられた苦情に沿って答えると、レーヴァンが呻く。
イクト曰く、相手が若すぎて別の結婚相手を探すべきじゃないかと、変な気を回してるらしい。
それで避けるのはどうかと思う。
それに、叱られるの覚悟で僕に声をかけた、震える令嬢の勇気を汲もうと思うんだ。
「次会ったら、もう一人の宮中警護に求婚したご令嬢が、帝都に先回りして帰り待ってるって話していい?」
「お願いですから勘弁してください…………!」
イクトも顔顰めたけど、レーヴァンはもう悲鳴のような声を上げる。
駄目ならストラテーグ侯爵に、こういうことがあったって報告するって言うつもりだったけど、それを持ち出す前に、レーヴァンはちゃんと会って話すと約束したのだった。
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