565話:ご対面5
面談の最後に、僕は海人の双子を迎えに行った。
「それで、なんて呼べばいい? こちらの文化では愛称が一般的だ。発音も違うから、呼ばれたい名前を名乗って問題ないよ」
言ってみたら、双子は当たり前のように答える。
「イー・ソンと」
「イー・スーと」
「そのままか。…………つまり、家を捨てるつもりはないんだ?」
「まぁ、すでにご存じで?」
イー・スーが微笑んでるような表情を浮かべて、イー・ソンに手を引かれながら聞いた。
なんだろう、作り笑いって言うには明確に笑ってない感じ。
どういう感情なんだろうなぁ。
「その辺りも気になるなら質問してくれればいい」
「それは、錬金術とは何をするのかという、初歩的な質問でも構わないのか?」
試すように聞くイー・ソンに、思わず笑う。
「実は入学する人の大半がそういう認識なんだ。錬金術をやろうと思って入学しても、知っていた錬金術と違うなんてこともある」
うーん、この双子、喋るとけっこう普通かな?
というか、喋ってるのは帝国の共通語で、ルキウサリアの言語じゃない。
通じるけど、急いで国を離れてきましたっていう印象と、訳アリさを感じさせる。
本当にチトス連邦の王族なら、覚える余裕がなく来たっていう状況が透けるし、国を離れても王族としての名前を捨てない姿勢に腹蔵を感じた。
それはつまり、戻るつもりがあるってことだよね?
「錬金術が何かわからないなら、やりたい錬金術もないのかな?」
「叶うのであれば、目指すべきはあるが」
イー・ソンの声が低くなった気がする。
肩越しに振り返ってみると、イー・スーの足元を見てた。
それにイー・スー自身が窘めるように声をかける。
「三年の時間を、いつ結実するともわからないことに使えませんでしょう」
「あぁ、エリクサー? それともエリクシルって言うかな? 錬金術の万能薬は難しいよね」
引き摺るような足で連想したら、すぐさまイー・ソンが先導する僕を食い入るように見た。
「錬金術における万能薬を研究しているのか?」
「いや、一回作ってみようと思ったけど、危なすぎて劣化版くらいしかできなかったよ」
答えたら、イー・スーが不自由な足で近づいてきたから、つい手を貸してしまう。
錬金術科の校舎は狭いから、双子が細身とは言え三人で並ぶ幅がないせいで、僕がエスコートする形になった。
「ものになったと言うのかしら? それは効果を実証されまして?」
「…………黙秘します」
二対の目から視線が突き刺さる。
けどこれ、成功しましたなんて言っても面倒そうだし。
そもそも隠して小児ポーションにしてるんだ。
そっちは皇子としての僕がやったことだから、これ以上は言えない。
「失敗だったとしても、実験ができるだけの伝手がある?」
「成功であったなら、今まで吹聴しない節度がある?」
答えないにしても、僕を放置して勝手に会話しないでほしいな。
なんか通じ合ってるけど、そろそろ歩きにくいし、一回足を止めた。
イー・スーが足悪いから、すぐには止まれず先に一歩出るままに支えていた手を離す。
転ばない程度にしたんだけど、思いのほかよろよろして内心慌てた。
けど、イー・スーは健常な足のほうを前に出して、けっこうしっかりした体幹使って止まる。
これは、本来けっこう動けるのに足が片方思い通りにならなくなった齟齬のせいで、ワンダ先輩並みの被害を発生させるのかな?
「一つ忠告をしよう」
余計なことを考えてしまう思考を元に戻して、僕は告げた。
「錬金術に限らず、他人の研究内容を探るのは、こちらではマナー違反だ。よほどの犯罪をしていない限り、国からの口出しも嫌がられるんだよ。どうやらチトスは、知識関係は全て国の管理らしいけど、ここは別の文化だということを覚えておいて」
イー・ソンがイー・スーを支えに動く間に、また案内に立って背後を窺う。
後ろから追ってきた双子は、頷き合っていた。
「さすが最高峰の学府め。期待が持てる気がして来たわ」
「試験でも主導的立場を思えば優秀な一握りだろう」
「残念ながら、学業成績は振るいません」
テストで点数取れても、普段の授業うけられないし。
そんな状態でテストは高得点なんてこともないしね。
言い訳をしてさっさと面談の部屋に連れて行き、着席をして名乗りをさせた。
そして今までと同じように、大まかな錬金術科の現状と本当に入学するかとの確認。
「先ほども案内に聞いたが、錬金術とは何をするのだ?」
「錬金術の歴史はやるし、実際に錬金術を使った薬の作成もやる。後はそれらをするのに必要な別分野の知識を入れたりだな。他はラクス城校としての基本的な学習もあるが、計算や読み書きは錬金術の一助にはなるだろ」
相手が王族だとやりにくいみたいだけど、ヴラディル先生は教師として応じた。
そんな中、イー・スーが緊張しきりのウー・ヤーを見る。
「改めて名をもらっても?」
「…………ゥオー・ィヤンと申します」
ウー・ヤーがチトス連邦の言葉の響きで答えた。
途端にイー・スーが笑みを消す。
「宮城の何処に勤める家かしら?」
「宮城の門の守りを申しつかっておりましたが、自分はすでに家を出ている身。この学園においては学園の決まりに則り暮らす所存であります」
イー・ソンとイー・スーが目を見交わし、身元の情報源をウー・ヤーだと思ったようだ。
そしてイー・ソンが確かめるように聞く。
「二つ上ということは、国を出たのはさらに前。となると、我らの身に起きたことは知らぬな?」
そこで、エフィが待ったをかけた。
「言ったとおり、ここは学び舎だ。無益な政治闘争を持ち込むことは許されない」
あえて強く言うのは、やらかした側だからこそ止める意志も強いせいだろう。
それをイー・スーが軽やかに笑ってかわす。
「勘違いなさらないで。わたくしどもを色眼鏡で見ないことを喜んでいるのだから」
「門番家系なら察しているとは思うが、こちらは刑罰を受けた。つまりは、後宮から排除された一族になる」
「うん? 国や宮城じゃなく、後宮なの?」
僕は思わず確認しちゃった。
それにはウー・ヤーが、チトス連邦の文化的な説明をくれる。
「こっちと違って正式な妃が複数いるんだ。その上で生まれた太子には誰もが帝位に座る可能性が生じる。ただ身分と実力のある太子なら、宮を与えられる。与えられなければ、養育されていた後宮から出されて、母方の実家の所属となって、臣下に下る」
「つまり、どういうことだ?」
王侯貴族に詳しくないヴラディル先生が聞くと、エフィが補足した。
「王位に届かず排除された。それが一族ごととなると、臣下としても排除されたということでは?」
そうなるけど、その割に王家の名前使って戻る気があるんだよね?
ヴラディル先生は平民の視点から、面倒ごとは回避しようという姿勢だ。
「他国の法は適用外であり、この国は学ぶ者を保護もする。だが、あまりに凶悪犯は受け入れが難しい」
もちろんそんな雰囲気ないことわかってて、確認のために言ってる。
刑罰を受けた罪人本人だろうイー・スーは、頷いて自分の胸に手を置いた。
「刑を受けたのはわたくし。兄は連座でしてよ」
「皇后陛下より何処へなりとも失せろと言われたのでな」
イー・ソンがとんでもないこと言い出した。
ヴラディル先生が疑問の顔だから、僕はとっさに手を出して止める。
うん、これただの刑罰じゃない。
なんか平民虐めたとかそんな話でもない。
皇后とか後宮の主人格に、継承権持ちが直接追い出されてる。
だったらこれはもう、政争だ。
そしてこの二人は、負けたままでいる気がない。
「こちらの立場としては、すでに言ったように、ここは勉学の場であるということだ。争いを持ち込むようなら、お引き取り願いたい」
「まぁ、わたくし薬師としての腕がありましてよ」
「そのせいで毒を盛ったと馬鹿な冤罪をかけられはしたが」
ちょっと、牽制したのに二人揃ってとんでも情報ぶっこまないでよ。
(薬を盛り、前後不覚にした上で、階段の上から平民の少女を落とし、その下にいる婚約者にぶつけるという嫉妬による殺人未遂を疑われた上で、国際的な場で騒擾を起こしたことにより、国の権威に傷をつけたとの罪状を…………)
(セフィラもいらない情報追加しないで!)
僕は勝手に頭の中で追加情報を流し込むセフィラを止める。
国際的な集まりでそれは無罪放免にもできないし、連座も発生させられるだろうけど。
こっち側もどうしようって顔してる。
なのに海人の双子は腹が座ってるようで笑ったまま。
「なので、こちらでも錬金術の毒作りに興味を持っておりますわ」
「毒の持ち出しを禁ずる決まりがあれば教えてほしい」
海人の双子は、徹頭徹尾不穏だった。
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