562話:ご対面2
今まで半端に秘密にしてた精霊たちと対面した結果、二手にわかれることになった。
理由の一番はイルメだ。
意思疎通を図ってくれる精霊がいるってことで、まず自分の文化圏の精霊との違いを調べると鼻息が荒くなった。
そのために巻き込まれたのは、エフィとラトラス。
エフィは青トカゲが懐いてて、ラトラスは何故か人魚がうろつくから。
「まさかお酒に反応してたなんてね」
「もう、理由がわかってようやくイルメから解放されたよ!」
ラトラスは丸めた手で顔を擦りつつ、笑う僕に尻尾を叩きつける。
人魚の精霊は疑問や答えに反応していた。
ただそれとは全く別にラトラスに近い理由を探ったら、錬金術で作ったお酒ってところに反応してたことがわかったんだ。
だから人魚は、エフィに比べて僕に対して反応してたらしい。
「結局、薬酒の作り方を教えたんだったか? ディンク酒とか言うのに反応したのに」
ウー・ヤーが、イルメに別物を教えたことの意図を探る。
ラトラスは悪びれずに応じた。
「精霊にお酒奉げるって言う祭事があるってウー・ヤーが言ってくれたお蔭で、手を打ってくれたよ。実際実験室で薬酒作ると寄って来るし」
「青トカゲの時も、気に入る素材があると寄って来てたから、同じようなものなんだろうね」
僕は、実験室でイルメに捕まり続けてるエフィとの実験を思いだす。
ネヴロフは教室の床に座り込んで、笑顔でラトラスを見た。
「錬金炉使い慣れてるラトラスがこっち来てくれて良かったぜ。それでさ、今錬金炉を火に特化させようとしてんだ」
二手にわかれたこっちでは、教室で錬金炉の改造作業をしてる。
本来に戻ったように見えて、実は研究の主眼は赤い靄に移ってた。
ラトラスはネヴロフが見せる解体された状態の錬金炉と、新たに作ろうとしてる金属板状態のものを見比べる。
「精霊の助言で、赤い靄を補完するために、錬金炉を使おうって話だよね?」
「あぁ、赤くなると長くて二日しかもたないからな」
ウー・ヤーが言うとおり、フラスコに保存できてたはずの靄は、赤い靄になってしまうと密封してもその内消えてしまうことがわかった。
火を点けるとさらに早く燃え尽きる。
ただし、薪や魔力と言った燃料になるものを加えると、赤い靄だった火の玉を維持できた。
数日調べた結果、火種と同じく赤い靄や火の玉は、燃料や温度を補給すればずっと燃えてる。
そんな中で赤い靄のまま置いておきたいと言ったら、青トカゲが錬金炉と文字を示した。
実際赤い靄をそのまま錬金炉に入れておくと、二日経っても消えずにいたんだ。
「けど、火の玉を入れて稼働させたときは驚いたな」
僕が引き攣るような笑みを浮かべると、クラスメイトたちは頷いた。
火の玉にした状態で錬金炉を使うと、閉じた錬金炉の入り口から火が噴き出すほどの火力を発揮したんだ。
危うく火事になりかけた。
ヴラディル先生とも、どういう効果が起きたのか話し合いをして、時を進めるという形だけの錬金炉の効果がもたらしたものじゃないっていう結論に。
それなら一日放置したように消えるだけのはずなのに、逆に強くなったんだからね。
「なんだっけ、力を加えて時を進めるから?」
ラトラスは、青トカゲが示した答えを口にする。
けどそれにネヴロフが別の精霊を挙げた。
「それより、ラトラスがいい燃料になりそうとか言った時に人魚が反応してたぜ」
「あぁ、気に入ってるのとはまた違った反応だった」
ウー・ヤーも言うとおり、ラトラスの言葉に人魚が反応した。
僕的な解釈としては、赤い靄は燃料だ。
セフィラのような精霊に変化するには、進化ツリーみたいなものが変わってしまった存在だと思ってる。
(セフィラにするには、天地の照応っていう環境要素がいる。赤い靄にするには錬金炉って言う加工的な要素がいるってところかな)
(精霊たちは、より安定的な火力を生じさせる力を持つものであると、赤い靄を定義しました)
セフィラが声にならない声でコミュニケーションした結果、どうも僕たちがやった以上の火力を出せるポテンシャルがあることが密かにわかった。
その上で、赤い靄が意志を持つには生中な時間じゃ足りない。
人が生まれて死ぬまでの時間じゃ足りないって、青トカゲと人魚に言われたそうだ。
(主人の前世の高度な知識を活用し、新たな錬金炉の形を主導すべきと提言)
(おだてても何も出ないよ。僕が知ってるのは燃焼に酸素が必要ってことだけだから。やってはみるけど、化学反応で燃える太陽の再現ができるとは思ってないからね)
前世で観た宇宙旅行は可能かみたいな動画で、ちょっと太陽の説明があった。
そもそも酸素もないのに、どうして宇宙で燃えてるのかって話だ。
答えは水素がヘリウムに変わる核融合が起きてるから。
つまり太陽が燃えているというのは文章表現であって、正しくはないってトリビア。
(原子の話で、それをこっちの技術にどれだけ落とせるかわからないし。まず水素がHで、ヘリウムがHeとか通じないから化学式も意味ないし)
(主人曰く、原子には核があり、原子核と呼ぶこと。水素の原子核は陽子一つ。そこに条件を加えることで中性子という、電子というものに影響されない構成要素が含まれるよう変化をすること。そのような地上とは違う状態の水素が二種類融合することで、陽子二つと中性子二つで存在するヘリウムと、余った中性子というエネルギーが生じる。この理解であっていますか?)
間違ってないし、それは前世の理科でやった、原子の話を僕が教えた結果だ。
陽子がプラスで、その周りを電子が回ってて、この電子同士がくっつくことで分子になる。
原子ごとに陽子や電子、中性子の数が違うって言う理科だ。
けどそれを知ってるからって、核融合起こせるかなんて言われてできるとは言えない。
というか、できたら怖いよ。
確か放射線の中には、中性子線ってあったんだよね。
名前のとおり、原子核から飛び出した中性子のことだから、なんか核融合魔法でできるとかになったら、健康被害起こる自爆魔法になりそうでやだ。
(やらないからね)
セフィラが返事をしない。
そして無言なのに不満そうな気配がある。
けど錬金炉の改造には前向きだし、もっと別にやりたいことできたら気を逸らしてくれそうだ。
僕が無言のやり取りをしてる間に、ラトラスが書き散らしたメモを手に取る。
「今は何してるの? 錬金炉、って言ったら何か違うか。赤い靄を保存するための何を作るつもり?」
名称が同じままだとややこしいというラトラスに、ウー・ヤーが答える。
「炉の形にはするから、仮称は赤炉になった。今は、既存の錬金炉から使える術式と、排除していい術式とを選別してる」
「赤い靄が燃えてるって勘違いしたらいい、みたいな感じのことをアズがいったんだ。だから炉として火にかけられる形にはするけど、赤い靄を直接は燃やさねぇんだ」
ネヴロフの説明に続けて僕も捕捉した。
「今の炉は春夏秋冬を表すことで一年を進める。つまり変化が前提だ。その変化部分を最小限にして、現状維持を図る。閉じた世界を赤炉の中に作ることで、燃え続けてるって言う赤い靄の勘違いに繫げられないかなって」
「けどそれだと炉の中に世界を作るって話とは、違う術理が必要なんじゃない?」
ラトラスも錬金炉の構造を調べたからこそ疑問を挙げる。
「まぁ、世界には燃え続ける物はあるでしょう? 太陽だとか、火山だとか。つまりは一巡しても変化がないものを刻むんだ」
ただ太陽の巡りは夜という概念がどうしても邪魔をする。
組み込むと赤い靄は、夜の概念に触れて消えてしまった。
既存の錬金炉に入れて溢れるほどの火になったのも一瞬で、すぐに一巡の内で消えたんだよね。
だから火事にはならなかったんだけど。
ネヴロフが考えを言葉にできず腕を動かしながら首を左右に捻った。
「こう、さ。なんか一回回っても次にまた動く流れで回り続けてるみたいな、さ」
「あぁ、ネヴロフが工房で作ったふいごを動かす腕みたいなものか?」
「何それ? 俺にはわかんないよ。けど、それって術にできるの?」
わかったウー・ヤーだけど、ラトラスは知らないから実用に適してるかを聞く。
僕もネヴロフのいう回り続けるという言葉で、何か閃いたような気がした。
けどまとめる前に教室の扉が開いて意識が逸れる。
「よし、アズとウー・ヤーもいたな。ちょっと手を貸してくれ」
「ヴラディル先生? …………と、エフィも?」
やって来たのはヴラディル先生と、疲れた顔のエフィ。
猪突猛進になってるイルメから解放されて、喜んでる様子はない。
「新入生に関して、ちょっと背後関係わかんないのいただろ? そいつらには入学前に面談することになってな。それでアズ、ウー・ヤー、エフィの三人には手を貸してほしいんだ」
ヴラディル先生が言うのは、海人とか、王族とかの合格者のことだろう。
「ウー・ヤーはわかりますけど、僕とエフィはなんの関りもないじゃないですか」
「王侯貴族の常識わかってくれてるだけありがたい。今どういう力関係かも知らん」
卒業生だけどそういう教養や作法使ってこなかったヴラディル先生。
一応王侯貴族が通う学校の教師なのに、なんだか頼りない。
けど堂々と頼りないことを言って頼られてしまうと、無下にもできないのだった。
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