556話:精霊と錬金炉1
冬休みだけど、僕は変わらず学園へ通ってる。
まぁ、相変わらず午前中はルキウサリア関係で呼ばれてるけどね。
他にも、寒いのに水辺にいるテスタたちの様子見に、ちょこちょこ行かなきゃいけないし。
オートマタ関係の経過報告に目を通さないといけないし。
天の道に関しては、冬の間に数か月の稼働実験での総評したいって言われてる。
ゴーレム関係は担い手不足ってことで一回休みだけど、あんまり魔法使いの反応が良くないのは変わりなく、アプローチを変えようかってまた話し合いがある予定だ。
あとは、僕の代わり回したはずのジョーが、方々に説明求められて泣いてるからそっちも近い内行かないと。
「やることが尽きないなぁ」
「なんだ、また家のことが忙しいのか?」
学内で声かけられて振り返ると、ウー・ヤーとネヴロフがいた。
背後には金属部品を満載した荷車を牽いてる。
「俺、橋のことも聞きたいし、この錬金炉も聞きたいんだけど」
ネヴロフは僕の時間がないことで、しょげたような顔をした。
「僕も錬金術やりたいんだけど、大人の都合があってね」
そんな話しながら教室には行かず、外にある実験場へ向かう。
そこにはすでに、イルメが魔法で風を送りながら盛大に火を焚いてた。
遠い目をしてるエフィはマッチ代わりにされたのかな?
マッチ作るにはルキウサリアだと材料が手に入らないんだよね。
「お、来たね。それが炉の部品?」
火があるお蔭で抱え込まれてないラトラスが、僕たちに片手をあげて見せる。
イルメは火にあたりながら不満そうに言った。
「ここは広いけれど、冬の風をどうにかすべきだわ」
「そう言って早速ネヴロフを風よけにするな」
エフィは突っ込みつつ、荷車から金属部品を降ろす手伝いに動く。
僕も手伝って、技師の下から持ち出した錬金炉の部品を並べた。
今日やるのは、考えた理論をどう錬金炉に刻むかっていう実験の前工程。
まず解体された形を半数が知らないから、そのまま持ち込んで実物を見るんだ。
「だから、こっちのこの刻印が太陽で…………」
「ただの丸を太陽だなんてどんな省略法なの?」
説明するネヴロフに、イルメ納得できないと言って、実際に魔法式を組んで見せる。
もちろんそんなことじゃ発動しないのに、同じく技師に師事するウー・ヤーも説明に加わった。
「だが錬金術は、それで術として発動するんだ、これが。頭を固くするな」
「うーん、つまり錬金術独自の象形ってこと? 術理で共通してるところもあるのが混乱の元だね」
ラトラスも尻尾の先を振りながら、錬金炉のわかりにくさに唸る。
錬金法と言える錬金炉の術式は、魔法で再現したからわかるけど、これがなんとも今の魔法技術との食い合わせが悪い。
その上で錬金炉の内部構造は、独自で簡略化しすぎてるとも思える術式が使われてる。
そんなので世界を作るなんて、大言壮語にしか聞こえない。
だからこそまともな魔法使いや知識のある人は受け入れられないんだ。
「エフィは大丈夫?」
この中で一番魔法を学んだからこそ聞くと、エフィは眉を上げてみせた。
「こんなのが術式だなんて馬鹿にしてる…………と昔の俺なら言うだろうな。だが、見て感じたのは、青トカゲに似てる」
声を潜めて、精霊と思しき存在を挙げる。
僕が目で先を促すと、声を潜めて早口に答えた。
「どうしてそうなのかわからない。だがそこにいる。何処からそんな力が湧くのかわからない、だがそこに結果を持ってくる」
「あー、確かにあんなに小さいのに、たぶんエフィより魔法達者だよね。魔力の限界もなさそうだし」
そう言われると、簡素すぎる錬金炉の中の術式と青トカゲは似てる気がしてきた。
そもそも魔物に関しては、体が大きい分だけ使える魔法が強くなると言われる。
それで言えば青トカゲは小さすぎて、魔法使えるかどうかという存在。
なのに実際は、エフィを優に超える炎を操ることができた。
魔力量に関しても、ヴラディル先生が測定不能を断言するくらい際限がない。
僕としてはなんの不思議もなかったから、錬金炉と絡めて言われてようやく気付く。
何せセフィラがそもそも実態がないのに、色々するのが普通だったからなぁ。
消えたり現れたりって行動もセフィラと似てる青トカゲに、実は実体なんてないと思ってる。
だって開けてない錬金炉出入りするし。
僕らに見える形で青トカゲの形してるだけの可能性あるから、大きさとか考えてもいなかった。
「アズ、この後時間があるなら、実験室につき合ってくれ」
「わかった。僕も確認したかったし、いいよ」
僕は短くエフィと予定を合わせる。
ウェアレルのほうにも錬金術科に働きかけてくれるようお願いしてることあるし、その前にと思ってたんだ。
外で色々話して、あれこれ意見も出た。
けど最終的にイルメのひと言で風向きが変わる。
「寒い中で金属を触るのは間違っているわ!」
「って言っても、重いしでかいし。階段抱えて歩けねぇだろ?」
一応、人間の腕でも抱えて運べる大きさではある。
ネヴロフなら魔法を使えば難なくできるけど、一人でなんて何往復かかるか。
それに階段が狭いからぶつけたら歪むし、扱いが難しい。
ラトラスは校舎にしてるラクス城校の外壁を見て、上のほうをさらに見上げた。
「そう言えば、滑車の跡はあるんだよね。たぶん昔はそれ使って搬入してたんじゃない?」
「それなら、倉庫で古びた滑車を見つけたことがあるぞ。まだ使えそうな状態だった」
そんな話から、錬金炉の理解に行き詰まりもあり、イルメ主導で何故か滑車の修理に乗り出すことになった。
僕とエフィはその間に抜け出して、実験室へ向かうことにする。
「結局、錬金炉は俺では無理だと実感したな。魔法の理論を捨てられない。使うことはできても作ることはできないだろう」
「諦め早いなぁ。魔法に固執しなければ、エフィでもいけるって」
「いや、ものが違いすぎる。変に口出ししても間違った方向を示しそうだ」
「それはみんな一緒だから、気づいたことあったら言ってね」
実物見て余計に、魔法で錬金術を考えがちな思考に自信をなくしたようだ。
「魔法はなんだろう? 絵を描くようなもの、かな。頭の中で考えてセットして、それを描き出すための技巧や道具は必要だけど、自分で収まる」
僕のたとえにエフィは頷く。
「けど、あの錬金炉はそのまま炉を造る作業だ。その中に絵を描いていく。しかもよく見せよう、見る者に影響を与えようなんてものじゃない。炉の形を損なわない装飾、より強める技巧が必要になる」
「まぁ、絵描きはお呼びじゃないな。道具も筆じゃなく鑿か何かでそもそも違う」
「けど、完成形を描けるセンスは必要だよ。下絵だって必要だしね」
全くエフィが駄目なわけじゃないって言いたいのは通じたらしく、溜め息ついてそれ以上は否定的なことを言わなくなった。
思いの外苦手意識があるみたいだ。
そう言えば、実際物を作るとなると、薬以外はエフィって手を出さない。
魔法関係だと強いけど、錬金術ってなると一歩引く。
その上で不器用ではない割に、物作りも得意でもないようだ。
「立体的な魔法陣考えてみたり?」
「それはただの自傷行為になるぞ」
思いの外きっぱり言い切られた。
これはもしや、やるまでもなく、魔力吸い取られて起動もできないとわかってる?
僕わからずに作ったよ。
ウェアレル止めなかったのは、セフィラがいたからだろうけど。
たぶん魔法で立体的な魔法陣作ろうって時点で、狂気の沙汰扱いされるな、これ。
ウェアレルは僕に慣れすぎてて、止めるなんてことしなかったんじゃない?
(うん、あの錬金炉を模した魔法陣についてはこれ以上は手を出さないほうがいいな)
(異議あり)
(人間の範疇を越えるので却下します)
(ハリオラータであれば可能です)
(余計危ないから却下!)
人の範疇越えてる淀みの魔法使いを引き合いに出すな。
というか、本当に僕とウェアレルで作った即席の魔法陣は、運用度外視の代物だったようだ。
うん、封印だ封印。
そもそも錬金炉が主眼だったんだよ。
これは塩の結晶作ろうとして、魔石の紛いもの作っちゃったときと同じ感じがする。
完成させたら面倒になる類だ。
そもそも動いたからって、それが実用に足るように調整するには時間がかかるし、それよりも正攻法のほうが早い。
つまり、錬金炉そのものを作るんだ。
(あぁ、でも…………。錬金法が受け入れられるようになったら、受け入れた魔法使いに丸投げしてもいいかな?)
(ヌニェスの今後の予定を押さえることを提案)
セフィラが諦めない。
けど向こうは僕が卒業した後は自分の研究するつもりでいる。
やらないとは言わないだろうけど、そこまで束縛するのも可哀想だ。
いっそウェアレルに投げて、また実績が必要になった時に使ってもらうのもありだったりするのかもしれない。
定期更新
次回:精霊と錬金炉2




