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538話:それぞれの密談3

 ハリオラータと会った後、僕は普通に登校。

 地脈について何に使うかお菓子の後も探られたけど、どうやら錬金法について漏れ聞いたらしく、そことの関連を疑ってたらしい。

 錬金術にも魔法が使われてるってことや、セフィラを知ってることで、何か関りがあるんじゃないかという考えになったようだ。


(セフィラとはまた別なんだけどね)

(製法に関して、魔法的理論が関わっている可能性が浮上しています)


 その辺りは僕も解釈に困るけど、自分のことを製法っていうのはなんか違う気がする。

 天文とか地質とかなら科学分野で錬金術だけど、天地の照応で魔法的な話になるとどうなんだろう。

 魔法が関わってるとなれば、前世の自然科学の範疇を越えるから、どういう扱いなのか本当に僕には判断がつかないんだ。


「魔法って錬金術より難しいなぁ」

「一般的なことを言っているようで、絶対におかしな発想をしているだろう?」


 学内で後ろから、独りごとに突っ込みが入る。

 振り返るとソティリオスがいて、隣には困り顔のディオラとウェルンが並んでた。


 去年ならこの三人で三角関係のようにしか見えなかったんだけど、今は明らかにルキウサリア王女のディオラと、子爵令嬢でソティリオスの婚約者ウェルンの距離が近い。


「やぁ、揃ってどうしたの? って、おぉう」


 僕は問答無用で人目が少ない垣根の陰に連れ込まれた。

 こっち側はラクス城校だからあまり知らないけど、ソティリオスたちはこういうスポット押さえてるっぽいな。


 そして荒っぽい密談場所への誘いに、まずディオラが謝る。


「申し訳ございません、ですが対応のためには少々お話をさせていただきたいのです」

「対応って、あぁ、九尾の貴人? 錬金術科と魔法学科辺りで動いてるのは聞いてるけど、僕は今のところ他は知らないよ」


 ディオラは相変わらず、父親のルキウサリア国王からは情報が行ってないようだ。

 そして三人は教養学科で、関係があるとしたら、九尾の賢人が所属してるくらいか。


「賢人もいるし、そっちにも行ったのかな?」


 僕が確認するとウェルンが否定する。


「いいえ、先生方が学生との接触を止めていらっしゃいますので」

「え、錬金術科普通に教室にいるよ。うーん、人数割けないせいかぁ…………」


 僕が学習環境に世知辛くなってると、ソティリオスとディオラが眉を顰めた。


「教室にまで? 遠目からだが随分と騒がしいだろう。それで授業になるのか?」

「押しの強い方々ではありますが、今まで錬金術に興味を持たれてはいなかったはずです」


 ディオラは姫として会ったことがあるようだ。

 そしてやっぱり錬金術に興味なしと。

 まぁ、こっちとしては興味持ってもらおうとしてるから問題ないんだけど。


「雪に閉ざされる前にルキウサリアを出てほしいとは思ってる。今のところ授業の予定が変わるくらいかな。それも休みの前だから大きな問題にはなってない」


 そこは錬金術科でよくあることだから気にしないんだけど、ウェルンが探るように聞く。


「ご無礼をお許しください。授業の邪魔をされて排除もされず、何をなされているのでしょう?」

「錬金術の売り込み?」

「今度は何をする気だ?」


 ソティリオスがあからさまに疑ってきた。

 ディオラが一度目を逸らしたのは、封印図書館知ってるからかな。

 もちろん僕はそこには触れてないから、心配の必要はないんだけど。

 とは言え、ルキウサリアが錬金術に力を入れようとしてる状況で、学園から他国の勢力に技術が流れるとなれば、それはそれで王女として心配だろう。

 だからこそ気になるけど聞かないのがディオラなりの慎みなんだろうな。

 もちろんソティリオスは同じ国の所属ってことでガンガン来る。


「また帝室図書館のように古い技術を掘り出したのか」

「違うよ。今回は錬金術科で作った物や、考えた理論を形にしようとしてるだけ。その上で、錬金術に興味を持って投資してくれないかなって」


 深くは知らないウェルンが、僕が皇子とわかってる上で聞く。


「それは、帝国でなされては? ご自身の成果として、支援をなさればよろしいでしょう?」

「僕だけじゃなく、錬金術全体にね。そうなると僕は足引っ張ることもあるし」


 嫡子じゃない皇子の僕自身が動くからこその面倒もある。

 まだ錬金術は見向きもされてないけど、すでにルカイオス公爵とユーラシオン公爵っていう厄介な相手に実があると知られてるんだ。

 帝国で動いたら絶対口出してくるし、自由に動ける今だけだと思うんだよね。


 あと、あの九尾の貴人なら巻き込んでも平気そう。

 両公爵たちから圧力かけられても鼻で笑いそうな気がする。


「…………まぁ、今のところ興味は引けてるから、後はどう動いてくれるか」

「おい、その沈黙の間に不穏なことを考えなかったか?」


 ソティリオス、なんでわかるかな。


「…………ねぇ、ユーラシオン公爵って九尾の貴人と対話とかでき」

「やめろ! おい! 何をするつもりだ!?」


 肩掴まれて最後まで言わせてもらえなかった。

 九尾の貴人を知ってるディオラに、ウェルンが確認し始める。


「ヘリオガバールの王族で賑やかな方々と聞いていますけれど、ソーさまが慌てるほど?」

「その、今回の来訪に際しまして、王城のほうから大使館には注意喚起を発するほどには」


 なんか大使館に要注意人物扱いで連絡回されてるらしい。

 いや、魔物で乗り付けてくるし当たり前か。


「うん、すごくナチュラルに僕も連れ去られそうになったし」

「何があったんだ…………。いや、もっとふだんから警戒をだな」


 おっと、なんだかお説教の気配がして来たぞ。

 なんて思ったら、セフィラが声をかけて来た。


(右に一歩大きく避けることを推奨)

(不穏!?)


 内心突っ込みつつ、僕はソティリオスに肩を掴まれたまま無理矢理動いた。

 一緒にソティリオスも半身を返すように動く。


 瞬間、僕たちがいた場所に、紫色の筋肉質な尻尾が空気を裂いて伸びていた。


「あらん、残念」

「捕まえ損ねたな」


 不穏な言葉と同時に、垣根の中から縦に割れた瞳孔の目が二つぎょろりと僕たちを見る。


「「「ひ…………!?」」」

「そういうことをされると、登校と同時にヨトシペを呼ばないといけなくなるんですが?」


 悲鳴を押し殺すソティリオスたちを横目に、僕は奪われないようにしっかり犬笛を握って忠告する。

 それを見て、九尾の貴人二人は大人しく垣根の向こうから姿を現した。


 見たらソティリオスが掴んだままの肩に力を込めて、確かに僕へと訴える。


「これは駄目だ」

「駄目かぁ」


 たぶんユーラシオン公爵とぶつけることを想定したのわかったよね。

 で、はっきり言われちゃったら押しても喧嘩売った扱いになる。

 それに、ソティリオスも引け腰だ。

 これは外交に強いと言っても人間相手だけ?

 いや、けど獣人のイマム大公とは普通にしてたから、あれかな。

 イルメたちみたいに、性格的に合わないってことを嗅ぎ取ったか。


 いっそ、速攻で実力行使してくるような人はお呼びじゃないってことかもしれない。

 ヨトシペが対応しなきゃ駄目ってところで、ソティリオスも手に余ることを察したはず。


「友人をご紹介しても?」


 一応貴族らしく取り繕いをしたら、三人も習い性で挨拶して落ち着いたみたい。


「あら、ルキウサリア王女の? ちょうど聞きたいことがあるのよぉ」

「うむ、ドラグーンが寒さで冬眠し始めそうで、穴を掘る予兆がある」

「は、はぁ…………?」


 ディオラも思わぬ言葉に生返事になる。


 どうやらドラグーンは地中に住むと同時に、地面が凍る季節は冬眠する生体らしい。

 つまり冬眠を始めそうな今、九尾の貴人には移動の足がないという話だ。


「その、元からあまり魔物を乗り回すことは控えていただきたいと申し入れをさせていただいているはずですが」

「そうだな。だからこそ、貴国の最新の馬車を買いつけたいのだ」

「ルートが決まってるとか操る人員が足りないとか言われてねぇ」


 困り顔のディオラに無茶振りを始めた。

 最新の、しかも人員が必要ってことは、もしかして転輪馬か。

 それを買いつけなんて、させるわけがない。

 そもそも帝国との間で動かす前提で今作ってるのに、そんな横やり学生の王女に取り持たせようとかたちが悪い。


 ディオラも僕と同じことを思ったみたいで、目を向けてくる。

 目ざとく九尾の貴人が気づいちゃったから、僕はあえて大きく頷いた。


「国との商談ごとを、学生である王女殿下に振るのはあまりにも無作法だと思いますので、それ以上友人を困らせるようでしたら、こちらも相応の対処をしますね」


 そう言って犬笛を取り出すことで、貴人たちの無茶振りを一時封じることに成功する。

 九尾の貴人が学生時代にやらかしたらしいけど、本当ヨトシペ、どれだけのことをやったんだろうなぁ。


定期更新

次回:それぞれの密談4

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そうかーソーパパ公爵にぶつけるのはダメかー …ぶつけてみてぇなー! ソーパパ公爵は普通の政敵なんかには貴族らしく対処出来るけど型破りな相手には後手に回りそうだよね、その点パパ皇帝は割と開き直って対処…
わちゃわちゃしてるw パワフル貴人兄弟、下手に血が尊いからどの国も持て余すよねぇ。レクサンドルの競技大会出禁もさもありなん。 よく3年も学園生活できたね…。 贖罪の旅の錬金術師、竜人の国経由した人た…
>「これは駄目だ」「駄目かぁ」 このやり取り好き 転輪馬に目をつけたなら、そろそろ第一皇子に直凸画策してきそう ディオラが困ってアーシャに目向けてしまったの可愛いんだけど、貴人に何かあるって教える…
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