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506話:皇子のお仕事1

 ルキウサリアの王城に着いたら、色々打ち合わせの末に日は傾く時間になってた。

 そうしてルキウサリア国王とも話して決めた、テリーに言えることは三つ。


 ゴーレム作成と、ルキウサリアの古い錬金術が存在すること、そして錬金法について。


「それらは他と共有していい知識で、まだ言えないことあるんだ…………」


 僕は話し合いで詰め切れなかった部分もあることを、テリーに告げた。


 ここはルキウサリアの王城の一室で、テリーは今日ここに泊まり予定。

 本当は帝室所有の屋敷に移動だったけど、警備の関係でそうなった。

 屋敷の立地として他の貴族屋敷に近く、警備を置くには他の権力者からの許諾が必要だから、もう滞在中はずっとここらしい。


「まだなのは、言ってしまえば陛下がおっしゃらない範囲だ。今回の対応を見て、テリーにはお教えになるんだと思うよ」


 封印図書館とか、魔導伝声装置とかね。

 今回は明言せず、古い錬金術を洗い直してるって範囲で語る。

 テスタが関わってるのは教えるけど、あくまで錬金術師の遺品整理のような建前だ。

 もちろんオートマタについても黙秘。


 あとハリオラータの替え玉も。

 これも父とは共有してる情報の範囲。

 さすがに僕が直接頭目とやり取りしてるってことは、父も知らないけど。

 あんまりな内容だし、僕がルキウサリアを排除したから、ルキウサリアも日和った。

 僕が珍しく父に叱られた要因の一つで、ルキウサリア側も、さすがに僕が勝手に動きすぎてるのを牽制したかったんだろう。


「他にも聞きたいことがあるなら聞いていいよ。答えられる限りは答える」


 僕はそう言って、室内の者にも目を向けた。

 いるのは学園と同じで、騎士のユグザール、学友のウォー、従僕のメンスだ。


 すぐ動いたのはつき合いの長いユグザールだった。


「殿下の警護に関しては? 学園へ赴かれる際、周辺にいらっしゃらないようですが」


 言ってるのはたぶんイクトのことだ。

 うん、宮殿だろうが派兵先だろうがずっといたもんね。


「屋敷に置いてないと僕がいることばれるからね。代わりにルキウサリアから隠れて警備がついてる」

「隠れて?」


 妙な言い回しにテリーが気づいたから、ちょうどいいし現状を教えておく。


「僕には知らされてないから、一度声かけちゃったせいで外された人がいたんだよ。向こうからは特に接触はないし、仕事の邪魔もしたいわけじゃないから放っておいてる」

「それは監視では?」


 メンスも親と同じですっぱり言っちゃう感じかな?

 もちろん僕許可した範囲だから、普段は発言許さない限り気配消して黙ってるんだろう。


「学園内にもいるから、今さらかな。僕が放課後に予定にない動きすると慌ててるし、監視にしては特に制限してこないし」

「…………いることを知らせることで、制限する目論見もあるのでは?」

「いや、僕が全員把握してることは知らないんじゃないかな?」

「全員…………」


 ユグザールが何か諦めたように呟く。

 様子を見てたメンスは、そんなユグザールとのやり取りを見て、遠慮なく疑問をぶつけることにしたようだ。


「僭越ながら、お聞かせください。錬金術科の学生と、テリー殿下の力量の差についてのご見解を」


 テリーの一つ下だから十一歳だけど、頭は回るらしい。


 ルキウサリア国王が即応した様子や、こっちに気を使ってることで、僕が重用されてることは察したんだろう。

 そして理由が錬金術にあることも。

 さらにその発展が見込まれてる現状も考えて、ルキウサリアが錬金術師を酷使してる状況もジョーの誘拐未遂で知った。

 僕が錬金術を教えたテリーが一般とは違うことも知ってるだろうから、主人を思うなら、それが学舎としての実態とどれだけ乖離してるかを知る必要がある。

 知ることでテリーが今後、ルキウサリアに滞在する時の対応を考えるんだろう。


「そうだな、錬金術科の教師がクラスメイトをたとえて、狩りの名手に弓の引き方を覚えたばかりの者がついて行けるわけがないと言っていた」


 ロムルーシ留学前のことで、セフィラが去ることにイルメが慌てた時に、ヴラディル先生が言った言葉だ。


 たぶんセフィラの観察対象になる錬金術師のあてを、ヴラディル先生は察した。

 だから第一皇子の実力と、入学したばかりのイルメを比べてそう言ったんだ。


「そう言われた僕のクラスメイトなら、今は自ら狩りに行けるくらいに弓を引けるよ」

「私は?」


 テリーがちょっとそわっとして聞いてくる。


「うーん、動かない的なら射抜けるくらい?」

「私のほうが下?」

「がっかりする必要はないよ。経験と環境の差だから。錬金術科の学生は、何かしら錬金術を知るきっかけがあったけど、学べるわけでもなかった人たちが多い。もしくは最初から錬金術に興味はなかったけど、学ぶ内に興味を持った人たちだ」

「兄上に教わるだけじゃ、そうした学生には届かないと?」

「だからこそだよ。学生は手探りで成果を求めて行動してる。テリーは今のところ手順を踏むだけだからね。何かこれと言って錬金術での目的意識はない」

「あ…………。弓は引けるけど、今の私はわざわざ狩りにはいかない、実戦経験と訓練の差ということか」

「学生なんだから錬金術に使える時間も多い。テリーが比べて落ち込む必要はないんだ。あと、基本的なところができてないから、同じ状況になればテリーのほうが先に行きそうだし」

「ふ、ふーん」


 なんか嬉しそう。

 成長したと思ったけど、やっぱり弟は可愛いなぁ。


 なんて思ってたらウォーが恐縮しながら聞いて来た。


「興味本位で申し訳ないのですが、第一皇子殿下におかれましては、錬金術科でどのような成果を収められていらっしゃるのでしょう?」

「正直これと言っては。クラスメイトが考えたものを形にする手伝いくらいだね」


 そう答えたらテリーが眉をあげた。


「マーケットの投光器という絵が動くものは、兄上が作ったと聞いたのに?」

「案を出しただけで、あれを完成させたのは錬金術科の学生だ。僕一人の成果ではないよ」


 他にもゴーレムなんて表には出せないから成果じゃないし。

 それでもアイアンゴーレム捕獲したことは成果と言われても、関わった経緯はやっぱり他の人からの働きかけで僕一人がやったことでもない。


 そんな話を聞いてウォーは、わからない顔でさらに聞いた。


「では何に関わっておられるのでしょうか?」

「あまり大したことはしてないよ。宮殿でもしてたことくらいだ」


 ポンプとか、エッセンスの改良くらいなら、僕が発案で主導と言える。

 ただその他は、クラスメイトがやってることの手伝いって感じに控えてた。


 最近の収穫祭でのイルメの採集に関するレポートもそう。

 ウー・ヤーの新素材を活用する提案もそう。

 ネヴロフの動力装置なんかはそもそも本人の成果だ。

 ラトラスが使ってた幻覚剤だって、使える形にしたのは本人の努力。

 エフィの魔法を強める素材については、精霊関係で表には出せない。


「…………兄上、手伝いというよりもそれは、兄上が教導してるようにしか」

「僕にはない発想で進めてるから、横から口出してるだけだよ」


 テリーに笑うと、メンスが理解したと言いたげに応じる。


「そうして隠れていらっしゃると」

「あ、そういうことですか」


 ウォーが納得しちゃった 。

 ユグザールは知らないふりで無言。


「なんかそれ、僕が友人たちを煽動してるみたいに思ってない? 普通に相談されるから答えてるだけだよ」

「兄上は、頼られてるんだね」

「錬金術やってる時間はやっぱり僕が一番長いみたいだからね。それに、錬金術関係の書籍もそうそうないし」

「錬金術科にも?」

「あー、そこはまた別の問題があったんだった。実は…………」


 錬金術科の不遇については、今まで特に説明してなかったな。

 楽しいことを選んで話題にしてたし。

 けど状況を知らせるには改善前から離すしかない。


 というわけで錬金術科の不遇を簡単に説明して、そこから今はどう改善されたかも話す。


「そんな。ルキウサリアでさえ錬金術はその程度の扱いだったのか」

「ま、お蔭で縮小に伴って僕はエメラルドの間に錬金術の道具を揃えられたんだけどね」


 テリーも使ってるから口を閉じると、ユグザールが様子を見て修正を試みる。


「…………テリー殿下、そろそろゴーレム、錬金法などについて」


 テリーや歳の近い子たちも息を飲んで忘れてたことに気づいたようだ。


 どうやら話を逸らすのはユグザールには効かないらしい。

 大人であることと、僕が誤魔化してる様子も客観的に見てたからだろう。

 ただ話すにはちょっと前準備が必要になる。


(セフィラ)

(四人配置されています)


 セフィラに言われて盗み聞きか監視か警護か、ともかく隠れてる四人がいる方向を丁寧に見ていく。

 それから聞かれてもいい範囲で今の動きをテリーたちに説明することにした。


定期更新

次回:皇子のお仕事2

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セフィラに言われて盗み聞きか監視か警護か、ともかく隠れてる四人がいる方向を丁寧に見ていく。 私が盗み聞きか監視か警護の人間だったら怖くて泣く ちいかわみたいになる そのあとブラフとかじゃなくて本当…
テリーは王城で滞在中はお泊まりで、アーシャは帰るのかなぁ〜 ゆっくり話したいって言ってたけど、王城だから気軽に夜更かししてお話あいするの双子達みたいにはできないってことかなぁ 予定もいっぱい詰まって…
監視兼護衛の人たちはお疲れ様です…
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