502話:お忍び皇子2
ともかくオフレコなこの場で、ジョーが攫われる理由は話した。
錬金術師としてゴーレム作りの中核を担う上に、一人でやってる。
いつもはルキウサリアの王城にいるのが、今日はマーケットにやって来たってあたり。
で、そんな人材一人で出したのかというとそうでもないらしい。
テリーが来ることをルキウサリア側は承知してたから、逆に学園だったら警備普段よりも増やしてるくらいだったそうだ。
悪かったのは、テリーが到着する直前というタイミングだったんだとか。
うん、テリーとジョーのどっちに神経向けるかって言ったらね。
「マーケットには戻るな。皇子は揃って王城へ迎え。そこで身の安全を確保しろ」
「えー?」
僕が不満の声を漏らすけど、ソティリオスは怪訝な顔して別方向見てる。
つられて目を向けると、テリーも僕と同じように不満の声を上げる直前のようだった。
ソティリオスと目が合ってやめた感じ。
「…………おい、まさか揃って同じタイプか!?」
「いや、何タイプって? テリーはいい子だよ」
「悪い自覚があるなら自重しろ。あと似てるのか? どうなんだ? 同じなら大人しく兵に囲まれていろ」
すごいソティリオスに詰められるけど、テリーは違うんだけどなぁ。
「似てないと思うよ。というか、僕は特に制限されずにやってたからこれなんだし」
「自覚があるなら改善をしろ」
めちゃくちゃ指突きつけられたけど、今さら皇子らしくしてもねぇ。
アズロスとして変装して通ってるのも皇子らしさないからだし、今さら過ぎる。
うん、今さら口うるさくされる理由できたからなんだけど。
「今のままでもいいだろうとでも思っているんだろうが、取り繕え。ウェルン相手にも雑さが目立ってきているぞ」
「それはそれで一学生らしさってことで、良くない?」
「逆だ。あれを他の学生が見たらどう考えてもお前が上だと思うような対応になっているんだ。その不遜さを隠せ。だいたい今回も何故追った? そもそもの自覚がなさすぎる行動に問題があるんだ、お前は」
「…………ソティリオスくらい上からじゃないとそうなるかもね」
「そのふてぶてしさも少しは隠せ」
けっこう真剣に同意したのに、ソティリオスは余計に怒ったように睨んでくる。
小声で続けられるお説教を聞き流してる間に、テリーがディオラに声をかけてた。
「あの、ユーラシオン公爵のご令息は、いつもこんなに兄上と仲がよろしいのですか?」
「はい、とても。アーシャさまからのお手紙にはありませんでしたか?」
「そうですね、友人の話はありましたが、お名前はありませんでした」
「あぁ、お家のことを気にされたのかもしれません」
ディオラとテリーはすでに顔合わせしてるし、僕が繕ってないのも知ってるからテリーも普通に話す。
ソティリオスについては手紙にも書いてないのは、まぁ、親同士が政敵だしね。
学園の学生っていう、身分の隔たりはないなんて建前ないと無理だ。
アズロスとして消えるつもりだったから、ソティリオスと宮殿に戻ってからつき合うつもりもなかったし。
こうしてばれたの、今年だしね。
「聞いてないな?」
おっと、ソティリオスにばれた。
「普段呆れるほどに無欲なくせして、お前がやらかすのは顔見知りに危害が及んだ時だ。今回もそうだろう。その上で現状学園内部に不審者が出た。しかも錬金術科関係の上に皇子もいる。こんな状態でそのまま置いておけばまた余計なことしかしない」
「すごい断定してくるね」
「自分の行動を振り返れ」
「自分でやるほうが早いんだよ」
「それで済ますから後から周りが迷惑するんだ」
うーん、何言っても僕を王城送りにしたいらしい。
しかも今回ディオラもソティリオス側だ。
何せ僕やテリーに何かあったら、王女として責任を取る側になる。
兵を頼れなんて、僕自身が追い駆けたことも婉曲に咎められたし。
大人の事情無視して解決とか、皇太子を目指す弟の前でやるのは駄目だろうし。
「けどマーケットが…………」
「去年もできて、今年は音楽科も入って人数も増えてる。だったらできるはずだ」
「いや、せっかくテリーきたのにさ」
「子供か」
「子供でしょ?」
「こういう時だけ子供のふりをするな」
「普段からけっこう子供らしくしてるつもりなんだけどな?」
「落差がひどすぎると言ってるんだ」
うーん、お説教から戻ってくれない。
これは逃げられそうにないや。
ただソティリオスの声が漏れ聞こえてるテリーも、ちょっと不満そう。
さすがにしっかりとは顔に出さないけど雰囲気がね。
双子は去年マーケットに問題なく参加してるし、タイミング悪くジョーの誘拐なんて起きたせいとなれば不満もあるだろう。
それを知ってるディオラがとりなすように言った。
「今日は一度城へご足労願えませんか。その上で明日、確かに警備を整えるお時間をどうか」
ディオラの立場からすればそうだよね。
困らせるのは本意じゃないけど、マーケットが気になるのも事実だ。
今日を諦めて残りの日数参加にかけるしかないかな。
「じゃあ、ジョーも一度城のほうで保護してほしい。狙われたのは王城での仕事が原因だろうから。それと、仕事内容も改めないと。一人でやるには負担がかかりすぎてる」
「そうなのですか? ではすぐに確認をいたします」
ディオラは直接国王に物が言えるお姫さまだ。
請け負ってくれるのはありがたい。
けど考えてみればこの状況でディオラもマーケット参加できないよね?
「二人は大丈夫なの? もうお昼の休憩も終わるよね?」
二人は同じ教養学科で、去年は一緒に不用品販売という名の、貴族の家のお宝陳列をしたらしい。
「今年も去年と同じだ。教養学科はマーケットで目新しいことはしないからな」
「私たちが抜けることはお知らせしなければいけませんが、困ることはないかと」
ディオラは手配に動くけど、ソティリオスは僕を逃がさないために残るっぽい。
信用ないな?
確かに目を盗んで抜け出そうかなとは思ったけど。
まぁ、できないならやれることを僕もしよう。
「ディオラ、走らせるならレーヴァン使って。で、レーヴァンは、王城での用事が済んだら、屋敷のほうに連絡。しっかり、話してね」
無表情保とうとしてるけど、レーヴァンの眉が跳ねた。
うん、絶対留守番してるヘルコフやイクトに詰められるからね。
さすがにそこまで知らないディオラは笑顔を僕に向ける。
「ご配慮ありがとうございます。レヴィ、陛下への伝言をお願いできるかしら?」
レーヴァン、国王にすぐ会えるようなけっこう高い地位なんだってディオラも知ってる。
だからこそ、この緊急事態ではレーヴァンが適任だった。
レーヴァンもわかってる。
その上でディオラに悪意がないことも。
けどその後に僕に命じられて動くなら、やらなきゃいけないこともわかってるし、どんな対応されるかもわかってるから、すごく返事が遅かった。
「あの宮中警護、どういう関係なんだ?」
そう聞くソティリオスは、ゴーレムの話でレーヴァンのスタンスが僕寄りじゃないことはわかってる。
その上でディオラと親しげだけど、帝国の宮殿で働く職の者だ。
ソティリオスに教えるのはすでに想像ついてるだろうからいいけど、テリーがいるのがなぁ。
宮中警護っていう常にいる役職に不信感持たれるのも困る。
そんな僕の心情がわかるのか、元宮中警護の騎士ユグザールが困り顔だ。
「兄上?」
おっと、テリーと目が合っちゃった。
しかもソティリオスに聞かれてテリーを窺ったのもばれた。
僕の弟優秀だから、それだけでレーヴァンには何かあるって気づいてる。
うん、イクトと扱い違うのは、左翼棟に来てた時にも見ないことでわかってただろうし。
「ソティリオスが見たとおりだよ」
「では後日確認しよう」
僕がテリーを窺ったことで、ソティリオスもここでは言えないと察してそれ以上は追及してこなかった。
レーヴァンがストラテーグ侯爵側ってわかってるからこそ、別派閥の話ってことでへたに口にはしない配慮かな。
その割に弟の前で僕を叱るのはやめてほしいなー。
まだ何か言い足りない様子が気になるけど。
なんでかそれでテリーが仲良し認定したのも謎だし。
「兄上には、突然のことで迷惑をかけるけど」
「迷惑だとは思ってないよ。一番迷惑なのは、この忙しい時に誘拐未遂起こした側だから」
捕まえた者たちから辿って、裏にいる者を捕まえないとことは終わらない。
ただジョーの存在と有用性を知ってるとなれば、候補は絞られるはずだ。
問題は、逃げられないこと。
騒ぎが起きたことは伝わるだろうし、僕たちがここにいる間にすでに調べは始まってると言うけど。
ともかくマーケット一日目で大変なことになったものだ。
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