501話:お忍び皇子1
*メンスの年齢について
初出の年齢の話が間違いなので、メンスはテリーの一歳下です。
現行は上記の前提で進みます。
すでに刊行している内容なので、場合によってはメンスを別人にする改変を行うかもしれません。
僕が連行されたのは、ラクス城校にある貴賓室。
ようは応接間だ。
帝国皇子、ルキウサリア王女、ユーラシオン公爵子息と揃った中、学園長とかの挨拶は断り。
さらにお付きもほとんどを外へ出す。
僕の側としてはウェアレルが残り、テリーの側は騎士のユグザールと宮中警護のレーヴァン。
テリーの学友のウォーは一度会ってるけど、知らない顔の少年が一人残った。
「さっさと座れ」
「窓から見られたら面倒じゃない?」
「暗くはなりますがカーテンを閉めましょう」
ソティリオスに言われて返したら、ディオラが動く。
どうやら皇子と知ってるからには、学生のふりで立たせておくのは話しにくいらしい。
けど僕は気になってテリーに目を向ける。
すると気づいて、僕の知らない一人を紹介してくれた。
「このメンスはヴァオラスの息子だよ、兄上」
「あー、テリーの一つ下の長男か」
父の側近であるおかっぱの息子と聞いて、つい微妙な顔をしてしまう。
それを見て、隣に座ったソティリオスが目で説明を求めて来た。
ディオラもまずい相手かと、こちらを窺ってる。
おかっぱとは、覚えてる限り宮殿での生活の最初から顔合わせてる相手。
会う頻度はそこまでじゃないけど、父といつも一緒で、比較的顔合わせてるし、僕の性格もわかってる。
錬金術についても話してあるし、その息子なら親から言い含められてる部分もあるはず。
だからまずいことはないんだけど、僕の反応の悪さの理由を端的に言い表すと…………。
「だいたい陛下に事の説明を求められる時に同席してる相手の子供」
「あー」
「まぁ」
ソティリオスが納得するけど眉間に皺を刻み、ディオラはちょっと笑ってる。
うん、僕がやらかして説明求められる時に父と一緒になって叱る側の人だよ。
もうなんかこの顔ぶれならいいかって、僕は閉め切って薄暗い部屋に光の魔法を浮かべた。
初めて見るメンスは目を瞠るけど、他に驚いてないと見ると、表情をとりつくろう。
「それで、今度は何をやった?」
「なんで僕を最初に疑うかな? テリーのことも、今回の誘拐も僕は知らないよ」
ソティリオスが水を向けるから、実際のところを伝える。
テリーも、把握してない部分を確認してきた。
「あの誘拐はいったい何が目的だったのか聞いても? 私が参りましたのは、陛下より兄上から直接聞き取りをするようにと命を受けたためです」
お前じゃないかと言わんばかりにソティリオスが僕を見る。
顔を逸らしてディオラに目を向けたけど、途端に困った様子で頬に手を添えた。
「その、王城との件で、やはり、アーシャさまがご説明されるべきことが多く。こちらでも努めてはおりますが、いかんせん錬金術に明るくないため不足があり、ご足労いただくこととなりました」
テリーが帝都を発したひと月前は、まだハリオラータは捕まえてないけど、襲われてはいた時期で、収穫祭頃。
テリーの行動が決まったのは、学園に入られてることもわかってるかどうかの時期か。
帝国側から予定を告げられて、八方美人なルキウサリアから断るのは難しかった感じかな。
その上で微妙な沈黙は、お互いに言えないことがあって、言葉が婉曲になってるから。
そしてそれをすべて把握してる僕に、みんなの視線が集まる。
目が合ったレーヴァンが、当たり前のように早く話を進めろと目顔で促してきた。
本当になんでそっち側?
っていうか、変な時期に来たのどう考えてもテリーのこと知っててだよね?
後で覚えてろってことで笑顔を向けると、すごく嫌な顔された。
「今回の誘拐未遂も絡んでるし、この場で言えるのは、ゴーレムのことかな?」
「言えないことを言ってみろ」
「…………いくつ?」
「いくつあるんだ…………」
喧嘩腰でいうソティリオスに返したら、逆にがっくりされた。
ディオラも困り顔だ。
「アーシャさま、その、まずは学園で身分を知る者のことをお話になっては? 私も本来なら知らされていませんので」
そう言えばそうだった。
なんだったらテリーは知ってても、ディオラ知らない状態って言うのが共通認識だったはずなんだ。
「学園で僕が誰かを知ってるのは、ここにいるソティリオスとディオラ、それからウェルンタース子爵令嬢のウェーレンディアだね。特に吹聴することはないと思うよ」
「兄上、学園の教職員では?」
「いないと思うけど、ウェアレル?」
「錬金術科教師からの言及はございません。ただ、テスタ老に関しては、テリー殿下はご存じで?」
僕に促されて発言するウェアレルにテリーが答える。
「あぁ、兄上を気にしていたからそうかとは思っていた」
「そっちは私が初耳だぞ。あの場にいたからにはそうだろうとは思っていたが」
ソティリオスから説明の不備を指摘される。
そう言えば言ってないし、なんだったらゴーレムの核作る時に居合わせてたのも忘れてたよ。
「あ、帝都のほうには技師のことも言ってなかった」
「アーシャさま、一度整理すべきかと。ハリオラータのこともあります」
ディオラにまできちんと説明するように言われてしまった。
まぁ、言ったり言えなかったりで、心配はわかる。
けど魔導伝声装置、小型伝声装置でやり取りしてるから、何処までって話は、逆にルキウサリアが把握してることと齟齬が出るんだ。
小型や改良型の伝声装置の存在はすでに知られてるだろうけど、そこはまだ明言してないし説明の時間ないから誤魔化していたい。
「…………ハリオラータ、もうお前が何かしたんだろう?」
「僕の周りがね」
「いや、絶対直接やってる」
「僕、魔法は得意じゃないよ…………って、錬金法のこともまだだったな」
さっき誘導に引っかかったせいで、ソティリオスが水を向けてくる。
忙しくて伝声装置があっても、伝えきれてない漏れがあるほうが僕としては考えなくちゃ。
ディオラも何処まで聞かされてるかわからないけど、ハリオラータに関しては僕が何かしてるのは確信してるようだった。
「アーシャさま、あまり無茶をされるのは。せめて、我が国の兵をお頼りください」
「あー、もしかして聞いてる?」
「いいえ。ですが、学園をお休みになられた時期と、王城での動きを考え併せますと」
ソティリオスも多分その辺り疑って言ってるんだろう。
まぁ、ハリオラータ捕まえたって発表されて、収監までの時期考えるとね。
僕も登校する余裕なかったし。
そしてその辺りの事情を知らないのに、じっと見据えてくるテリーの視線が辛い。
ゴーレムの話だけで誤魔化したら駄目かな?
ジョー誘拐もそれだろうし、正直好き勝手してるのは兄としてあんまり話したくない。
皇太子になるためにテリー頑張ってるのに、恥ずかしいし申し訳ないじゃないか。
「兄上、シャーイーまで手を伸ばするもりがある?」
テリーがゴーレムやハリオラータから、さらに話が飛ぶ。
けど派兵でサイポール組、ロムルーシ留学の時のこともウォーの父親が巻き込まれててファーキン組とのこと知ってるし、今回ハリオラータだ。
そういう考えにもなるよね。
ソティリオスは答えろと言わんばかりに肘で突いて来る。
軽く肘を払って答えないでいると、さらに口でも突いて来た。
「国一つ敵に回す大変さはわかっている、などと楽観を口にしていたはずだが? あぁ、その時にはちゃんと考えて動くなどとも言っていたな?」
ちょっと、弟の前で悪さしてるのばらさないで!
僕はそんな気持ちを込めて肘で突き返すけど、今度はディオラが反応した。
視線の先にはまさかって顔したレーヴァン。
そのレーヴァンの視線の先には、視線を逸らして耳を下げてるウェアレル。
「あの、アーシャさま?」
「うん、まずは共通項になるゴーレムの話と、今回の誘拐の関連。それからマーケット抜けてるの問題だから一度解散しようか」
「逃げるな」
ソティリオスが止めてくるけど、もっともらしいことを言い聞かせる。
「いや、普通に錬金術科は人手足りないから。そこにあの騒動だ。一人お偉方に連れていかれた時点で不安解消のために僕は戻らないとね」
ディオラも学園での出来事、しかもゴーレム関係という国の関わるかもしれない事件。
錬金術科もゴーレムに関わることは決まっているのを知ってるのか、僕の言い訳を止めない。
ただテリーは僕を見てた。
目が合うと僕が何か言う前に笑いかけてくる。
「お話できるまで待ってるから」
「う、うん…………」
弟にそう言われると逃げ道がない。
僕はわかってて言ってるだろうテリーの成長に涙しそうだった。
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