500話:マーケット二回目5
ルキウサリアでのゴーレム関係のジョーが、白昼堂々誘拐された。
それはもういいんだけど、頭目らしき人を抑え込んだところで、何故か皇子の馬車が現れてる。
僕にとってはそっちのほうが大問題だった。
(っていうか、レーヴァン知ってたな!?)
変な時期に来たと思ってたけど、先ぶれ的な存在だったのかもしれない。
去年マーケットに双子が来たのを、テリーも羨ましがってるとは聞いてたけど。
(なんで言わないんだよ!)
(内密に事が進んでいたこと、第二皇子の行動の前提が、主人への露見を何処まで防止できるかという試験的な動きであったため、事情を話し協力者にしていました)
今さらセフィラが内情を暴露するけど、それどころじゃない。
テリーが馬車から降りて来ちゃった。
こんな恥ずかしい場面見られて、自分でも動揺してるのがわかる。
ともかく一度立て直しのためには離脱だ!
「エフィ! この人頼むね! 僕は先生たち呼んでくるから!」
「あ…………」
「逃げた」
テリーが引き留めるように声を漏らすと、レーヴァンが余計なことを言うけど今は無視。
僕は走って戻り、錬金術科の催しがされてるはずの天幕へ向かう。
どうやら誘拐に錬金術科は催しを中止して、先生たちも呼ばれていたようだ。
事情を聴くための警備の人もいる。
なんか見た見たことある顔な気がすると思ったら、レクサンデル大公国へ行く際にルキウサリア側が用意した狩人に扮した護衛の一人だ。
本職は学園の警備というか、王城の内偵というか。
まぁ、今は知らないふりをしよう。
「ウェア…………先生方!」
つい側近を呼ぼうとして、一緒にいるヴラディル先生含めて呼びかける。
催しに興味ないから、講師の名目で参加してなかったネクロン先生や助手のウィレンさんもいる。
「アズ、無事か。いったい何が起きたんだ? ジョーが攫われたそうだが大丈夫なのか?」
「はい、それで犯人を追って捕まえたんですが、あの、ちょっとこっちに…………」
僕はウェアレルの腕を引いて、心配した錬金術科の生徒から引き離した。
気づいたウェアレルは他を止めるけど、何か気づいたネクロン先生がついて来る。
これはしょうがないからもう伝えよう。
「実は、賊が脱出路に使おうとした門に、帝国第二皇子殿下がお忍びでいらっしゃってて」
「はい!?」
「おい、皇子なのに知らないのか?」
ウェアレルが驚くと、第一皇子との繋がり知ってるネクロン先生が突っ込む。
「いえ、第一皇子殿下の宮中警護の方は一人同行していました」
今いるのは二人で、連絡しなかった相手となればレーヴァンだとウェアレルも気づいて眉を顰めた。
「私は錬金術科ではないので、まずはヴィーに確認を」
ウェアレルに呼ばれてヴラディル先生がやって来る。
テリーのことを伝えれば、もちろん驚くけど、どうやら学園側からそれとなく言われてたらしい。
「国外の高位の方がいらっしゃるとは言われてたが、まさか皇子か」
つまり学園には通達されてて、ひいてはルキウサリアの国の側も把握してたわけだ。
完全に僕と周辺に漏らさないようにされてることに気づいた時、慌てて近寄って来る足音があった。
見れば、差し入れらしいバスケットを片手にしたディオラとソティリオスだ。
「学生の連れ去りが発生したとお聞きしましたが、大事ございませんか?」
「幾人か姿が見えないが、その様子だとすでにことは終わった後か」
ちょっと情報の間違いはあるけど、僕よりも情報持ってそうな二人が来た。
ここは恥を忍んで聞くしかない。
攫われたのは卒業生で、テリーが来てることを言うと、ディオラは申し訳なさそうに目を逸らした。
「はい、実は入国に関しては報せが参っておりました。兄上に気づかれないよう手配するようにという課題だということで、こちらもお知らせせずに…………」
「…………ともかく知ったからには出迎えを。しかも捕らえたとはいえ賊の側に置いて来たんだろう。対応の遅れは許されない」
ソティリオスは高位貴族らしく言うんだけど、身を引こうとする僕の腕を捕まえた上で、早口に囁く。
「おい。知らなかったのか? お前が学業を疎かにしてまで対処してたのは、このためだと思っていたぞ」
どうやらソティリオスも、テリーがルキウサリアに向かってることは知ってたらしい。
外交に強い家柄だから、王侯貴族の移動にも情報網があるのかもしれない。
「普通に、危険だから対処、しました」
「知らなかったんだな? というか、本当にお前自身が動いてたんだな?」
しまった、ソティリオスの誘導に乗ってしまっていた。
けどここでまたテリーの元に引っ張って行かれるのは困るから、足に力を入れる。
僕としては合わせる顔がない。
けど、ソティリオスに取られたのとは反対の腕に、ディオラが手を添えた。
「申し訳ございませんが、事情を知る方のお話を、どうか…………」
ここで第一皇子の僕がいないのはさすがにと、言葉にせず促される。
分が悪すぎて、僕は仕方なく、嫌々戻ることになった。
その上で行くまでに簡単に賊を追った様子を話す。
先生たちは、ウェアレル、ヴラディル先生、ネクロン先生もいて、ウィレンさんは生の皇子さまという謎の言葉で物見遊山だ。
皇子って、生きてるから生しかいないと思うだけどな。
「あ、戻って来た。せんせーい、なんか雇われたとかでこいつら…………」
「待て、ネヴロフ。それは後だ」
途中で逃げたり動けなくした賊を回収してた警備の人とかも捕まえて、ぞろぞろ戻る。
報告しようとするネヴロフをウー・ヤーが止めた。
ラトラスは薬の抜けてないジョーの介護をしてて、イルメとエフィは何故かテリーの側で話をしてる。
一応国許では地位のある二人だし、皇子から許されたら話せる上に、レクサンデル大公国で顔合わせてるから変じゃないけど、僕のことは何も話さないでいてほしい気分だ。
「テリー殿下、お出迎えも致しませず」
顔見知りのウェアレルが言いつつ、近くにいるレーヴァンをひと睨みする。
「いや、それはいいんだが…………」
テリーがこっち見てきた。
僕はネヴロフの後ろに隠れようとしたところをソティリオスに引っ張り出される。
さすがに弟の前で恥ずかしいからやめてほしいなぁ。
「なんで不満げなんだ。普段の行いの悪さを反省しろ」
「ソーさん、あまりそのような。人目もありますので」
ソティリオスがいつもの調子で怒るんだけど、ディオラがテリーの目を気にして止めてくれる。
もちろん僕はその助け舟に乗るよ。
「少なくとも学外の相手を前に、僕がこの顔ぶれで並ぶのはおかしくない?」
そう言い訳してソティリオスを盾にすると、肩越しに睨まれた。
上位者が来たことで、エフィも逃げるようにこっちにやって来る。
それに続いてイルメも退くけど、皇子とか気にしてないようだ。
「だいたいの経緯は説明したわ。いきなり走るからアズのことを気にしていたわよ」
「春のことを思えば注目もされただろうが、できれば俺も逃げたかった」
春に会ったレクサンデル大公国で、テリーを助けたからむげにはされないけど、エフィは第一皇子に喧嘩を売った貴族子弟だ。
非常時ならともかく、気まずいどころの話じゃなかっただろう。
レクサンデル大公国の時には、報告のためと言って僕は一人帝都まで同行した。
だからテリーが僕に注目することに、クラスメイトは疑問に思ってないようだ。
ただ何処まで言っちゃったのかな?
あんまり兄として褒められたことしてないし、今学業に遅れが出てたりで相当かっこう悪いんだけど。
「殿下、このようなことはそうありませんが、万が一もございます。戯れや試みなどと言い訳にもなりません。このような軽率な行動は周囲にも咎が及ぶことは承知の上でしょうか?」
「…………ユーラシオン公爵家の方からの言葉としては耳が痛い」
ソティリオスが何してんだと言ったら、テリーもちょっと迷ったけど、誘拐されたこと忘れたかって返してる。
うん、学園で誘拐されたよね、ソティリオス。
けどそれ、ディオラにダメージあるから言わないでほしいな。
そもそも犯罪者の抑止はできても、犯罪防止なんて前世でも無理だったんだ。
舞台にされたルキウサリア側はとばっちりなんだよね。
犯罪を起こすほうが悪いんであって、犯罪起こされたほうを責めるのはただの八つ当たりだ。
「お恥ずかしい限りです」
ディオラが恥じ入って謝ると、ソティリオスもテリーもさすがに口を閉じる。
この機を逃せないから、僕はウェアレルに目配せをした。
長い付き合いで察してくれる。
「まずは移動しましょう。殿下もお疲れのはずですから」
ヴラディル先生やネクロン先生、ウィレンさんは、その場の収集にあたって残る。
テリーを中心に高位の者は移動ってなるんだけど、僕はまたソティリオスに掴まれた。
断ろうとしたんだけど、ディオラにテリーまで僕に目配せしてくる。
僕は表向き説明要因として、引きずられていくことになったのだった。
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