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499話:マーケット二回目4

 突然錬金術科の卒業生が抱えられての誘拐事件が目の前で起きた。

 僕は追い駆けて、魔法で土の塊を作る。

 さらに地のエッセンスから作った、土を強く固める薬を塗せば、途端に石に近い強度の団子ができた。


 背中に投げつけて怯ませたところで本格的に足を止めさせようとしたけど、控えてた仲間がジョーを奪うと逃走を続行。

 さらにその仲間を守る形で新手が二人増える。


「一人はこのまま気絶させる。反応からして魔法は使わない相手だ。先制を取って」


 背中に土団子を当てた相手を気絶させるために追撃しながら言えば、すぐさまエフィとウー・ヤーが火と水で、守る形の新手二人を排除した。


「逃げられないように意識刈って!」


 言ったらイルメが問答無用で倒れた相手のみぞおちに膝入れる。

 体重かけて跳ねるように立ち上がって走り始めた隣では、薬を嗅がせて酩酊状態のようなことにしたラトラスが目と口を開いてた。

 フレーメン反応だっけ、いや、普通にあまりの容赦なさに驚いただけか。


「おりゃー」

「ぐえ!?」

「おご!」


 二人の賊を引きはがしてると、ネヴロフがタックルを仕掛け、担いでた相手が呻きを上げ、倒れた衝撃でジョーも苦痛の声を漏らす。


 けど抵抗できないジョーを、さらに増えた三人が引きずるようにして逃走を続ける。

 セフィラが言うように連携できてないから小出しで出てくるようだ。

 四人を潰したけど、僕らに反撃する余裕がないしこれならいけるだろう。

 問題はジョーを狙う理由と、こんな人たちを用意した相手の思惑。

 それも捕まえてから、ルキウサリア側に投げるしかないかな?


「ローテンションを組もう。一人ずつ引きはがすんだ。攻撃したら意識刈るために一度下がって。その間に次が一人を確実にし止めて」

「つまり、こういうこと?」


 ラトラスは身体強化で飛び出し、一人の肩に着地。

 そして足を止めさせると、そのまま後ろに後頭部を打ちつけさせる形で肩を蹴り倒す。


 ラトラスが一人を引き放した間に、僕たちは逃げるほうを追った。


「こういうことだろうな」


 すると今度はウー・ヤーが、水の塊を背中に当てて一人を転倒させる。

 そのまま軽く顔を覆って意識を奪った。


 その間も僕たちは追い、ラトラスが最後尾に追い付く。


「この人間たちは、素人に毛が生えたくらいだわ」


 イルメがジョーを抱えた一人を狙うけど、横入りしてきた新手がまた三人増えた。

 イルメは一人を狙って風を吹かせたから、三人が壁になって思うようには威力を発揮しない。


「ローテーションなら失敗でも下がれ、イルメ」


 エフィが言うんだけど、イルメも負けず嫌いだ。

 足を止めた一人を見逃さず、すぐさま持ち前の戦闘力で締め上げて落とす。


 そうしてイルメの動きを見たネヴロフは、身を低くして飛び出した。


「んじゃ、俺はもう一回転ばす、か!」


 タックルを受けた人間は、避ける余裕もなく引き倒された。

 獣人で上背もあるネヴロフの横を走り抜けながら、なんだか入学当初は同じくらいだったのが遠く感じる。

 今じゃ身体強化がなくても、ネヴロフに問答無用でタックルされただけで、人間はひとたまりもない。


「僕は新手を捜して全体見ておくから」


 僕が言う間に、エフィも魔法や武器は使わずに締め上げて周囲に迷惑にならないように新手の賊を減らしてた。


(セフィラ、他に新手は?)

(執拗な追跡と振り切れない状況から、逃亡を開始した者がいます)


 本当に連携なしの上、素人の集まりか。

 特に武器や防具もないし、完全に一般の客に紛れて入って来たんだろう。

 行動を起こす危険思想はあっても実力が伴ってないのも、ハリオラータのせいで警備が増えてる中でことを起こせた理由かもしれない。

 どんな時でもレジスタンスとかの一般人に紛れ込まれるのが一番厄介ってことなんだろうな。

 ただこれだけ質が悪いと、逆になんの情報も持っていなさそうだ。


(結局何人になったの?)

(目の前で逃亡を続ける一名を含めて八名です)


 まだ一斉に来られると危ないか。

 というか、周囲から人が少なくなってる。

 僕らが囲まれて足止めされるのはまずい。


「ラトラス、ネヴロフ、イルメ! 進行方向を止めて!」

「そういやこの先って、門あるな?」

「学生はあんまり使わないところだね」


 僕の指示に、身体強化で速度を上げたネヴロフとラトラスが誘拐犯を追い抜く。


「学園内に留まる理由はないでしょうね」


 イルメは自分に追い風を魔法でかけて、逃げる一人を追い越し前へ。


「う、うおぉぉおお!」


 ただ横からイルメに新手が襲い掛かった。

 けど、イルメは腕を取って引き倒し、即座に反撃。

 ただその横を、ジョーを抱えた賊が走り抜けた。


 それにネヴロフが動くと、指笛が響く。

 さらに新手が現れ、数えれば六人。

 つまり、この場に残りの敵七人が揃った。

 うち一人はジョーという荷物を抱えてる。


「連携してきた。本命はこいつらか」

「門周辺の警備がいない、どうする?」


 エフィとウー・ヤーが即座に状況を告げる。


「集まってくれたなら範囲を巻き込む心配はない。イルメ、ウー・ヤー、ラトラスの薬を使って。僕たちは両側から挟み込んで追い込む!」


 指示して動きを変えれば、敵側はジョーを奪い返されまいと固まる。

 途端にラトラスが薬の蓋を開けた。

 ウー・ヤーが液体の薬を操って散布。

 それをさらにイルメが風で固まる誘拐犯たちの周囲に集めて吹かせた。


 ラトラスが持っていたのは、過去の錬金術師が謎かけの中に隠した幻覚剤。

 新入生の時に僕が作ったものじゃなく、ラトラスが使いやすいように改良したものだ。

 小一時間思考力を鈍らせるから、息を止めて僕らは吸わないよう気をつける。

 もちろん知らずに吸った人たちはその場で倒れた。


「なぁ、先輩も一緒に吸ってるけどいいのか?」


 ネヴロフが言うとおり、抱えられてたジョーも一緒になって倒れてる。

 イルメが様子を見ながら、残りの七人が反撃しないかを窺いつつ、意見を口にした。


「弱ってるならあまり良くないかもしれないわね」

「さっさと他は気絶させて、ジョー先輩は手当てしよう」


 ラトラスは言いながら、前後不覚になってる賊の一人を締め始めた。


「どうしたんだ、アズ? 何処へ?」


 ウー・ヤーに言われると同時に、僕はイルメを真似て風で加速。

 その先には最後の一人、指笛を吹いて指示をしていた賊が隠れてた。

 僕に見つかってるとわかって飛び出して走る。

 ただ、向かう先の門に、ちょうど何処かの馬車が横付けされて、護衛らしい人たちが立ちふさがった。


 馬車を使って護衛までつけてるなら、巻き込むと厄介そうだ。

 僕はさらに風で加速した。


「はは、悪いことはできないみたいだね。とぉ!」

「ぐぉあ!?」


 背を向けて逃げようとする最後の一人に膝を入れて、乱暴に地面に倒す。

 砂利なんかが散らばってる地面にこすりつけるようになったけど、痛い目見るのも自業自得と思ってほしい。

 そのまま肺を圧迫する形に膝を入れて笑って見せたけど、背後からじゃ見えないか。


 ここはちゃんと言葉にしてやる気を削ごう。


「何人か逃げたようだけど、捨て駒だろうから君がいれば十分かな?」

「このガキ! 舐めやがって!?」

「おっと、暴れるとあばらが折れて骨が胸に刺さるよ。死ぬ前に必要なことを話してくれるならいいけど、そうじゃなければ喚くな、うるさい。こっちだって忙しいんだ。せっかくの催しを邪魔した報いは受けてもらうからね」


 うん、ちょっと本音が漏れた。


 ただでさえ忙しく錬金術もできないのに、これはまた王城とやり取りが必須だ。

 捕まえてこの後のことを考えると、あまりの面倒くささに嫌になる。

 せっかくのマーケットなのに、これも僕は参加が怪しくなるじゃないか。

 そんなことを考えたせいで、思わず苛立ちが言葉になったんだ。


「舐めるななんてこっちの台詞だ。錬金術科の学生相手だったら楽に誘拐くらいできるとでも思ったの? 結果、学園の中からも出られないくせに? ずいぶんな自信だ」


 苛立ち半分、煽って口を滑らせ、手早く済ませられないかと思ったんだけど。

 そんな僕の肩をエフィが叩いた。


「なぁ、あれって…………皇子殿下じゃないか?」

「…………皇子、殿下?」


 予想外の単語に、僕がオウム返しに聞けば、エフィは指をさす。

 その方向を見ると、停まった馬車の窓からこっち見てるテリーと目が合った。

 見慣れた元宮中警護のユグザールもいて、すごく困ってるけどそれどころじゃない。

 僕は顔がゆだるように熱くなるのを感じた。


 なんでかいるレーヴァンは、そんな僕を見て言わんこっちゃないなんて顔してるし!

 ちょっと聞いてないんだけど!?


定期更新

次回:マーケット二回目5

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