491話:表には出せない1
俗世と隔離された監獄で、錬金術の魔法関系丸投げしたヌニェスと一緒に歩く。
今までそっち担ってたウェアレルが先生で都合がつきにくいから、魔法関係の疑問があったら答えてくれるしけっこう頼りになった。
学園で研究室持てたくらいには優秀な魔法使いの研究者だしね。
しかも内容がニッチだったのに続けてた根性の人。
ヌニェス自身がしっかりした魔法への造詣あってこその、定説への挑戦だったんだろう。
(まぁ、それでも忙しいみたいだけど)
(研究助手となった九名を錬金術に慣らすところからとなっているためであるようです。しかし叛意もなく錬金術に携わることへの嫌悪も少ないことを確認済み)
僕のこと伏せてるから会ってないのに、セフィラはいつの間にその九人に会ったの?
まぁ、今日はまた回答の確認とちょっとした用事だから、セフィラにはその覗き癖は発揮してもらうつもりだけど。
「あ、皇子さまだ。いらっしゃーい」
「うふふ、お会いしたかったわ、私の皇子さま」
軽いカティに比べてマギナの含みがすごい。
そして二人とも、皇子相手に無礼すぎるから周りから睨まれるけど気にしてない。
カティのために女性の看守なんだけど、多分これ、男の看守でも気にしないよね。
だって、国を敵に回しても平然としてる犯罪者だし。
「殿下、回答は現状こちらに。ご質問があればどうぞ」
「うむ」
なんか逆にアルタはどんどん対応が丁寧になってる。
最初はすっぱだったのに。
そしてイムは喋らなくなってるんだけど?
「えーと、今日は回答の確認とちょっと魔法関連の実験手伝ってほしくてね」
僕が合図を出すと、ヌニェスが準備してた実験器具の配置を始める。
その間に僕は回答の確認、のふりをしてセフィラがすでに確かめてから羅列する質問を代弁した。
ヌニェスに準備ができたと言われて一度質問は切り上げる。
机に用意したのは、中に機構が組み込まれた箱。
箱には小雷ランプが据えてあり、魔力を流せば点灯する。
そして箱の側面からは、魔物素材で作った魔力を通す糸を主原料に、魔力用導線を接続。
表面は漏出防止で金属の筒、先端には魔力触媒の天然石。
だから外見は箱から飛び出たレバーに見える。
「この石を握って魔力を流してほしいんだ」
「それくらいなら軽いかるーい」
カティがすぐさま立ち上がって駆け寄って来た。
多分回答書き続けるのに飽きてたんだろう。
これは魔力を外から流すためのもので、魔導伝声装置に応用するための実験だ。
だからハリオラータたちには詳細を伏せるんだけど、説明するまでもなかった。
(上手くいくといいな。今までも宝石でお金がかさむみたいだし)
(魔力変換効率にも難あり)
魔導伝声装置は、電池のように宝石消費して情報技官の足りない魔力を補充する方法は実践してる。
その上で、込めた魔力を全部使えることもなく、宝石は一度使うと捨てるしかない。
外付で魔力を少しでも効率よく流せるような機器も作って、騙しだましやってた。
けどそれでも情報技官の負担は大きかったんだけど、そこにハリオラータが技術を持ってきたんだ。
開示された技術の中の使えるものを使って、リアルタイムで外部から供給っていう形に変更できないかって言うのが、この小雷ランプを使った装置の趣旨。
「まず負荷を見たいから少しずつ…………」
言った途端、装置から破裂音が起こり、カティが即座に手を放した。
そうしてカティの手からは、焦げた臭いがあたりに漂う。
「ちょっと!」
「うわ、びっくりした」
「怪我したよね? すぐに治癒師呼んで!」
慌てる僕にカティ自身は平然として装置を見てる。
「なんだろう、今の? 流した魔力が跳ね返ったような感じ。今まで感じたことない反応」
「光った箱のランプが何かしたかね。そこに魔力が到達したと同時に、破裂したよ」
「うむ、入りきれなかった魔力が逆流と思われる」
カティが言うと、アルタとイムも寄って来て装置を眺めまわした。
「痛そうだわ、痛そう。カティ、大丈夫? 私の胸で泣いていいのよ?」
「いらない」
マギナだけがなんだかずれてるし、カティがバッサリ拒否する。
そして興味は魔力を跳ね返した機構のほうに向いていた。
これは説明して興味を逸らさないと手当もさせてくれなさそうだ。
「流しすぎてランプを壊されると困るから、一定以上の魔力は通さないように設定したんだ。けど、まさかそのまま跳ね返るとは思わなかった。これは危ないから、もっと改良するよ。先に説明しておけば良かったね」
「いいえ、とても素晴らしい機構です。魔力を一定以上通さないと言うのはどのように組み込んでいらっしゃるのでしょう?」
「跳ね返すのは元の道を逆流していたように思う。つまり、放出の機構がこの中に?」
アルタとイムが完全に興味持っちゃった。
「もう、説明はするから、まずカティは手当て。マギナ、カティの手当て手伝ってくれると嬉しいな」
「まぁ、もちろんよ」
治癒師を睨み始めたカティに、マギナを間に挟んで治療をしてもらう。
(なんで火傷みたいになったんだろう? 皮膚が破れてるね)
(跳ね返った魔力をそのまま体に流さず、手に留めたために過負荷がかかった結果のようです)
魔力過負荷がかかると皮膚破れるなんて初めて知ったよ。
あと、魔力ってやっぱり何かのエネルギーなのかな?
エネルギーは最終的に熱になるって前世の物理学で習ったんだよね。
けどこんな怪我を負わせるつもりはなかったし、本当、気をつけないと。
「で、アルタとイム。それは錬金術の装置だ。だから魔法だけで語ることはできない」
「魔法の道具かと思いました。確かに、第一皇子殿下は錬金術を嗜まれると聞いております」
「うん、そう。じゃあ、魔法だけでこれやろうとするとどうなると思う?」
アルタに頷きつつ、僕はカティが握ったレバーに魔力を流した。
途端にランプが煌々と光る。
「うむ、魔力を流すだけで光を発する機構など、魔力が足りるわけがない」
イムは装置自体が小さい上に、魔力量が少なくていいってことに目を瞠る。
熱線で光にするって考えが魔法だからね。
「まぁ、僕は魔法専門じゃないからその辺りは自分たちで考えてよ」
なんて言ったら、ハリオラータ四人から視線が集まった。
「え、皇子さまに専門ってあるの?」
「専門だとどうなるのかしら?」
「まぁ、錬金術の専門だろうね」
「あのゴーレムは専門なのだろう」
ちょっと最後のイム、あの場には僕いない設定なんだから。
魔力感じるっていう性質あるし、もしかして気づいてる?
ただの制作者くらいに思ってればいいんだけど、あの場で対応する動きしまくってたし、ばれるのもわかるけど。
藪蛇にならないように無視しておこう。
その上で専門に関わる物品はもう一つ持ってきてた。
「紙ばっかり触ってると手が荒れない? これも錬金術の一環で作ったんだけど」
言って取り出すのはコンパクトっぽい容れ物に詰めた保湿剤。
開けて香るのはフローラル。
保湿剤ってイクトに回すんだけど、さすがにこの匂いはね。
けど匂いの元作ってるのが女の子のテレサだから、この系統って余ってたんだ。
こっち来て冬に向けて乾燥厳しそうだったし、消費してくれるかなって。
「マギナ、どうかな?」
「えぇ、まぁ、素敵。プレゼントしてくださるの? ありがとう」
心底嬉しそうに受け取ってくれる、素直で裏がなさそうなところが男受けいいのかも。
そしてその手管と魔法で他人を操ることを、感覚的に覚えてるんだろう。
「えー、あたしには?」
「別の匂いのもあるよ。はい、四人分は持ってきたから」
カティは思いのほか中身が子供だ。
貰えるものはもらって素直に喜ぶし、気に食わなければすぐ暴力に訴える。
で、これは匂いをつけた製品ってこっちでどんなものかと、そんな検証のためだったんだけど。
なんか、セフィラから不穏なお知らせがあった。
これはちゃんと話聞くアルタとイムに釘差しておこう。
「お互い無駄な労力や怪我はしたくないと思うんだ。だから、勝手をするのはやめてほしいな」
「「申し訳ありません」」
詳細も聞かず、否定もせず即謝罪ってことは、どうやらセフィラが言うとおり、勝手にクトルと連絡を取っていたらしい。
やれやれ、やっぱり表には出せない犯罪者は抜け目がないなぁ。
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