487話:冬に向けて2
学園で、ユーラシオン公爵家のソティリオスに掴まった。
まだ授業あったけど、放してくれない感じでしょうがなく、放課後の約束をしたんだ。
で、止めないクラスメイトに聞いたら、何度も顔を出して僕が出て来てないか尋ねてたって。
ソティリオス側の言い訳としては、アズロスとして疑われてることにユーラシオン公爵家も、かするくらいの関係があるとかなんとか。
だから話を聞きたいし、なんだったら貴族同士で足並み揃えてなんていう話もしたらしい。
「あの言い訳って、結局は馬車襲われた時の話を利用したんだよね?」
「…………挨拶されたらきちんと返せ」
屋敷の玄関で聞いたら、怒られた。
放課後に先ぶれ出してまでの訪問をされ、挨拶してくれたからそのまま案内して奥に行く途中のこと。
どうやらいらっしゃい程度じゃ駄目だったらしい。
「えーと、お茶いる?」
「そうじゃない。というか、客をもてなす気もないのか」
「いや、時間が夕飯前だし、長居させないほうがいいかなって」
「気遣い方がおかしい」
どうやら違ったらしい。
王侯貴族って難しいなぁ。
皇子になって十年以上経つけど、未だにわかる気がしない。
「そう言えば、ユーラシオン公爵家のソティリオスが正面から来るってどうなの?」
「なんの問題もないだろう」
「正直、ここ来たことあるの、他はルカイオス公爵だけなんだけど?」
「もっとまともに社交をしろ…………」
あまりな偏りに今さら困ってるようだ。
うん、絶対あの第一皇子のところ行ったって、ソティリオス噂になるよ。
僕はそんな噂で煩わしくなるような相手いないからいいけど。
あと、騎士たちの目がすごい。
今までまともにお客いないし、騎士たちが待機してる大広間突っ切ってるし。
奥の晩餐室行くためとは言え、すごい目立つ。
「おい…………」
さすがにソティリオスも騎士たちの珍獣を見るような顔に気づいたようだ。
「まぁ、ハドリアーヌ王国の時も、入学体験の時も、僕に怒ってたのは知られてるはずだし、うん」
「なんの説明にもなっていない。そもそもまともに対応しようとしないからだろうが」
「はいはーい、話は腰を落ち着けてからね」
「少しは繕え!」
もう騎士たちの視線がうるさいから、ソティリオスを急かして晩餐室へ入った。
一応扉の前には、以前身を張ると言ってくれた騎士二人を立たせてる。
けどその二人も、僕とソティリオスの思わぬ関係性に瞬き忘れてたよ。
うん、政治的にも相性的にも悪いと思われてるらしいからね。
けっこう普通に話してるのが予想外だったんだろう。
で、晩餐室に連れ込んだソティリオスには、お小言回避でさっさと事情説明。
見事、晩餐室の椅子の上で項垂れてる。
「お前、お前…………」
呻くように何か言ってるけど、これでもルキウサリア側にも隠してる、幹部確保の二回は秘匿してるんだよね。
ハリオラータの頭目クトルは説得ってことにしてあるし。
それでも結局は、ハリオラータの淀みの魔法使いを統制下に置いたってことにはなってるけど。
あとソティリオスには、表向きの情報で確保したのは六人と伝えてる。
そして実際に処刑用に用意された人たち六人が処罰されて、ハリオラータが終わるのが既定路線。
ここはユーラシオン公爵レベルだと知れる話。
そしてそういう司法取引みたいなことが許されるだけの成果を、ハリオラータは抱えてるのは、だいたいの国が察してる。
ただ、実際に捕まえてるのは四人で、頭目ともう一人幹部が動き回ってるのは知らない。
「…………絶対それ、帝都にもまた事後承諾だろう?」
僕が視線を逸らすと、項垂れてたソティリオスが睨むように見上げてきた。
そこはすでに怒られた後だから、ね?
あと、成果物ことごとく破棄しちゃってとか、シャーイーと癒着してる国の鉱山攻撃してとか、そういうルキウサリア側にも言ってないことあるし黙秘で。
「はぁ、ストラテーグ侯爵閣下が、お悔やみ申し上げた理由はご理解いただけました?」
宮中警護名目で同席してたレーヴァンが、第三勢力ポジションでなんか言ってる。
スタンスはストラテーグ侯爵側ってソティリオスも知ってるからいいけど。
「そちらはこのことをどう説明?」
「いやぁ、すでに皇帝陛下に話行ってるんで、そこから問い合わせ待ちです」
「そうか、そのほうがいいな」
なんか妙なところで気が合ってる?
なんて見てたら、転輪馬の延伸の話だとか、やって来る国の大使との面会の話とか、他にも何処の国が今回の件で損得あって、没落する家との関係清算とか、色々政治的になった。
うん、社交してないからそこらへん他人ごと…………だったんだけど、それをソティリオスにまた責められる。
「当事者がその反応はおかしいだろ」
「だって僕に政治力なんてないし」
「あのですね、今回どれだけの範囲に影響してると思ってるんですか」
「僕の周りは平和だよね。あ、いやそうでもないか」
レーヴァンに言ってから考え直す。
途端に、ソティリオスとレーヴァンが揃って身構えた。
「今度は何を隠しているんだ?」
「この反応はまだ平気な、はずです」
「うん、別に大したことじゃないよ。学園生活に支障来してるなって。さすがに休みが多すぎて課題をもらっても、学習の遅れを取り戻すのも辛くなってきた」
僕にとっては大変な実情なんだけど、なんか二人揃ってあからさまにほっとしてる。
学生としては一大事なんだけどなー。
なんて不満の目を向けてたら、レーヴァンが笑った。
「いやぁ、殿下もそういうところ人並みなんですね。なんか安心しましたよ」
「僕の能力は基本人並みだよ」
「お前の認識はどうなっているんだ?」
今度はソティリオスが呆れる。
「いや、普通に考えてやってできることと、できないことがあるし。それで言えば、できないことが多いから、普通でしょ」
「普通の人は、犯罪者ギルド作った一家を三つも壊滅に追い込まないんですよ」
「シャーイーのほうも諦めてないんだろう? そう考える時点で異常だ」
二人して否定してくる。
目で助けを求めたんだけど、側近たちは目を泳がせた。
うん、もっと常識はずれなセフィラいるもんね。
でも表面上だけならまだ普通の範囲のはずなんだけどな、表面上だけなら。
「…………うわ、これ絶対裏で何か別のことやってるでしょ」
「なんだと? そうなのか」
レーヴァンが経験から言うと、ソティリオスまで警戒する。
「やってないよー。マーケットの準備もあるしー、僕も忙しいからー」
白ばっくれたけど、思ったより白々しくなった。
ここはもっと別の話題に変えてしまおう。
「そうそう。後先になっちゃったけど、ゴーレムを錬金術で作って動かしたんだ。結果としてハリオラータの攻撃受けて、石って言う素材の強度に依存するけど、持ちこたえることもできるってことは実証できたよ」
話の転換にソティリオスが乗らないそぶりを見せたから、僕はポケットに入れてたスマホくらいの大きさにまぁまぁな厚みのある石を取り出して置く。
「で、これが試作したゴーレム」
石を指先で叩くと、途端に長方形に割れて勝手に組み立てられた。
ジェンガの積み木のような形の板で、手足が二本ずつ、胴体と頭が一つずつの人形となって立ち上がる。
「ちょっと待て! 以前見た核と大きさが合わないだろう!?」
「っていうか、え、こんな小さいのでも行けるんですか?」
話が違うと騒ぐソティリオスと、興味と警戒が半々のレーヴァン。
「これはまた別の核使ってるんだ。化石ではあるけどね。で、小さい分命令も多くはできない。これは変形と起立以外には歩くくらいだよ」
歩かせたら目を引かれて、僕を追求しなくなった。
よし、これでハリオラータに思いの外懐かれてお菓子差し入れしてるとかは有耶無耶。
すでに知識の聞き取り始まってるけど、そこにもがっつり噛んでることも言わずに済んだね。
話を誤魔化すために使ったけど、いちおう小型ゴーレム用意した理由はあるし。
「前に説明したとおり、ゴーレムを操れるのは製作者だけ。これは僕が今命令を出して最初に命じた命令を遂行してる。途中で別の命令に変えることもできる」
ラジコンみたいなものかな、前世でも使ったことないけど。
もちろん電波が届く範囲でしか命令聞かないし、最初から機能として組み込んでないと障害物も乗り越えられない。
「で、これの大型作って建材にするにしても、操るのが僕じゃ問題だよね?」
「あ…………」
「あー、ってことは、ご令息…………錬金術やるんです?」
レーヴァンの言葉にソティリオスは硬直した。
まぁ、素材は錬金術師に作らせるにしても、操作が必要だってなるとね。
素体を作るのはやらなきゃいけないし、僕から教わることができる相手ってなると、そうなるんだよねぇ。
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