485話:犯罪者組織の畳み方5
今日は屋敷で、午前に待ち人が来る予定。
ただ前回の反省を生かしたのか、僕の所に来る前に王城に寄ったそうだ。
「絶対、何かやらかさないと気が済まないんです!?」
「レーヴァン、どれのこと聞いたの?」
「待って! ハリオラータ以外にも心当たりあるんですか!?」
執務室で騒ぐのは、宮中警護のレーヴァン。
もうなんか形骸化したけど、一応僕の警護としてイクト入れ替えとかなんとかのため。
ただし、一回秘密裏に帰ってるから、まだ交代には早いはず。
そもそも帝都も宮殿が占拠されるっていう大事件の後だ。
その対応とかでストラテーグ侯爵も忙しいと思ってたんだけど。
「大方、ハリオラータ関係で括れるかな?」
「絶対雑に括ってるぅ」
なんかレーヴァンが嘆き始めた。
僕が困って周りを見ると、比較的仲がいい財務官のウォルドがレーヴァンに確認する。
「あの、王城のほうでお聞きになったのでは?」
「ハリオラータからの襲撃と、側近方が捕まえたとか、交渉したとか、捕まえて絶賛知識の引き出し中とかは聞きました。あと、頭目を犬にしたとか」
「人聞き悪いよ!? え、それ王城での認識なの?」
聞き返すと、レーヴァンが僕の側近のほうを見た。
レーヴァン来るってことで、今日はウェアレルも午前は休んで三人揃ってるんだけど。
誰も目を合わせてくれない。
僕もレーヴァンと一緒になって見てたら、ヘルコフが熊顔を顰めて言葉を絞り出す。
「まぁ、その、なんです。あのハリオラータども、完全に殿下以外への対応、雑ですし」
「比較的話ができる者たちも、距離を取っている様子がうかがえるとは聞いています」
ウェアレルも、ハリオラータの様子を教えてるけど、そうなの?
僕はいつもついてるイクトを見る。
「そうなの?」
「アーシャ殿下以外には目が合った瞬間殺気と魔力を叩きつけるのが普通です」
「うわ、怖。トトスさんと同じじゃん」
余計なことを言うレーヴァンに、イクトが睨みを利かせた。
なるほど、こういう反応するってことか。
それだったら想像がつく。
カティが大抵の人に対してそうだし、年上男性は絶対拒否だからね。
「けど、マギナは?」
「あちらは、あからさまな誘惑をするので。それが一種の警戒と認識されています」
ウェアレルがいうとおり、魔力の匂いを使った他人を操る魔法を使うからこそ、あからさまな媚は警戒の表れなんだろう。
「確かに僕がいる時に匂いはしなくなってたね」
「…………あの、殿下? そのマギナというハリオラータを捕縛した際には、お三方だけだったはずでは? 捕まえた後もそんな魔法使い続ける状況なわけじゃないですよね? 何処の時点を指して、比べてるんです?」
おっとレーヴァンにマギナとの初対面が、公に記録されてる時と違うことがばれた。
まぁ、レーヴァンはまたかって顔してるけど。
「なんです? 犯罪者ギルド関係は自分の手で潰さないと気が済まないんですか?」
「いや、自分でやったほうが早いだけで。だいたい向こうは組織なんだから、もっと大きな軍動かすくらいじゃないと負けるし。だったら、少数で首狩り戦法したほうが」
「ちょっと、家庭教師の先生方? 宮殿にいる時よりも悪化してる気がするんですけどー」
文句言いながらレーヴァンは頭を抱えてる。
それを見て誰も何言わな…………いや、容赦ないイクトが追い打ちかけた。
「まだ錬金術関係の話もしていないのに。頭を抱えるのは早いぞ」
「やっぱりまだあった!」
そんなレーヴァンに、ウォルドは同情的な言葉をかける。
「その、なんというか…………。一気に結果だけを聞くのは、少々重いでしょうが、気を確かに。今はもう、事後処理の段階ですから」
「ち、ちなみに、どれくらいのことやってます?」
レーヴァンが優しいウォルドに聞いてみた。
けど、そこはウェアレルとヘルコフが口を挟む。
「ゴーレム関係はもう動かして、独自改良もし、実際に使う段階です。ただユーラシオン公爵側とは時間が合わず何も報告していませんが」
「それと錬金術に使われる魔法を錬金法って名づけて別方向で検証と体系の確立のための人員引っ張って来たな」
「厄ネタしかない!」
ソティリオスに言ってないし、別の人員引っ張り込んだし。
うん、貴族的に考えて第一皇子に近づくとかないし、人員も裏があるのわかるよね。
ユーラシオン公爵と約束あるのにとか、レーヴァン考えてるんだろうな。
「それにハリオラータ犬にしたってなんです?」
「それは僕も聞きたい。ちょっと矯正しただけなのに」
「すでに躾済みじゃないですか!」
「変な言い方しないでほしいな。話し合いをするためだよ。組織を畳むには、外からやっても上手くいかなかったんだから。今回は中から、被害出ないようにしたいんだ」
いちいち騒ぐレーヴァンに、頭から説明しなきゃいけなかった。
それに今回、絡んできたのは正直ハリオラータだと思うだよね。
だから僕は関係ないって言いたいけど、学園狙って来て正直邪魔だからちょっと独断専行した自覚はある。
「淀みの魔法使いのなんか歪んだ願望矯正して、それで従う気になったとか? その時点そんな簡単なわけないとは思うんですけど?」
「いや、実際そうなんだからしょうがないでしょ」
「淀みの魔法使いと正面切って話し合いなんかして、怪我もなくピンピンしてる種が絶対あるでしょ? 普通生き残り自体諦めますからね? 淀みの魔法使い六人とか」
まぁ、さすがに淀みの魔法使いの危なさは有名だから、それが六人もいてまともな警護もつけずに済んだ種はある。
無傷で首尾よく運んだって報告した僕に、ルキウサリア国王も探り入れて、なんでそんなの上手くいったんだってことを聞いて来たし。
「元から発案はハリオラータ側からだった。あの六人は家族という括りで連帯感を持ってた。頭目自身がその形を一番重視してるってことは事前に聞いてたし。だから幹部のほうからの発案と提案ってことを示したら、自分の意思でテーブルについたよ」
「そのテーブル、大破してたって聞いてますけどぉ?」
そう言えばそうだった。
そりゃ現場確認するだろうし、僕が無傷でもあの惨状はちょっと誤魔化せない。
ルキウサリア側からも、淀みの魔法使いと戦闘あったのかって確認された。
セフィラのことは隠してるから、威嚇されただけって言い訳してる。
「ちょっとした脅しにテーブル壊されただけだよ」
「…………自分から挑発して、手出させたとか?」
レーヴァンが僕の言い分を信じてないのもあるけど、そうとも言えなくもないな?
けどこれ以上は下手な言い訳重ねるとセフィラが透ける可能性もある。
ここはいつものように別の問題ぶつけて有耶無耶にしよう。
「さすがに今回は危なすぎるって、魔導伝声装置使って陛下に怒られてるよ」
「それで怒られたで済ますのもどうなんです? とんでもない大問題ですけど?」
「で、ルキウサリアとの行き来のために転輪馬に力入れようって話になってる」
「あぁ、それは聞きました。理由は今知りましたけど」
「で、連絡もやっぱり魔導伝声装置は負担と時間が多いでしょ。だから、ハリオラータから聞いた術式の中に使えそうなものあるから、改良案を出す予定なんだ」
転輪馬はあんまり引っかからなかったけど、魔導伝声装置と聞いてレーヴァンは固まる。
「え、そんなすぐ? 捕まえたの何日か前って」
「えーと、最初の一人を捕まえたのが半月以上は前で、今の所に移送して色々聞けるようになったのが数日前かな」
「それでもう、使えるくらい理解してるんですか? 魔法なんですよね?」
この驚き方はあれか、僕があんまり魔法使わないから、理解度も低いと思ってる?
いや、そもそも術式の理解とか活用とかって、ウェアレルやセフィラ以外と話したことがないな?
僕のレベルってどれくらいなんだろう?
「…………うん、今さらだね」
「今さらじゃないですよ。って、そう言えば改良案がどうこうって聞いた気もします」
「あれ、魔導伝声装置のほうは関わってなかったんじゃないの?」
「殿下に、宮殿が占拠された時に、やらされたのが伝わって、散々関係者に絡まれまくったんですよ!」
どうやら宮殿での話らしい。
あの司書たちかな。
まぁ、僕がいないんじゃ知ってそうな人に当たるよね。
絡まれたとかは、うん、ご愁傷さま。
「もう何から何まで、本当順序だててくださいよ!」
「ハリオラータに襲撃されて、学園が狙われたから、捕まえて、ハリオラータを組織として畳む方向で動いてるよ」
順序だててみたら、レーヴァンががっくりしてしまった。
「なんでその順序で、その結果を本当に打ち立ててんですか…………」
「できるように頑張ったから」
ごく当たり前の返答しかしてないはずなのに、レーヴァンが納得いかないって目を向けてくる。
「長引いてるサイポール組や、ばらけて収拾がつかなくなってるファーキン組の反省を生かした結果なのに」
もちろん残るシャーイーには、後手に回り続けた今回の反省を生かすつもりです。
学生の僕はすぐには動けないからね。
相手の活動に不可欠な部分を先手で潰させてもらうつもりだ。
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