475話:魔法使いの封じ方5
うん、変形合体ってできるならやってみたいよね。
けどやっぱり造詣素人がやっても格好良くはならないのがわかった。
何処かの爆発モンスターみたいな形だったゴーレムを変形合体させた結果、できたのはトラックの前方部分のような何か。
大きさと厚み、そして重量の分威圧感と安定感、操作性はすごいけど、なんかちょっとコミカルだ。
「うーわ」
「え、え?」
「やれやれ」
ヘルコフは呆れ、ウェアレルは困惑そ、イクトには呆れられた。
けどそんな反応できる余裕があるのは、僕がやってるってわかってる三人だけ。
ルキウサリアの兵も、ハリオラータの二人も突然現れた謎のモンスターに固まってる。
いや、どっちも変形合体ゴーレムに向かって攻撃態勢になってるね。
ルキウサリアの兵のほうは味方なんだけどな。
「と、ともかくこれの前には出ないでください」
「味方だ。攻撃するな」
「おい、今の内に隊を整えろ」
ウェアレルが注意すると、イクトも忠告する。
元軍人だったヘルコフは、ルキウサリアの兵に今できることを指示してた。
そうして味方が退いたところで、僕は変形合体ゴーレムに行動するよう指示を出す。
けどその動作は予想外に早かった。
(うわ!? ひき逃げアタック!)
(仔細を問う)
トラックっぽいって思ったせいで、セフィラが変な単語に反応した。
この世界にも馬車によるひき逃げ事件はあるから、それを引き合いに雑に説明しておく。
その上で変形合体ゴーレムは三十から四十キロは出てそうなスピード。
しかも生き物じゃないから予備動作がないし、見慣れてないからトラックの挙動なんて僕以外予想がついてない。
基本四角で作ってるけど、形が崩れたホゾを球体にして足元に並べてる。
つまりいくつもの玉の回転で動いてるから動きは結構なめらか。
(命令の変更の負荷どれくらい?)
(未知数です。そもそも想定していた素材ではありません)
正直このゴーレム、耐久はあるけどどれくらいで動かなくなるかわからなくなった。
現状は速さに物言わせての体当たり、そしてゴーレム自体がもってる魔力の吸収能力。
それが常に複数体のゴーレム分の吸引力で正面に立つ魔法使いを襲う。
これで動かなくなったとしても壁としては使えるかな。
けどそうなると邪魔でもある。
その時には対処として、一部を崩壊させて素体から初期のゴーレムを作り直せた。
素体さえ僕の手に戻れば崩した材料からまた作り直せはするんだ。
(ただそれすると、みんな怒るだろうなぁ。敵の前に出ることになるし)
(非推奨。主人が最初の内に呟いた声を拾っています)
セフィラの思わぬ報せが聞こえた。
呟きって、すでにイムとアルタと呼ばれる二人が戦闘に入ってた時のこと?
なのにたった一言の呟き拾ったの?
(それはどっち?)
(女のほうです)
(何を考えた?)
(若い声がすると。その上で兵以外に四人いるとも察知していました)
つまりは僕は補足されてる。
けどセフィラはさすがに気づかれてない。
(ゴーレムへの指示は控えることを推奨)
(どうしたの?)
(ゴーレムに命令を送るために発した魔力を音として認識している可能性あり)
(そうきたか、音の発生源を探られるのは危ないね)
魔力の感じ方はそれぞれだけど、やっぱり種族的な特性はある。
人間は基本目でとらえる。
けどエルフや獣人の中には音として聞こえる者がいるとは、両者のハーフの家庭教師から聞いてた。
そういう話を聞いたのはいつだったか、だいぶ幼い頃な気がする。
まだノマリオラやウォルドがいないとき…………そうだ、かくれんぼをした時にそういう感覚的な部分を聞いた覚えがあった。
(いや、だったら逆に利用できるな。セフィラ、デコイだ)
(主人の提案を了承。魔力の発する音によるデコイを散布します)
かくれんぼでウェアレル相手にしたやり方をセフィラと共に仕かける。
いるとばれるなら、いる場所を誤魔化して、相手を攪乱すればいい。
その上で、本人にしかわからないなら、いっそ惑わすってやり方が隠れる僕には最適だ。
「ん!? なんだ? おかしい」
「どうした?」
明らかにアルタと呼ばれたハリオラータの動きが悪くなる。
それにイムという長髪も反応し、それと共に鈍ったアルタを庇う動きをした。
(やっぱり仲間は大事なのか。カティほど暴れないのは捕まってるマギナのためだろうし)
(互い以外に助け合えるものは存在しないと考えています)
助け合いの精神が偏ってる。
けど淀みの魔法使いの危険性として教えられたことを思えば、そうもなるのかもしれない。
淀みの魔法使い同士でなくちゃ助け合いなんて発生もしないしないんだろう。
それでいえば、ハリオラータは他害が基本と思われてる淀みの魔法使いの割に、手控える様子がある気がした。
(好機です)
セフィラに言われて、僕は意識を戻す。
スピードの要の足を壊され、変形合体ゴーレムがバランスを崩した。
そして崩れるように一体一体のゴーレムが形を崩して分離し、小さくなっていく。
近くには、魔力の吸収を一時的に止めたゴーレムを最早気にしないアルタが、デコイに反応して身を低くしてた。
(ウェアレルに知らせて)
(すでに連絡済みです)
(じゃあ、イクト)
セフィラちょっとやる気すぎない?
なんて思ってる間に、ウェアレルが威力と速度だけの、狙いの甘い雷を放つ。
雷は跳ねるから、アルタは倒れかけのゴーレムのほうに移動した。
その対応に間違いはない。
ただゴーレムを、錬金術を知らな過ぎた。
アルタが近づいた瞬間、変形合体ゴーレムが形を崩して新たな形に組み代わる。
「こいつらまだ動いて!?」
「アルタ」
四角いお椀型に変形したゴーレムの中に、アルタは捕らえられる。
イムはその無事を確認して声をかけると、落ち着きの割に激しく岩をぶつけた。
けれどその攻撃は悪手だ。
伏せた状態で固定されてないゴーレムは、地面を滑り急速に移動。
中のアルタは、なすすべもなくゴーレムに押されて地面を転がると、止まったところでさらにゴーレムに体を強打する。
打ちどころが悪かったのかうずくまってすぐには起きない。
イムも想像できてなかった結果に固まっていた。
「今だ囲め!」
ヘルコフの号令でルキウサリアの兵が残ったイムに向かう。
ウェアレルもすぐさまイムに打ち込めるよう雷を手に構え、そしてイクトは、動かないアルタに向けて剣を突きつけていた。
そんな脅し、犯罪者ギルドにいたような奴らにするだけ笑われるだろう。
けど僕はあえて、どちらかの生け捕りが成功したらやってみてほしいとイクトに伝えた。
「…………うむ、これは負けを認めざるを得ないか」
イムはそう言って投降の意志を見せるように手を挙げる。
しかし相手は魔法使いで、すぐには兵たちも距離を縮めない。
それを見てイムは頷いた。
「うむ、誘いにも乗らないその知恵、見事」
けっこう端的に話す。
セフィラに聞いたら、アルタの耳の良さを悪用されたことと、仲間意識の強さにつけ込まれてることにも気づいているとか。
「アルタ」
「…………ま、賛成だね。誰の指示かは知らないけど、今までどおりのルキウサリアだと思ったのが間違いだ。明らかにことを計画した奴は頭おかしい」
イクトに剣を突きつけられた状態でアルタが露悪的言えば、イクトは殺気を強める。
「なんだ、兵じゃないあんた方の主人か。そりゃどうも。けどそっちのイムは喋りが得意じゃない。あたしが代わりに話させてもらうよ」
打ち付けただろう頭に手を添えたまま、アルタは身を起こす。
「取引をしようじゃないか。この変な幽閉塔には驚かされたけど、さすがに四人もの淀みの魔法使いを隔離尋問する施設はないはずだ。条件によっちゃ、あたしらはあんたらに協力しよう。もちろんこちらの望みは、あたしらハリオラータ六人の命の保証と身の安全だ」
本当に喋るのは苦手らしく、イムはアルタの言葉に相槌で頷くだけ。
その上で提案された言葉は不思議なもので、大量の構成員を抱えるはずの組織でありながら、まるでたった六人だけがハリオラータだというようだった。
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