474話:魔法使いの封じ方4
僕は幽閉塔を作るために必要な、ゴーレムの核と素体づくりを屋敷でつづけた。
その後は泥人形を現地で作ってもらって、順次岩盤に投入。
形ができたら指定した経路で、塔の建設現場に自力で移動。
そしてゴーレムは勝手に螺旋状の塔として組み上がっていく。
「さて、マギナの移送は終わったけど。どっちに出るかな?」
僕は屋敷の錬金術部屋でそんなことを呟いた。
数日前に幽閉塔の建設は終了し、マギナの移送も終わった。
そして人里離れた山腹での露見防止のため、見張りは少数しか置いていない。
毎日朝夕に食事を届けて窓に棒で持ち上げるだけだから、マギナほぼ一人だ。
「今のところ、孤独に嘆いているという報告しか上がっていませんね」
ウェアレルが苦笑してマギナの様子を教えてくれた。
今日も僕は午前は休んでたんだけど、ウェアレルは昼に抜けて屋敷に顔を出してる。
今はアズロスになるための準備中で、侍女のノマリオラとテレサが衝立の向こうだ。
「人がいないと寂しいと言ってるんだったか?」
「匂い対策と、露見の予防には人のいない野外というのは適切だがな」
ヘルコフとイクトが呆れ半分に話し合ってる。
好き嫌いで暴走するマギナは、移送された後は人を恋しがってるそうだ。
ただ、見張るために地下にいることになってた兵たちは安堵してるとも聞く。
僕はそんな話を聞きながら、伝声装置を見ていた。
起動させて、いつでも繋いだ向こうの音が聞こえるようにしてる。
今は何も聞こえない。
つまりなんの異変もないってことだろう。
「ご主人さま、準備ができました。どうぞ」
テレサが衝立から出てきて声をかける。
呼ばれて僕もそちらへ行こうとしたけど、次の瞬間、伝声装置からコツコツと石同士をぶつける音が聞こえた。
「兵以外がマギナの幽閉塔に近づいた!」
これは幽閉塔近くに仕込んだゴーレムの音。
小型伝声装置を内包させて、魔力を吸うと起動するようにしてあった。
石同士を打ち付けて音が鳴って知らせるようにされてる。
そのため、幽閉塔周辺に配置した兵に魔法使いはいない。
魔力を吸われたということは、相手は魔法使いだということ。
つまり、ハリオラータだ。
「すぐに必要な所に連絡して!」
僕は皇子の姿のままで顔を隠すフードを纏った。
すぐに側近たちは執事に連絡、馬車の用意、学園と王城への警戒の報せに動く。
「ご主人さま、錬金術科への欠席のお知らせはいかがいたしましょう」
ノマリオラが気回しなのか、ハリオラータなんてどうでもいいのか。
「前に目くらましとして別の所を襲われた。だから今回のマギナのほうが陽動の可能性がある。報せが行けば、まだ学園に捕まってるカティのほうも守りを厚くする予定なんだ。そのために、理由をつけて学園は一時封鎖。僕はそもそも学園に入れないから大丈夫」
まさか昼日中に出てくるとは思ってなかったけどね。
そういう思い込みは日中に自ら盗みに来た頭目がいるハリオラータには通じないんだろう。
「あの、ご主人さまが行かなくてはいけませんか? 危険なのでは?」
「うん、もしゴーレムの塔が崩れていたら、そこから救出できるのは僕だけだからね」
テレサが心配そうに聞いてくるけど、これはしょうがない。
崩れたらゴーレムを破壊するしかないけど、操作できる僕が言って命じたほうが早い。
もちろんまた姿を隠して、ルキウサリア側にも知らせずに行くんだけどね。
僕はウェアレルと馬車に乗って、ヘルコフとイクトは馬で移動する。
「あ、追い抜かれた。ルキウサリアの兵か」
「はい、騎馬隊の中に、魔法使いの部隊も入ってますね」
窓の外を見てウェアレルが教えてくれる。
僕からの知らせで発しただろう騎馬を見送って、僕は馬車でその後を追う形になった。
辿り着いた山際には、騎馬隊の馬が繋がれて、数人の世話係が残されるだけ。
そして僕は馬車の中で待機のふりして、ウェアレルと一緒に降りる。
辿り着いた山腹では、すでに戦いが始まっていた。
「はは、まぁ、こんなの罠に決まってるか」
「うむ、見え透いていた」
「アルター、イムー、頑張ってぇ」
マギナが塔の上にある窓から顔を出して応援している。
どうやら顔に傷がある女性がアルタ、長髪の男がイムというらしい。
「まさかの二人か」
「ぐ、屋外とは言え匂いがしますよ」
僕が呟くと、ヘルコフが庇うように前に出て盾になる。
どうやらマギナは顔を出してるだけじゃなく、それとなく匂いによる精神攪乱を手伝ってるようだ。
魔力吸われてるはずなのに、やっぱり元の総量が多いと余裕が違うのか。
ハリオラータ二人は、縦横無尽に魔法を使って兵士たちの攻撃をかわし、逆に追い詰めるように戦っていた。
そこにウェアレルが魔法で加勢に入る。
人間では避けられない雷を使って攻撃した。
避けられない以上魔法で対処しなくてはならず、ハリオラータ幹部の二人の攻勢は少しだけ緩む。
その分、ウェアレルの負担が大きいから、相手が二人だというのはけっこうまずい。
「おっら、よ!」
でもできた隙に、ヘルコフが身体強化を使って殴り込む。
狙ったのは長髪のイム。
多分そっちのほうが、隙は多かったんだろう。
けど、とんでもない勢いで放出された水でヘルコフは圧し負けた。
ただ、そのヘルコフの背後からイクトが飛び出し、幽閉塔へ走る。
イクトが幽閉塔を触ると同時に、僕はゴーレムに命令を飛ばした。
魔力でやってるから、そういうこともできるんだけど、僕に気づかれないようにするには目に見える形で誰かがゴーレムを動かしたっていうポーズが必要だった。
「きゃー!? 塔が、揺れる、怖いわ!」
ゴーレムが動き出し、塔の中のマギナが悲鳴を上げる。
途端にアルタは強く炎を噴射して勢いをつけると跳び上がった。
マギナが顔を出していた窓を目指し、塔が崩壊する前に助けようというらしい。
けど、窓は狭まってアルタが辿り着いた時には内外を隔てる壁になる。
カティと違って浮遊はできないらしく、揺れる壁にいつまでも掴まっていられない。
アルタは飛び降りると、また派手に炎をまき散らして着地した。
「避けろ、アルタ」
「うわ!? なんなんだこの塔は!」
イムの警告に、アルタはゴトゴト音を立てながら迫って来るゴーレムを避ける。
蛇のように縦に連結したゴーレムは、マギナが幽閉された最上部を四角い箱にして、その下に一本柱状態の尻尾を持つ形に。
尻尾先からのゴーレムは、蛇のように動いてハリオラータを捕まえようと地面を滑っていた。
(うわ、ゴーレムの動きがすごくいい。これ、マギナの魔力吸ってるからだよね?)
(活動のために必要な魔力が潤沢であるため、ゴーレムの動きが向上しています)
(けど、耐久はあの岩盤の分だけか)
(はい、すでに損耗したゴーレムが石畳の破片を取り込み、逆に軟弱になっています)
(これは、補強用の石材置いとくべきだったか)
そう言ってから思いつく。
(セフィラ、ホゾに使った金属ってどうなってる?)
(今もゴーレムについています)
(それを素材として取り込ませることはできないかな?)
(すでに素体に組み込んだ術式が発動している状態では難しいと思われます)
(けど補強のために素材を吸収しろって言う命令はある。だったら、どうにかして素材だと思わせられないかな?)
目の前の戦いに巻き込まれないようしつつ、ゴーレムの改造案をセフィラと話し合う。
(親和性の高い石がなくなったら、もしかしたら?)
(いえ、激しい動きと攻撃により金属ホゾの破損を確認、素材としての取り込みを行うゴーレムが現れました)
どうやらホゾという部品が形を崩すことで、取り込み可能な素材と認識されたらしい。
僕はセフィラを通じて、側近たちにゴーレムをほどほどに攻撃させるよう指示する。
現状、ウェアレルが魔法の発動速度で並び、ヘルコフは身体能力で勝ってる。
イクトは技術で劣らないとは言え、防御よりも回避に専念しないと危ない。
ただ、確実に魔法を操る技術と手数は、アルタとイムというハリオラータが上。
ルキウサリアの兵たちはがむしゃらに攻撃を続けている。
そうして足止めをすることで救援までの時間を稼ぐんだ。
もとから最初に走り込む少数の囮。
本命は後から駆けつける本隊だろう。
(時間稼ぎでも、けが人を抑えるため有利にできるよう、ゴーレムには頑張ってもらわないと)
(報告。ホゾのほとんどをゴーレムが素材として取り込みました)
(よし、それじゃ変形と行こうか)
僕は新たな命令を出した。
塔としての防衛機能を残した変形から、塔とは切り離す形で自立防衛へ。
初めてのゴーレム作りと実戦で、セフィラが大人しくしてるわけがない。
僕たちは素体を作るにあたって詰め込めるだけの要素を詰め込んだ。
結果、変形によって現れたのはヘルコフ大のゴーレムが一つに固まった新たなゴーレム。
変形合体の大型ゴーレムだった。
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