473話:魔法使いの封じ方3
カティの聴取をお願いされたけど、そこはお断りした。
さすがに僕の側近たちが許さないし、ルキウサリア国王側も気が気じゃないだろうし。
代わりに、一回は没にしたゴーレム試作を含む魔法使いを封じるやり方をすることになっている。
「ふぅむ、正直これで可能なのか、疑問が残りますなぁ」
「いや、薬学が専門のテスタがなんでいるの?」
城から人員が来るのは知ってたし、城の学者のネーグはまだいい。
なんでテスタがいるの?
巻き込まれただろう助手のノイアンがぺこぺこしてるよ。
ちなみにソティリオスは予定がつかずにいない。
それに魔法使いの罪人を捕まえておく施設だからね。
できる限り国外の勢力は関わらせたくないだろう。
惜しむらくは、技師の大親方の都合もつかなかったことだ。
あっちは天の道関係の仕事が詰まってるとのことで、うん、僕は口だけで申し訳ない。
「石材にできはするものの、険しく人が通いにくい土地というご要望にお応えしました」
テスタが笑顔で僕の疑問を無視して、山奥の岩盤むき出しの岩場の説明に入る。
「足場を崩さず岩を採掘するには、この岩盤を掘る必要があります。ですが、ここまでの道のりでご理解いただいているでしょうが、そこから岩を運び出すのは現状難しい」
「そうだね。人間が担いで一つ一つのブロックを運ぶなんてコストがかかりすぎる。けど、だからこそゴーレムはかつての帝都醸成にも使われたんだ」
僕は錬金炉で作った化石を取り出すと、術式を書いた布の帯でぐるぐる巻きにした。
次に魔法陣を書いた布の上に置いて、周辺の岩を砕いた砂利をかける。
化石だったものが砂利で隠れたら、布で包んだ。
その布を薬草や必要な薬液と練った泥で固めて簡単な頭と手足を作成。
不格好な泥人形の出来上がりだ。
「足もっと長いほうがいいかな? いや、移動できればいいんだ。足二本にこだわる必要もないし四足にしよう。腕ももげるし、今回はいいか」
傍から見たらたぶん年甲斐もない泥遊びなんだけど、周りにいるのは僕の側近とテスタたち。
そして一度ゴーレムの核作りを見たお城の人たちとかだから、黙って成り行きを見てる。
「よし、それじゃこのゴーレムの核から作った術式の素体を、外皮になる素材の中に入れる」
言って、僕は事前に岩盤に開けてもらってた穴に泥人形な素体を詰め込んだ。
すでに術式が発動し始めてるから、ちょっと強く押し込んでも泥人形は崩れない。
どころか、少しずつ変化が起きてた。
少しずつ岩盤の穴が拡張すると同時に、泥人形の表面に岩の粒が集まる。
固まり、成長し、また固まって、穴が広がると同時に泥人形は岩のゴーレムとして成長を始めた。
「大きさはヘルコフくらいに設定したから、そうなったら勝手に成長を止める。そして、次の命令を受けるために穴から出てくるはずだ」
僕が説明する間に、泥人形を岩にしたような形のゴーレムが出てくる。
うん、前世でこんな四角で全てが構成されたゲームあったな?
これは石の色だけど、四角い頭に長方形の体、短い脚は前後二本ずつでやっぱり四角い。
緑色じゃないし自爆もしないしからいいよね。
地形は変えるけど…………。
這い上がるのにゴトゴト不安定に揺れてたけど、立つとどっしりした石の塊だ。
うん、足短くしすぎた。
けど穴を覗き込めば、四角く削れてる。
それが石段状になってるから、たぶんこの後も作れば段を上ってくるはず。
「さて、それじゃ。これが既存の魔法でどうにかできるか確かめてみてくれる?」
僕が言うと、ウェアレル、ネーグ、そして魔法学科に所属してた魔法使いが一人出て来た。
この人、ハリオラータに頭目クトルに研究室を爆破された研究者。
今の魔法理論で解明できない凶星の運行を解明しようとしてたそうだ。
つまり、今の魔法理論に疑念を呈してた人で、ヌニェスという。
今の魔法理論とは違う錬金法を扱ってくれそうってことで声をかけた。
今回のゴーレム作成についても、魔法だと妄信せずに錬金術なら結果を見て判断すると言い切ってる。
今は真剣な顔で、ゴーレムに魔力を通して反応を見てた。
「アーシャさま、こちらはどのように命令を? 命令を受けてどう力の流れが変化するかを観測したいのですが」
「であれば、その前に歩かせることは可能でしょうか? 通常の動きを見た後がよろしいかと」
ウェアレルの提案にネーグが意見を上げる。
そしてヌニェスも見解を口にした。
「現状言えることは、たったこれだけの魔力の流れで、この重量が動くことを魔法理論においては説明できない。錬金法という全く別の技術であると言うほかない」
「理論的に必要な魔力は、歯車を一つ動かすくらいのものなんだ。それに応じて、他の歯車である術式が次々に回って、ゴーレム全体の動きとして現れる」
疑問や要望に応えつつ、説明を続ける。
石のゴーレムが確かに錬金術であり、僕の制御下にあることを確認できた。
そうなると次の段階だ。
「それじゃ、どんどんゴーレム作るから、穴が大きくなる。退避して」
僕は説明のために作った以外に、すでにゴーレムの素体の元を作って来てた。
全部で三十八体分。
全部を泥人形にして、できた端から岩盤の穴に詰めて行く。
泥人形を作るのは僕でなくてもいいから、他のいい大人たちにも泥遊びを強制した。
僕の手が空いた間にもう一つ素体を作って、試しで作ったのも合わせて全部で四十体の岩のゴーレムが出来上がる。
「それじゃ、所定のポイントに向けて移動開始」
僕が魔力を操って魔法というには弱い信号を送る。
うん、この弱さが錬金法だ。
かつて他の種族ほど魔法を扱えなかった人間が出せた、出力の限界だったんだろう。
今ではそれも理論と呪文でゴリゴリに強化して安定させ、他の種族のように魔法を使えるまでになってる。
だから今の魔法理論は一つの到達点ではあるんだ。
僕たちは岩盤から小一時間移動して木々がうっそうとした山腹に向かった。
そこはすでに地面が整地されて基盤となる石床が敷いてある。
これも事前に準備してもらった場所。
「それじゃ、次の命令と、そのための道具だ」
僕はゴーレムに命じて一部を変形させると、金属のホゾを装着させた。
ホゾは建材を接合するための突起で、組み込む一方向にしか動かないように作られたものだ。
対応する凹みにはめれば、解体しないと取れない継ぎ目。
それを岩のゴーレムに、ホゾ穴を作らせ、金属のホゾをはめ込む。
「それじゃ、組んで」
僕の命令にゴーレムたちが最初に組み込んだ命令を実行した。
円を作ると、さらに渦を巻くように円を作るためゴーレムが最初の円を登っていく。
登ったゴーレムは、下のゴーレムのホゾに自身のホゾ穴を接合。
さらにその上にゴーレムが上って接合されることで、岩の重みによってホゾは動かせなくなる。
「四十体じゃこの程度か」
四角いゴーレムが建材となって、岩の壁が出来上がった。
けど高さは全然乗り越えられる程度だ。
でもお試しならこれくらいでいい。
「さて、それじゃあ、中に入って見てほしい」
僕はゴーレムを確認した三人にまず中へ入ってもらう。
するとすぐさま顔色を変えた。
「これは、なるほど。ゴーレムの前面に立つことで魔力を吸収されます」
「なんとも落ち着かない気分ですが、即座に害があるほどではないでしょう」
ヌニェスが興味深げに状況を告げれば、ネーグは恐々しながら報告する。
ウェアレルはじっと考え込んでゴーレムの壁を見据えてた。
「間に金属が入っているため、魔法でどうにかしようとしても、魔力が通らない。どころか逆に吸われる魔力が増えましたね」
「錬金法は金属に阻害されないからね」
他にも魔法を使える人たちが中に入って確認する。
中の人の魔力を吸うことで、ゴーレムは起動状態を維持。
少し壊れても周辺から素材を集めて修復する、自己修復機能付きだ。
さらには攻撃を検知した場合は、守りを固めるために形をより細く変形するように設定してる。
つまり、中に閉じ込められてる人はさらに逃げ場がなくなるだろう。
そうなると塔を壊した途端、生き埋めだ。
そもそもゴーレムに常時魔力を吸われるような状況下で、脱出できるほど柔くはないし、重量も敵になる。
(これで思い留まってくれるくらい、仲間意識がある。そんな前提の幽閉場所だけど)
(先日面会した際に、ハリオラータのマギナもカティも、仲間の救出を疑っていませんでした。必ず頭目クトルが主導して救出が行われると確信しています)
セフィラが読み取った本心でそれなら、また襲撃はあるわけだ。
なんにしても、あのハリオラータたちの仲間意識は本物らしい。
ただそれ以外に対して非情だと言うなら、こちらも守るためには人質を取るような手段しかない。
できれば話の通じる人が救出にやってきてくれることを願ってしまった。
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