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465話:収穫祭5

 淀みの魔法使いカティの暴走を、ヨトシペとユキヒョウの教師二人が押さえこむ。

 その間に、僕たちは森の中から逃げるためひた走った。


「ともかく森のダンジョンを囲む柵の向こうへ!」


 僕たちは道のない森の中を、木々を掻きわけて進む。

 迷わず走って行けるのは、森に慣れたイルメ、獣人で臭いに敏感なネヴロフのお蔭。

 出口の方向はしっかり把握している。


(警告)


 セフィラの短い言葉は、さすがに先頭を行くイルメには聞こえてない。

 僕は肩越しに振り返った。


「うわ!? 何か飛んで来てる!」


 僕の言葉に全員が足を動かしながら振り返る。

 石や木々の破片がすごい勢いで飛んでは落ち、ぶつかっては落ちを繰り返してた。

 息を切らして草を鳴らしながら走ってたから気づかなかったけど、確実に僕たちの背後に迫ってる。


「何あれ!? ただの石だよね?」

「身体強化で投げてんじゃねぇの?」


 驚くラトラスにネヴロフが言うんだけど、そうだとしたらとんでもない威力だ。

 けどさっき見た超常現象みたいな魔法を思えばありえなくはない。


「問題はどうしてこっちの居場所が割れているかだ」

「たぶん眼帯に本人の魔力が染みついて引き合ってるんだろう」


 水を放って飛んでくるものの勢いを弱めるウー・ヤーに、エフィが加勢しながら答える。

 イルメも思い当たって、ネヴロフの手にある眼帯を見た。


「長年使い続けると魔力が移ってしまうという話は聞くわ」

「ともかく、精度が上がってる! 届く前に逃げ切るよ!」


 言ってる側から通り過ぎた木の幹に、全く別の木の枝が突き刺さる。

 それに驚くのもつかの間、飛んだ石が近くに潜んでた魔物に命中した。

 途端に立ち上がったのは、泥のような何か。


 いや、よく見ると大きな口に点のような目があって、ずんぐりむっくりの小さな手?

 オオサンショウウオに似た魔物が、草の向こうの小さな沼に隠れてたようだ。


「離れて!」


 聞き慣れた声に従って、僕は魔物の攻撃を気にせず大きく距離を取る。

 途端にオオサンショウウオみたいな魔物に雷が落ちた。


「お前ら無事か!?」


 ヴラディル先生が言って、飛んできた木の枝を風で止める。

 ウェアレルはさりげなく僕を庇う位置に来て、避難誘導に入った。


「ともかく離れて安全な場所へ退避しますよ」

「ウィー、どっちか加勢に行ったほうがよくないか?」

「いえ、僕たちも狙われてます」


 そう言うと、同じ顔して事情を聴いてきた。

 ともかく走りながら、眼帯のことを説明する。

 ウェアレルもヴラディル先生も、背後から飛んでくるものに対処してくれながら応じた。


「となると、これだけの魔力垂れ流してるんだ。そろそろもっと大きなことしてくるだろ」

「ヨトシペたちを相手にまだこれほどの余力があるとは、幹部も聞きしに勝りますね」

「森の境が見えたわ!」


 先を行くイルメがそういうんだけど、同時にウェアレルたちの予想も当たってた。


「おい、木々がおかしい!? それに地面も!」


 エフィが言うとおり、木々がねじれて動き出し、地面も大きく隆起して僕たちに向かってくる。


「お前ら止まるな! 走れ!」

「私たちに任せて! 早く!」


 ヴラディル先生とウェアレルは立ち止まって動く木々を魔法で切り飛ばす。

 僕たちは走って森の外へ飛び出すと、見える範囲にダンジョンの出入り口に設定された門が見えた。

 イルメとネヴロフの案内は確かだ。


 それでも背後から襲ってくる木々や土塊に、門の周辺から悲鳴が上がる。

 僕たちを追って走ったヴラディル先生は振り返ってウェアレルに言った。


「おい、もう俺たちが残って止めるほうがいいだろ!」

「…………いえ、このまままずは学生を外へ!」


 ウェアレルは門のほうを見てた。

 そして門から迷いなく走って来る、熊の獣人と海人の姿を見据えてる。

 僕たちを通り越すと、二人は襲いかかる木々や地面を攻撃して止めた。


「えぇ!? ヘルコフさん!」

「あの人は、第一皇子の!」


 ラトラスとウー・ヤーが驚きの声をあげる。


 ヘルコフは身体強化で力任せに隆起する地面をへこませ、イクトは剣で木々を削いでバランスを崩し、僕らの背後から軌道を逸らした。


「止まるな! ダンジョンの中のものは、結界で門以外から外へ出られないんだ!」


 エフィが急かして門の外へと僕たちを走らせる。

 僕たちは雪崩れるように外へ飛び出した。

 振り返ると、中にはウェアレルとヴラディル先生が残ってる。


「おい! 本当にいいのか!?」

「大丈夫だ、私に合わせて!」


 二人揃って雷の魔法の準備で周囲に電撃が舞ってる。

 しかも、ヘルコフとイクトを背後から狙うような位置だ。


 けど掛け声も何もなく、ヘルコフとイクトが同時に左右にわかれた。

 瞬間、ウェアレルが魔法を放つ。

 遅れずヴラディル先生も合わせた。

 瞬く間に走った紫電が、地面や木々を吹き飛ばして一気に制圧する。


「…………はぁ、ダンジョンでも簡易だとか聞いてたが、固いな」

「魔力がずいぶんと通してあった。そのせいだろう」


 ヘルコフとイクトが言いながら、さっさと門へと退避してきた。

 そう言えば当たり前に助けてくれたけど、二人とも部外者だ。


 門のところにいた見張りの人に、遅れて無茶するなって怒られてる。


「うぉ、やったー!」


 ネヴロフがこぶしを突き上げた。

 見ればどうやらウェアレルとヴラディル先生の攻撃で完全に追って来た魔法は鎮静化したようだ。


 息をついて、何げなくネヴロフを見上げる。

 突き上げたその手には眼帯が握り込まれてた。

 そして、そこに影が差す。


「ネヴロフ!」


 上から襲いかかるハリオラータのカティ。

 誰も視界の外で、反応できていない。

 ましてや周囲には戦闘で魔力の気配が多く、頭上から襲うカティに気づけなかった。


 カティの手には蠢く木のような何かがまとわりついてる。

 そういう生物なのか、魔法で操る木なのかわからない。

 ともかく鋭利に尖ってネヴロフに向けられてるのだけは確かだ。

 しかも落下の勢いのまま襲う姿勢は、どう考えても命の危機を感じる。


(セフィラ! 隆起させて突き上げて!)


 途端に、ネヴロフの目の前の地面から土が跳ね上がった。

 そして落ちてくるカティの体を打つ。


 カティは血を吐いてダメージを負ったことはわかった。

 なのに、眼球のある目はネヴロフが握る眼帯から離れない。

 表情には最初の余裕はなく、完全に狂気じみてた。


「ごめんだすー!」


 攻撃が当たってなお危険を感じると、さらに降って来る声。

 遅れて、カティの上にヨトシペが着地した。

 両足でしっかりカティを踏むと、その衝撃でカティの下にあった隆起した土塊は砕け散る。


 その時になって、ようやく周囲の人たちが悲鳴を上げて逃げ出した。


「めちゃくちゃ固いんでごわす! って、あれ? さっきよりましだす?」

「身体強化したお前さんから逃げたのか、こいつ?」

「拘束可能なものなどなさそうだ。ともかく関節を極めよう」


 ヘルコフが驚きながら、すぐにヨトシペに加勢して押さえに回る。

 イクトは足を容赦なく締め上げて使えないようにし始めた。

 慌ててダンジョンの中からやって来たウェアレルが、僕たちを避難させながら対処を教える。


「ともかく魔力を放出させ切って気絶させるしかありません!」

「お前ら、見てないで避難しろ! 凶悪犯だ! 急げ!」


 ヴラディル先生は学生や教員に指示を出して、さらに避難誘導を始めた。

 その頃になって、ようやくダンジョンの森の端にユキヒョウの教師二人も走ってくる。


 そんな騒ぎの間も、カティはネヴロフが握る眼帯から目を外すことはなかった。


定期更新

次回:淀みの魔法使い1

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― 新着の感想 ―
盛り上がってまいりました! モフモフ率高いなあ。 ここでカティを捕まえると、確実に身内に執着してるクトルが暴走しますよね? 不穏……。
眼帯を目の前にチラつかせるのと、見えないとこに離しておくの、どっちの方がまだ御しやすいのか…。 取り敢えず、イクトとヘルコフが来たのは第一皇子がウェアレルや錬金術科の生徒を心配して遣わせた、で通る気が…
殺そうとしてないとはいえこれか まさかこんなパワータイプになるとは
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