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464話:収穫祭4

 逃げる様子を見せていたハリオラータのカティの様子が変わった。


「あー、あー、あー! 返して! 何処!? どこぉぉぉおお!?」


 叫ぶごとに魔力放出が激しさを増して、カティを中心にして暴風雨が吹き荒れる。

 同時に適当な魔法がめちゃくちゃに発現し始めた。


「馬鹿な!? こんな状態で魔法が出せるなんて!」

「これ、暴走の一種だよ! 不発になるんじゃなくて、逆に大爆発する系の!」


 驚くエフィだけど、僕は妹のライアがこの類だから察しがついた。


「っていうかなんだよ、あの目。大丈夫か?」

「見るからに古傷だ。だが、瞼まで削がれてるなんて、どうかしてる」


 ちょっと心配するネヴロフに、ウー・ヤーが見てすぐそんなことがわかったらしい。


 カティの眼帯に隠されてた目は、瞼も目玉もないがらんどうだった。

 しかも周辺は古傷だらけで、ただの怪我とは思えない。


「え、これ返したほうがいい?」

「駄目よ、失くして探してる。そのお陰で逃げなくなったわ」


 眼帯を握ったラトラスに、イルメが矢を番えたまま止める。

 確かにカティは逃げるそぶりもなく、眼帯を探して手を振り回してた。

 同時に攻撃的に魔法を暴発させながら当たりの草を薙ぎ払ってる。


 たぶん、落としたと思って探してるうえで、錯乱してて返して、何処なんて言ったんだ。

 で、魔法の種類が一定じゃないせいで、森の中で火まで使ってる。

 すぐに燃えるほど乾いてないけど、本当に落ちてたら眼帯も燃えるでしょ。

 これ暴発系の暴走だと思えば、いつ燃やしだすかわかったものじゃない。


「ともかく二人も距離を取って!」


 僕の指示に、樹上にいたラトラスとイルメが移動を始めた。


 枝を伝ってこっちに来るんだけど、それがまずかった。

 折れた枝が風に舞い、幹にはねてカティの肩に当たる。

 それで上を見たカティは、探し物を見つけてしまった。


「あー、あー、あー! 返せー!」

「まずい! ラトラス逃げて!」

「ひぃぇぇええ!」


 イルメが牽制の矢を放って時間を稼ぐ。

 その間にラトラスは眼帯片手に別の枝へと跳んだ。


 けどカティは矢なんて気にせずラトラスに向けて強く風の魔法を吹きつけた。

 ラトラスは身の軽さとバランス感覚で落ちずに逃げる。

 僕たちもラトラスを追って走り出した。


「危険だ! ラトラス、眼帯を捨てて!」

「いや、そのまま走れ! 他人のいる所まで逃げるぞ!」


 安全第一で声を上げた僕に、ウー・ヤーが逃げ切れると見てラトラスに指示する。

 見るとイルメも立て直してカティの後から追って来てた。

 エフィはカティを鈍らせようと足元狙いで魔法を放ち、ネヴロフは森の中で僕らが走れるように先導する。

 カティはそんな妨害にも無反応。

 だからこそ、足を取られて動きが鈍ったり、正面から受けてよろめいたりもしてた。

 その上で、カティの周りには魔法が荒れ狂い続けてる。


 これは下手に止まるほうが危険そうだ。

 森をこのまま炎上させられたら火に巻かれて危険だし、僕は切り替えて前を向いた。


「ラトラス、無理だと思ったら投げて! 方向は二時の方角に修正!」

「ひゃぁぁああーい」


 恐怖に裏返った声で返事をするラトラス。

 ともかく僕は闇雲に走らないように方向を指定した。

 すでに救難信号は上げてるし、そこから大きく離れても救援と会えない。

 ましてや間違って森の奥へ行くようなことになったら大変だ。


 ただその間も、カティの魔法で森の中が荒らされる。

 しかも移動のせいかカティを中心に渦巻くように安定してきた。

 その渦の周囲に地水火風や、たまに上位の属性まで現れてるし、何処かで木が不穏な音を立ててへし折れてるようだ。

 背後から襲う魔法の渦に、音で気づいたラトラスは早くも根を上げる。


「も、もう駄目かもー!」

「もうちょっと、いや、大丈夫! こっちに投げて!」


 ラトラスのギブアップに、僕は足を止めて言った。


 その様子にエフィたちは慌てる。

 けどラトラスが投げて、僕のほうにカティの狙いが逸れた。

 そうして進行方向が固定された瞬間声が駆け抜ける。


「ドーン!」


 そんな声と同時に、カティが真横からタックルを受けて吹き飛んだ。

 僕は魔力で起きた風で眼帯を取り損ねたけど、背の高いネヴロフが上手くキャッチしてくれた。


「うわ!? なんだす!」

「ヨトシペ! 相手は暴走状態だから気をつけて!」

「ぬぬ、あーしと力比べでげす?」


 タックルを仕掛けたのは、信号を見て走って来たヨトシペ。

 セフィラの報せで近づいて来てるのはわかってた。

 ヨトシペは勢い任せに薙ぎ倒した上で、カティを上からホールドして、まるでレスリングのような体勢だ。

 けど周囲にはカティが発生させる魔法の渦が今も荒れていて、危なくて近づけたものじゃないし、飛び込めたのもヨトシペだからだろう。


「あ、違うどす? あーしのこと眼中にないっぽいでごわす!」


 ヨトシペに組み敷かれて、カティは魔法を乱打する。

 その上で眼帯を持つネヴロフへ向けて進もうとしてた。


「この眼帯、そんなに大事なもんなのか?」

「見る限り、ハリオラータが執着するようには見えないが」


 ネヴロフにエフィが答えると、そこに新手の声が加わった。


「あー、たぶんそれ、淀みの魔法使いの執着だね」

「あっぶないことするなー。集中砲火喰らうとこだよ」


 現れたのはユキヒョウの教師二人。


 二人は口々に、淀みの魔法使いが異常な執着を持つこと、執着を邪魔されることに異常な嫌悪を持つことを教えてくれる。

 つまり、ラトラスがたまたま奪ってしまったという状況じゃなければ、即座に殺されてたと。


「そして、ハリオラータの幹部が淀みの魔法使いばっかりなのに安定してるのは」

「執着を満たされてる状態だからって仮説は、どうやら正解だったみたいだね」

「イール、ニール、助けるだすー」


 僕たちを守るようにしながら、見てるだけだったユキヒョウ教師二人に、ヨトシペがヘルプを求めた。


 あのヨトシペがだ。

 先生たちは顔を見合わせて危機感を覚えて身構える。


「あのヨトシペに拮抗してる? まずいな、拘束具持ってくれば良かった」

「っていうか、君たちもっと離れな。ここは向こうの攻撃範囲だ」


 僕たちはイルメとラトラスが合流して距離を取った。

 途端にユキヒョウの先生たちはヨトシペへ加勢に行く。


 その間もカティは高威力の魔法を乱発し、身体強化も使ってるのかヨトシペのホールドから抜け出そうと暴れ回る。


「ってかこのハリオラータ! 研究棟から逃げた奴じゃん!?」

「国外に出たって話なのに、いつの間に戻って来たんだよ!」

「似た髪型いただすが、違う人でごわすー。それより手を貸してほしいでげすー」


 どうやら研究棟での一件で逃げたはずのカティは、別人にすり替わってたようだ。

 外見の特徴だけで同定してたせいで、潜んでいたカティを見逃してたらしい。

 目立つ特徴を逆手に取られたんだろう。


「こんな魔法、見たことないわ」

「あぁ、なんてことだ」


 イルメとウー・ヤーは、離れながらも半ば感嘆したように呟く。


 木々を薙ぎ倒し、変形させてさらに異常成長したかと思うと、次には燃え上がって生き物のようにうねった。

 水は突然地面から湧き立ち、辺りを浮遊すると刺すように降り注いで攻撃に変わる。

 さらには地面が階段状に波打ち、風は荒々しく渦巻いて蛇のように牙を剥いた。


「見てる場合じゃないよ! こっちにも魔法が来てる!」


 ラトラスが言うとおり、地面が動き回るせいで、僕たちの足元も形を変え始めてる。

 慌てて逃げつつ、僕は肩越しに超常現象なんて超える様子に目をやった。


「…………まるで魔法だ」


 それは前世の空想の中にあった魔法。

 自由で、派手で、威力があって、幻想的で。

 そんなファンタジーが確かにカティという魔法使いによって現実に起こされてる。


 想像で終わってれば、きっと楽しめたんだろう。

 けどその結果はあまりにも危険だ。

 身体強化が得意な獣人三人がかりだからこそ、なんとかその場に足止めできてる状態。

 そうじゃなければこの暴威は森を抜けて何処まで広がるかわかったものじゃない。


(台風の日に外に出た上に、雹混じりで火事が起きて地震もあるし倒木が襲ってくる感じ!)

(ハリオラータの魔力総量について問う)

(後にして! 今は好奇心よりも身の安全!)


 セフィラに言われて、僕も余計な考えは脇に置いて、足を動かすことにした。


定期更新

次回:収穫祭5

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― 新着の感想 ―
コールの方がアーシャより魔法使いとしては格上なんだろうなぁ。しかも、おそらく、コールvsアーシャ(セフィラ込み)で戦ってもコールの勝ちっぽい。淀みの魔法使いバケモンだわ。
もう観察や避けるのより攻撃して意識を奪うほうが早いんじゃない?
あーぁ、被害甚大。収穫は出来ないけど祭には違いないね。他のハリオラータも楽しんでるかな
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