463話:収穫祭3
素材探しをしてたら、ハリオラータのベリーショートの幹部が現れた。
名前とか知らないけど、セフィラが淀みの魔法使いだっていうから、幹部決定だろう。
何かすると予想していたとはいえ、こんな直接接触してしまうのは予想外だ。
「えっと、ハリオラータってなんだっけ?」
「この間の侵入者よ! みんな構えて!」
「つまるところここにいるのも不埒な目的だ!」
聞き覚えがある程度の認識しかないネヴロフに、イルメとウー・ヤーが警告した。
ラトラスは尻尾を膨らませてさらに教える。
「帝都の犯罪者ギルド作った組織だよ!」
「お、それなら知ってるぜ。皇子さま困らせた奴らだ!」
同じ地方に犯罪者ギルドの一角、サイポール組があったから覚えてたのか、ネヴロフはやる気になる。
エフィは両手が空くように採集した素材を入れた袋を背中に括りつけて言った。
「アズ、指示を!」
「足止め! 安全優先! ラトラスとイルメは上に行って!」
すぐさまイルメは手近な木の枝を掴むと、鉄棒運動のように身を返して登る。
ラトラスは跳躍して爪を立て、木の枝に跳び上がった。
この二人は樹上で活動できる。
上級者向けでも去年の収穫祭でここを重点的に回ったのは、他にはないアドバンテージがあったからだ。
「エフィはものを投げるか魔法は絡め手! ウー・ヤーも魔力量で押し切られるから薬を使って! ネヴロフは臭いで相手の場所を指示!」
「何する気かよくかからないけど、私まだ忙しいんだ。ごめんね」
いっそにこやか言って、ハリオラータの幹部は逃げを討つ。
それにイルメがすぐさま矢を射て牽制した。
「あら、名乗りもせずにどちらへ?」
「お貴族さまは子供でも礼儀にうるさいのかぁ。いやんなるね。私はカティ、で、これは返すよ」
足元に刺さった警告を無視して歩くカティへ、イルメは容赦なく二射目を放つ。
なのに迫る矢に笑うと同時に、イルメの矢をありえない起動で曲げた。
多分イルメの矢は魔法を纏ってたから、その魔法の主導権を奪われて射返されたんだ。
突然放った矢が戻って来て、イルメは慌てて身を逸らす。
その勢いのまま別の枝に飛び移って、なんとか矢の軌道から逃げた。
「アズが言うとおり魔法は力押しで奪われるわ!」
イルメは別の枝で矢を番え直すと警告した。
するとネヴロフが近くに落ちてた石を掴み上げる。
「んじゃ、これならいいんだな!」
言って投げるんだけど、石だと思ってた物からは芽が出てる。
ココナッツみたいな何かの実だったらしい。
たぶんそれもダンジョン産の素材にできるものだろうけど、今はそうも言ってられない。
ネヴロフが使えるのは身体強化魔法だから、イルメのように返されることはなく、普通に避けられた。
けどその動きは隙になる。
「魔法でも、これは奪っても意味がないはず、だ!」
カティが避ける間にエフィは地面に手を突いて言った。
途端に魔力が流れた場所から地面が隆起して、カティの足場を悪くする。
遅れずウー・ヤーは魔法で操る黄色いエッセンスを嗾けた。
エフィに対応すると見て土の属性のエッセンスで、カティの魔法を阻害しようとしてる。
「やー、怖いなぁっと」
けどカティは笑って足を踏み、それで岩の魔法で硬化した。
とんできたエッセンスも、水属性の魔法の主導権を奪って下に落とす。
エッセンスによる魔法の不具合も、大量の魔力を流すという力技で主導権を奪ったらしい。
雑なやり方は、カティが完全に遊び感覚だからだろう。
ウェアレルとやり合うクトルの下につく幹部なんて、やっぱり魔法じゃ敵わない。
「うんうん、思ったより筋悪くないね。錬金術なんてくだらないものやってないで、君たち魔法やったら?」
残念そうに言うカティの顔に侮りはなく、心からの心配や忠告で言ってた。
だからこそ、全員が顔を歪めて答える。
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
つい僕も、感情的になっちゃった。
けど反省する間もなく、様子見から全員が攻勢に移る。
森だから大がかりな道具はなし、それでも持ち込んだ道具を手にそれぞれが錬金術で応戦しようとしてた。
(セフィラ! みんなが何しようとしてるか教えて!)
聞いて、僕は指示新たに出す。
「まずラトラス! ウー・ヤーとネヴロフ、エフィは右から!」
同時に僕はセフィラに手伝ってもらってゴム玉を撥ねさせ、カティを狙う。
魔法じゃないと見て避ける所に、三人がかかりでそこら辺の石や太い枯れ枝、土の塊を投げつけた。
カティが後ろに避けたところにイルメがさらに魔法の援護がない矢を放つ。
避けることに集中した一瞬で、ラトラスがカティの頭上を走り抜けた。
そして降り注ぐ冷たい薬。
「何? 冷たい! 痛い!」
右腕にかかった薬が服に染みて、カティが冷たさに痛みを訴える。
水をすぐに凍らせる薬が皮膚につけば痛いだろう。
そして液体のせいだと見たカティは、即座に変装していた制服の袖を引きちぎった。
けど僕らはそれで終わらない。
「ウー・ヤー! 今だ!」
「せい!」
ウー・ヤーが投げつけた袋から、細かい粒子がカティの頭にはねる。
それは今度は熱さを感じる粉だった。
「熱!? チクチクするのは、この粉か!」
カティはいらだった様子で風を周りに吹かせて吹き飛ばす。
ただそれは悪手で、粉が舞い口に入ったようだ。
喉を押さえて苦しむところに、僕はネヴロフに合図を出した。
途端に、走り抜けるんだけど、カティもさすがに警戒してる。
「今度は何を! はぁ!?」
ネヴロフが持ち込んだのは、蕾を開花させるだけの薬。
ただ、今まで岩のように固く丸くなっていた蕾が、カティの真横で大きく音を立てて開く。
しかも中にはねっとりとした蜜があり、すぐさま花びらからしたたり、近くのカティは密にひっついてしまった。
「ちょ、邪魔、あ!?」
動けなくなったところを逃さず、エフィがカティの足元に爆竹の丸薬をばらまいていた。
逃げようと踏み込んだ途端、足元で弾ける爆竹にカティは慌てる。
ただ、同時に怒りも湧いたようだ。
「もう! いい加減にして!」
言うと同時に、カティの周囲で激しく蒸気が噴きだす。
僕の顔にも確かな湿気と熱が感じられた。
(属性を混合して一人で魔法にしてる!? セフィラ、蒸気の危険性は?)
(ありません。頭目クトルも一人で同時に複数の属性を扱いました。そうした技術の研究をしていたものと思われます)
一応森で火を使わないで、熱を発してるんだろう。
蜜が溶けて離れられるし、足元の丸薬も全て蒸気に押されて吹き飛んだ。
怒ってる割にカティは冷静なようだ。
「あーもー、やめ! もうつき合ってらんない!」
言うと、蒸気は漂う霧のように広がり始める。
そして霧に包まれたカティの姿がぼやけた。
「ネヴロフ、匂いは!?」
「後ろに移動してる! あ、見えてる場所と違うぞ!?」
「ここ!?」
イルメが矢を射るけど、それも違って当たらない。
霧越しに見る限りは、上からもずれて見えてるようだ。
「匂いなら、ここから蜜の匂いがする!」
「もう! …………あ、あ」
ラトラスは枝から飛び降りて、霧の中に爪を振った。
当たりだったらしくカティは避け、ずれてた霧越しの影も本来の場所に修正される。
そしてラトラスはすぐさま木の上に逃げた。
その速さは獣人特有で、僕は目で追うのがやっとだ。
カティも反応できなかったみたいだけど、霧の中の人影が動かない。
「あれ? なんかくっついてる」
「あ、あ、あ…………」
ラトラスが木の上で首をかしげると、カティが言葉にならない声を漏らしてた。
そしてラトラスの爪には黒い紐、いや、眼帯が絡んでる。
どう見ても、カティがしていた眼帯だ。
「い、いやー!」
突然叫んだカティは同時に衝撃波になるほどの魔力を放出した。
僕たちはその勢いに押されて、転びそうになる。
普通そんなことしたら、一気に肺を空っぽにするみたいになるはずが、カティからは絶えずに魔力が放出し続けてた。
そうして叫ぶカティの姿が露わになる。
霧も魔力放出で払い、顔を上げたカティの片眼は、空っぽだった。
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