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462話:収穫祭2

 ねじくれた木々の森。

 不自然に下草が少ないのは、ダンジョンとしての性質なのか、そういう仕様なのか。


「だから、天の星の運行は、昼でも変わらないの」

「星って夜しか見えないのに? 本当に昼にも関係するのか?」

「イルメ、それよりも地脈の流れがあってるかどうかだ」

「俺もわかんないけどネヴロフもそういうもんって思っとこうよ」


 ネヴロフに教え込むイルメだけど、ウー・ヤーが先を促して、ラトラスも疑問は後だという。


 僕たちは今、簡易ダンジョンの森のエリアにいた。

 森の周辺は高い柵で覆われて、入り口の門以外からは入れない。

 入り口は三つあり、それぞれの学舎が管理してるそうだ。


「あとでタッドたちに教えるにしても、みんな、警戒もちゃんとしようね」

「わからないならネヴロフとラトラスは警戒に回ってくれ」


 僕が言うと、エフィがクラスメイトを割り振る。


 今は地脈を調べてるイルメにつき合って、素材探しの法則を検証中だ。

 だから周囲から出てくる魔物なんかの対処を僕たちがやらなきゃいけない。


「けっこうここの魔物って、真っ直ぐ襲ってくるんだね」


 言いながら、僕は目が合った小型犬サイズのリスに網を投げる。

 これは毛皮目的のいい素材らしいけど、締めるのは慣れてるネヴロフにお願いした。


「ダンジョン自体が魔物の縄張りで、そこに入る俺たちは侵入者だからな」

「確かに。他で会う魔物って、遠目に警戒してることも多いよね」


 エフィのほうにもリスの魔物が行くから、地の魔法で行く手を阻んで向かう先を限定。

 そこを身体強化で速さを増したラトラスが捕まえる。

 獣人の被毛があるからこそ素手で行ける、人間ではできない捕まえ方だ。


 通路の狭いダンジョンでは見られなかったやり方で、ちょっと楽しい。


「外のお祭りみたいな出店も見たかったな」

「夕方までやってるし、なんだったら夜もやってるよ」

「そうそう、遅くまで粘る奴いるからさ」


 ラトラスとネヴロフが去年参加した様子を教えてくれる。


 それもいいけど、ゆっくり楽しむためにダンジョンアタック以外の目的で来たいな。

 なんて考えて、僕は気づいた。


(あ! 王城で微妙な反応されたあれ! もしかして収穫祭に誘えばよかったのか!?)

(エスコートの誘いを男性からされないことに対して、不満はありました)


 その時に言ってよ、セフィラ。

 あ、でもこうして参加してるとどうしても時間が…………。

 それに立場的に僕一人が誘うこともできないし、結局ソティリオスも一緒だろうし。

 セフィラにディオラたちの内心を言われても、色々考えて誘わない可能性が高い。

 さらにはハリオラータの陰がある中、楽しめる気もしないなぁ。


「つまり、天の気と地の気が交わる場所を特定するんだろう? だったら、地脈の流れと方角、あとは、地形との照応を考えてこっちだ」

「いいえ、天と地が照応しているのだから、天の運行を参照すれば、地の流れは自ずと従うものでしょう。だったら、あちらのほうよ」


 何やらウー・ヤーとイルメが意見を戦わせてる。

 地脈の流れは魔法学科が押さえてて、どう流してるかなんて知らせてない。

 エフィも去年しかわからないから今年は知らないそうだ。

 だからまず地脈が何処に流れてるかを確認してる。


 けどなんか違う話になってる気がするなぁ。


「リス倒したの見て、他のは逃げたな。なぁ、星の位置なら俺も覚えてるんだぜ」


 ネヴロフが獣人の感覚で周囲を見て、イルメとウー・ヤーの話にまた加わった。

 ラトラスは慣れた手つきでリスのいらない部分を取ってる。


「あ、ラトラス。土に埋めるくらいは僕がやるよ」

「ありがとう、アズ。やっぱりどんな属性の魔法でも使えるって便利だよな」


 僕が魔法で地面に穴をあけると、ラトラスは羨ましそうに言う。

 けど足の甲までくらいの深さにする魔法を繰り返し使った上で、その後は手で埋めなきゃいけないんだけどね。

 魔法で土だして埋めるほうが、魔力も時間もかかるんだ。

 土の塊出す魔法だと過剰だし。


「うん? 何か動きがあったみたいだぞ」


 周囲の警戒を怠らないエフィが、何やら話ながらイルメたちが動き出したのを見て言う。


「だから、ここだと見える星の位置違うって。昨日星見たし、季節的にこっちだぜ」

「そうね、昨日の内に星の位置を確かめておくんだったわ。つい、今までに学んだ感覚で」

「国もそうだが、土地の高さも違うんだったな。思い込みには気をつけることにしよう」


 ネヴロフの助言で星の位置から地脈が流れてるだろう場所を推測。

 そこから植生を見て、イルメがアニメで傘にされるような大きな葉を見つけた。


「あ、精霊の宿があるわ! これは地脈の流れが緩やかながら確かに流れている場所に生えるの」

「あぁ、それなら自分の故郷でも、葉の下には精霊が宿ると言われる植物だな。根茎が可食だったはずだ」


 イルメとウー・ヤーが素材を見つけたらしい。


「なんに使うんだそれ? 美味いのか?」

「まぁ、食べはするが、それよりも魔力の巡りをよくする薬に使われる」


 首をかしげるネヴロフにエフィが教える。

 前世のゲームになぞらえるなら、魔法のリキャストタイムを軽減とかかな。

 ラトラスも見つけた植物に興味を示した。


「たまに見るけど、ここまでしっかり育ったの中々ないね。イルメの仮説当たりじゃない?」


 実はイルメ、創世神話の天と地の交わりで精霊が生まれたという話で、今もそうしたことで何か起こるのではないかと仮説を立てた。

 だから地脈と星の照応を見て、今回確実に地脈が流れているとわかってるこの簡易ダンジョンで検証したいと言ったんだ。


 同時にエフィからダンジョンの地脈が多い所はレア素材も採れると聞いてた。

 ハリオラータの小瓶の薬も、その性質を利用した商品だったし。

 だから調べるついでに辺りを探せば、いい物見つかるんじゃないかと。


「ともかくゆっくり掘り出そう。根茎を傷つけないように。エフィ、少しずつ土をどけるから手伝って」


 地属性が使えるのは僕とエフィだけだから、二人で魔法を使い、土をどかしつつ葉っぱがついたまま根茎を掘り出す。


「うん? なんかこっちから匂うぜ。水の匂いだ。けど、水が流れてる音はしないな?」

「本当だ。あ、この花から水の匂いがするよ。なんだろうこれ?」


 獣人二人が、紫みの青い花に引き寄せられる。

 ベリーほどの大きさの花房に、細かい花が円錐形に固まる姿は図鑑で見たことがあった。


「うわ…………、実物初めて見た。それ、水系の大魔法放つための触媒の、材料にできる花粉が採れる花だよ」

「ヒュドロソフィアか!? とんでもないレア素材だぞ!」


 僕も図鑑でしか見たことないけど、エフィは興奮ぎみに声を上げる。

 よほどのものとみて、見つけたネヴロフとラトラスも手を打ち合わせて喜んだ。


 もちろん花粉を落とさないように布で包んでさらに袋へ入れて採取。

 そうしてる間に里芋みたいな植物も持ち運べるように布を巻いて縄で括る。


「ふむ、どうもこの辺りは水の属性が多いのか?」

「でもそうなると星とずれるのよね、どうしてかしら?」


 ウー・ヤーとイルメがまた額を寄せ合って考える。

 それにラトラスが別の視点を挙げた。


「次はその属性とかなんとかを見込んだ場所を探ってみたらどう?」

「星で探るなら方角かな? それとも地脈のほうで属性を固定するとかしてる?」


 僕が聞くと、エフィは首を横に振った。


「いや、正直やってるほうも何が生えるかまではわかってないんだ」

「けど季節的にさ、星考えても属性は偏るんじゃないか?」


 ネヴロフは天文得意と言っていただけあって、わかった様子で聞く。


 僕たちはあれこれ話しながら、時には魔物に襲われつつ、狩猟採集をつづけた。

 そうして進むと、一人の女子学生が僕たちの行く先を横切る。

 向こうも僕たちの接近に気づいてこっちを見たんだけど、僕を見た途端言った。


「あ、しまった」

「ハリオラータ!」


 制服着て顔の印象が薄い感じだったのに、セフィラに言われた警告から正体がわかった。

 途端にぼんやりしてた印象が、眼帯にベリーショートの髪型って言うすごく印象的なものになる。

 視認してたはずなのに、どうしてそんな見た目の人を、ただの学生だなんて思ったのか不思議なくらいだ。

 たぶんそういう風に錯誤させる魔法を使ってたんだろうけど。


「本当に淀みの魔法使い見分けるんだ? けど、人数多いからって優位だなんて…………」

「思わないよ」


 言って、僕は懐からロケット花火のような形をした道具を取り出す。

 頭上に掲げて魔力を込めた。

 すごい音を立てながら、木々を抜けて森の上に飛んだ。

 長く煙りを棚引かせる様子から、監視する者にはこの場所がすぐにわかる。


 事前に用意してた救難信号の魔法の道具を、僕は迷わず使ったのだった。


定期更新

次回:収穫祭3

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― 新着の感想 ―
まあ約束してから台無しになるよりマシということで 薬ばら撒いて何する気かと思ったら参加してるのかよ……
ディオラから誘ったデートはあんな結果になっちゃったから王様もお出かけデートは難色をしめしそうなのでおうちデートから始めるべき
また逃げられるんだからそんなのはほっといてレア素材。ディオラちゃんに花の一つ位プレゼント持ってちゃんとデートに誘え
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