461話:収穫祭1
学園行事、秋の収穫祭。
普通の収穫祭は農村部などで行われ、実りに感謝したり、大変な収穫が終わったことを記念するものだそうだ。
けど学園の収穫祭は毛色が違う。
所有するダンジョンの点検を兼ねて、小さなダンジョンを四つ、学生主導の下で作る。
そしてそこに学生が素材を収穫するために挑戦して行くというもの。
「わぁ、前に来た時と全然違うね。すごい数のテントと馬車だ」
僕は学園から出される馬車に乗って移動しつつ、行く先の様子に声を上げた。
簡易ダンジョンに挑戦するクラスメイトを手伝うため、ダンジョンのある郊外へやって来てる。
「は、初めてのダンジョン…………」
緊張しているのはタッドという後輩で、魔法の才能はあると言う人間の男子。
ただ、魔法を学んだことはなく、戦闘経験もない成り上がり貴族だそうだ。
あと所属する国がそんな裕福でもない田舎で、今回は学費を稼ぐために参加してる。
「実際のダンジョンもっと違う感じだけど、初めてだとこっちのほうがいいかも」
参加二回目のラトラスがそう言った。
この馬車には、参加する錬金術科で乗り合わせてる。
ただし、王侯貴族に縁がある人はほぼいない。
学費稼ぐ必要ないからね。
いるのは僕みたいにクラスメイトの手伝いだった。
「そう言えばアズは、初めてがそのままダンジョンだったな」
「そっか、収穫祭の時は留学でいなかったもんな」
去年のことを思い出してるウー・ヤーに、ネヴロフも相槌を打つ。
去年の僕はロムルーシ留学後に戻ってから、冬のマーケットのためにダンジョンへ向かった。
その時には収穫祭は終わっていたんだよね。
確かに簡易ダンジョンのほうが広さは押さえられてるし、初挑戦には良さそうだ。
「じゃあ、経験者には簡単に地形の説明してもらってもいいかな?」
一応自分でも調べたし、学園からも案内があったけど経験からわかることもあるだろう。
運営側なら経験したことのあるエフィも、意見を聞きたがった。
「その時はまだ俺も魔法学科だったからな。錬金術科が参加してるのは聞いてたが、実際どうやって参加してたんだ?」
エフィは僕がロムルーシ留学から帰ったらいたけど、どうやら収穫祭後に編入したらしい。
テスタが口だしてたみたいでも、さすがに半年近く準備が必要だったんだろう。
イルメは指を四本立てて見せて説明をしてくれた。
「四つのエリアが設定されていて、森、畑、丘、棚があるわ。これは入場と退場に確認はあるけれど、好きに移動可能。だからひと通り回って、稼げる場所を選んだわね」
そんな話しに、タッドはもちろん、ポー、アシュル、クーラという新入生も聞きの姿勢になる。
竜人のアシュルにはたぶん、竜人のテルーセラーナ先輩からの援助がある。
けどここにいるのは友達のポーが参加だからで、クーラはアシュルの付き添いだろう。
下級生はそんな四人が参加で、そこに就活生のオレスが引率でいる。
やる気満々だけど、説明は僕たちがやってた。
就活生たちからも、散々余計なことは喋るなって言われてるから今は黙ってるようだ。
「だいたい名前のとおりのエリアだよな。畑はなんか色々植わってて、抜いたら魔物だったりしたぜ」
「丘は見通しの悪い地形の中に、横穴を掘ってる魔物が厄介だがやりようはあったな」
ネヴロフが身振りを交えて話せば、ウー・ヤーは気をつけるべきことを教える。
ラトラスも出てくる特徴的な魔物について説明をした。
「棚はぶどう棚とかわかる? あれみたいなとこで、木々の魔物が襲ってくるよ」
「森は荒れた林程度ね。出てくるのは虫に獣。採集できるのは草木からキノコまで種類が豊富よ」
イルメが話すと、エフィが運営側の目線から説明に加わる。
「運営が設定してる分類としては、畑が初心者向け。丘がセーフティありのちょっと慣れた者向け。棚は頭を使えば確実に稼げる中級者向け。森は四方を敵に囲まれる可能性もある上級者向けだ」
そんな説明に、他のクラスメイトが一斉にイルメを見た。
そう言えばさっきひと通り回ってって、まさか…………。
「もしかして、ひと通り回った後は、森でやってたの?」
「えぇ、私もラトラスも木の上を移動できたし。ネヴロフもウー・ヤーも囮役を十分にこなせたもの」
「つまり、採集じゃなくて狩猟をしてたんだね?」
うん、これは参考にしちゃ駄目だ。
そう思ったんだけどエフィはなんでもない顔をしてる。
「ねぇ、新入生でこんなやり方してたら、運営は止めないの?」
「毎年いるらしくてな。こっちは負傷者になった奴の回収速度とかでも評価される、救助ポイントもあるから、無茶する奴は止めない」
無謀をする学生も織り込み済みらしい。
「あー、入学前の経験の差か、種族差も考えると、年齢での規制も違うのか」
ただ目の前の後輩は経験なしで、種族は人間と竜人だ。
正直、僕のクラスメイトたちのような無茶はさせないほうがいいだろう。
そう思ったら今まで黙ってた就活生のオルスが口を開いた。
「普通、戦闘系じゃない学科が参加するなら、事前に収穫できるものを学んで覚えて、正しく採集できるか、どれだけ生息地を見つけられるかが腕のみせどころだぞ」
ちゃんとわかってたようで、手堅い方法を教えつつ続ける。
「そもそも救護所に運び込まれると、その時点でダンジョンアタックにはもう不適格として復帰はできない。できる限り怪我を避けて、体力を温存して長く挑戦するべきだ」
「まぁ、そういうやり方が一般的だな」
エフィも頷くんだけど、ちょっと目を逸らした。
「ただ魔法学科が軒並み運営に回るから、騎士科や狩人志望が派手に討伐して回ることも珍しくない」
後輩たちはそれぞれ話し合い、採集か狩猟かと方針を相談し出す。
その間にラトラスが、クラスメイト向けに声を潜めた。
「そう言えば例の薬に関して情報手に入れてきたよ」
聞こえた他のクラスメイトたちも顔を寄せて聞く。
「俺たちは調べて先生に提出したし、買ったのも俺とタッドだけ。だから特に何もなかったけど、他の学舎だと集会やって注意喚起の上で、提出を命じられたんだって」
ハリオラータが売っていたかもしれない薬は、スタンピードを起こす可能性がある。
それは学園側も調べがついてた。
僕も城に呼ばれて、説明と危険性を語ったしね。
対処を受け負ってもらったから、学内での回収の動きは想像できてた。
「あと、簡易ダンジョン周辺は、急いで柵高くしてたとかも聞いてる。で、ダンジョン周辺の会場には関所みたいなのが設けられてるらしいよ」
「あぁ、秘密裏に持ち込む学生を捕まえる気なのね」
説明を聞いて想像するイルメに、ネヴロフは窓の外を眺める。
「スタンピードが起きたら、柵の強化くらいで止められるのか?」
「難しいが、まぁ、時間稼ぎにはなるだろ。避難が間に合うかどうかで被害も変わる」
スタンピードの経験があるのか、ウー・ヤーも窓の外に見える高い柵に目を向けた。
柵っていうか、もう丸太を使った塀だよね?
エフィは急ごしらえの割に五メートルはある柵に眉を寄せる。
「薬を押さえたのなら、あそこまでするか? 何か問題が別に生じてるのかもな」
エフィはすでにヴラディル先生から聞いてたから、誘導も含んでそう言った。
スタンピードの可能性は、薬調べて僕らもわかってるしね。
これが王城の守りを抜くハリオラータの作戦の可能性もあるんだ。
だからこっちで騒ぎを止められるなら、止める方針なんだろう。
それに回収したからってそのままなんて、あのハリオラータが済ますとも思えない。
「危険を誘発する何者かがいる。そのことは忘れないほうがいいと思う」
僕の忠告に、頷くクラスメイトたち。
一応、薬の乱用でスタンピードが起きるのは、故意か偶然かわかってない。
僕としては故意だと思ってるし、王城も学園もその想定で動いてはいる。
その上で、スタンピードが起きればハリオラータが絡んでくるんだ。
こんな騒ぎ起こすだけで放置なんてないし、別の狙いがあっても不思議じゃない。
その狙いがアイアンゴーレムの可能性は高いけど、また研究が狙われたんじゃ困るんだ。
「さて、見えて来たみたいだ」
エフィに言われて顔を上げると、窓の外から聞こえる騒がしいほどの人の気配。
参加者や運営側それぞれに大勢が集まってる。
守りを考えると、確実にことを起こされるここに警備を集中させたい。
けど、学園をからにするなんてもってのほかだし、王城の守りも必要だ。
だからスタンピードが起きた時のために人は配置されてるけど、分散してて万全じゃない。
催しを楽しみたい気持ちはあるけど、僕も気を抜きすぎないよう心がけよう。
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