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451話:懲りないハリオラータ1

 ゴーレムの実験は次の予定立たず、さらに僕にも予定が入っていた。


 今日はアズロスの姿で対応。

 学生姿で行く先は、学園の中にある研究関連の区画だ。

 しかも魔法に関しての研究棟。


「こっちだす、アズ郎」

「ヨトシペ。久しぶり」


 研究棟の前で落ち合ったのは、秋田犬にしか見えない獣人のヨトシペ。

 行く先が研究棟だから、関係者の案内がないと歩けないそうだ。

 ほぼ素通しで研究室さえない錬金術科とは大違い。


「錬金術も認められたらこれくらいのもの造ってもらえるかな?」

「何年後の話でごわす?」

「え、うーん。人材育成からだから十年は必要かも」

「アズ郎が生きてる内にできるなら、短いどす」


 そういうものらしい。

 話ながらヨトシペに案内されてると、通りがかった人が足を止める。


「あ、錬金術科の! ちょ、ちょっと例のあれ、あの、前に手伝ってもらった!」

「お久しぶりです。ですが、今日は先約がありますし、ロムルーシと違ってこちらには優れた研究員もいらっしゃるので僕はこれで」

「あぁー…………! 待ってー」


 危うくロムルーシで魔導伝声装置のテストをしてた情報技官に捕まりそうになった。

 しかも肩越しに振り返ったら、他の情報技官たちもいる。

 僕に向かって手を伸ばして、引き留めたいって感じの体勢だ。


「うん、危なかった。捕まってたら絶対一日放してもらえない」

「そう言えば、情報技官は知ってる人と知らない人いるんどすな。帰りは会わないよう気をつけるでげす」


 僕が第一皇子だと知ってるヨトシペが、そう言って気を使ってくれる。

 喋り方とおかしな出力の身体強化のせいで忘れがちだけど、理解力は高いほうだよね。


「機密情報のはずなのになぁ。あそこで何やってたんだろう?」

「一回国外に出す許可が出てるせいかもしれないだす。一応、あそこの研究室は出入りに規制されてるマーク出てたどす」


 そんな話しながら、僕たちは一つの研究室へ向かった。

 入り口には、身体強化呪文作成研究室というプレートがかかってる。


 ここはヨトシペの特殊な魔法を呪文に落とし込もうっていう研究室だ。

 表向き言い出したのはヨトシペになってる。

 その発想のきっかけってことでアズロスの名前は知らされてる。

 あとオブザーバーで、ロムルーシで一緒に行動したヘルコフの名前も。

 そのヘルコフの裏の助言者が第一皇子という面倒な図式になってるんだよね、知らない人からすると。


「アズ郎連れてきたでごわすー」


 ヨトシペがそう言って入ると、十代の少女が一人現れた。


「は、はいぃ。どうもぉ」


 若いわりによれよれの服装な上に、室内には他に人がいない。


「えっと、初めまして。僕は今日、研究途上の呪文の経過報告を聞きに来ました」

「はい、それで、えっとぉ…………錬金術科の生徒さんですよね?」

「はい、アズと呼んでください」


 返事したらため息つかれた。

 ヨトシペ見ると、気にせず尻尾振ってる。


「何があったの?」

「錬金術科嫌いでアズ郎呼ぶの嫌がってただすから、追い出されたでごわす?」


 ヨトシペがとんでもないこと言うと、助手だという少女は大いに頷く。


「そうなんですぅ。王城のほうからも最初に目をつけた生徒さんに聞き取りをしろと言われたのに、今日まで先延ばしにした上に、直前でやっぱり必要ないとか言い出して」

「あーしが説明した呪文の構想、アズ郎だって言ってあったんでげす。余計に対抗意識持ったかもしれねぇどす」


 ヨトシペは笑ってそんなことを言う。


 ヘルコフに任せてたんだけど、ちょっと問題ありそうってことは聞いてた。

 どうもこの研究室の室長は、錬金術の薬酒に中ってから徹底的に錬金術に関して不信感を抱いているそうだ。

 さらには元から錬金術科のヴラディル先生に対抗心のある魔法使い。

 そしてウェアレルが学園に戻ってから、王城に願われて呼び出されるのも見てさらにジェラシーを募らせたという。


「一応、その対抗意識で呪文作りには熱心って聞いてたけど?」

「そうどす。アズ郎に教えてもらったことで、呪文で再現するのは上手く行ったんでげす」


 そう言ってヨトシペが呪文の構成術式が書かれた紙を取り出す。


「おぉ、だいぶ形になってるっぽいね。この治癒の呪文を入れたのは…………あ、なるほど。体内に魔法を留めるための術式の応用か」

「アズ郎が言ったみたいに、呼吸で取り込むのを呪文発動の指定儀式にしたんだす。それで体内に影響する呪文も行けたんでごわす」

「すごいですよねぇ。魔法を体の中で発動させるなんて猟奇的なこと考えつくなんてぇ」


 助手が語弊のある言い方をする。


「確かに今の魔法は外に向けての攻撃性が重視されるよ。けど古い魔法はそれに限ったものではなかったことを知ってたから。これは錬金術の古い書籍を当たった副産物と言えるかもね」

「うわぁ、そんなこと言ったら室長絶対発狂しますぅ」

「えー…………」


 ちゃんとやってくれるなら何処に対抗意識持っててもいいけど。

 発狂して可能性から目を逸らすのはやめてほしいなぁ。


「これは錬金術って言わずに説明したほうがいい?」

「しても意味ないだす。結局魔法的な手法だけ使っても行き詰ってるでげす」

「そうですねぇ。どうせ魔法の成果だなんて誇った後に、実はってほうがプライドずたずたになりそうですしぃ」


 ヨトシペと助手の話す様子から、どっちもマイペースらしい。

 その上で室長に対して忌憚ない意見を聞かせてくれる。


「あの室長は呑み込めないことには騒ぐでごわす。でも結局研究したい、結果出したいって気持ちが勝つどす。だから騒いでも可能性示されると試さずにはいられないでげす」

「口で騒ぐ割に、結果を出されると黙るので。アズさんはお気になさらずご意見くださいぃ。でも室長が発狂する前に帰ったほうが耳には優しいですぅ」


 錬金術だと知っても、結局はやってはくれるらしい。

 だったらいいか。


「じゃあ、気にせず進めよう。大まかに呪文はできてるように見えるけど、何が問題?」

「あーしはこれでも十分発動できるどす。ヘルコフさんも発動だけはできるでごわす。でも出力が低いでげす。人間の魔法使いだと発動もできないだす」

「実験の結果としてはこちらの記録を。呪文の構成は途中まで発動を確認できますぅ。ですが、体内に入ると観測ができず。その後に発動せずに消えるような感じになりましてぇ。これは獣人と人間との魔力の扱いの違いではないかとぉ」


 ヨトシペと助手に説明されて、僕も呪文を見直す。


 つまり、呪文を体に取り込んで魔法を発動させるという内容だけど、人間は魔法を体内で発動させるという感覚がない。

 だから呼吸っていう形式を組み込んだけど、途中までしか発動しない。

 ヘルコフのような獣人なら発動はできるけど、まだまだヨトシペには足りない。

 そもそも発動しないんじゃ呪文として欠陥だから、これを改善するために錬金術科の僕が呼ばれたと。


「ともかくは人間でも発動はできそう。で、問題は発動後に身体強化の維持か」


 ヘルコフで発動はできたんだから、ヨトシペの無尽蔵の体力の一端は模倣できた。

 大きな成果でなくていいんだ。

 上手く行けば病気で弱りすぎて投薬にも難がある子が、救われるかもしれないんだから。

 そのためには、次に人間に合うよう変えなければいけない。


「ちょっと僕がやってみていい?」


 許可をもらって呪文を使用してみる。

 呪文が目の前にあっても、これを思い描いて魔力を集中するという右手と左手を別に動かすような難易度がある。

 さらに呼吸も取り入れるとなると、難易度はほどほどに高い。


 それでも、魔法を重点的に訓練してない僕でもやれる。

 魔力と呼吸を合わせて、呪文を形成するのは集中力と時間が必要だ。

 それでもふとした拍子に体が軽くなる感覚がした。

 すごく調子よく朝すっきり目覚めた日のような気分だ。


「あれ? できたよ?」

「えぇ!? なんでですかぁ!」

「わはー、さすがアズ郎どす」

「あ、切れた。これ、呼吸止めるとすぐ切れちゃうのか。たぶん魔力を練ることと呼吸を合わせること。後はそうだなぁ、魔法を体に巡らせる感覚的なところかな?」

「詳しく、詳しく教えてくださぁい」


 助手に縋られるけど、一つ気になることがある。


「その前にさ、あなたもこれできなかったんだよね? じゃあ、呪文構築した後呼吸どうしてた? 発動の瞬間とか」

「呼吸ですか? 止めてましたけど」


 はい、これが答えだ。

 他の人の魔法見るようになってからわかったことだけど、魔法を出す時に気合込めて息止める人ってけっこういる。

 けどこの呪文は呼吸と連動してるから、息を止めるとそのまま消える。

 他にも体に魔法を巡らせるために、血の流れを意識する理屈がわかってないことが発動さえうまくいかない要因なんだろう。


定期更新

次回:懲りないハリオラータ2

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― 新着の感想 ―
呼吸を術式に組み込んでるんだから呼吸止めんなw 呪文詠唱途中で辞めてるのと同じ事じゃねえかw
次回 室長死す!デュエルスタンバイ
この後以前の閑話で仕込んだハリオラータホイホイのトラップにかかった輩をキュッとするのか ハリオラータが目的の迷彩として仕掛けてくるちょっかいを迎え撃つついでにキュッとするのか
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