450話:錬金法5
今日だって調整して関係者の予定合わせたのに。
次の人工ゴーレムの実演がいつになるかわからない。
あと、学園から王城に呼び出されたウェアレルが、まだ捕まってたから午後の授業があるのに退室の機会も失ってた。
「ですから、現在の魔法理論とは異なるのです。錬金術を理解して初めて使える全く別の魔法理論に則っており、今の理論で想像するほど魔力の消費も激しくはなく…………」
うん、化石後回しでなんか質問責めにされてる。
人工ゴーレムは後日ってことになったから、もう帰っていいんだけど。
「さすがに申し訳ないから、ちょっと行ってくる」
「ア、アーシャさま」
「なに、ディオラ?」
「その、いずれお時間がある時で良いので、お、お話を…………」
「いいよ」
答えたんだけど、なんだかディオラ残念そう。
その肩を撫でるウェーレンディアは、なんだか僕に残念なものを見る目を向けてくる。
「ソティリオス、ウェーレンディアは何を言いたいのかな?」
「さぁ? このところ私よりもディオラ姫と仲が良くてな」
ちょっと羨ましがってる?
気にはなるけど、ウェアレルのほうが先かな。
学園から呼び出されて時間もないだろうに、放してもらえる気配がないし。
あと、ここで助ければお説教の時間短くしてもらえるかもしれない。
「違うものだと知った上で、何が知りたいですか? 錬金術的な考えを理解しないと使うのは難しいですよ」
ルキウサリア国王もいる中に、僕は入って行く。
途端に全員が一度口を閉じた。
質問責めにされてたウェアレルはひと息吐く。
「その錬金術的な魔法というものについて、詳しくお聞きしたいところ」
ルキウサリア国王の問いには、ネクロン先生に言われたことが使えそうだ。
「そもそもなぜ火が燃えるのか、水が流れるのか、大地は固まり、風は吹くのか。それらを理解しないまでも、理屈として納得しないと、説明しても飲み込めないでしょう」
「つまり、錬金術を学べば?」
「いえ、理解した上で、火と光が別のものであること、水と氷は同じものが変質していることを理解する必要があります」
ルキウサリア国王に答えてるとテスタが考え込む。
「さらに深い学びがあるということですかな?」
「学んでも、何に使うかって話になるよ。今の映像を映すだけの魔法、覚えたら珍しがられるだろうけど、それでって話だし」
物珍しさから興味惹かれてるみたいだけど、何に使うと聞くと揃って考え込む。
時間を使って、学んで、理解して。
できるのは絵を描くのを立体にしただけ。
それで何かの役に立てるには、さらに詳細に映し出すものの形や性質質感を自ら覚えて再現しなきゃいけない。
「現在の魔法と、錬金術に使われる魔法は、そもそもの使い方が違うのです」
ウェアレルが復活して説明に加わる。
「そうですね、まずは違うものとして認識していただくためにも名称を変えるべきかと」
「まぁ、魔法って言うから混乱するのかも。だったら、錬金法とでも呼ぼうか」
ウェアレルに言われて共通認識として別物扱いにしてみた。
そこで、ウェアレルがそもそも魔法は人間以外が使っていたという話を始める。
人間が今の理論を作るには、人間の出力に合わない方法を可能にしなければいけない。
それは技術として大変な革新だった。
魔法も使えないと言われてた人間のエフィがイルメやウー・ヤーとやり合って、手数で勝ちを拾うこともできるようになってるくらいだからね。
「錬金法が確立した時期は、資料の少ないことから確定ではありません。しかし、錬金術と共に確かに錬金法はあります。それは、人間もまた魔法の素養はあったためでしょう」
ウェアレルが言うように、かつて人間は魔法が使えない種族だと思われてた。
けど実際は使い方を自分たちにカスタマイズできれば属性に関わらず使える。
ドワーフが地、海人が水、竜人が火、エルフが風、獣人が身体強化。
それで言えば、人間は全魔法とでも言うべきか。
ただ決定的に魔法を扱うのに合わないというのが種族的な特徴でもある。
逆に言えば他の種族は限定した属性に、適応する形だからこそ他の魔法は使えない。
「古い時代の人間の魔法を表す方法、それが錬金法だったかと。つまり、方法論さえ整えれば器用に使えはしますが、今の魔法のように出力は望めません」
だからこそ別物だとウェアレルが語るのに、僕も続ける。
「錬金法は錬金術への理解と道具ありきの技術だと思ってくれていい」
「では、杖などはいかがでしょう? 魔法を使うための道具もあります」
テスタが聞くけど、それは大親方が答えた。
「それは比べる意味がない。杖は魔法を使うために作られた道具だ。錬金法に影響を与えるものじゃない」
その言い方気になるな。
この人は錬金法を受け継いできたと言えるんだから、僕も知らない理論知ってるかも。
「もしかして、杖を使っても錬金炉の加工はできないとかそういう?」
「はは、おおせのとおりで」
「かしこまらなくていいよ。初対面の時には言えなかったけど、ずっと錬金炉を作った人に会いたかったんだ。あんなすごいものを作れるなんて、錬金術はすごいってずっと思ってた」
僕が言ったらウェアレルも応じる。
「あの錬金炉は言ってしまえば時間操作を行う道具です。これは魔法では不可能。ましてやアーシャさまがおっしゃるような世界を一つ作って操作するという発想は魔法では無理だと最初から考慮にもされていません」
「魔法って、結局自分でどうにかしようって技術だからね。自然にあるものを動かすにしても、自分の影響範囲だけ。けど錬金法は手の届かないことを理解と工夫でやろうって形だ」
ただ同時に、錬金法では今の魔法のようなことはできない。
「気軽に火をつけることもできないし、水を飛ばすにも道具がいる。風を吹かせても仰ぐ程度で、土を起こすにも手間がかかる」
魔法ならそれが魔力と呪文でどうとでもなる。
手間のかかることも、今は術式を編んで効果を指定したり、人間一人じゃ賄えない魔力も複数人で注いだりと、汎用性は高い。
「あ、やり方としては魔法の術式のほうが錬金法に似てるかも?」
「では、魔法使いを入れることで錬金術への理解を深めることは?」
ルキウサリア国王が人員の確保を前提に聞いてくる。
「錬金術を魔法の劣化だと思い込まなければね。そこで理解が止まると、どうやっても錬金法の発展になんて結びつかないし。今ある技術さえ、魔法に寄せて考えて間違う気がする」
「私は、錬金術が魔法と並び立つと言って真に受ける魔法使いに心当たりはありません」
ウェアレル、つまり学園やその関係者には無理って話?
そこに魔導伝声装置関係で見たことのある文官が声を上げた。
「魔導伝声装置に関しても、魔法使いでは大きく発展は難しいのが現状です。第一皇子殿下のご助言を正しく理解し活用することも遅く。おっしゃられた理解が止まるとのお言葉にも、思い当たる節がございます」
魔導伝声装置、行き詰ってるの?
ウェアレルを見ると耳打ちされた。
「音と風の理解が、魔法技術と結びついていないため、安定を目指して改良したところ、失敗すること幾度か。振動であるという話もしたのですが、やはり理解できたものはおらず」
「やっぱりやって見せるのが大事なのかな?」
「そうですね、風は目に見えないものですので、人間にとっては理解が難しいようで」
そこで僕は思いついて提案する。
「じゃあ、魔導伝声装置のために音の性質についてレポートを書くよう錬金術科に求めてみたらいいんじゃないかな。卒業生の先輩二人は、妃殿下に問われてすぐに答えていたよ」
どうやら僕の提案は興味を引いたらしい。
同時に、ウェアレルにあれこれ聞く雰囲気もなくなる。
たぶん僕とウェアレルが話すのを聞いて、そもそもの理解が追い付いてないから、錬金法を理解できないことはわかったようだ。
「それでは、今日のところは失礼してもよろしいでしょうか。学業もありますので」
「あぁ、そうか。うむ、では助言のように図ろう」
どうやらレポート提出を錬金術科に求めるようだ。
ウェアレルに目を向けると頷く。
ヴラディル先生に投げられる案件だけど、ウェアレルも手伝う気でいるね。
ヴラディル先生も魔導伝声装置は手伝ったから知ってるし。
これで登校できると思って振り返ったらぽつんとソティリオスが立ってる。
そしてディオラと楽しげに話すウェーレンディアを見てた。
「あぁ、ディオラに張り合うんじゃなく、ディオラを利用する方向にシフトしたのか」
「教養学科でも、お二人の仲の良さがあり、今までのようにユーラシオン公爵家の方が中心という形ではなくなっていますね」
ウェアレル情報。
前見た時には、ディオラをソティリオスが追って、さらにウェーレンディアが現れ、結果としてソティリオスが真ん中で、まるで両手に花状態だったね。
でも今は女子の話に入れず置いてきぼりの状況のようで、ちょっと寂しそうだった。
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