448話:錬金法3
王城の広間でノイアンが告げた。
「帝国第一皇子殿下、並びに、ユーラシオン公爵家ご令息をお連れいたしました」
ディオラはこのお城のお姫さまで、その連れに収まったウェーレンディアはお客としては扱われないようだ。
で、客扱いの僕とソティリオスの登場に、準備してた人たちが動きを止めて傅く。
「楽にしてくれて構わない。ルキウサリア国王陛下、今日は場を用意していただき感謝いたします」
うん、いつもと違う反応にルキウサリア国王がちょっと戸惑った。
けどそこは王さま、すぐに表面上は僕の皇子という肩書に見合った対応を返す。
そして、そっとソティリオスに目を向けてた。
そうです、ソティリオスに言わされてます。
「付け焼刃だから、すぐにボロが出るのになぁ」
「少しは繕えと言ってるんだ。ボロを出してはまずい所で取り返しがつかなくなる。」
ぼやいたらソティリオスに釘差された。
「今少し騒がしくなるが。そちらは…………」
うん、僕たちのやり取りは聞かないふりでどっちにも味方はしない。
そんなルキウサリア国王は、ウェーレンディアを気にした。
改めて今日同席させる説明を軽くした後は、本人からがいいかな。
そう思ってたら、ソティリオスが別の方向に目を向けるよう僕に促した。
「そちらはルキウサリア側として立つなら身内の話。あの者たちはどうするんだ?」
僕に聞くのは見るからに貴族でも使用人でもない人たち。
この広間に錬金炉を設置した人たちで、すでに天の道や転輪馬の開発に関わってる。
だからいることは今さら不思議じゃない。
ただソティリオスが言うのは、その中でも動きのおかしい人がいるから。
テスタくらい歳を取った人が傅いたままプルプルしてる。
うん、ネヴロフとウー・ヤーがお世話になってる工房の大親方だ。
っていうか、その弟子の人たちは、僕に気づいてないっぽい?
許しが出てもいつまでも動き出さない大親方に戸惑ってる。
「うん。改めて僕の変装って、けっこうすごい?」
「何を今さら? そもそも突然髪の色が変わってる時点で他にないだろう。いや待て、まさかあの反応、すでに会ってるのか?」
ソティリオスが気づいた。
ルキウサリア国王は、そう言えばって顔してる。
たぶん護衛の人からの報告で工房に行ったことは知ってるからね。
ディオラとウェーレンディアは説明をした後様子見というか、直接関わる理由もないから見学で一歩引く。
「その節は、大変ご無礼を!」
おじいさんなのに太い声を上げるから、テスタも驚いてやってくる。
「殿下は寛容なお方。何をそこまで恐れているのだ?」
「あぁ、技師にならないかって誘われたことかも。気にしないで。というか、僕も任せっきりで申し訳なく思ってたし、跡継ぎ困ってるようなところに、次から次じゃ弟子鍛えるのも時間がないよね」
技師に誘われたってところで、他の工房の鍛冶師たちも気づいて、顔面蒼白で平伏した。
別に皇子を下に置くなんて考えないのわかってるから気にしないのに。
って思ったら、大親方がプルプルしながらいう。
「いえ、確かに才気をわかっていたのに、自らの先を行く方をそうと見抜けもせぬ耄碌具合を晒し、お恥ずかしい。失望されても致し方のない失態でございますれば」
「いや、まだかくしゃくとして、うん。話が進まなさそうだから、そのことはなしで。僕は僕で錬金術科には関係ないってことでよろしく。ネヴロフやウー・ヤーにも秘密ね」
めちゃくちゃ気にしてるっていうか、見抜けなかったことにショック受けてる?
だから流したんだけど、ソティリオスからすごく責める視線を向けられてるのを感じる。
「ちなみになんで、のこのこ行った?」
「のこのこ…………。ネヴロフが授業出ないっていうから、連れ戻しに?」
「それだけであれはないだろう」
「ウー・ヤーが作った新素材の使い方話して、ネヴロフの作った動力の改良を考えて、新しい動力作る案を聞いて。そうそう、錬金炉の中初めて見れたんだ。入学決める前から、錬金炉作る工房にはいつか行きたいと思ってたから夢が一つ叶ったよ」
「新素材…………」
「そこは錬金術科からお披露目したいからまだ秘密」
そもそもウー・ヤーの発見だし、実用にはまだ時間もかかる。
けど、ルキウサリア国王他、偉い人たちは目が泳ぐ。
あれ、もう何処かに広めちゃった?
鍍金使いたいから相談したんだけど。
と思ったら、ディオラが目配せをしてくれた。
あ、テスタに言っちゃったのか。
遮光性と機密性が高いって、薬の運搬にも影響するしそうなるよね。
「素材と触れることでどう変化するかちゃんと経過みないと危ないよ」
「では、取り扱っても? 学生の個人的な発見と、この者が回そうとせず」
「駄目、って言いたいところだけど、ウー・ヤーは学費に不安がある。時間も限られる。援助って形で新素材の制作に関する報告を挙げさせるような形だったらいいよ。エフィが身動き取れなくなってたのも改善の見込みができたし」
「すぐに!」
嬉々として援助を受け負うテスタに、ソティリオスも興味を持った。
「うちからの援助は?」
「うーん、ソティリオスのところで活用するとしたら、製品になってからのほうがいいよ」
「すでに売り出す算段があるのか…………。物自体を教えるつもりは?」
「そこはウー・ヤーと交渉してね。さすがに僕の独断では言えない」
「お前の線引きは謎だ。変なところが義理堅い」
何をそんなに疑う目で?
たぶん王侯貴族としての家や派閥の利益なんて気にしてないだけだよ。
確かに独占したり、情報いいように使うほうが有利になることもある。
でも目の前にいる友達のほうが優先だ。
僕は今のところ、学業に費やすお金に困ってもいなければ、利権握って権力増強なんて思ってないからね。
「なんだか前置きが長くなったね。時間もないから説明に移ろう」
また午後から授業があるし。
そんな僕に、ソティリオスも引く。
ルキウサリア国王たちも応じて、話を聞く姿勢になってくれた。
大親方たちも聞く側なんだけど、予定では錬金炉の構造知ってるから一緒に教える側になってくれてもいいって話だったはず。
けど妙に恐縮して端にいるなぁ。
「まずは前提として、錬金術が隆盛していた時代は、現在の魔法理論が確立していなかった。つまり、魔法のない時代だったことを覚えておいてほしい」
あえてそういうのは、人工ゴーレムには魔法も使われてるから。
けど当時は魔法じゃなくて、錬金術の一部として扱われてた。
「つまり、錬金術を語る上では魔法と言うものも世界の真理を構成する一要素。魔法の劣化とか、魔法とは別とかそういう考え方はなしで」
「それで言うと、我が国に残る錬金術にも魔法が?」
ルキウサリア国王が聞くのは封印図書館のことだ。
「もちろん。動力という点においては、多く魔法を組み込んだ仕掛けがあります」
この世界ではオーバーテクノロジーのミサイル、前世の世界でもオーバーテクノロジーなオートマタ。
それらを実現していたのは、魔法だ。
ただし、今の魔法理論とは別の形式。
「今の魔法を剣にたとえたら、かつての錬金術に使われた魔法は馬具です」
単体での攻撃力なんてないし、使い道だって馬がいてこそ、乗る人がいてこそのもの。
そして専用にカスタマイズされた道具で、他に使い道はない。
けど馬さえいれば、戦う以外のことにも幅が広がる。
ナイラなんかが顕著だろう。
電力で動いてると同時に、内部機構を形成してるのは魔法だ。
中身詰まって重いけど、それ以上に魔法で質量に換算されない機構が大量に組まれてた。
ただこれも、錬金炉が解体できたからこそ予想が立った仕組み。
実はセフィラとナイラの同型機観察しても、どうして起動して情報詰め込めるのかわからずにいて、直接こっちから手を出すのを躊躇ってたんだ。
「人工ゴーレムには、今でいう魔法に似た技術が使われてる。その錬金術の一部である魔法において、特殊な触媒を用いることでゴーレムを動かしていたんだ。そして触媒がこの、化石」
僕は用意されていた葉っぱの化石を見えるように掲げる。
シダ植物っぽい、茎を中心に細長い葉っぱが列をなす化石だ。
これは天然の化石で、実験に必要ってことで僕たちが帝都から戻るまでに探してもらったもの。
植物模様の石ってことで、ヨトシペが知ってるって言って取って来たらしい。
腰が軽いし、それで無事に調達してくるんだからすごい。
そりゃ、素材調達に重宝されるわけだ。
「これは本物の植物が、年月をかけて石へと変わったもので、そのプロセスは…………」
僕は用意された木の板に、亜鉛の棒でフローチャートの形で書いていく。
太古はバクテリアがいなくて分解されなかったとかなんとかいう話は抜きだ。
簡単に、大量の土に覆われて生き物のいない密閉された中、朽ちることなく残ること、さらには長い年月を経て押し固められて石になることを説明する。
「これと同じものを、今からこの錬金炉を使って作ろうと思う」
定期更新
次回:錬金法4