447話:錬金法2
王城で人工ゴーレムを作るため、核となる素材を作る。
けど予定変更が必要になったから、その許可を取るために待機が長引いた。
挨拶をしに来たディオラとウェーレンディアも、そのまま僕たちと待つことに。
その間、突然参加で予定変更の理由になったウェーレンディアに今日の趣旨を説明した。
「ゴーレムは、錬金術…………」
まず前提でウェーレンディアは唖然とする。
「そんなにショックかなぁ。魔法で再現できなかったんだし。魔法を活用する技術で、他に実証できてるものなんて錬金術しかないんだけどな」
僕はそう思うんだけど、ソティリオスが首を横に振ってる。
ディオラも困った様子で、ウェーレンディアの困惑を代弁した。
「実態を知らなければ雲を掴むような話であるかと思います」
「雲、雲か…………」
雲は氷の粒、つまりは水の塊だ。
それが浮くような状態で空に存在してる。
今この場で、雲が水だと言っても信じる者はそういないだろう。
雲から雨が降ることは知ってても、なんで浮いてるかなんてわからないし。
だったら、雲は雲という地上にある水とは違うものという認識で語るほうが理解には繋がるし、飲み込みやすい。
「おい、何を考えているんだ。言いたいことがあるなら言え」
ソティリオスが邪推してくる。
「今はまだ活用できる話じゃないから、いいかな」
「あとで結果だけ持ってくるのはやめろ。段階を置け」
「なんかソティリオス、妙に警戒してない?」
「妙じゃない。順当な警戒だ」
びしっと指を突きつけられる。
納得できなくてディオラ見るんだけど、そっと目を逸らされた。
これは、順当だと思われてる?
不安になったらディオラがいちおうフォローをしてくれた。
「私どもの理解が遅れているせいではあるのですけれど、やはり驚きは否めません」
「じゃあ、活用考えてもろくなことにならなさそうだから、雲の話は忘れて」
「人工ゴーレムからどう雲の話になるのか全く想像もつきませんが、不穏ですわね」
なんかウェーレンディアまで邪推してきた。
繋がりなんてない、全く別の話なんだけど。
ただ雲って確か、人工生成できるみたいなことを前世で聞いた覚えがある。
というか、日本にも人工的に雲作る施設あるって雑学系動画で観たような?
(ただ雲作って雨降らせても、他の場所に降らなくなるだけで使い方難しいんだっけ)
(仔細を求める)
(雲のでき方からの話になるから後でね)
セフィラに答える間に、錬金術に明るくない三人は目でやり取りをしてた。
何が決まったのか、無言なのにお互い頷き合ってる。
こうして見ると、普段から同じクラスにいるだけあって意思疎通はできてるんだよね。
で、僕と一番付き合いの長いディオラが代表して聞いて来た。
「アーシャさま、来月に行われる収穫祭は、今年が初めてですね? 見学はされますか?」
「収穫祭? そういえばそんな催しがあったね。何をするかよく知らないんだ」
あからさまな話を逸らす意図だけど、正直学園行事の話は聞きたい。
夏の音楽祭や冬のマーケットは参加できたけど、春は二年続けて逃してる。
秋には収穫祭があるから、それは参加か見学かしてみたい。
そういう話、弟たちとの会話のネタにもできるしね。
「知らないのか? 錬金術科の生徒とは交友があるように見えたが」
「あ、変な誤解しないでね。仲はいいよ。ただ、錬金術科だとそういう話よりも錬金術関係の話が多くてさ」
ソティリオスがいうとおり、本当に学校行事の話してないな。
考えてみても、ウー・ヤー、ネヴロフ、イルメ、エフィと個別に話したけど、どれも錬金術関係や精霊の話だった。
多分ラトラスも手が空いたと言えば振って来るのは錬金術かディンク酒だろう。
「あの、アーシャさまは普段学園で何を?」
ディオラまで心配そうに聞いて来た。
「授業受けて、その合間に、あ。最近は僕が補修願いのためにうろうろしてるか、出された課題消化してたから、気を使ってくれたのかも」
帰っても封印図書館関係や関係各所からの提案に、目を通したり対応話合ったりしたし。
ウェアレルも、学園行事よりも錬金術に関して優先してたとかかな。
「僕のほうに余裕がないから振らなかったんじゃないかな。もしかして収穫祭って、参加は強制じゃない?」
ディオラも最初に見学って言ったし。
つまり僕が参加する必要性はないと思って話題にも出さなかった。
そんな推測を立てると、ウェーレンディアが応じる。
「はい、収穫祭は学園の各校の合同。言わば交流会のようなものです」
「へー、学園という大きな括りだし、確かに交流会でも大掛かりになりそうだ」
なんて思ったんだけど、聞けば場所はダンジョン周辺。
そこにアトラクションを用意して、運営は各校の魔法学科が主導するという。
学生による出店もあり、そこは学科での動きではないとか。
そして上級の学舎の生徒は、基本客として参加し、そこでお金を使う。
そして票を入れることで下の学舎を評価するという、僕の想像した交流会とはかけ離れた内容だった。
「うーん、想像がつかない。まず、どうしてダンジョンのそばでやるの?」
「実は、ダンジョンの調整も兼ねての行事なのです」
この国の王女であるディオラは、運営側の事情を話す。
学園が有するダンジョンは人工的に作られた物のため、調整が効く。
というより調整をしないといけないそうだ。
「ダンジョンを維持するために地脈を固定化しているのです。しかし長く留めておいては淀みになります。そうならないように、定期的に流す必要があるのです」
淀みは悪影響あるらしいから、確かに調整して解消しなきゃいけないね。
「そのため収穫祭では、普段ダンジョンに留め循環させている地脈を開放し、ダンジョン外の所定地域に流します。行事を理由にダンジョンを閉鎖、及び内部点検の時間にもします。そしてダンジョン外に簡易のダンジョンを発生させるのです」
「え、それって大丈夫なの」
心配する僕だけど、同じく参加したことのないはずのソティリオスは事情を知ってるようだ。
「聞いたところでは、学園のダンジョンよりも小規模で複数を運用するとか。故に学生が扱っても間違いは起こりにくく、特殊なダンジョン素材を発生させることもできるらしい」
「はい、森、畑、丘、棚と言った四カ所に分散させることで、本来のダンジョンよりも小規模で問題が起こりにくいものとなります。またそこに特殊な素材が発生するよう、学生の創意工夫を試す場にもしているのです」
「去年を見ると、それぞれの魔法学科がダンジョンとなる所定の場所を安定させることと、魔物を生じさせることでより安定的に素材を生じさせる技術を披露していました」
ディオラに続いてウェーレンディアも教えてくれる。
二人は参加していたし、ディオラにとっては毎年のことなんだろう。
聞く限り、収穫祭という催しはお楽しみ会に近いようなものらしい。
さらにはその時期限定の素材が市場に出るので、マーケットとは違った層の商人も集まるとか。
「それって、収穫は誰がするの? 魔法学科?」
「いえ、学生有志になります。収穫したものは売りに出し、学業の糧にもできるので」
ディオラは柔らかく言うけど、噛み砕けば苦学生の金策の場らしい。
確実に採れる素材があって、買い取ってくれる環境がある。
それは一部学生からすれば、年に一度の祭りだろう。
そして思い当たるクラスメイトが僕にはいた。
「去年、錬金術科が参加していたかどうか知ってる?」
「参加していたようです」
ディオラは知ってたらしい。
参加しただろう候補はネヴロフ、ラトラス、ウー・ヤー。
その中で、ラトラスはそこまで逼迫した経済状況ではないはずだから、抜いてもいいかも。
「それじゃあ、参加と見学の違いは…………」
聞こうとしたらノックの音がする。
許可すればまたノイアンが現れた。
ウェーレンディアの参加を伝えに行ってもらってたんだ。
「ご歓談中に失礼いたします。準備が整いましたのでご案内いたします」
よく考えたらこんな侍従みたいなことする立場じゃないはずだけど。
事情知らない人を入れるよりもってことなのかな。
そうなると、僕の一存でウェーレンディアねじ込んだのはルキウサリア国王からも苦言が来るかもしれない。
何かルキウサリア王国にとってプラスになる施策提案したほうがいいのかな。
なんて思いながら、ノイアンに案内されていつもの謁見の間に行く。
ただ今日はいつもと違って、箱型の錬金炉が設置されてた。
さらに説明用の木の板がドーンと置いてある。
表面には錬金炉を図説した絵が、全員に見えるよう大きく描かれてた。
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