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443話:イルメの精霊談議3

 僕はなんだか成り行きで、錬金術科の女子生徒と図書館に来た。


 謎かけ見つけてほしいって言われて探したら、内容が精力増強メニューだったけど。

 そんな結果は、やっぱりちょっと不満らしい。


「アズ、別のはないかしら?」

「あまり、異性の前で話すこともできないので」


 イルメとショーシはさすがに、楽しむには内容が気になりすぎるようだ。


 十代半ばで精力増強が何に使うかって、わかってる辺り貴族的な教育と、婚期の早さだろうな。


「他は、うーん。見当たらないね」


 適当に手に取って捲りつつ、僕はセフィラ曰くないっていうことを伝える。

 そうして探すふりをしながら、イルメから距離を取った。

 途端に声にならない声が聞こえる。


(錬金術以外の蔵書にはありました)

(早いよ。もしかしてもうこの図書館の蔵書調べたの?)

(個人所有の限界を把握)

(それはそうだろうけど。一応、内容は? 見つけてもまた見るのがはばかられる内容は困るし)

(占術に関する本です。ただ隠された内容は錬金術に関係しません。また、公開に際して問題視される内容である可能性あり)

(天文や数字ならこじつけられるけど、錬金術関係ないのかぁ。しかも内容に問題ありって、なんの本に隠されてるの?)

(札を使って行う占術でした)


 前世のタロット占いみたいなものかな?

 それはそれで何が書かれてるか気になってきた。


「イア先輩、占いや天文の本はありますか? そうしたものになら謎かけが隠されていることもありますから」

「あ、だったら占いの本がけけっこう揃ってるよ。石使ったり、絵札使ったり」

「絵札はどんな絵なんでしょう?」

「それが本だけで実物ないんだよね。本当に本ならいいって感じの収集家だったみたいで」


 僕はイア先輩と話しながら、セフィラの言う本を手にとる。

 外見の革は痛んで、はげてるところもあった。

 B4くらいの大きさ書籍で、開くと表題と向かい合う形で人物画が描かれてる。


 どうやらこの髭のおじさんが作者らしい。

 変色してごわごわしてるページをめくれば、内容は手書きで、作者の体験記と一緒に占いについての解説ややり方が載っていた。

 体験談という実例を挙げての絵札の解説はしっかりしてる割に、当の絵札がないのは惜しいところだ。


(けど、謎解きは何処にある? 錬金術関係ないって、けっこう難しいな)

(体験記部分に出てくる花を繋ぐ形で…………)

(あ、待って。わかった)


 セフィラにヒントを貰って、僕は謎かけを見つけられた。

 そこからパラパラと全体を見て、大筋を捉える。


「…………って、これ。ラブレターじゃないか」

「「「「見せて!」」」」


 思わず口にした途端、女子に食いつかれた。


 イア先輩も含めて、何処だ、なんだと楽しそうに声を弾ませる。


(…………主人に問う)

(うん、あんまりね、他人の私信を暴露するのはさ、よろしくないんだけど、ね)


 前に散々注意してたからね。

 その中でもラブレターの類は特にセンシティブだって教えたのは僕だ。


 けど目の前で、楽しそうに他人のラブレター探して遊んでる。

 セフィラの納得いかないって思いが伝わるようだった。


(まぁ、隠してるとは言え、本にしてるから。他人に見られること前提の形ってことで。これが、特殊な例だと思ってほしいな)

(自己顕示欲の強い作者であることは肯定)


 しかも初恋をした十歳から、ずっとラブレター書き溜めてたとか書いてある。

 相手が結婚してもまだラブレター書いて、未亡人になっても書いて…………。

 これで何がすごいって、一通も出してないそうだ。

 完全に初恋をこじらせてる。


 本にしてる上に、暗号にしてそんなこと隠して、ラブレター遺して。

 世の中の人の恋愛観や思いの処し方は色々あるんだなぁ。


「えっと、今から暗号探すより、他の書籍確認はいいの?」


 僕の声に、集まってた女子たちは当初の目的を思い出した。

 そしてイルメが代表して、占術の本を僕に返してくる。


「うん? 本棚に戻すの?」

「公平を期すために、アズが預かっておいて」


 また僕か。

 以前クラスメイトで図書館に行った時も、謎解きに夢中になりすぎるからって、僕が預かってた。


「学園で渡せばいい?」

「いいえ、女子会をする時の余興に使えそうだから、それまでは持っていて。あ、もし時間があるなら、解き方を見えないように渡してくれたら答え合わせもできるわね。私がすると、時間を忘れそうだし」


 イルメは確かにそうだね。

 っていうか、女子会ってそういうものなの?

 参加断ったけど、なんか結局余興に噛むの、僕?


「じゃあ、代わりに精霊関係の本あったら貸してほしいな。わからないところあったら質問しても?」

「えぇ、そういえば人間は精霊信仰がないものね。そうね、今後の発展を思えばアズには精霊の何たるかを一から教えてもいいわ」

「軽く、軽いものでお願い」


 人工精霊のためになんかさせられそうだ。

 僕が声を上げるとエルフのイア先輩が反応した。


「アズは精霊に興味ある? だったらここ、精霊に関する蔵書あるよ」


 そう言って、一冊を持ってきてくれた。

 錬金術関係で出されている本とは別のものだ。


 縦長の冊子って感じの小さめな書籍。

 革の表紙は年月じゃなく、元の質のせいか表面が割れてる。


「印刷物なんですね」

「そうそう。私の地元のリビウスで作られた本でね。船乗りから聞いた話を集めた簡単な内容の読み物」


 人間の国は大半が大陸の内側にある。

 けどリビウスは、帝国成立後に人間が大陸の外へ広がる中でできた、大陸南西の海に面した国だ。

 山脈を越えた向こうで作られた書籍だと思うと感慨深い。


「エルフに、竜人、海人の話もいくつかありますね」

「リビウスは交通路だからね。他国の不思議な話を集めましたって感じだよ」


 つまるところ短編集。

 印刷物で文字が潰れてたり、ずれたりして、けっこう雑な作りだ。

 けど版画の挿絵や想像図のようなものが載っていて面白い。


 アラジンと魔法のランプみたいな話もあれば、白雪姫のような話もある。

 多国籍な話だけど、けっこうファンシーな内容に思えた。


「あれ、リンゴで呪いって…………。ねぇ、イルメ。これってトリキスたちに話したっていう、精霊の呪いを受けた一族の物語だったりする?」


 イルメは僕の精霊という言葉に反応してまた寄って来る。

 冊子を渡して反応を待つけど、見る間にイルメの眉間は険しくなった。


「あれ? イア先輩?」

「え、え、なんで?」


 エルフのイア先輩も、イルメの何に触れたのかわからないらしい。

 そんな僕たちに、イルメは勢い込んで冊子を閉じた。


「こんな不敬にもほどがある話を真に受けないでちょうだい!」

「「は、はい」」

「どうして呪われた側が被害者のように書かれているのかしら! そもそもの禁を破ったのはこの呪われた者よ。しかも本来の伝承にない話まで追加されて!」


 どうやら読み物として改変してあったようだ。

 それが宗教家の一族のイルメには噴飯もの。


 勝手に話の趣旨を変えられて、本来の正当性が逆にされてると言う。


「しかも精霊さまの言行をこんな薄っぺらな読み物に貶めて!」


 軽い読み物にされてるのも、怒りポイントかぁ。

 前世無宗教でも生きていられた国の生まれだから、僕にはいまいちわからない。

 けど、前世でも聖典を棄損したとか、映画での扱いが雑だったとかで殺害予告とか、実際に身の危険があったなんて話も聞いた覚えがある。


 イルメはそこまで過激じゃないけど、気をつけよう。

 自分が信じてないからって、相手が大事にしてる思想を蔑ろにするのも悪いし。

 どう宥めようかと思ってたら、イルメが指を突きつけてきた。


「いいでしょう。私が本物というものを教えるわ。こんな間違った精霊の姿を信じてしまう前に!」


 どうやら精霊についてのことで火がついてしまったようだ。

 願ってもないとは思うんだけど勢いが強い。


 精霊ってもの食べるの? なんて俗な質問したら怒られるかな?


「その…………お手柔らかに、お願いします」


 断るのも違うし、僕はそういうしかなかった。


定期更新

次回:イルメの精霊談議4

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― 新着の感想 ―
美味しんぼみたいな展開! 至高の政令と究極の精霊対決が見れるかしら。
噴飯の語源は思わず食事を噴き出すようなおかしな話みたいな感じですが、明治以降ではそこを捻って上から目線でそんなのはおかしな話だと使われる文豪や物書きもいるので誤用というより特殊な利用法ですかね。 もっ…
噴飯ものという表現を『怒り』の際に使用するのは明らかな誤用です。 日記であればともかく、小説家として活動されているのであれば修正されるべきだと思います。 延々を永遠、ケージをゲージ、など頭の悪い間違い…
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