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442話:イルメの精霊談議2

 イルメ、トリエラ先輩、ショーシと一緒に図書館へ行くことになった。

 前と同じく学園前で合流し、引率もノイアンで、馬車に乗って移動する。


 ただ今回は、学園都市内部の図書館だ。


「今回は、とある偉大な学者の蔵書を管理公開する、お屋敷の離れへ向かいます」


 ノイアンの説明では、個人の蔵書を後悔した図書館だとか。

 前世ほど図書が普及してないから、図書館なんて公共で読ませる施設造っても需要がないのが実情だ。


 だから図書館開けるくらいに本を集めてるのは、帝室や教会という長く続くか、もしくは学園や学会という文字を読み書きする人が集まる組織。

 それ以外は個人になるけど、そうなると個人の財産を不特定多数に触らせるって話なる。


「読書が趣味という方で、死後蔵書の散逸を憂えて公開の運びになっています」

「ひぇ、本集めるとかお金のかかる趣味ぃ」

「まぁ、豪遊をなさいましたのね」

「いっそ図書館で生前の散財を少しでも回収したい、遺族の思いもあるのではないかしら」


 トリエラ先輩は本を買うこともない平民のため、個人所有の時点で慄く。

 ショーシが驚くのは、ニノホトでも本が高価だからだろう。

 イルメはなんだかうがった見方をする。


 それにノイアンは目を逸らした。

 もしかしてイルメの読みが当たりなの?

 帝室は個人で図書室は持ってても、個人で図書館はないからお金のかかり具合は貴族の中でも群を抜いてるんだろう。

 予算がないと僕も、本を手に入れるのは個人じゃ無理だったし。


「待ちしておりました」


 個人の屋敷の離れで待ってたのは、エルフで卒業生のイア先輩だった。


 まず身分のあるノイアンに対して挨拶をする。


「今回は引率だ。卒業生として、後輩をよく導くように」

「承りました。…………それじゃ、案内するよ」


 イア先輩はノイアンの許可をもらって切り替える。

 トリエラ先輩は安心した様子で胸を撫で下ろした。


「本に触って怒られるかもって思ってたんです。イア先輩で良かったぁ」

「変なことしたらさすがに止めるよ。けど顔ぶれ見るにその心配なさそうかな」


 イルメもイア先輩に自分から話しかけに行く。


「錬金術に関する書籍の仕分けのような仕事と聞いていましたが。個人の蔵書に仕訳けなければいけないほど錬金術関連の書籍が?」

「そうそう。ともかく本だったら良かったらしくて、錬金術でもなんでもあるの」


 手伝いに来てたので、ショーシも知った相手で会話に加わる。


「あの、どのような内容か系統などはお聞かせいただけますか?」

「それが、本当になんでも。しかも国も関係なくて、竜人の国の書物もあるんだ」


 女子たちでわいわい話すので、僕はそれとなく距離を取る。

 そしてイア先輩に案内を任せたノイアンの横に並んだ。


「竜人の国の書物には興味があるな。ニノホトやロムルーシのものがあれば見たい」

「では、この後にお屋敷にお送りいたします。その、ルキウサリアの陛下もで…………、とある方のお忙しい状況に、図書の閲覧さえままならないことを憂えておいでです」


 なんか、その殿下って言いそうになるの懐かしいな。

 前はヘルコフがそうだった。

 うん、僕もノイアン相手に下手に出て、ばれないように気をつけよう。


「それで、今日はお願いがございまして」

「あぁ、イア先輩の所にわざわざ連れて来たのは?」

「はい、仕事姿勢に問題はなく、金属の扱いにも慣れがあり、合金と鍍金に関しての人手としてはとの声があります」


 あー、絵の具って鉱物使うからね。

 辰砂とか有名な鉱物毒で、触るだけで侵されるし。

 けどそれと同時に綺麗な赤を作れる絵の具でもあるから扱いも覚えるだろう。


 そして鍍金は僕が押してても、贋金のイメージのせいでなかなか進まない。

 なんとか野外使用の天の道には使ってもらってるけど、それ以上広めるのは怖いようだ。

 で、屋敷でアルミに鍍金したいってことを文書にして王城に上げたから、ノイアンも言ってるんだろう。


「金属っていうより鉱物な気がするんだけどね」

「アズ? イェドローさま、何か?」


 僕がノイアンと喋ってるのに気づいてイア先輩がやって来た。

 これは僕に助け舟出しに来たっぽい。

 図書閲覧のために、ノイアン紹介したのが僕って知らないのか。


 引き込むにしてもイア先輩は、ステファノ先輩と絵の具を売る気満々だ。

 しかもそれで商売するため、人も集めてて動かしてる兼業状態のはず。


「イア先輩、こちらの方とは帝都の知人を介して面識があるんです」


 適当、いや、ここはレーヴァンにでもおっかぶせるか。

 レーヴァンとの繋がりはヘルコフってことで、知り合いの知り合い的な。


「錬金術に興味があるそうで、意見を聞かれていました」

「それはお邪魔をしてしまい」


 イア先輩としては、ノイアンは上の人で、そう言えば小国の王族でもあったな。

 その上でルキウサリアでも実績と権威の助手っていう地位もある。


「ちょうど今、金属の扱いについて意見を求められていたんです。イア先輩は鉱物を扱いますが、金属についてはお詳しいですか?」

「私? 石や土ならともかく、金属はわからないな」


 完全に色に特化した知識なわけだ。

 その答えを聞いて、ノイアンも方向性が間違っていたことに気づいたらしい。

 ただ気になることもできたので、僕は質問を重ねてみる。


「アイアンゴーレムの青は金属の色です。それを絵の具にするのなら金属も色の内では?」

「え、あれ金属なの? 鉱物だと思ってた」


 うーん、これ以前、宝石でディオラと話した時のような齟齬があるな。


 イア先輩は、鉱物は石だと思ってる。

 ディオラも宝石は石で、金属は関わってないと思ってた。

 けどどっちも金属を含むうえで、それが色の要素にもなってるんだ。


「…………面白い着眼点だ。金属や鉱物ではなく、色に関しての錬金術が?」

「はい、そうです」

「提出した論文にはそのようなことは何も書かれてはいなかったはずだね?」

「それは、私よりも理解の深い後輩が錬金術科にいたので…………」


 なんだか廊下でそのまま面接的なことが始まる。

 見るとイルメたちがこっちを窺ってるし、長くなりそうだし、僕は離れよう。


「なんだか専門的な話が始まったから、僕たちは大人しく本を読んでおこう」

「アズ、ついででいいから、また謎解きがあったら教えてほしいわ」

「じゃあ、僕は精霊についてのわかりやすい書籍あったら教えてほしいな」


 目的忘れそうだったから、イルメに言われてお願いを返す。


「それなら、女子会があるからそこで、精霊についての物語を弾き語りする予定よ。アズの参加が大丈夫か聞いてみるわ」


 女子会参加って言葉に驚いてると、トリエラ先輩とショーシが頷く。


「アズくんなら大丈夫じゃない? あと、謎解き私も見てみたいな」

「わ、わたしも、是非。その、アズ先輩のお話も聞きたいです」


 イルメにトリエラ先輩、ショーシも何故かウェルカムなんだけど、遠慮します。


 あと、言われなくてもさっきから静かなセフィラがもう走査してるはず。

 ほどほどに見ることをした後に、セフィラに聞いてまた謎かけで隠されたものを選び出した。


「って、これ。精力増強メニュー表?」

「え、何それ!? 見せて!」


 セフィラに言われて謎かけといたら、とんでもないものが出て来た。

 けど食いついたのはトリエラ先輩。


「あら…………」

「まぁ…………」

「あ、違うの違うの! 精力増強を謳う食べ物って、風邪の時にも効くんだよ!?」


 イルメとショーシに、トリエラ先輩が慌てて手を振る。

 その騒ぎにさすがにイア先輩も気づいてやってきた。


 僕は恥ずかしがるふりで距離を取って、取り乱すトリエラ先輩はイア先輩に任せる。

 で、そのままノイアンのほうへ。


「それで、どうするの?」

「金属と鉱物に色と言う共通点があるのであれば、取り出して比較することで新たな知見を得られないかと考えております。それで言えば美術関係の人員を当たるべきかと」

「ま、実用と研究は人員わけたほうがいいね。鍍金やってくれる人員欲しかったけど、イア先輩は向いてないよ」

「そちらはまた改め検討させていただきます。それで、またお願いが別にあるのですが」


 今度は何かと思ったら、さらに声を潜めてノイアンが囁いた。


「ゴーレム作成に必要な錬金術の道具が、王城に運び込まれましたので、近い内に実践をお願いいたします。後日改めてお屋敷に王城より書簡が送られるでしょう」


 ユーラシオン公爵に言って、ソティリオスに見せるって約束したやつだ。

 手間を省くため、ルキウサリア国王も同席の上でって話になってる。

 場所や道具の必要があったから待ってる状態だったけど、どうやら急いで揃えたらしい。

 僕としても問題はないからそこは受けいれておいた。


定期更新

次回:イルメの精霊談議3

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― 新着の感想 ―
そっか〜。 「今回は、とある偉大な学者の蔵書を管理公開する、お屋敷の離れへ向かいます」  ノイアンさんが仰るには、 『個人の蔵書を管理公開するのは後悔した図書館である。』 なんだとの事。 …気落…
個人の蔵書を“後悔”した図書館……これ、“こうかい”違いでは?ボブは訝しんだ
あれっ、ゴーレム作り、王城でやるんだ。 先輩に教えるっていってたから、アズとして錬金術科でやるのかなーって思ってました。間に人を挟むのかな。 ゴーレムのコアになる化石、分解してた時間を進める錬金炉の出…
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