424話:心当たり4
「今狙われるような心当たり何かあったけぇ?」
「四年前にヨトシペが持ち帰った大型魔石?」
黒いイール先生と、白いニール先生が顔を見合わせて言い合う。
ヨトシペ、採集ってそういうのもするんだ?
聞いてたらユキヒョウの先生二人と目が合う。
「ヴィーが何かやってるとか? この一年王城に呼ばれるみたいだし」
「そう言えば灯りの魔法か何か、開発? 再現したって話聞いたねぇ」
教師でもまだそんな感じなのか、いや、そういう扱いか。
錬金術で何をしても、評価に値しないと思ってるから興味を持つこともないわけだ。
それはそれで封印図書館のこともばれないだろうからいいけど。
「招雷ランプのことでしたら、それは錬金術ですよ。属性に関係なく光を作れます」
「へー、すごいね。錬金術でも魔法に使えるところあるよねー」
「盗まれた道具もヴィーと飲んでて思いついたやつだったねー」
なるほど、地雷とかずいぶんと今までにない発想だと思ったら。
違う性質のものを混ぜ合わせるのは錬金術では基本的な考えだ。
逆に魔法は純粋なものほどいいとされる。
そこは正反対の考えで、魔法を基本に考えると錬金術が不条理なことをしてるように感じるらしいのは、エフィが言っていた。
「そう言えば、お二方は獣人。身体強化の魔法ですよね?」
「そうそう。だから自分でも便利に魔法使いたくてさー」
「力強くても水運ぶの重いし、火はポンとつけたいんだよ」
すごくわかるから頷いてしまう。
便利さって大事だよね。
全属性使える人間と違って、獣人は身体強化魔法だけだ。
しかもそれでこのユキヒョウの先生たちは魔法学科を卒業してる。
周りはできるのにって、羨む気持ちも強いだろう。
「…………なんで魔法学科に?」
絶対苦労するってわかってて入っただろうし。
そう思って聞いたら、ニヤッと笑った。
「そりゃ、身体強化の魔法しか使えないくせになんて馬鹿にされたらねぇ」
「身体強化の魔法しか使えない俺たちに負ける程度の魔法学科さまなんてねぇ」
どうやら負けん気で魔法学科に入学、そして九尾と呼ばれるほどに成果を残した。
これは強いなぁ。
「ちなみにどうやって試験をクリアしたんですか?」
「火属性だと火をつけろとかあるでしょ。身体強化でこう、一気に木に棒をこすりつけて」
「水出せって言うならダッシュで汲んできて、ちんたら詠唱してるより早く終わったよぉ」
すごい力技だけど、もう一人力技がいる気がするな、九尾。
「ヨトシペも、もしかして?」
聞いたら大きく手を横に振られる。
「規格外すぎて、あっちはまた別だよ、別。一緒にしないでね」
「俺たちは魔法の道具作るって方向にまっとうにやってるから」
どうやら力尽くも限度があり、それで魔法道具を極める方向に進んだらしい。
結果としてその才能があったようで、ハリオラータに目をつけられた。
そう言えばエフィが、魔法道具の名の知れた教師に教えを請いに行ったと聞いた。
改めてこんな先生だと思うと納得するところもある。
エフィに教えを請われたところに、興味を示したテスタが居合わせたら、丸投げする姿が想像しやすい。
「魔力効率とか」
「術式の短縮とか」
「効率は大事ですね、その分小型化もできますし。術式は短縮で弱くはなりませんか?」
「お、いける口じゃん。そうそう、そういう問題もあるんだよ」
「そうか、入試の成績の…………そういえばあれ、君かぁ。へぇ」
つい話に乗ってしまったら、すごく興味ありげな目を向けられる。
「そういう拘らなさって錬金術科だからかな。魔法使えると自分が何をするか考えるし」
「魔力だって動力だ。なのに魔法学科って危険行為抑えるために神秘の力とか飾ってさ」
動力と言い切るのは、だいぶ魔法使いにとっては受け入れられないだろう。
自分がただの動力を生むだけの存在だと、貶められるように感じるかもしれない。
それと同時に神秘の力と飾って、学生に自制を求める方針だから、余計に特別な力を牛馬のように貶められた気がするんだろう。
「特別な力だからこそ、自分のためではなく多くの者のために使えというお題目は立派だと思います。自ら力を振るって守るのも上に立つ者であれば名誉です」
「あぁ、貴族の考え方柔らかく言うとそうなるね。でも俺たち平民出だから名誉よりも実利」
「あとは俺たちハドリアーヌ出身だけど、親はロムルーシであんまり帝国風も馴染みがね」
つまり魔法への考え方にロムルーシの気風があるわけか。
うん、それで錬金術的考えを取り入れて、技術化しちゃうってもしかして封印図書館から発生した枝葉?
いや、なんの確証もないしそこは考えすぎかな。
なんて考えて、僕はソティリオスがずっと黙ってることに気づく。
そう言えばウェアレルも何も言ってない。
「え? どうしたの?」
見ると二人揃って深刻な顔をしてた。
僕が声をかけると、ウェアレルは困り顔を向け、ソティリオスはいっそ僕に詰め寄る。
「ハリオラータに、狙われる、物! なんで張本人が知らないふりなんだ?」
「え、何かあったっけ?」
聞き返したら、ウェアレルが呆れ半分に納得した。
「錬金術として捉えているので、結びついてないのかもしれませんね」
それにユキヒョウの先生二人の耳が立つ。
「え、何があるの? っていうか錬金術科が噛んでる感じ?」
「学園にはハリオラータに狙われるもの、思いつかないのに」
「学園じゃありません。今は王城です」
ソティリオスの言葉に考えてみる。
僕が関わって王城って封印図書館?
魔導伝声装置だったら表向きはウェアレルだし。
わからないでいるとウェアレルが教えてくれた。
「今王城には、錬金術科の生徒が捕獲したゴーレム数体があります。その内の一体は、青いアイアンゴーレムです」
「うわぉ! あれ捕まってたの?」
「えー、そんな報告受けてないよ!」
あ、あー、そうか。
ゴーレムって世間的には魔法の産物で、それを破壊せずに捕獲ってすごく難しい。
だから魔法の発展の上では貴重なサンプルとして扱われる。
「青いアイアンゴーレムは、魔法の触媒としても優れているのです」
「え、ステファノ先輩が絵の具にしてたけど」
「はぁ!?」
ウェアレルに答えると、ソティリオスが声を裏返らせる。
「えっと、音楽祭の時の展示用の絵に使って…………。というか、捕まえたのも絵の具に使いたいって言われたからだよ」
「え、絵の具? すっごいね」
「っていうか、捕まえたの?」
ユキヒョウの先生二人は長くて太い尻尾を細かく震えさせ、興奮ぎみだ。
どうやら魔法使いにとってはとんでもないものらしい。
けど錬金術科の誰もそんなこと言ってなかったな。
たぶん一緒にいた相手が問題かな?
獣人二人とエルフの先輩で、たぶん種族的に触媒としても魔法に使えないんだろう。
突っ込んでくれそうなのはキリル先輩くらいかな。
魔法使えたはずだけど、もしかしてステファノ先輩の奇行に慣れすぎてて突っ込み忘れた?
そう言えばゴーレムが接収されたことにもあんまり驚かずにいたな。
「えー、じゃああのアイアンゴーレム、実験材料にしちゃいけないのかな」
「するな、いったい何百の金貨が吹っ飛ぶと思ってるんだ」
「あの青い色を再現したいんだけど。錬金術的にも多分、使えると思うんだよね」
絶対何かしらの化学反応の結果だし。
高価だからって、勝手に売り飛ばすなんてことはルキウサリア側もしないだろう。
けどなんの説明もなしにそんな高価なもの手放せない。
手放しても、今度はお金目当ての悪漢が僕たちに目をつけるだけだ。
これは、ルキウサリア国王も扱いに困ってそうだな。
「よぉし! それじゃアイアンゴーレム見に行こう!」
「ウィー顔きくんでしょ? ちょっと案内してよぉ!」
「は? ちょっと!」
白黒に挟まれて、ウェアレルは腕をホールドされた。
身体強化の魔法を使ったようで、そのまま引きずられていく。
けど扉の前でユキヒョウの先生たちは振り返った。
「あ、学園にいる間は俺たちのどっちかつくから」
「あと医療班に扮した人たちも待機させるから」
たぶん一番の要点を雑に処理してる。
そのままユキヒョウの先生二人はウェアレルを引きずって部屋を出て行った。
僕もソティリオスも止めない。
ウェアレルには申し訳ないけど、アイアンゴーレムの処遇もついでに聞いてきてほしいな。
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