423話:心当たり3
ルキウサリアの王城で、ユキヒョウの獣人ニール先生とイール先生からハリオラータの注意を聞く。
「まず大前提。淀みの魔法使いがいることに気をつけてねぇ」
「淀みの魔法使い? そう言えば、自爆した危険な相手がそんなことを言ってました」
黒いイール先生に言われて、バッソと呼ばれたハリオラータの幹部らしい実力者がそんなことを言ってたことを思い出す。
あの時は目の前で自爆されたショックでそこまで考えが回らなかった。
ソティリオスは記憶を探るように応じる。
「とても危険な魔法使いだと言う。地脈の悪い部分にあえて立ち入ることで力を得るとか」
「そうそう、淀みに浸った魔法使いで、淀みの魔力を体になじませることで飛躍的に魔力を増して、魔法の威力もあげてるんだ」
今度は白いニール先生が言った。
その淀みって言葉は聞き覚えがある。
最初に聞いたのはいつだったかな。
なんとなく魔法の話とかで出てくる単語って感じ。
鬼がどんな概念の怪物化なんて説明できなくても、悪いものと知ってるのと同じように。
具体的に聞いた中で最近なのは、モリーが教会も目を光らせてるとか言ってた。
「強さと引き換えと言いますか、確実に精神に異常をきたしますので、危険です。そしてハリオラータには淀みの魔法使いが所属しているというのが通説ですね」
ウェアレルが基本情報を共通認識にするために声にする。
知ってたことだけど、実物を見た後だと危険性がより身に染みた。
あのバッソが淀みの魔法使いなら、異常性には頷くしかない。
直接見てないソティリオスが、納得する僕を横目にウェアレルに聞く。
「実際はどんなものだった?」
「私と魔法の打ち合いで退かず、まだ手の内を全ては晒さない余裕もありました」
それを聞いたユキヒョウの先生二人が耳をピンと立てた。
「うわ、それ絶対ハリオラータの幹部だよ。幹部の条件に淀みの魔法使いになってること、なんて情報拾ったことあるし」
「けっこう幹部は特徴的な格好してたりするから、知られてる相手は知られてるんだよ。眼帯とか、大きな傷とか」
「遭遇したのは、あまり特徴のない人ですね。ただ他二人は口元に大きな傷の男性と、眼帯をした女性でした」
僕が言うと、ユキヒョウの先生二人は唸る。
「口に傷と眼帯は確定で幹部。どっちもけっこう若かっただろ?」
「他にわかってるのは膝を越える長髪の男と、顔に目立つ傷のある女」
幹部の外見の特徴を言えるって相当だね。
ルキウサリア国王に指名されるだけはある。
どうやら盗まれたことに腹を立て、独自に追うことをしていたらしい。
ソティリオスはだからこそ首を傾げた。
「それだけの情報があって、捕縛も討伐もできていないのですか?」
「できてないんだよ。逃げ足が速いし、だいたい姿を現す時にはヤバい魔法を実験する時で、追うどころじゃない」
「少数で追ったところで返り討ちにされる。それが淀みの魔法使いだ。真面目に研鑽した魔法使いの比じゃない」
言って、ウェアレルを指すユキヒョウの先生二人。
「ウィーとヴィーの魔法は雷でしょ。俺たち九尾と呼ばれた同輩の中で、先手を取れる奴はまずいない速度の魔法なんだよ」
「それと魔法を打ち合えたってことは、もう普通に相手しないほうがいい。俺たちの中でも避けられるのヨトシペだけだし」
比較対象がおかしい気がする。
いや、雷と比較されるヨトシペのほうがおかしいのかな?
ともかく、あんまり特徴のない黄緑の髪の幹部クトルは、言動もヤバかったけど、実力も相当なようだ。
僕は嫌な予感がして、最後のクトルの発言を伝える。
「あの、また来るって言われたんですが?」
「「本当!?」」
「近い、離れなさい」
僕へと前のめりになるユキヒョウの先生二人を、ウェアレルがソティリオス相手よりも早く間に入って押し戻した。
そして話を引き取って教える。
「優秀な魔法使いを勧誘するという話は、ちらほらあったでしょう。そして対抗した私を勧誘。もちろん断りましたが、魔法を使わなかったアズくんにも興味を持ったようです」
ウェアレルの表情が曇るのは、犯罪者が皇子に目をつけたからだ。
うん、よく考えたら相当まずい感じだな?
なんて思ってたら、聞いてないって顔でソティリオスに睨まれた。
「聞いてないぞ、アズロス?」
あ、言われた。
「うん、なんか自爆しても笑ってる気味悪さのほうが勝ってね。言い忘れてた」
「忘れるような軽い問題じゃないだろう!」
怒られた。
「いや、でも本当、僕に興味持つ理由思いつかないし。その場の乗りとか?」
「目をつけられたなら、それだけ興味持たれることしてるはずだよ」
「あいつら魔法馬鹿だから、何か魔法に関わることしてなーい?」
ユキヒョウの先生二人に言われて、ウェアレルが心当たりを上げた。
「もしかしたら、ハリオラータが作った杖型の魔法道具を、逆に利用した機転に目をつけたかもしれません」
「あー、それありそう。あいつら魔法を高めるとか好きだから、そういう道具とか魔法理論の面白い解釈とか好きなんだよね」
「今まで学園で狙われたのがそういうのばっかり。完成してたり、価値を認定されてなくても、ハリオラータが面白いと思ったら盗む」
ユキヒョウの先生二人は、実際に阻止したからこそ確信を持って言う。
そんな話を聞いて、ウェアレルは耳が垂れてしまった。
「それは、まずいですね。アズくんは、とてもそうしたユニークな着眼点の多い学生です」
「あぁ、何を考えているかわからないのに、結果だけを見ると狙いを外さない」
なんかソティリオスまで頷いてる。
そこにユキヒョウの先生二人がさらに真剣に受け取る。
「それは気をつけないと。研究記録や研究成果の盗みもするけど、あいつら有望な子供を誘拐しようとしたことさえあるからね」
「まぁ、だいたいそういうのは十歳未満だったから、ここの学生は範囲外のはずだけど。誘拐って手段取るのは覚えておいて」
つい二か月前に、別勢力とは言え誘拐されたソティリオスが渋面になった。
ウェアレルも尻尾が落ち着きなく揺れてる。
(セフィラ、出会った幹部三人は捜索可能?)
(可能です。しかし未確認の幹部は難しいでしょう)
(淀みの魔法使いは抑制が効かないみたいだから、今までどおり僕に害意があったらわかるんじゃない?)
(ありませんでした)
セフィラが即座に否定する。
(主人に勧誘を持ちかけた者も、自爆した者も、霧に紛れて逃げた者も、害意なく殺そうとしていました)
(何それ怖い!)
もはや精神構造バグってるレベルじゃないか。
(あ、いや、逆にその変な精神性の人物を捜すことは?)
(可能です。淀みの魔法使いと言われた三人は、魔力の流れに特徴があり、検出可能)
良かった。
いや、あんまりよくないけど。
あんな自爆攻撃する相手が、笑顔で隣にいるなんてことにはならなさそうだ。
(一応、ウェアレルとも今の情報共有しておいて。学園内では僕を守ってくれる立場だし)
セフィラにお願いして少し経つと、ウェアレルは驚きの事実に耳が警戒して動き出す。
それ見てユキヒョウの先生二人も耳を立てるけど、何も聞こえないらしく首を傾げた。
そうか、人間だと獣人の耳や尻尾が動いててもあんまり気にしないけど、同じ獣人の特徴持ってるなら、その意味わかるよね。
ウェアレルも見られてることに気づいて、話を変える。
「思ったのですが、報復と誘拐、どちらを優先すると考えますか?」
つまりソティリオスか、僕か。
聞かれたユキヒョウの先生二人は何かに気づいた様子で、さっきのウェアレルと似た感じに耳を立てる。
「そうだよ、おかしい。あの魔法馬鹿の集まりがなんでそんなしつこく襲撃?」
「しかも幹部が出張るって不自然すぎる。あいつらその辺り雑なのにさ」
報復や犯罪者としての体面なんて二の次の魔法馬鹿という認識なのに、襲撃を二回。
しかも幹部を使って。
一回目は新兵器の試運転かねての視察と思える。
けど二回目は明らかにその場しのぎだった。
僕と同じ疑問に辿り着いたユキヒョウの先生たち。
ハリオラータがルキウサリアで狙う本命について、何か心当たりはあるかな?
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