421話:心当たり1
道中でハリオラータの襲撃を受け、追い返した僕たちは先へ進んだ。
狙いどおりその後は先回りされることもなく、ただ気も抜けないからひたすら先を急いだ。
ルキウサリアには小型伝声装置を使って、屋敷へ連絡し、そこから王城へも一報を入れてある。
だから僕たちが辿り着いた時、ルキウサリアの国境には、十分な数の兵が揃ってた。
(観測する者がいます)
馬車の外へ出て代表者の挨拶を受けてたら、セフィラがそう忠告してきた。
(敵で確定?)
(以前の襲撃でハリオラータの構成員が身に着けていたものと同じ装飾が確認できます)
(組織的なマーク? それとも魔法の道具?)
(魔法一つに限定して速射に特化したメダル型の道具です)
(すぐにウェアレル、ヘルコフ、イクトに共有)
揃ってこっち見る側近たちの考えは、長い付き合いだからわかる。
僕に安全圏へ退避しろって言ってる。
けど側近たちもわかってるんだ、僕がここにいて囮になるつもりなのを。
僕が動かないとわかると、イクトが動いた。
足音も気配も消して、不審者の死角を狙って確保に向かったようだ。
そしてヘルコフは敵側から僕が見えないよう射線を切る位置に移動。
ウェアレルは動かずいつでも魔法を放てる準備を始めた。
「…………せっかちだな」
「なん、だ!?」
僕の呟きにソティリオスが聞き返そうとしたけど、同時に爆発音が響く。
ウェアレルが放たれた魔法を迎撃した音だ。
「たぶんハリオラータ。ここで狙ってきたなら威嚇か最後の嫌がらせ。もしくはすでにこの先に罠を仕掛けてるか」
「冷静に言ってる場合か! ともかく退避を! 他の者は確保に向かえ!」
「もうイクトが行ってる」
小声で言う僕に、ソティリオスは周りに指示を出そうとするけど、それよりイクトが早い。
見れば、敵の横合いから切りつけてた。
たぶん相手が厚手のローブを着てることと、動きが思いのほか早くて浅いかな。
さらにローブの割に中は細身の女性で、袈裟懸けに切られつつも逃げる余裕があった。
斬られたローブが落ちて顔が露わになる。
ベリーショートの髪も目を引くけど、片目を隠す眼帯も印象的な賊。
目を奪われた一瞬、女魔法使いから噴き出すように霧が出た。
「これは、魔法の属性を複合させてる?」
「そんなことができるのか? いや、ハリオラータだからか」
ソティリオスと話す間に、周囲の兵はイクトに続いて敵の下へ。
関所の砦だし、守りの兵も多いから一見して優位だった。
けど捕獲に向かった全員が霧に巻かれてるのは、距離を取ってるこっちからは見えてる。
そして高い位置から狙った敵に、落ちるような影の動きがあった。
「あ…………!」
「今回一人だけだったのは、確実に逃げ果せるためか。だからあれも死んではいないよ。この先に敵が潜伏してることを疑うべきだ」
すでにセフィラが、単独の賊が逃げたことを確認してる。
だから僕は言いながら、悠々と安全な砦の中へと退避した。
翌日の出発は延期して、大急ぎでルキウサリア国王から派遣された兵たちが、帰りの道を選定し直し、警備体制を組み直すのを待つことになる。
「うーん、困ったね」
「何を暢気に。学園都市に戻るまでに、二十三人もの刺客が現れたんだぞ」
ソティリオスが訴えるけど、学園都市に戻って来た僕らは無傷だ。
想定された襲撃は小規模ながら繰り返され、結果、捕縛は二十三人に上った。
「だって、魔法の腕のある人はいないでしょ。魔法の腕がそのまま偉さになるらしいハリオラータでの、幹部は一人も捕まってないと考えていい」
あと、セフィラによるチートな取り調べの結果、大した情報も持ってないことは判明してる。
襲われたこともあって、僕たちは学園都市に入ってから、王城のある街へと移動した。
そのまま一度、改めて屋敷なんかの周辺警備を見直すため、今日は王城に一泊だ。
「それにけっこうな数、学術的な人員がハリオラータだったことが判明したし」
「あぁ、最近侵入したとかではなく、元から研究者や学生として入っていた者だな」
面倒なのは、全員が熱心な勉学の徒とみなされてたこと。
そもそもハリオラータが、犯罪をしてでも魔法を極めたいという人の集まり。
そのせいで、勉強熱心な人がいてもおかしくない。
特別犯罪をしたいなんて心理がなくても、研究を深めるためなら一つの手段と割り切ってる感じなのが手に負えない。
「つまり、裏の顔を誰が持ってるか、疑ってかかりましょう」
僕はルキウサリア国王に面会して手短に問題点を挙げた。
ルキウサリア国王は眉間の皺が隠せてない。
ソティリオスは信じられないものを見る目で僕を見てた。
「お前、ここでもか…………」
「何が?」
「少しは繕え」
「散々宮殿で繕ってたからいいでしょ」
「目がある時だけだろう」
小声で怒られる。
すでにソティリオス他、ユーラシオン公爵にもばれたことは伝えてある。
そのせいか、ルキウサリア国王が使えそうかなって顔し始めてるよ。
ソティリオス、それでいいの? 僕のお目付け役回されちゃうよ?
僕は話を戻した。
「今のところ大丈夫そうなのは学園の教師でしょうか?」
「それは、もちろん」
僕がそう言う理由を思い出したのか、ルキウサリア国王は苦笑い。
入学体験でのハドスという元家庭教師が問題を起こし、前学園長も問題を起こした。
そうした対応を受けて、ルキウサリア国王は僕が入学するまでに学園に手を入れたんだ。
その中には教師や事務と言った、学園関係者の身元の洗い直しも含まれた。
何せハドスの前職や家の派閥があの事件に関わってたからね。
「登校を見合わせることも考えるだろうか?」
「いえ、登校はします。いっそ僕は何度かやり口を見ているので、気づけることもあるかと」
ルキウサリア国王が気遣ってくれるけど、もし本当に紛れてたら、セフィラくらいの相手がいないと見抜けないだろうし。
なのにソティリオスが僕の肩を掴む。
「自重しろ」
「だってただの学生だし?」
「おい、都合よく使うな。それは正体を知ってる者にとってなんの慰めにもならん」
「逆に錬金術科なんて接触する相手も限定される中で固まってたほうが安全だよ」
「あれだけ鈍いふりをしておいて、ばれた途端によく口が回るな?」
「正直な話、お見舞いを理由に不特定多数と接触するソティリオスのほうが心配じゃない?」
事実を言ったらソティリオスが詰まる。
ルキウサリア国王も否定できずに悩ましげだ。
そしてソティリオスが理不尽を訴え始めた。
「どうして、こんな好き勝手やってるほうに隙がないんだ?」
「そりゃあ、先に隙がないように備えたからね」
「待て、何処までが、いや、何処からが狙いどおりだった? 入試の誘拐未遂後の学園都市の警戒は? 入学体験のあの騒動は?」
「ソティリオス、場所思い出そうか」
答えられないから、僕はルキウサリア国王の前だってことを思い出させた。
途端にソティリオスは、恥ずかしそうに無礼を詫びる。
けど、人数を制限した謁見の間にいるのは、封印図書館知ってる面々だから、なんかソティリオスに同情の視線が集まってた。
ルキウサリア国王も、なんかいっそ共感するみたいに頷いてる。
「うむ、段階を置かなければ混乱もあろう。というか、段階踏んでもまだ追いつけないところが…………。ふぅ、いや、今のは忘れてくれ」
愚痴が漏れたね。
そのせいで僕がソティリオスに睨まれるってどうしてかな?
封印図書館関係は僕が何かしたとかじゃないんだけど。
「だが、懸念はもっとも。こちらも自信をもって安全とは言いがたい。故に病を理由にユーラシオン公爵家の屋敷には、医師と薬師、看護の者として人員を配置。必要の際には外出時に同道を許してほしい」
ソティリオスには密かな護衛がつくようだ。
目立って威圧をかけるシークレットサービスみたいな人は、ユーラシオン公爵家からすでにつけられてるしね。
「そして学園内にあっては、教師の中で確実にハリオラータに与しない教員二人が目を光らせるよう手配しよう」
「過分なご配慮、感謝いたします。どの方でしょう?」
ソティリオスが丁寧にやって見せて、これをしろって言わんばかりに僕を見る。
「うむ、教養学科のエーレンコ両教諭だ」
「イール先生とニール先生が…………」
どうやらソティリオスのいる学科には確実に白と言える教師がいるらしい。
ただその名前、聞き覚えがあるな?
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