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413話:慌ただしい滞在3

 情報技官たちを置いて、僕は右翼棟から本館へと戻った。

 理由はもちろん、弟妹だ。


 僕は右翼棟側の階段を下りて一階へ。

 正直歩きなれない場所だけど、それでも進むと知った声が聞こえた。


「「兄上!」」

「やぁ、ワーネル、フェル」


 向かう先の扉の前にワーネルとフェルがいる。

 後ろには侍従や侍女が列を作ってて、ちょっと近寄りがたい。


 まさか全員二人を捕獲役なんてことは、いや、さすがに去年ルキウサリアに来てたし。

 その辺りは改善してると思いたい。

 というか、宮中警護一人しか連れてない僕のほうが異常って可能性のほうが高いね。


「二人とも来てくれたんだ。授業の時間は大丈夫?」

「兄上がライアに会うって聞いたから、会いたいもん」

「僕たちね、そっちの部屋で楽器の練習してたの」


 近くでお勉強してたらしい。

 たぶん音響のいい部屋があるんだろう。

 うん、そういうのも僕は知らない。


 そんな僕たちがいるのは右翼側の一室の前。

 ここがライアの今の部屋だ。

 ライアは本来皇女の間を与えられてるんけど、そこには不穏な抜け道がある。

 だから抜け道を改めて調査して、塞ぐために人が出入りしなくちゃいけなくなってるんだ。


「ライアは、まだ機嫌治らない?」

「知らない人が部屋に入って来て怒ってるし、怖がってるよ」

「その部屋も追い出されて、今は怒ってるほうが強いんだ」

「そうか。環境が変わるのがよほど嫌なんだね」


 ライアは現在へそ曲げ中だ。

 理由はまず、宮殿占拠事件。

 そしてそこに救出のためとは言え知らない人が大勢来たこと。

 さらにもう一つ、自分の部屋から追い出されたことも追加か。


「妃殿下以外をほぼ拒否して会ってもくれないって聞いてるよ。他に知ってること、あるかな?」

「特に大人の男の人は嫌がるよ。父上も駄目だったんだ」

「占拠された時に、いっぱい男の人が来たからだと思う」

「そうなんだね。じゃあ、テリーや二人は? 嫌がられてはいない?」

「ちょっと平気?」

「でも嫌って言われる」


 ライアはだいぶ重症そうだ。

 元から癇癪持ちな赤ん坊だったから、色々機嫌を取る方法を周囲は考案してる。

 ただ今回はそれも全て効かずに、お手上げ状態らしい。

 何せ普段以上のショックと恐怖を受けたんだから、仕方ないとは思う。


 今回僕がここへ来たのは、妃殿下の要請だ。

 癒しが欲しいなんて父が寂しがってたのも、ライアに拒否されたからってところもあるんだろう。

 そして双子情報で大人が駄目ってなると、身長が伸びた僕は怪しいところだ。


「ここで考えててもしょうがない。ともかく入ろうか」

「「うん」」


 先に許可を取っていたから、問題なく双子と入室する。

 ついてきた人は、控えの間にだいたいが残ることになった。

 大人の男性は駄目で、イクトと顔見知りの双子の宮中警護も控えの間で待機。

 見慣れない人も駄目だから、双子の侍女らしい人たちも待機だ。

 ただ職務上の理由で扉は半開きにしてある。

 中で何かあれば駆けつけられるようにって。

 ただ、その扉からライアに見える位置に宮中警護が立つことは禁止だそうだ。


「時折魔法を放たれることがありますので、どうか、我々の後ろに」


 ライアの守りを担う女騎士が僕たち皇子に一人ずつつく。

 その上で軽鎧を身に着けていた。

 守りを固めてるのは、それだけ危険があるからだろう。


 魔法が得意なライアは、その分感情が暴走すると魔法が勝手に発動するから。

 もしかしたら実際被害が出るような深刻な状況だからこそ、妃殿下も僕を呼ぶという周囲を刺激してしまう手を打たなきゃいけなかったのかもしれない。


「嫌いー!」


 そして僕は、開口一番妹に拒否された。

 痛む胸を押さえて、女騎士の後ろからチラ見してみると、ライアは枕を抱えて寝台の上で完全拒否の体勢で丸くなってる。


「兄上だよ、ライア」

「嫌いじゃないでしょ」


 双子がそうとりなしてくれる姿が、突然のショックを癒してくれた。

 ただ次の瞬間、またライアから拒否の声が叩きつけられる。


「違うもん! アニーウェじゃないもん!」

「えー…………」


 兄上じゃないって言われちゃったよ。

 これは、やっぱり大きさがアウトになった?


 そして知らない大人の男性という括りに入れられたからには、ライアの機嫌は低下の一途ってわけか。

 話しかけるべきか迷っていると、何かが弾ける音が鳴り始める。


「これは魔法? 空気をぶつけ合ってるのか」

「そうなの? ライアが出してる音なのはわかるけど」

「でも誰もなんの魔法かわからなかったんだよ」


 双子も正体不明の破裂音に首を竦めた。


「ここまでの拒否は想定外だなぁ。何か話を聞いてくれるように、いや、まずは僕が僕だって信じてほしいな」

「兄上なら楽しいこと」

「兄上なら不思議なこと」


 双子が言うのは、たぶんライアの僕のイメージだ。

 それに沿えば信じてくれるかもしれないのかな?


 子供の癇癪なんて、前世でも経験がない。

 宥めるとかは思いついても、ラップ音で口挟む隙も与えてくれないようだ。

 うん、前世の教育番組で子供たち相手に笑顔で職務遂行してた、あの歌のお姉さんとお兄さん、すごかったんだな。


(けどそれなら、僕も歌で? いや、さっき楽器練習してたって言ってたし、だったら双子に。…………セフィラ、光の魔法を使いつつ、ライアの使ってる風の魔法の相殺ってできる?)

(可能です。光は事前に動きの指定をすることを推奨)


 セフィラと打ち合わせて、僕はワーネルとフェルに協力をお願いする。


「使ってた楽器は持ってこれる? ライアに弾いて聞かせてほしいんだ」

「ヴァイオリンだからできるけどぉ」

「面白くないし、ライアには難しいよ」


 不安そうな双子に、ともかくヴァイオリンらしい楽器を持ってきてもらって、僕は説明を始めた。


「別に、難しかったり古い曲を弾かなくてもいいんだ。楽しそうな、今思いついただけの曲でいいんだよ」


 作曲なんかはまだ難しい双子が困るけど、僕だってそんな経験ない。

 けど前世で有名だった童謡の主旋律くらいは音階で覚えてる。


 僕はこっちの世界の音階に沿ってドド、ソソ、ララ、ソと弾くよう指示をした。


「これ何をイメージして弾くの?」

「弾き方大事なんだよ、だから教えて」

「えぇと、星の瞬きかな? 跳ねるように、けど、うるさくならない程度に?」


 確か有名な童謡は、きらきら星という名のとおり、星の瞬きをイメージするとか。

 原曲は確かモーツァルトだっけ?

 なんにしても、楽しく、それでいて静かな夜を思わせる曲が、今のライアにはいいと思う。


「星の瞬きは、こんな感じ?」


 ワーネルが弾むように音を出しつつ、音の強さを迷う。


「うるさくないのは、こうかな?」


 フェルが強弱をつけつつ尾を引くように弦を揺らした。


「二人とも上手いね。じゃあ、その続きだ」


 僕は少しずつ教えて、きらきら星を奏でてもらうことに成功する。

 セフィラはその間も、ライアが嫌がって出す破裂音を相殺し、音が鳴らないようにしてた。


 そして双子の奏でる音に合わせて、瞬く光が流れ星のように落ちて消える光の魔法を発動。

 最初は弾いてる双子も気づかず、跳ねながら、うるさくないように弾くことに意識を集中する。

 けど気づけば声を上げて、音に合わせて流れるとさらに気づけば、目が輝いた。


「「星が流れる!」」


 二人は即座にきらきら星をアレンジし始める。

 急な変更に合わせられないかと思って慌てたけど、セフィラは対応してみせた。


(わ、大丈夫?)

(すでに風の魔法は止んでいます)


 言われてみれば、ライアが枕を置いて寝台から身を乗り出してた。

 流れる星に目を輝かせ、双子が弓を操る動きに合わせて頭も揺れてる。


「見えやすいようにカーテンを閉めて。ほら、よく見てライア。色がついてるよ」


 僕は室内にいる世話係に指示を出す。

 同時にセフィラに新たな術式を加えるよう言って、まずはほのかに色を灯す。

 音の強さに合わせて光も強くすると、目を見開いたライアは、僕を見た。


「ライアもやるー! アニーウェ、ライアも!」


 明るく好奇心に満ちた声に機嫌の悪さはない。

 どころか僕に向かって笑顔さえ浮かべてる。

 どうやらライアは、また僕を兄と認めてくれたようだった。


定期更新

次回:慌ただしい滞在4

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― 新着の感想 ―
きらきら星はモーツァルト原曲ではないですよ。 「あのね お母さん」というフランス民謡を元に変奏曲が作曲されました。
おおうクリティカルヒット…やっぱりアーシャもアウト判定だった これは分かっていてもダメージがでかい… でもちゃんとアニーウェだって分かってもらえて良かったね、アーシャ ライアもこれがきっかけで少しでも…
子供用の即行曲を瞬時に作り上げた天才作曲家とでも周囲の護衛とかに見られそう。
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