409話:巻き込む4
人工ゴーレムから強化ガラスの製造まで聞いたユーラシオン公爵は、青の間で僕に懐疑的な目を向けてた。
「あまりにも夢物語と言わざるを得ませんな」
「まぁ、長く失伝技術だったものだしね」
僕が知ってる、僕が解いた、僕ならできる。
そんなこと言っても、ユーラシオン公爵にはなんの保証にもならない。
今までの関係を思えば、なんの罠だと疑うのも道理だ。
飛びつかない辺り、色々考えてはいるんだろう。
人工ゴーレム復活に関する名誉と名声、それを僕がなんの思惑もなく政敵に渡すはずはないと。
(つまりはファーキン組のことだけだと、足りないと評価するからこその疑いだよね)
(皇帝の指揮下に入る宮殿改修を入れても、助けられたという負い目がある側に、有利すぎるという警戒があるようです)
だから他人の心の内は読まなくていいっていうのに。
けど求めるつり合いが、ユーラシオン公爵の中では不均衡になってるわけだ。
最初に錬金術って言ったけど、それはあまり考慮されてないらしい。
人手と伝手なんて僕や父に足りない最たるものなんだけど、そこも本当なら集められるものだと大貴族として生まれ育ったユーラシオン公爵は考えてるのかもしれない。
なんて思ってると、ユーラシオン公爵に声がかけられた。
「ユーラシオン公爵、私から言わせてもらえれば、こちらの殿下は言うからにはやれる道筋を確かに描いている方だ」
「アズロスはやれないことははっきりそう言います。それが偽らない性格であったのなら、まずやれないことは言いません」
ストラテーグ侯爵に続いて、ソティリオスも僕が本気で言ってることを保証する。
そして本質的に同じこと言ってる二人。
顔を見合わせて、なんか察してみたいな顔してるのは何故かなぁ?
…………確かに犯罪者ギルド関係で巻き込まれって共通項あるけどさ。
「そんな顔されることしたかな?」
「ロムルーシでのことを忘れたか。あれだけ畳みかけておいて…………」
ソティリオスが、僕の想定とは違うことで責めてくる。
それを聞いてストラテーグ侯爵も頷く。
「留学のレポートしか目を通していませんが、やはりイマム大公と行動する中で、山が火を噴いた、魔物の大量討伐、宴での毒物対処など殿下が何かしたのですね」
「うーん、そこよりイマム大公に頼んで移動方法の実験してもらってる件のほうが、ルキウサリアでのことと合致するんだけど」
僕の訂正に、ユーラシオン公爵が反応する。
ストラテーグ侯爵は目で迫られて、ルキウサリアで何をしてるかを話した。
「…………天の道に使われる金属が特殊なもので、殿下の助言をいただいておりますな」
「なるほど、すでにやっているからこそ、か」
ユーラシオン公爵はそれで納得してしまったらしい。
というか、僕もルキウサリアに戻って、でき始めたなと思ってたくらいなんだけど。
天の道って言って通じるくらいには、ユーラシオン公爵もルキウサリアの動向には気を配っていたってことか。
ユーラシオン公爵は夢物語と切り捨てるのをやめ考え込む。
「では、人工ゴーレムを坑道に使えると想定しましょう。それが上手く行ったとして、その先は?」
ユーラシオン公爵の問いに僕はすぐには答えない。
「新たな部材としては興味も湧きますとも。ただこちらとしても、相応に手を出すのであれば先の展望を求めるのは然るべきこと。すでにあって問題ない物を総入れ替えするようなことは、今以上の結果を想定しなければやる意義は薄い」
少しでも価値を、それか情報を。
もっと悪くとらえれば、魔物を支配下に入れるような人工ゴーレムは武力にも繋がる。
大質量が歩く、それだけで攻撃にもなるんだ。
けど僕は歩くためのコマンドだけを提示して、動かすための機構は何も触れてない。
実際に魔物と同視されてる人工ゴーレムを、自在に操れるなら。
ユーラシオン公爵の発想もそこまではいってるだろう。
争いは率先してしないけど、自前で持ってる程度には武力を求めはする地位だ。
「…………言ったはずだ。崩れた坑道がちょうどいいって」
「それは、新しい部材で作り直すためということか?」
ソティリオスが聞くけど、遅れてユーラシオン公爵が目を瞠った。
「まさか、事故の起きた坑道での人工ゴーレムの起動?」
「そう、崩れたのがゴーレムなら、もう一度立ち上がる命令を出せる可能性がある。もしくは、立てという命令が生きていれば、崩れた坑道の中でも人工ゴーレムの側だけは空間が確保できる可能性が考えられる」
僕の肯定に、今までよりも真剣に考えこむユーラシオン公爵。
まぁ、ソティリオスに事故のこと聞いた時点でこれはと思ってたんだ。
ユーラシオン公爵は帝都在住の人。
資産である坑道の事故を知ってるのは報告を受けたからだろうけど、それを継子と目したソティリオスにも共有してる。
ただの報告じゃなく、事故防止や再発防止の手を打ったからこそ教材にしたんじゃないかと思ってた。
それだけ、坑道の事故に対して真剣なんだ。
「他にも、回復の機能を使うことで、坑道自体が自己修復させられるかもしれない」
「そんなこと可能なのか?」
僕が言うと、ソティリオスが信じられないように呟く。
「理屈の上ではね。けど人工ゴーレムも退治される。つまり回復にも限界がある。そうしたことはやっぱり、やってみないとわからないんだ」
人工ゴーレムは、一つの術式が動くと、他も連動して動くように組まれてる。
だから見た目の大きさの割に使用する魔力は少なくて済む。
けど、それを部材として使うとなると、運用も変わって来るし、使用する魔力と術式の最適化には計測が必要だ。
説明をしてもまだユーラシオン公爵は考え込んでる。
するとストラテーグ侯爵が、諦めを促すように声をかけた。
「今までこのような考えがあったかな? なかったのであれば、今真偽を考えたところで答えなど出はしない。ましてや、やらなければ結果も見えてはこないのだ。やって使えなくとも発表することに、その先の発展に寄与する成果は得られる。であれば、まずは人工ゴーレムが本当に錬金術か。そこを試しては?」
ユーラシオン公爵はまだあきらめきれないように、ストラテーグ侯爵を見る
「なるほど、ルキウサリアはやってみたのか」
「やって、すでに成果と言えるものを見込めている」
「そう? まだ試す段階だと思うけど」
天の道は製作途中で、動かして積載量なんかはこれからだ。
それを荷物の運搬でどれくらい有効利用できるかも、これからのはず。
転輪馬は実用急いだけど、それでも試運転中。
馬よりも替えが効くっていうのは、けっこう速度を出すという判断には重要らしく、反応はいいんだけどね。
馬なら使えなくなるからってところでも、人間なら力使い果たしてもって判断ができる。
お陰でソティリオスを追ってルキウサリア国内を出るのは早かった。
「それだけの計画を企画しておいて、満足してないのか?」
ソティリオスが呆れると、ストラテーグ侯爵がまたなんか頷いてる。
「こういう方です。見据える先が高すぎて、何をしても道半ばという判断しか下さない。その上、ルキウサリアでは別の人工ゴーレム研究を進める気でいらっしゃる」
「あれ、レーヴァンに聞いた?」
ストラテーグ侯爵の言葉に反応すると、ユーラシオン公爵は目で何をするのかと聞いてくる。
「ルキウサリアにいた青いアイアンゴーレムを再現したくてね。捕まえたから、あれを人工的に作れないかなって。乗り気の錬金術科の先輩がいるから、そっちに任せてみようかと思ってるんだ」
ユーラシオン公爵にやってもらうのはストーンゴーレム。
扱う素材が違うということは言っておく。
ユーラシオン公爵は一度眉間に手を添えて、その後こっちを見た。
「まず、確実に錬金術であると示せる証拠を提示していただきましょう。そうでなければ人を集めることも現状では無理なこと」
「あそこは簡単だよ。だって、人工ゴーレムの核になる素材が、自然物以外は錬金術でしか作れないんだ」
「今まで核に適合する素材自体、魔法使いでは見つけられていませんが。それはなんなのですかな?」
ストラテーグ侯爵が反応するのは、まだルキウサリアでも言ってないからだ。
「石になった植物。錬金術では錬金炉という専用の道具で製作可能な素材だ」
誰もわからない顔なのは、化石を知らないから。
化石という生き物の形をした石があるのは図鑑に小さく載ってるけど、生物が死んで石になるなんて考えがない。
ましてや人工的に作ろうなんて思いいたりもしない。
昔の錬金術師がどうしてゴーレムの核に化石が使えると知ったのか、今となってはわからないことだけど。
ただ言えるのは、錬金術だからこそできる素材であり、魔法では再現できなかった一番の理由だ。
「こんな考え、魔法にはないでしょ?」
人工ゴーレムを造れた時点で、錬金術だと証明することは簡単なのだった。
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