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407話:巻き込む2

 ファーキン組は、帝都に作られた犯罪者ギルドの創設に関わってる。

 そして王侯貴族だろうと襲う危険な一派だ。


 思えば宮殿の大聖堂で襲われた時、あれにはファーキン組が関わってかもしれない。

 それに入試の時の誘拐未遂事件、留学で立ち寄ったトライアン王国での帝国貴族殺害、割符を持ったソティリオス襲撃、誘拐にしても、相手が王侯貴族だろうと関係なしに喧嘩を売ってるんだ。

 皇子の暗殺なんて依頼を実行しそうだと思える。

 そしてレクサンデル大公国でのテロから、ルカイオス公爵領での沈没事件。

 完全に今の帝室と敵対することに躊躇いがない。


「もっと簡単に言うと、僕は犯罪者ギルドが嫌いなんだ」

「それは、好きな者などいないだろう」

「そうでもないから困るんだよね」


 ソティリオスに肩を竦めてみせると、意図がわかりにくいと顔を顰めて示される。

 ただ大貴族の嫡子だ。

 貴族を抱き込む犯罪者ギルドの根の深さも、知ってたのかもしれない。

 顔を顰めて見せた後に、気づいた様子で言った。


「アズロスとして関わったこともそうなら、確かに犯罪者ギルドとそれを組織した一家を嫌うか」

「うん、今回ソティリオスのことでハリオラータも噛んでると思うから、もうファーキン組は潰しておきたい」


 僕の言葉にストラテーグ侯爵とユーラシオン公爵が反応した。

 聞くのは僕への対応に慣れたストラテーグ侯爵だ。


「確信の証拠となるようなことがあったのであれば、お知らせ願いたいものだが」

「状況証拠かな? そもそもソティリオスが隠されたのは、ハリオラータのアジトだった。ってことは皇太后が集めた犯罪者ギルドの残党に、ハリオラータに関わる者がいたはずだ。つまりまだ帝都で活動してる。それにレクサンデル大公国で、ニヴェール・ウィーギントはハリオラータから買ったという魔法の道具を使っていた。犯罪者ギルドがなくなっても、変わらず活動してるんだよ」


 犯罪者ギルドが潰れて、構成していた犯罪者の動きは低下した。

 けどそれももう五年前のことで、ハリオラータは再始動してると見ていい。


「ハリオラータの技術力は確かみたいだし、だからこそニヴェール・ウィーギントに売った道具が破られて、失敗したという状況はプライドを傷つけたはずだ」


 狙いは第二皇子の誘拐だった。

 それが阻止され、宮殿占拠という大それた企みにも噛んだ。


「たぶん、メンツの問題で帝室関係にまだ絡んでくる」


 僕の予測を聞いて、ソティリオスはいっそ胸を張った。


「不届き者が自ら分も弁えず挑むのか。であれば、こちらは正々堂々罪を償わせるだけだ」

「うん、そのためにも他と連携されるのは面倒だ。それにファーキン組は大本を抑えてもまだ動いてる。だったらさっさと動くための資金源を潰したい」


 前世でも、長距離の移動にはお金がかかった。

 インフラの発達してないこの世界では、もっとかかるんだ。

 そして犯罪者は楽に稼げる道を選んで犯罪に走る。

 つまり資金源であるトライアン王国の本拠地を潰せば、人は散って組織的な動きはできなくなるだろう。


 それまでじっと聞いてたユーラシオン公爵が目を向ける先は、僕の家庭教師や宮中警護。


「なかなかに、含蓄がおありだ」

「男の子が冒険譚を聞くようなものだよ」


 ユーラシオン公爵は、僕が知ったように話すことに疑問を覚えたんだろう。

 その答えが家庭教師たちって考えたようだ。

 僕もそれを肯定しておく。


 向こうからしても前世なんて想定してないし。

 それよりも軍にいたヘルコフや、ハリオラータという魔法使い集団を聞くことがあるだろうウェアレル、魔物専門とは言えアングラに通じててもおかしくな元狩人のイクトが情報源だと思うほうが理解しやすいだろう。

 わかりやすく入れ知恵したと思われたほうが、僕としても楽だ。

 実際犯罪者ギルドがあるなんて教えてくれたのも三人だし。


「それにもう一つ言っておけば、今回のことにトライアンは噛んでる」


 僕の暴露に驚きはなし。

 そこは皇太后の故国だし、騒いでいたトライアン貴族を思えば想像もついてたんだろう。


 そしてユーラシオン公爵は広く外国に血縁がいる貴族。

 ただトライアンにはなく、敵対するハドリアーヌと縁がある。

 トライアン王国自体を責めるのに足並み揃えて害はないはずだ。


「私から言えることは」


 ストラテーグ侯爵が、まだ明言を避けるユーラシオン公爵に目を向けた。


「利を示す限りは確かに結果がある。ただそこに関与しようと思った途端に面倒を負うことにもなると言っておきましょう」

「ストラテーグ侯爵の場合は、僕を制限するためじゃないか。面倒なんて自分で負ってるんだよ」


 ルキウサリア国王が僕に流されないように、自分から噛んでるくせに。

 ただストラテーグ侯爵は無視するように別の話をし始めた。


「こうして書籍を用意して見せて、その上で直截に要求を突きつける。つまり、これだけでは決して人工ゴーレムの再現などできないとわかっていてのこと。さらにはこの後にでも、否と言わせない活用を示されることでしょうな?」


 ルキウサリア国王の時と同じように、先に手口を言われてしまった。

 これでは、相手の虚を突いて畳みかけることはできない。

 伊達に長い付き合いじゃないってことか。


 手の内を明かされた僕は、肩を竦めてみせた。


「だったら、先に使い方を説明しよう。ただ、返事はこの場でもらう。早い内にやりたいし、僕も帝都に長居するわけにはいかないからね」


 切り捨てるような発言を聞いて、ソティリオスがじとっと僕を見る。


「本性はそれか。ずいぶんと手慣れた弁舌だな」

「性格悪いのは否定しないよ」


 いつかの教室で思ったことを告げる。


「ただこういうやり方は、教わったんじゃなく体験で得たことだね」


 家庭教師じゃない、政敵からの体験だ。


 目を向けてみてもユーラシオン公爵は無反応。

 気づいてないわけないから、知らんぷりしてるんだ。

 そういう肝は太いのも、また経験かな。


「お声かけいただいたのですから、聞きましょう」


 けっこう上から応じるユーラシオン公爵は、どうも落ち着きを取り戻したようだ。

 これはあれかな。

 ユーラシオン公爵は仕事と切り替えるタイプかもしれない。


 息子の危険だから慌てていたけど、今回は命の危険なんてない状況だ。


(息子のついでで来たつもりが、僕の狙い聞いて切り替えちゃったか)

(思考を知らせますか?)

(いらないよ。交渉しようって相手にフェアじゃない)

(フェアだったことがありません)

(そりゃ、交渉なんて考えもなかったし。僕相手にフェアに振る舞う意義はなかっただろうね、今までは)


 逆に言えば、ユーラシオン公爵は今この時まで、真面目に相手するつもりもなかったんだ。

 その姿勢の変化に、ストラテーグ侯爵が同情を込めた目を向けてる。

 一応この話に噛ませるの、レーヴァンの頑張りの報いとしての善意なんだけど?


「簡単に現存してる人工ゴーレムの問題点を挙げると、ゴーレムの指揮は作った者しかできない。その作った者が不慮の死を迎えて制御不能に陥っている。そして、移動を命令されていたことだ」


 人工ゴーレムに限定せず、ゴーレムと言う魔物は動いて自らが求める素材を体に取り込む生態だ。

 倒すのは難しいけど、倒すことができればゴーレムが拘って集めた資材が手に入る。


「人工ゴーレムが何故魔物のゴーレムと同じような形になったか。その理由は素材を集めて運ぶことを命じられていたから。そして運ぶ場所を指定されていたけれど、制御が狂ってそちらに行かなくなった。あとは残った命令、素材を集めろと言うものを実行し続ける。自衛能力を持っていたから、行く先の人々と争うことになり、今の魔物と変わらない人工ゴーレムになったんだ」

「そう言えば、ゴーレムが魔力を求めて学園都市に近づいたと聞いたな」


 ソティリオスが言うのは、音楽祭前のことだろう。


「それは人工ゴーレムだけの特性だね。魔物のほうは集めた素材で自らを養える。けど人工ゴーレムは動力が必要だ。それが魔力だったんだよ」

「それでは魔法の産物と変わりありませんな」


 錬金術を軽く見るユーラシオン公爵に、ストラテーグ侯爵は首を横に振る。


「ゴーレムは長く魔法によると言われたが、魔法では再現できなかった。それと同じく、小雷ランプというものがある。これは錬金術科の教師が復元した、魔法の機構が組み込まれた代物だ。しかし錬金術を修めていなければ扱うことができなかった」


 つまりゴーレムも一緒、錬金術ありきだという。


「なんにしてもそれで活用は無理でしょう? 危険しかない」

「それはもちろん、歩かせなければいいんだ。簡単でしょう?」


 簡単な答えにも行きつかないことを突きつけると、ユーラシオン公爵はさすがに返答に詰まったのだった。


定期更新

次回:巻き込む3

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― 新着の感想 ―
ハリオラータといえばifルートの一つじゃなかったっけ!? マジかあ! あそこ倒しちゃうんかー! そのルート割とめちゃくちゃ気に入ってたんだけど!!
一方ロシアは鉛筆を使った…精神 ところで漫画版のアーシャとディオラはロリショタ可愛いですねハアハア(*´Д`)
ストラテーグ侯爵良いキャラになったなwww 相対する理由が私心極まりないし、下手な敵よりライバルしてる
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