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406話:巻き込む1

「いらっしゃい、挨拶は面倒だからお付きはそっちで待ってて。君たちはこっちへどうぞ」


 僕は左翼棟の青の間で、控えの間に続く扉を開けて、サロン室のほうへ呼ぶ。


 そうして声をかけられたユーラシオン公爵は、目を瞠って口を引き攣らせてた。

 あまりの反応に、僕は近くのイクトに聞く。


「僕何か変なこと言った?」

「さて? 形式的な仕儀を好む者もいますので」


 ただイクトの返答も違ったらしく、ウェアレルから指導が入る。


「アーシャさま、皇子であるあなたが自らドアを開けて招き入れるのは少々」

「あぁ。けど僕がやってたことはソティリオスから聞いてるはずだし、今さらじゃない?」


 答えて、僕は控えの間を振り返る。

 よく似た表情で絶句してたソティリオスが、すっごい渋面になった。


「こういう、奴だった…………」

「うん、今さら僕に皇子らしさは求めないでね」


 先に断っておくと、ソティリオスがさらに顔を顰める。


「そっちが素なんだな? その妙にふてぶてしい性格が」

「まぁ、わざとゆっくり喋ってた時に比べたらね。こっちのほうが話しやすいでしょ?」

「開き直るな。ふるまいを覚えるつもりもないことを恥ずかしげもなく公言して」


 そう言えばハドリアーヌ一行相手にしてた時、だいぶ文句言われたことあったな。

 そんなことがあったのに、皇子らしくしないって言ってたら、そうなるか。


「あはは、開き直らないと二重生活なんてやってられないって」


 笑って答えたのは、思ったよりソティリオスが普通だったから。

 普通に話してくれるのが正直嬉しい。


 うん、いっそソティリオスにはこれくらい開き直ってほしい。

 今度は喧嘩からかと思ってたけど、これなら。


(ユーラシオン公爵子息の心中を報告できますが?)

(だめ。本人が言わないなら聞かない)


 セフィラがいらない気を回そうとする。

 いや、気を回そうと思うくらいは進歩?

 なんにしてもそこじゃないんだよ、気遣いは。


 ただ水を向けるくらいはしておこう。


「改めて、ソティリオスから何か言いたいことあるなら聞くけど」

「今日までの皇子として不適当な言動を反省しろ」

「あー…………うん」

「するつもりがないな?」


 僕は先にサロン室に逃げる。


 サロン室で待つと、ユーラシオン公爵とソティリオスが警戒ぎみに入って来た。

 そして先に部屋にいた人物に目を止める。


「挨拶はいる? ストラテーグ侯爵」

「ではひと言。…………貴殿も捕まってしまったことにお悔やみを」


 そういう挨拶じゃない。

 この場に呼んだのも嫌がられたから、ルキウサリア関連って言って無理やり同席させたんだけどね。


 ユーラシオン公爵が変なこと言われて、一瞬皺顔になった、

 ソティリオスは、お前何をしたと言わんばかりに僕を見てる。

 まぁ、一応その辺りを話すためには呼んだしね。


「あの場では言わなかったけど、予想はついてるよね? ルキウサリア国王も関わっての二重生活だ。で、基本僕の目的は錬金術の再興にある」


 僕が座って、ユーラシオン公爵とソティリオスも座る。

 ストラテーグ侯爵も座っていいって言ったけど立ってるのは、自分が話の主役じゃないと一歩引きたい悪あがきだ。


 それよりも後ろでもっと他人のふりしてるレーヴァンは、うん、どうせ伝震装置扱ったこと秘密裏に広まるし。

 本当に悪あがきでしかない。


「ルキウサリアにも昔の錬金術けっこう残ってたんだ。今はそれを探す作業を主にやってる」


 封印図書館は言わないから、錬金術科の卒業生たちがやってることを話す。

 大まかに嘘は言ってない範囲でね。


「けど、僕が錬金術を学んだのはここだ。僕はこっちでも錬金術を再興するために、錬金術の有用性を示したい」


 話ながら手を挙げて合図をすると、ヘルコフが百科事典のような書籍に、二の腕ほどの長さの巻物を複数持ってきて机に並べる。


「ただ錬金術はお金と人手と時間がかかる。僕一人じゃ無理だ。そこで」


 目を合わせたら、続く言葉を予想したようにユーラシオン公爵が眉間に皺を寄せる。


 だいぶ慎重な人で、けっこう急な変化に弱いと思う。

 なんていうか、育ちがいいから変な煽りはしてこないし、だからこそ手堅く来られたら厄介な感じかな。

 逃げられても嫌だから、ここは畳みかけるために結論から言おうか。


「人工ゴーレムの生成に興味はある?」

「…………は!? 人工、ゴーレム?」


 ユーラシオン公爵は意味が染みるまで間があり、染みた後にはわからず声を上げる。

 ソティリオスも口を開いていたけど回復が早い。


「待て、それは失伝している技術のはずだ。魔法の、いや、そういうなら魔法ではないと?」

「そう、人工ゴーレムは錬金術だ。ルキウサリアに残ってた錬金術の歴史と見比べて、衰退した経緯もおおよそ推測できた」


 たぶんソティリオスが今考えてるのは、ロムルーシの地下で見たオートマタの変化形。

 あれが錬金術だとわかってれば、人工ゴーレムについても否定はしないはず。


 けど僕の返答を受けてソティリオスが答えようとするのを、ユーラシオン公爵が止める。


「それを、何故私どもに?」


 警戒は今日ここに呼ばれて意味もわかってないせいだろう。

 さらに人工ゴーレムは魔法で作られたと言うのが定説で、それを覆す新事実なら大発見。

 けど事実が錬金術だとなればまた話が変わる。

 一度は昔の錬金術を信じて捜したからこその懐疑もあるんだろう。


 その様子にストラテーグ侯爵が同情の目を向けてた。

 同じように距離取ろうとして失敗したせいかな。

 もちろん巻き込むなら逃げられないように考えてるけどね。


「人工ゴーレムの実験には鉱山が適してると思うんだ。しかも一度は崩れた坑道が」


 ソティリオスが留学の時に、ダイナマイト使おうとした例として教えてくれた。

 ユーラシオン公爵領で起きた鉱山事故。


「ここにあるのは人工ゴーレムの作り方が隠された帝室図書館の書籍だ。どれも暗号化されてる。その理由は一度人工ゴーレムの制御に失敗して、危険物として破棄されたから。製法ごと破棄されたせいで、遺すにはこうして隠すしかなかった」


 僕は百科事典のような本を開いて見せる。

 内容は作詩に関する指南書で、詩に使われた文言の解説まで丁寧に書かれてた。

 ただ目次が引きにくいという理由で、帝室図書館の奥にしまい込まれてしまっている。

 それもそのはず、目次は錬金術のレシピを紐解くヒントになっていた。


 ソティリオスはユーラシオン公爵よりも遠慮なく聞く。


「危険とは?」

「今いる野生のゴーレムと変わらなくなってしまった人工ゴーレムだよ。作った錬金術師の命令しか受け付けないから、その錬金術師が突然死んでしまうと制御不能になってしまうんだ」


 じっと窺ってたユーラシオン公爵は、ストラテーグ侯爵に目を向けた。


「貴殿は、このことをどう捉えているのかな?」


 曖昧な言い方だけど、実際のところはこんな世迷言信じてるのかってことか。


 ストラテーグ侯爵は溜め息をつく。


「こちらの殿下は、すでにルキウサリアにて三体のロックゴーレム、一体のアイアンゴーレムを捕獲していらっしゃる。ルキウサリアが保有する珍種のゴーレムの術理も理解されている」


 珍種のゴーレムは、録音機能付きかな?

 ユーラシオン公爵はルキウサリア国王の従姉妹と結婚してるから、王家の秘密も一部知っているようだ。


「本当に、ゴーレムを再現可能だと?」

「そこはまだやってみないとってところだよ。何百年も前に失伝した技術だ。だからこそ、失敗と試行錯誤込みで金と時間と人手がいる」


 僕の言葉にユーラシオン公爵は答えないのは、全然疑いが晴れないからかな。

 ストラテーグ侯爵はとりなすように言った。


「第一皇子殿下も無欲ではない。求めるものがあるからこそ、提案をしていらっしゃる。そして、殿下は貴族的なやり方を何一つ学んではいらっしゃらない。振られるのを待つだけ時間を浪費することになるだろう」

「あれ、今僕のほうから何か言うべきだった? だったら言うけど、人工ゴーレムの作り方、活用の仕方を教えるから、実際に作って情報を共有してほしい。ただゴーレム制作の時点で、見込みがあると思うなら、トライアンのファーキン組を潰すために足並みを揃えてほしいんだ」


 要求が予想外だったらしく、ユーラシオン公爵は肩透かしを食らったような顔をした。

 その上で何か聞き逃したように考え込んでしまう。

 一気に言いすぎたかな?


 けど犯罪者ギルドは僕と弟たちを狙った相手。

 それがまだいるし、なんだったら残党が活動もできる状態を放っておくなんてできない。

 ソティリオスもトライアン王国の港町で被害に遭ってる。

 これは人工ゴーレムを怪しんでても、足並みを揃えられる案件だと思うんだ。


定期更新

次回:巻き込む2

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― 新着の感想 ―
そりゃトライアン狙うよね。皇子暗殺未遂に始まり、その捜査の妨害、果ては重要参考人を匿って対決姿勢。
「そして、殿下は貴族的なやり方を何一つ学んではいらっしゃらない。」 これが一番大事な共有事項な気がする
ソーくん思ったより落ち着いててちょっと安心した でも閑話のユーラシオン公爵の言葉は後々、遅効性の毒のように効いてきそうでもあるなぁ …とか思ってたらお悔やみでむせたw アーシャが巻き込むと決めた以上…
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