表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

485/657

405話:友人の怒り5

 宮殿での宴って、何気に僕は初参加だ。

 うん、豪華なパーティーって感じ。


「座ってるのつまらないね」

「ライアはキラキラ喜ぶけど」

「こら、足を揺らすな。それにライアは先の事件で人見知りが激しくなっているから、こんな場は無理だ」


 早くも飽きた双子に、テリーは心配そうに言う。


 僕たちは広間に設えられた壇上に並んで、豪華な椅子に座って無事な姿を見せるだけ。

 だから怖い思いして、知らない人を嫌がって泣くライアは今回出席を見合わせた。


「陛下のサロンでもこうして眺めるだけだったけど。こんな感じなんだね」

「うん、挨拶が長いんだ」

「その後お話しも長いよ」

「違いはダンスフロアが設けられてることかな」


 双子に続いてテリーも、経験の少ない僕に教えてくれる。


 屋外で、もっと距離のあった皇帝のサロンと違って、今回はけっこう近くまで人が来る。

 だから僕たちはあまり体を動かさないようにしながら、小声で話した。


「それにしても、大丈夫かな?」


 漏れた僕の呟きに、テリーが反応する。


「ユーラシオン公爵家の、体調?」

「あ、違うよ。ライアのほう。それに彼はこれくらいで立ち直れないほど弱くない。心も体もね。だから、ライアについて知ってること教えてほしいな」


 いないことになってるから、名前は出さずに応じる。


「そう、兄上は信頼しているんだ…………。ライアは、陛下が助けに行かれるまでは泣かずにいたらしいよ。けれど助けとは言え知らない者が多すぎて、火がついたように泣いたって」


 僕が左翼棟にテリーたちを迎えに行ってる間に、父は妃殿下とライアを皇女の間まで迎えに行ってた。

 けど人見知りのライアは、助けに来た知らない人たちに大泣き。

 なんとか移動はできたけど、皇子か皇女がいること確定で攻められそうになってたとか。


 ただ時を同じくしてユーラシオン公爵の攻勢が始まり、ルカイオス公爵の救援も宮殿に侵入してた。

 お蔭で誰も怪我なく無事に今日を迎えてる。


「ライア、赤ちゃんの時みたいになっちゃった」

「機嫌悪くて、僕たちにも嫌って言うんだよ」


 ワーネルとフェルも拒否されたとなれば、よほどストレスがかかって赤ちゃん返りしたのか。


 妃殿下が一人別に準備してたのは、たぶんライアを見るためなんだろう。


「女の子って、綺麗で色鮮やかなもの好きだと思ってたけど」


 僕は目の前に広がる広間の様子を眺める。


 シャンデリアもあれば壁にはガラスがあり、金装飾もあってライアの好きなキラキラ。

 部屋自体が輝くように設計されている中、部屋に負けないよう飾った紳士淑女が溢れてる。

 宝石や金細工、服装もきらびやかで色どりも豊か。

 指先から足元の靴まで飾られ、見ているだけなら綺麗な光景だ。


「確かにライアは光るもの好きだよ」

「でも、知らない人は好きじゃない」


 双子に言われて、僕は心配なことを聞いてみた。


「三人は怖くない? 大変な事件に巻き込まれたんだ。嫌なことがあるなら言っていい」


 僕が促すと、テリーと双子は顔を見合わせた後、僕を見た。


「「「兄上が来てくれたから怖くない」」」

「そ、そっか」


 嬉しいような誇らしいような。

 そんな気持ちに浸ろうとしたところで、無情な言葉がかけられた。


(主人に報告、ユーラシオン公爵が見ています)

(あぁ、うん。何処?)


 広間には人が多すぎるから、僕は報告するセフィラに聞く。

 すると双子が声を上げた。


「あ、兄上見てる人がいる」

「ユーラシオン公爵だ」

「何処だ? あ、指はさすな」


 テリーが聞いて、動こうとする双子を止める。

 確かに双子の視線の先にはユーラシオン公爵がいた。

 周りは派閥か、色んな人から挨拶をされる側に回ってる。

 そしてその合間にこっちの様子を見てるらしい。


 ユーラシオン公爵も気をつけないといけないけど、ちょっと気になることがある。


(なんか今、双子がセフィラと同じタイミングだったね)

(特に作為は認められません)

(だから人の考えを勝手に読むのは駄目だって)

(主人の有益な情報を提供する有意義な行動です)

(限度があるって。それより、ちょっと確かめたいんだ。…………もう一度バナナって言ってみて)

(バナナ…………これは何を意味するのでしょう?)


 セフィラも知らない単語で、この世界に似たものがあっても熱い地方の産物だろう。

 それに保存も効かないから、内陸の帝国にはないと思う。


 双子はお互いに顔を見合わせて何も言わない。


(杞憂だったかな? バナナは前世にあった黄色くて細長い果物。甘くておいしいんだ)

(類似物を捜しますか?)

(いや、特に食べたいってわけじゃないから)


 軽く説明してると、双子が僕に話しかけてきた。


「兄上、甘い果物って何がある?」

「黄色い果物って何がある?」

「なんだ、小腹でもすいたのか? 今は待て。あとですぐ食べられるようにしておくから」


 テリーはそう言うと、近くの者を呼んで、控えの間にフルーツを用意するよう命じる。

 そういうことが自然にできるのは皇子さまらしいな。


 なんて逃避してたらセフィラが容赦なく状況報告してきた。


(ニノホトの姫の類例と推測)

(うん、ちょっとセフィラは喋るのやめようか)


 声に出してるわけじゃないから本来は思考だけど、言わないとセフィラがやめるわけもないからね。


 どうやら勘のいい双子の弟たちは、神がかりだったようだ。

 つまり、精霊の思考を読む才能がある。

 ヒノヒメ先輩との類似点を挙げれば、魔法の偏りや勘の良さ、他にはわからない突飛な行動や発言か。

 ニノホトが帝国を作った古い人々の故地って考えるとなしじゃない。


(僕が錬金術教えてる時に年相応の受け答えは、セフィラがテストでやった後で興味持ってなかったから? うん? でもそれは左翼棟であって、本館でも双子は突飛な行動するらしいし。ってことは宮殿にも精霊がいる?)

(感知不能。主人が想定したように、私には精霊を察知することはできないようです)


 ちょっと悔しそうにいうセフィラは、僕の許可がある以外は手の届く範囲にいる。

 双子の周りに精霊がいるなんて疑ったこともなかったし、これはいよいよセフィラは精霊相手にコミュ障になってるかもしれない。


(そうなるとやっぱりセフィラは精霊と会話できない精霊。それが人工だからか、育ちかはわからないけど)

(精霊という存在への知見が足りていません。精霊の思考を読めるというのも仮定です)

(…………うん、まだまだだ。だから双子に変な実験するの禁止)

(異議あり)

(僕はルキウサリアに戻るんだよ。それともセフィラだけ残る?)

(意義なし)


 不服そうに言うセフィラとの会話を切り上げて、僕は思い出して広間を見た。

 ユーラシオン公爵は、もうこっち見てない。

 何やら真剣に派閥の貴族と話してた。


 そしてユーラシオン公爵の見える範囲に、父がいる。

 その父に声をかけるらしい、顔を知ってる貴族を見つけて、僕は思い立った。


「少し、ユーラシオン公爵に声をかけてくるね」

「兄上、大丈夫? 友人関係?」

「うん、そう」


 テリーは心配そうだけど、僕は軽く答えて席を立った。

 壇上だからけっこう目立つし、他の注目も集まる。

 もちろん、父に声をかけたジェレミアス公爵も、僕の動きに視線を奪われてた。

 けど僕は気づいていないふりで、マイペースに広間に降りて歩き出す。


 僕が向かってることに気づいて、ユーラシオン公爵は顔が引きつりそうになってた。

 けど、さっき会った時には、改めてなんて言ってたし。

 僕のほうから改めても立場上問題はないよね?


(ソティリオスがどれくらい具合悪いのか聞くとして。あと、改めて話すのは僕にして、陛下を困らせないようにしてもらわないと)

(主人の試案に提言)

(わかってるよ。どうせ正体がばれたなら、錬金術を隠す必要もない。だったら、いっそメイルキアン公爵家の秘宝を持つユーラシオン公爵は巻き込むべきだ)


 僕はセフィラと段取りを話し合いながら、できるだけぼんやりした様子で歩く。

 そして今目が合ったと言わんばかりに、ユーラシオン公爵に笑顔を向けたのだった。


定期更新

次回:巻き込む1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
…黄色くて甘いって言ってるの アーシャであってセフィラではないんだよなぁ…? 双子とアーシャの初エンカウントの時も速攻で仲良くしてた辺り、ヒトの内心も読めてる?
ほんと、達の悪い詐欺師みたいな存在よねえ。アーシャ
ユーラシオン派閥がどういう情報受け取ってて何考えてるか、分かんねーのよな。 とりあえず皇子たちが本当に仲良さそうなのはこのパーティでみんな知った訳ですが、そうなると今までの第一皇子の情報って何?って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ