397話:隠し切れない事実2
ルカイオス公爵の即応、ユーラシオン公爵の参戦、皇帝による皇太后捕縛。
表向きそうした要因で解決した宮殿占拠事件。
突如として宮殿が賊軍に占拠され、帝都の門の全てが閉じられた事件は、その日の内に終結を見た。
「本当、かくれんぼがお上手ですね」
占拠から一日経って、まだ疲れた顔してるレーヴァンが左翼棟にやって来た。
まぁ、かくれんぼは比喩だろう。
以前側近たちにかくれんぼで勝ったって言った時は信じてもらえなかったけど、その後の犯罪者ギルドを潰す時に、僕が隠れてついて行ってたの知ってるし。
その時の関与はストラテーグ侯爵に被せた。
そして占拠事件に関して、僕の関与が隠されてる。
今回は、僕がやったことはだいたい皇帝である父にかぶされた。
「昨日の内に、捕まえる人捕まえに駆り出されたらしいね。疲れてるなら座っていいよ」
「…………いえ、仕事中なんで」
すごく惹かれた様子で目が泳いだけど、レーヴァンは断る。
ちなみに他はみんな座ってる。
僕たちもね、さすがに疲れたんだ。
特に僕を庇って動き回ってくれた側近たちは、働きづめなんだよ。
普段、他の人がいる所では座ったりしないけど、相手が見慣れたレーヴァンだから余計に気にせず座ってる。
その様子にレーヴァンは羨ましそうな目を一度向けた。
「一応、もう一度勧めようか?」
確か一回目は固辞するのは目上に対する礼儀。
レーヴァンにそんな気持ちあるとも思えないけど。
ただ二回目になるとレーヴァンは悩んだ末に座った。
「えぇ、まぁ、帝都の門開くためにも放置しておけないんで。…………お言葉に甘えて」
「気にしなくていいよ。伝震装置関係で助かったからね」
言ったらすごく苦い顔される。
「あれ、すっごく大変だったんですよ?」
「正直、本当にできたことに称賛を送りましょう」
「見直したってのは確かにあるな。俺じゃ無理だ」
「漫然と時間を潰していたわけではなかったんだな」
ウェアレルが褒めると、ヘルコフが頷く。
イクトは腐しつつ、いつもの険はない。
「急なことで僕のほうも思い付きだったんだ。それでちゃんと音を送れるようにしたのはセンスあるよ。それにシャボン玉もわかりやすかった」
シャボン玉がある場所なんて限られてるし、敵方が見ても何かわからない。
あと、物が物だからテリーの部屋だって特定しやすかったし、納得もさせやすかった。
ただ褒めたのに、レーヴァンはがっくりと項垂れる。
「あれ、その場の思い付きだったんですか? わかってて連絡しろなんて無茶振りかと。しかも改造も元からそうできる機構組んでるのかと思ってたら。逆にその場で改造方法思いついたのがすごいですよ」
諦めたように肩を落として、珍しく普通に僕を褒める。
と思ったら顔を上げて、恨みがましい目を向けてきた。
「あの時逃げ込んでた人の中でしつこく構造とか聞いてくる人いるんで、こっちに回していいです?」
「駄目に決まってんだろ」
レーヴァンにヘルコフがバッサリと切る。
ウェアレルとイクトも、さっきまでのとは打って変わって厳しく言った。
「なんのためにアーシャさまの名を一切出さずにいると?」
「いっそルカイオス公爵に回せばいい。あちらも隠すことには積極的だ」
僕の名前を出さないよう動いてるだろう筆頭人物。
ルカイオス公爵はことが終わると今までどおり、全く接触しないままだ。
父を確保した後は、僕の存在を無視するように一言もない。
というか、僕がやったことの結果は迅速に父の功績にすげ変えてるから、忙しいってところもあるだろう。
自分の功績にしなかっただけましかな?
さすがにそれすると、僕も引かないということくらいはわかってるとは思うけど。
ただそうすると、僕を間に合うように帰還させたっていう、ソティリオスの誘拐隠すための言い訳も使えない。
現状、僕が活躍すれば上がるルカイオス公爵の株は、僕を隠したからなかったことになってる。
それでも平気だって言うなら、本当に政界引退なんてただのブラフだったわけだ。
「それで、レーヴァン。疲れてるのに来たってことは、何かあったんでしょ?」
「えぇ、まぁ。まずは確認です。ユーラシオン公爵のご令息助けたのは、殿下であってます?」
「手を貸すことはしたよ。けど実際の動いたのは僕ではないね」
「手を貸した内の、トトスさんの婚約者は完全に抱き込んだと思っても?」
「婚約者などではない」
確認するレーヴァンにイクトが強めに否定する。
けどレーヴァンはあきれ顔でイクトに反論した。
「家にまで迎えておいて、逆に不誠実ですよ。そこ突かれたら、ストラテーグ侯爵だって上司として身を正せとしか言えないんですから」
どうやら部下の不始末を問われると、ストラテーグ侯爵はヒノヒメ先輩側に回るらしい。
僕の意向でイクトも現状だし、いっそ政略結婚するならするで腹決めそうではあるけど。
命令も何もない今は、否定する姿勢ってことは、僕もフォローすべきかな?
「イクト、ヒノヒメ先輩には無理強いしないよう言っておくから」
言ったら、イクトそっと目を逸らした。
それは安堵? それとも年下に気を使われたせい? 実はまんざらでもないとか?
そこはまた改めて話さないといけないかな。
今はレーヴァンだ。
「まぁ、直接関わってないから、殿下にはユーラシオン公爵からの接触もないし、その気配もないということなんですね」
「あぁ、関わりのあるストラテーグ侯爵からすれば、いつ繋ぎ取ってほしいと言われるか身構えてたわけか」
僕はソティリオスに伝えた言い訳を告げた。
つまりは、誘拐関係の協力はルキウサリア側の中で収まるようにしてあるって話。
第一皇子である僕は、ディオラなんかの知り合いからの要請で動いただけ。
ユーラシオン公爵とは一切かかわってないって言い訳を押し通す。
「それでいいならいいんですけどね」
「運よくこうして間に合ったから、僕としてはなんの損もないよ」
「まぁ、あの時殿下からの連絡なかったら、陛下脱出のために強硬策取ってた可能性もあるんで。まさか無傷どころか、窮地からの逆転決めて解決するとは思いませんでしたし」
どうやらテリーの部屋に逃げ込んだものの、そのまま立て籠もり続けるつもりはなかったらしい。
父は妃殿下や子供たちを心配して、自ら救出に向かう意向だったようだ。
本館も完全制圧でもなし、隙があると思っていたと。
けど宮中警護以外は非武装なので、ストラテーグ侯爵を筆頭に軽挙を止める側もいたそうだ。
結局、妃殿下とライアは父が自分で助けたらしいけど。
「それと、ジェレミアス公爵についても」
「あぁ、あの兵率いてきた皇太后の孫。結局あの人なんだったの?」
「知らないんですか? 第一皇子殿下の独断で拘束したとかいう話になってますけど」
「あの時は急ぎたかったから、敵に回る可能性ある人を自由にさせておくだけ無駄だし」
「はぁ。ご本人はすでに開放されてます。その上で、陛下の危機に駆けつけたのに不当な扱いを受けたと大変ご立腹だそうで」
「ことが起きると知ってて構えてたルカイオス公爵と合わせて動けるなら、皇太后の動き知ってたはずだけどね?」
「ご本人曰く、気配があったから備えて、自らの手で止めようと高潔な志でいらしたとか」
「皇太后の謀反は知ってた、その上で止めるために兵を用意した。なのに僕に捕まえられ、実際に救出もできず、いいところなしで怒ってる?」
「ざっくりいうと」
僕の乱暴な言い方を、レーヴァンは肩を竦めつつ肯定。
ま、言い訳だろうって思ってる人もいるわけか。
その中で、僕個人に対して悪感情持ってるのは確からしい。
「それと、後から聞くと思いますが、ルカイオス公爵が復職内定しましたよ」
「そうだろうね。陛下をお助けしたなんて成果上げたら」
「今回の事件で不安も広がってます。帝都に大々的に無事を知らせるお触れが出るとか」
テレビないし、お触れって形で周知しないといけないんだね。
そうじゃないと噂だけが不確かな形で広まる。
なんだったら大々的にしないと、いつまでも解決したっていう情報が回らないままなんてこともあるそうだ。
「そのためにパーティー開かれるんで…………」
「え? 事件あった後に?」
僕が驚くと側近たちが教えてくれる。
「あったからですよ。恙なく治世が続くことを示し区切りをつけるためなのです」
「弱ってるとこなんて見せられないんで、これだけ元気っての見せるんでしょうなぁ」
「健在だと内外に示すには、人目を集める催しというものが必要でしょう」
何か事件があったら自粛する前世と違って、こっちは何かあったからこそ、大丈夫だと大盛大な催しを行うそうだ。
今回は宮殿が占拠されて、帝都の門も閉じられるという、誰が見ても異常事態で、皇太后捕まえて、投降者を募って、敵対してたら身分関係なく捕まえても、解決したと納得させるにはまだ足りないのか。
「社交期で、帝都に滞在者も多いって都合もあります。その上で殿下、今回は参加ですよ」
何げないレーヴァンの言葉にびっくりしたら、側近たちもまた驚いてレーヴァンを見る。
そんな僕たちを見て、レーヴァンはちょっと皮肉げに笑ったのだった。
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