393話:宮殿奪還3
「「「兄上!」」」
「みんな無事? 怪我はない?」
中から塞がれてた扉を開けてもらって、僕は一年ぶりの自室に入った。
テリー、ワーネル、フェルが抱きついてきたけど、僕はすぐに引き離して全身を確認する。
セフィラに調べてもらっても、外傷はないらしい。
僕は改めて弟たちを抱きしめたり撫でたりしながら、詳しくここへ逃げてきた経緯も顔見知りの騎士と宮中警護から聞く。
「それで、何故第一皇子殿下がこちらに?」
テリーの騎士テオが、他二人の宮中警護から押されて聞く。
けどそのままいうには政治的に問題があった。
「ルカイオス公爵とルキウサリアで会ってね。その時に一度帝都に顔を見せに戻ってはどうかと言われたんだ。だからルカイオス公爵を追う形で帝都に向かってた」
経過は違うけど、結果は同じ。
ルカイオス公爵を追うようなタイミングでルキウサリアを出たから、今間に合ってる。
その上でこちらも情報共有をしなくちゃいけない。
「まだ陛下は捕まってない。そちらはルカイオス公爵が救出に動いてる。そして今門を突破しようとユーラシオン公爵が軍と共に攻勢に出た。ここの重要度は低い。このまま立て籠もっていても問題ないだろう」
「ではなぜ兄上がきたの? 危険だ」
テリーは僕の身の危険には気づくけど、自分の重要性はあまり気にしてないようだ。
大人たちからすれば、一番は皇帝、二番は皇子。
その皇子は僕よりも継承権の高いここにいる三人を指す。
ルカイオス公爵が主導して父を助けるのは確定。
僕が慣れてるって言って前に出なかったら、他のルカイオス公爵側の人がここ来た。
(何かあれば僕の独断専行を訴えて、邪魔な第一皇子を排除できる。だから行かせたなんて、そんな大人の事情は僕に関係ない)
(現状重要性を理由に行動を許されています)
関係あるだろって、セフィラがやぼな突っ込みをしてくる。
僕は気の持ち方を言ってるんだよ。
「弟たちを敵地に置いておくことはできないからね」
「もう大丈夫じゃないの?」
「まだ危ないってことなの?」
双子が警戒と怯えを含んで聞く。
「ルカイオス公爵が守りを固めてるから、そこまで三人を逃がす必要がある」
つまりはまだ敵の手にある中を移動しなきゃいけない。
敗色濃厚になってやけを起こして暴れるような人がいても困るから、ルカイオス公爵も保護したら確実に守れるように止まらず移動を指示してた。
今宮殿の門を攻撃してるから、人目はそっちに集中してる。
だから庭園に続く、地下通路に目は向けられない。
「守れる心得のある者はついてきて。西門近くを通ることになるから最悪そこにとどまってもらうことになるけど」
僕はその場に逃げてきてた衛士や宮中警護に告げる。
彼らは僕の見張りで配置されてた人たち。
第一皇子が戻る予定があるから、たぶんこの一年で配置換えもされなかった。
他の皇子も不定期に通ってるし、無人にするのもはばかられたんだろう。
僕がルカイオス公爵と連携してると言っても信用しきれないというか、職務上鵜呑みにしちゃいけない人たち。
ただ僕が同行を命じると、半信半疑ながら放置するわけにもいかず応じた。
弟たちの騎士や宮中警護は最初から来る気満々だから特に聞かない。
「あ、そうだ。部屋への侵入については緊急事態だから咎めないよ。この後も、安全が確保されるまではいてくれて構わない」
僕の許可に、使用人たちが息を吐く。
たまに見る部屋を掃除してくれる女中とかもいるから今さらだと思う。
けど、宮殿の上下関係で言えば、仕事以外で勝手に入って勝手に物を動かすって処罰の対象らしいからね。
倒した三人の賊は、縛り上げて部屋の中へ。
青の間にある物置か浴室に使われてただろう小部屋に押し込んだ。
(セフィラ、脱出経路はウェアレル、ヘルコフ、イクトとも共有して)
(了解しました。しかし、この階にもはや賊はいません)
どうやら戦闘が始まったことで、重要度が低い左翼棟は放棄されたらしい。
本来は無人だから間違ってない。
けど今は継承権上位三人が固まってたから、ばれたら危なかった。
(二階も無人、一階の正面広間にはまだいます)
セフィラからの情報を受けてヘルコフが指示を出す。
「二階までは庭園側の階段使って、その後に小部屋開けて一階に向かいましょう」
「いっそ、目がないのでしたら、庭園側に直接抜けるのはどうでしょう?」
ウェアレルは、遠回りで戦闘してるだろう西門近くを通る道、侵入経路を避けるほうを推す。
ただイクトは首を横に振った。
「入った出入り口がそのまま使えるなら物陰が多いところを進むべきだ」
庭園に出てすぐは見晴らしのいい広場が広がってて、そこから広大な庭園を一望できる造りだから目立つし、本館からも見えるんだ。
そうして僕たちはすぐに行動に移った。
どこもかしこも施錠されてるのが左翼棟だけど僕は自分の部屋の鍵をあえて刺す。
そして中の鍵をセフィラが解錠。
マスターキーを持ってる風を装ってどんどん進んだ。
「よし、ここまでくれば」
「もう喋っていい?」
「もう話していい?」
双子は聞くと、僕にまた抱きついてきた。
不安だったのかもしれない、と思ったらどっちも笑顔だ。
「「また兄上が助けてくれたー」」
またってことは、大聖堂かな?
あの時は双子は逃げ果せた後泣いてしまっていたけど、今回は笑ってくれてる。
「うん、待っててくれてありがとう」
「それを言うなら私たちのほうが…………」
テリーが言いかけたところで行く先から武装した人が立ち上がる。
警戒もつかの間、見えやすいところにルカイオス公爵の紋章付けてたから仲間とわかって警戒を解いた。
そうなると、もう嫡子の皇子である弟たちは、僕から引き離されるように囲まれてしまう。
僕に救出任せた時点で、幼少期のように害されるなんてことは考えてない。
ただ重要度からそうなってるだけだ。
「第一皇子殿下も、こちらへ。ここは離宮と近すぎますので退避を」
ルキウサリアでも見たルカイオス公爵の従者が声をかけてきた。
テリーたちはすでに地下通路の入り口に足をかけてる。
ただここで、僕には疑問が生まれた。
「静かだね。離宮から兵が出るような様子はなかったの?」
「現状見受けられません。宮殿の門が攻められたという報告は走っていたようですが」
「あの離宮には、まだ皇太后来てないとか?」
「いえ、運河に船があります。すでに奥の離宮からこちらへ移っているものと思われます」
「なのに、宮殿の門が攻められても逃げる気配がない?」
僕の疑問にルカイオス公爵の従者も黙る。
皇太后が幽閉場所から出てきたのはこの占拠の首謀者であり、正当性を示す旗頭だからだ。
実際はともかく、皇太后は権威として皇帝の下には置かれない。
悪い想像をすれば、皇帝の首を切ってしまった後には、後継者の指名の権限を一部握ることになる。
「皇太后が出てきてるのは、帝位を簒奪する上で必要だからだ。じゃあ、もう一つの要件、皇帝の身柄を押さえることもできてない状況で、次にすべきことは?」
僕の問いに側近たちが答えた。
「救出される前に皇帝の確保ですか?」
「増援の見込みがないんじゃそうだろ」
「もしくはこの場からの離脱でしょう」
僕は改めて動きがないという離宮を見る。
ここは庭園の木々に隠れて、離宮の屋根くらいしか見えない。
けどそちら側から騒ぐ声も、大勢が攻めに出る気配もない。
「あそこ、もうもぬけの殻なんじゃない?」
「ま、まさか。出てくる者も見られないのですよ」
従者に、僕は地下を指して見せる。
側近たちはそれで理解して息を呑んだ。
従者も考えて、可能性に気づくと目を瞠る。
「あそこにも、抜け道が?」
「あるね。これは、出口を押さえたほうが早いよ」
と言うかこの庭園、けっこうな量の地下施設が存在する。
その上で何処が使用可能で不可能なのかまでは調べてないから、僕はまずセフィラを密かに離宮へ行かせた。
僕は地下道に背を向けて、離宮を見据える。
ここまでしておいて今さら逃がす気はなかった。
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