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389話:ソティリオス救出4

 誘拐犯がいる別荘へ襲撃をかけて、一直線にソティリオスが監禁された部屋へ。

 縛られていたソティリオスの猿轡をはずし、僕は次に腕の縄を外しにかかる。


「はぁ…………ずいぶん無理な道行だったのに、よく追いついたな」

「こっちも無茶したのはあるけど、ルキウサリアの助力だね」

「あぁ、早馬の駅か」

「誘拐二度目だから、ソーも余裕かな?」


 呆れ半分に言って見せると、ソティリオスは眉を顰めた。


「一度で終われば、いや、一度もないほうがいいに決まってるだろう」

「それはそうだ」


 余裕そうなのははったりらしく、僕が縄をほどく間も力なく床に寝転んだまま。

 たぶん起きる体力もないんだろう。


 腕の縄をほどいて、足に移動。

 するとようやく僕と同行したヘルコフとイクトに気づいて体を起こした。


「本当に、一度で十分だ…………」

「ちなみに馬車出してくれた人だから、文句は言わないほうがいいよ」

「は? もしや、いや、何故またあの方が私の救出に助力を?」

「最悪馬車を無理やり止めて中を検めるため」

「…………待て、それをここで言うのは」


 ソティリオスが見るのはヘルコフとイクト。


「うん、本人がすでに帝都に来てる」

「うぐ…………」

「そう言えば性格悪いとか言ってたね。苦手?」


 というか、気づかないなぁ。

 まぁ、こんな風に話してないし、髪色違うし、服装も違うから、雰囲気全然一致しないんだろうけど。

 あと、口調とか初対面のイメージ強すぎたんだろうな。


 その他はディオラに目が奪われたとか、ウェルンタース子爵令嬢の攻勢とか。

 第一皇子に注目しない要因と、印象が薄れる記憶の上書きがあったとか。

 その上で、もう僕はアズロスという個人として記憶されたせいかな。

 いっそソティリオスの中で、アズロスのイメージがどうなってるんだ?


「何処から利用されるかわかったものじゃない」

「被害者にそんなことしないよ」

「貴族としての教育が不十分なせいだろうが、甘いぞ。アズロス」


 それは世知辛すぎるって。

 いや、ルカイオス公爵たちの反応を思うとそんなものかもしれないけど。


 その上で第一皇子を警戒しても、アズロスの僕に助けられることは受け入れてる。

 そこは政敵とか関係ない前提だからかな?


「で、縄ほどいたけど、体に痛みや痺れとかない?」

「痺れ、あぁ、あるな」

「縛られたまま移動させられたなら、痛めてそうだね。神経痛めてないといいけど」


 僕はさらにゆっくり立つのを手伝う。

 それだけでソティリオスは息切れしてるし、相当体力がなくなってる。


 周囲で戦闘があってるから、もちろん破壊音や怒号が響いてる。

 けどソティリオスは気づいてない。

 目の前の僕に強がって会話するだけで精一杯だ。


「ともかく、ここから出よう」


 僕が言うと、ソティリオスが腕を掴んで止めた。


「待て、その前に私を誘拐した御者を捕まえるんだ」

「報復なら後でも…………」

「違う。あの者以外では、ウェルンタース子爵家が関与していないことを、証言できない」

「あ、なるほど」


 余裕がないわりに真っ当なソティリオスの懸念に、納得だ。

 御者がやらかしたなんて、雇い主として責められてしかるべき。

 それでも雇い主が全く関与してない、ばれないよう立ち回ったと犯人側からの証言があれば情状酌量が得られる。


「何処にいたとかはわかる? 場合によっては、ここから逃げようとしたところをすでに攻撃されてるかも」

「アズロスが現れる前まではこの部屋にいたはずなんだが」


 僕たちがこの部屋の前に来た時にはすでに、ソティリオスは一人だったはずだ。


(セフィラ)

(一人、手洗いに立てこもる者あり)


 確信はないけど、それっぽいかな。

 僕はセフィラにヘルコフとイクトにも伝えるよう頼んだ。


 そうしてヘルコフが一人、部屋の前からそっと離れる。

 そして戻ってきた時には、疲れ切った男を一人片腕に引きずっていた。


「ちょいと周辺探したら隠れてたが、こいつですかね?」

「あぁ、そうだ」

「頭数は増えたが、どうやら抵抗の意思はなさそうだな」


 室外を警戒してたイクトが、御者を見て顎を振る。

 ヘルコフは応じて、片腕に御者を引きずったまま、ソティリオスを抱えに動いた。

 立ってみて力が入らないことに気づいたソティリオスも、身構えようとして抵抗をやめる。


「そろそろ人質盾にする奴が、待ちきれずにまた登って来る」

「部屋に放り込んだ奴らも気が付いたようだ。走り抜けるぞ」


 急ぐ理由を告げるヘルコフに、イクトが階段に人がいないことを確認して急かした。

 廊下に出れば、邪魔な人を放り込んだ部屋の歪んだ扉が、内側からガタガタと揺らされてる。


 僕たちは階段を駆け下り、止まらず入ってきたテラスから外へ。

 そしてそのままウェアレルと合流すれば、足を止めずに帝室の別荘へ逃げ込んだ。

 と言っても、ほとんどの賊は数に任せて制圧中で追ってくる者もいない。

 僕たちが抜けても問題なく、後から制圧が終わったと報告があった。


「そもそもここは何処なんだ?」

「ソーはそれもわかってないんだね。ここは帝都の湖に面した別荘地。そこにあった犯罪者ギルドのアジトにされた邸宅にいて、今は救出して帝室の別荘にいる」


 別荘に運び込んだら、いつの間にか気絶してたソティリオスが目を覚ました。

 体力続かないみたいだけど、ヘルコフに引きずられてた御者は、痛みで気絶もできなかったようだ。

 今は別の部屋に隔離してある。


「ルキウサリアの兵と、帝都の民間人で襲撃したんだ。相手よりもこっちの数が多いからもう制圧できたって。僕たちは先に脱出した」

「我が家の者ではないのか?」

「帝都のほうでも問題が起きててね。ユーラシオン公爵は動けないみたいだったよ」

「いったい、何が?」

「それは回復してからのほうがいい。今は休んで」

「いや、知らないわけにはいかない」


 被害者なのに責任感じてるのかな。

 無茶してほしくないし、あんまり落ち込んでも可哀想だ。


 けど言わないとたぶん手当もされてはくれないみたい。


「端的に言うよ? 今宮殿は賊に占拠されてて、それに合わせてユーラシオン公爵を引き入れようとした賊がソーを攫ったんだ。ルカイオス公爵が帝都の門を全て閉じたから、ソーは敵の手に完全に落ちなかった」

「…………くそ」


 僕の声に耳を傾けたソティリオスは、力なく呟いた。

 雑な説明でも、自分の面倒な立ち位置はわかったんだろう。

 ただ誘拐されただけじゃない。

 宮殿制圧なんて反逆に利用されたんだ。

 しかも最悪の事態を、政敵の機転で阻止して助けてもらってる。


「まだ宮殿は占拠されたままで、ルカイオス公爵も兵力が足りない。ユーラシオン公爵に動いてもらわないと困る状態だ」

「つまり、私を救出する動きは、ルカイオス公爵にもすでに知られているんだな?」

「うん、僕はソーを追ってたけど、さすがに帝都の門が閉じられた異常事態に、第一皇子がルカイオス公爵に事情を聞きに動いた。その時に第一皇子が帝都に戻った理由も話してある」


 全部僕だけど、ここはまた聞きを装って…………あ、殿下つけたほうが良かったかな?

 立場変えて話すの難しい。

 気を抜くと自分のこととして話しそうになる。


「で、えーと…………宮殿奪還の準備する間に、僕は帝都にいる錬金術科の卒業生に協力仰いで」

「私の知る者か?」

「どうだろ? 去年まで在学してたニノホト出身の二人組だよ。ヒノヒメ先輩がニノホト皇の血縁者で、今ニノホト大使館勤め?」

「なるほど、頼れる一番の権威を頼ったのか」


 ソティリオスは気力でなんとか話してるから、僕も軽く流して進める。


「そんな感じ。それで、ユーラシオン公爵…………閣下にお目通り願って、事情を説明した上で、ソーの救出については一任してもらった」

「はぁ? それはどういう経緯だ?」

「まぁ、関係のない家のただの学生だからそうなるだろうけど。えっと、その場にソーの弟くんがね。それで色々ユーラシオン公爵閣下困らせて、ヒノヒメ先輩が話進めちゃって?」


 手短に伝える僕の目の前で、ソティリオスはがっくりする。


「どっちにしても見張りついてるだろうし、ユーラシオン公爵家は動けなかったと思うよ」

「だが、無関係の者に一任など、どうして…………」

「いやいや、無関係だからこそだよ。僕は今から帝都に戻って報告するつもりだけど、そんな動き警戒する人なんていないしね」


 茶化して、僕は話を切り上げにかかる。

 他にも助けたい相手がいる今、無事に救出できたからにはこれ以上ここに留まってる理由はなかった。


定期更新

次回:ソティリオス救出5

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― 新着の感想 ―
ここまで気づかないとネタバラシするのも悪い気がしてくるな……
本来後ろで守られているべき第一皇子が、こんなところまで自ら乗り込んでくるはずが無い、っていうのも気づかない要因だろうなぁ。 ソー君、立場的につらかろうな。無茶しないといいんだけども。
救出お疲れ様!
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