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385話:救出準備5

 ユーラシオン公爵には、五人の子供がいる。

 三人が男児、二人が女児だ。


 長男のソティリオスは有名だし、僕が同じ年齢だから引き合わされもした。

 ただ次男の弟は二つ下で存在だけはしってる程度。

 ソティリオスから家を出ること聞いて、次男に譲るのは想像できてたけど。

 まさかここまで昔のソティリオスに似てるとは…………。


「まぁ、この時に動かれるのですか? 勇敢ですこと」


 ヒノヒメ先輩はそ知らぬふりでいうけど、そこにはずいぶんと含みがある。

 宮殿が占拠されてる今、動くなら攻めるか、守るかで、確実に争いに介入することを指す。

 そして皇帝を助けようというルカイオス公爵と、帝位を奪おうという皇太后のどちらかしかないし、どちらと組んでもユーラシオン公爵にとってはまずい。


 もっと早くに動いてれば、なんて今さらいっても遅いし、もうユーラシオン公爵は蝙蝠に徹するしかない。

 真っ直ぐな目をしたヴォードは、十三歳ってことは中学生くらいか。

 機を逸したとか、動く時の大義名分だとかまだ難しいのかな?


「このヴォードは未熟者。恥ずかしながら、この者の言葉には耳を貸す必要はありません」


 その辺りわかってるユーラシオン公爵が、発言権がないことを明言する。

 というか、学生は僕だけで、ヒノヒメ先輩とチトセ先輩は、ニノホト大使館に所属してるのが公の身分だ。

 主要国の大使館からどんな情報が発されるかわかったものじゃないだろうし。

 内心の焦りを表に出さずにいるだけ、ユーラシオン公爵もやっぱり厄介な人なんだろうな。


 ヴォードの発言は子供の戯言にしされた。

 ヒノヒメ先輩もこの後の交渉のためにあえて、ユーラシオン公爵に否定の言葉を出す機会を待って揚げ足取りは一度だけにとどめてる。

 うーん、腹黒い大人のやり取り。

 僕としては宮殿の家族が心配で、そんな悠長なことしてるだけで焦りそうだ。

 そしてヴォードはユーラシオン公爵に無碍にされたことに感情的になってしまった。


「この大事な時に、足を引っ張る者のほうが価値はないでしょう。それらに関わってるだけ時間の無駄。今は我が家のことを優先すべきです」

「ヴォード、これ以上醜態をさらすな」


 ヴォードとしては大変なことが起こってるから、敵の手に落ちた子供を優先するだけもっと悪くなるということなんだろう。

 ソティリオスは家を離れることを言ってあるのだから、兄弟の情より多大な人間が付随する家を守る後継者としての考えかもしれない。


(まぁ、言いたいことがわからなくはない。今ユーラシオン公爵が動けないのは、ソティリオスを人質にされてるからだし、なんだったら、それで仲間になるよう脅されてる可能性もある。ただもう少し、家族心配してもいい気はするけど)

(怒りがあります。家を捨てる兄に対する怒り、その兄を引き留める父に対する怒り、自らが期待されていないことへの怒り、相応しくない皇帝が帝都を騒がす怒り、追い出したはずの政敵が戻り我が物顔でことの解決に当たっている怒り、自家が何一つ寄与することができない怒り、現状では悪くしかならない状況への怒り)

(あーうーん。わかってはいるのか。色々思惑絡んでるからね。外から見るとユーラシオン公爵だけが何もしてないように見えるかもしれないけど、敵の計画の上ではもっとまずいことに引きずり込まれてた可能性もあるし)

(また、ニノホト出身者二人の身元も把握したうえで、学生と言っています)

(それはどうして?)

(ユーラシオン公爵を部屋から連れ出すためです。現状子息救出に動くことは悪手であると止めるため、客前でできない話をあえて振ったようです)


 ソティリオス誘拐の目的はユーラシオン公爵だ。

 こっちとしては、動きを封じられるどころか敵に寝返られたら、万事休す。

 ヴォードからすれば、継ぐからには最悪ユーラシオン公爵家を守るために動かないっていう選択かな?


 だからソティリオスに関して、情報を持ってきた僕たちと話させるだけ無駄。

 今から動いて遅いなら、徹底してどちらにも加担しないって言おうとしたけど、ユーラシオン公爵は乗らなかった、か。

 あえて無礼なふるまいをして見せるって、なんかちょっと前に僕もやったなぁ。


(ユーラシオン公爵は動かないのが最善手でしょう。軍側に動くなと指示を出したのは、帝室にも皇后側にも言い訳が立ちます)

(帝室の安全を思っての不戦と、皇太后への助力にも見える抑制。ユーラシオン公爵はわかっててやってる。現状、やるからにはソティリオスを助けるためだ)

(では、このままユーラシオン公爵子息の救出を提案しますか?)

(それはもちろん。その上で、ヴォード使ってユーラシオン公爵の反応を引き出し…………って、セフィラの考えってヒノヒメ先輩に…………!)


 ヒノヒメ先輩を見ると、ふと気づいた様子で微笑を浮かべる。


「まぁまぁ、お家を思って憂える方を、幼いとは言えそのような志はご立派ですね」


 ユーラシオン公爵が聞くなと言ったのに、ヒノヒメ先輩はヴォードをあてこすった。


「まずは勘違いなさっていることを指摘しましょうね。私は確かに学園の卒業生ですが、今はニノホト大使館に勤めています。そして、学生のこのアズは、ルキウサリアからウェルンタース子爵家の書状を託されてここにいます」


 学生だから追い出すなんてことをすると、大使館と手紙を託したウェルンタース子爵家への侮辱になる。


 ヴォードはわかってやってるので、別の方向から強硬姿勢で対応した。


「だったらなおのこと我が家のことに関係がない」

「ヴォード、関係ないのはお前だ。出て行きなさい」

「あらあら、そんなせっかくです。学びにもなるでしょう。経験が足りないのでしたら、学生もいる場ですから、見学されても良いのですよ」


 ユーラシオン公爵が退出させようとするけど、ヒノヒメ先輩は表面上柔和に笑いながら止めた。

 ヴォードは挑戦と受け取ったようだ。


 けど、ユーラシオン公爵は、ヒノヒメ先輩が言葉に含ませた棘に気づいてる。

 学生程度と侮ったヴォードを、学生以下のお子さまな未熟者と皮肉ったんだ。


「何より時間が惜しいですから、先に進めさせていただきます」

「む…………」


 ヴォードを退出させようともう一度目を向けたけど、それをヒノヒメ先輩が止める。

 こういう勘の良さが、セフィラのような人の感情を読み取った何者かの意識を受信してるんだよね。

 勘がいい、察しがいい、神がかり的とか、種がわからないとそうなるんだろうな。


 怒りで暴走ぎみのヴォードに、意識を削がれるユーラシオン公爵。

 そこに機を逃さないヒノヒメ先輩が加わることで、結果、僕に都合がいいように話が転がった。


「それでは、ユーラシオン公爵閣下におかれましては、今までどおり従うふりをお続けになってくださいませ。その間にわたくしと、ルキウサリアからの人員でことの解決を急ぎます」

「し、しかしだな…………」

「ソートに価値があるという態度自体、つけ込まれるんです。いっそ、この者たちに任せて、ユーラシオン公爵家としてことの対処に乗り出すべきでしょう」

「だから、発言は許していない、ヴォード」


 ヴォードの正しいと思ったら曲げない気が強さ、本当ソティリオスに似てるな。


 それで言えば、ソティリオスは数年で柔軟になった気もする。

 そうなると、今さらになって嫡子を変えるって、けっこう大変かも?

 死にやすい幼児の頃を抜けてしまえば、跡継ぎとして教育も本格化しただろうし。

 うーん、すでにほぼ出来上がってるソティリオスを手放すの、嫌がるよねぇ。


「意気軒高で良いことですね。ご自身の考えをしっかり持っていらっしゃるようで。お口も達者でいらっしゃること」


 ヒノヒメ先輩の言葉に、ヴォードは強気な姿勢を崩さない。

 けど、やっぱりユーラシオン公爵は裏に潜む棘に刺されて眉が跳ねた。


 無駄に元気で、話を聞かない、口だけの子供とかそんなところかな。


(ねぇ、もしかしてユーラシオン公爵さ、ヒノヒメ先輩に苦手意識持ち始めてない?)

(やわやわと女性特有のしつこさで責められることに負担を感じています。どうやら以前にもそのような手合いに悩まされた経験があるようです)


 それはちょっと同情する。

 僕も後ろで聞いてるからやりにくさは想像がついた。

 正面から裏を疑わなきゃいけない言葉を、そうと指摘できないように言い続けられるとなるとストレスだ。

 しかもその責める方向が息子の存在。

 自分自身じゃないけど、他人でもない絶妙にイラっときて反論できないライン攻めてる。


 それでもユーラシオン公爵が食い下がるのは、ソティリオスを心配するから。

 ユーラシオン公爵家としての対面もあるだろうけど、自家から人手を出そうという気概はある。

 ただそれをされると僕が動きにくいってことで、ヒノヒメ先輩に止めてもらった。


「露見すればご子息に危険も及びましょう」

「では、わからないよう少数精鋭をつけよう」

「少数増えても、こちらも元が少数ですから、動きにくくなるばかりでございます」

「いや、そもそも場所がまだ特定できていないのだから、少数で動くことを先に決めてかかるのはいかがなものか」

「でしたら、優秀な後輩がすでに目星をつけてございます。あぁ、ご心配なく。こちらも後輩の学友を救うという名目だけで、他に求めるものはございません」


 僕に意識が向かおうとするのを止めて、ヒノヒメ先輩があえて報酬を求めないという。

 ユーラシオン公爵が渋面になるのは、ただより高い物はないからだろう。


 結局、ユーラシオン公爵は相応の報酬を出すとして、改めてソティリオス救出を依頼する形をとった。

 この依頼もこの場だけとしてかたをつけるためだけど、ヴォードは不満そうだ。


「それで、目星とは?」

「えぇ、言われてみれば簡単なこと。見失ったのが帝都の門前で、同じく帝都へ入りたいのは賊も同じ。であれば、このアズと同じ道を求めることでしょう」


 帝都の門を潜れないなら、門以外で帝都へ入れる場所を探る。

 つまり、ソティリオスを乗せた馬車は別荘地に潜伏している、というのが僕の予測だった。


定期更新

次回:ソティリオス救出1

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― 新着の感想 ―
移動する、会合するにもかなりの時間を要すると思うけど、検討着いてるならさっさと行ってセフィラ飛ばして調査して制圧しちゃえばいいような。
この大事な時に、足を引っ張る者のほうが価値はないでしょう。それらに関わってるだけ時間の無駄。 ぶ、ブーメラン…
味方で良かったヒノヒメ先輩。 医療技術が現代ほどではなさそうな世界で五人も産んでいるの凄いなユーラシオン公爵の奥方。四人産んでて、その内二人は双子な妃殿下も凄いですが。 ソーくんの弟、そんなに頭いま…
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