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381話:救出準備1

 思わぬ成り行きと問題が積み重なる。

 ソティリオスがルキウサリアから誘拐され、追ったら宮殿が内側から占拠された。

 ルカイオス公爵は兵を連れて宮殿と睨み合うこと一刻。

 ユーラシオン公爵他、他派閥は様子見状態。


 そんな政治的な判断は横に置いて、僕にとって一番の問題は家族の安否だ。

 テリー、ワーネル、フェルは無事で、重要度の低い左翼棟にいた。

 立て籠もっているうえで、未だに捜索の手も届いていないようだ。


「問題は陛下と妃殿下、そしてライアの安否だけど」

「そちらは、右翼棟への連絡は取れないのでしょうか?」


 ルカイオス公爵が、僕の小型伝声装置が使えないか聞いてくる。

 正直動力が違うから互換性は低いんだけど、それを説明するのも後々面倒だ。


「…………できるよ。時間はかかるけど」


 うん、ウェアレルの術を基本にしてるから、できはする。

 小型を使わなければ、ルキウサリアの屋敷から王城を経由する方法もあった。

 そっちは人員も揃ってるから、できるかできないかで言えば、できる。

 時間はかかるけど、それでも宮殿に侵入できない今なら、血路を開くより早くて穏便だ。


 他に問題があるとすれば、この状態での緊張度合いか。

 魔導伝声装置を使う魔法使いの双子が、落ち着いて行使できるかどうか。

 できなければ通信の精度は下がるし、時間もかかることになる。


「右翼棟に、陛下たちを助けられる人員いそう?」

「難しいでしょうな」

「だろうね」


 そもそも宮殿で魔法はほぼ役が立たないようにされてる。

 伝声装置が置かれてる場所は、そこだけ魔法についての縛りが緩くされた特殊な部屋だ。

 右翼棟と連絡が取れて、一定数の魔法使いを確保できても、徒手空拳よりまし程度で、救出要員としては心許ない。

 ちゃんと鍛えた衛士なら、魔法を半ば封じられた魔法使いより強いだろう。


(セフィラに見てもらうほうが早いんだけどなぁ)

(敵に回る恐れのある兵の中に、主人を置いて行くことはできません)


 これだ。

 セフィラなら行って帰って来るだけで、安否確認できるのに。

 けど心の声が聞こえるセフィラがそう言うなら、無視もできない。

 今ここに僕を害してもいいと思ってる人が、多すぎるってことでもあるんだ。

 まぁ、最悪僕しか皇子が残らないなんてさせられない立場なんだろうけどさ。


 それに人の目が多すぎるとセフィラについて誤魔化しもしにくい。

 なんで入れないはずの宮殿の中まで知ってるんだとか、聞かれても困るし。


(必要なのは、外からも見られる反応か)

(現状、本館からの反応は送信機がない限り連絡はできません)


 送信と受信を別にして、文字数を多く送れるようにしたんだけど。

 まさかこんな非常事態が起きるとは思わなかったよ。


(いや、相互で通信してるわけだから、受信機をいじって送信機にもできるんだよ。そうとう文字数とか制限されるけど)

(しかし成せる者がおりません)


 そこが問題だ。

 この宮殿で伝声装置を知ってて触ることがができるかもしれないのは、父と妃殿下、そしてレーヴァン。


「やるだけやってみるか…………」


 僕は小型伝声装置の送信先をセットし直す。

 そしてテリーの部屋にあるだろう受信機に送った。


(レーヴァン、いたら返事して…………と)

(無理があります)


 無理は承知だ。

 それでも宮殿にいる可能性があるし、ストラテーグ侯爵のおつきとかで本館にいる可能性さえある。

 そして襲撃があったとすれば、職分としては宮中警護として動く。

 近くにいたら陛下と一緒に避難してる可能性もある。

 そうなると、避難訓練でテリーの部屋へ行ってるかもしれない。

 この連絡を受け取る可能性は他よりも高いと言える。


「さて、少し外側からでも宮殿の様子を見たいんだけど?」

「供をお付けいたしましょう」


 ルカイオス公爵の厚意ともとれるけど、それ見張りだよね。


 ただ僕の突飛な提案を受け入れてるのは、テリーたちが無事だということを信じたから。

 家族の安否に関して僕が嘘を吐かないという信頼はあるらしい。

 あとは、僕が勝手に事を進めることに、ルカイオス公爵の部下も不満がたまりすぎてる雰囲気がある。

 僕は一度席を外すから、いい感じにガス抜きをしておいてほしい。


「思ったより遠いな」


 僕は兵士たち越しに宮殿の閉じられた門を眺めた。

 宮殿は広大だ。

 宮殿正面へ行くための距離もまた長大だった。


 まず長く湾曲して鉄柵まで備えた外壁があり、その向こうに宮殿広場が広がる。

 そこは軍を並べられるくらいに広大で、前世の学校にあった運動場よりずっと広い。

 そして大臣たちが部屋を持つ棟が並び、さらに奥にはまた別の壮麗な金属門がある。

 そこが本当に宮殿の正面、宮殿前広場になる。


(セフィラ、この距離からの走査できる?)

(人が多すぎて精度を確保できません)


 つまりは障害物が多すぎるわけか。

 兵を並べられる広場には今、敵方の兵が並んでる。

 門を破られないように、現在急いで障害物を積んでるし。

 その上でこっちが門を突破しようとすれば応戦できるよう詰めてもいる。


(おおよその数でいいよ)

(二百弱)


 元から宮殿に大勢の兵を潜ませるのは無理だし、帝都でも徒党を組んでたらその分目立つ。

 いても百人弱が限界。

 その上で東門から侵入した兵と呼べる一団がいる。

 それも貴族の屋敷のある中を通って、もしくは屋敷の中に隠して動いてるならやっぱり百人前後がせいぜいだろう。


 素人の僕が考えるより、聞いたほうが早いか。


「ヘルコフ、だいたいどれくらいの兵を連れ込んでると思う?」

「隠してた屋敷の大きさにもよりますけど、今日まで隠し通すなら少人数ずつ屋敷に移動。その上で一つの屋敷に兵として納められるのは百人前後。どれくらいの数の家が協力したかによりますけど、さすがに口が増えれば食料に偏りが出ますね」


 確かに千人もの兵を密かに用意するには、食事を用意する段階で露見しそうだ。

 露見せずにいたとすれば、目に見えて食料の消費がわかるだけの日数が経っていないか、数が揃ってないか。


「私見を申し上げさせていただければ、ことはルカイオス公爵が帝都を離れた二か月の間。であれば、五百も集められないのではないかと」


 イクトが言うとおり、準備にかけられた時間は長くない。

 というか、時間かけるとそれだけ隠す側の負担も多くなるのはわかる。


 ウェアレルも順を追って考えながらいう。


「相手が宮殿に押し入った後に、ルカイオス公爵は兵を並べて出入りをふさぎました。最初に入った者以上の兵はおらず、見える範囲にいるのも五分の一は下らないでしょう」


 相手の動きは予想外に早かった。

 けど構えてたルカイオス公爵も早くに対応してる。

 結果、相手は父やテリーたちを探す前に宮殿の門を守ることに人手を取られたわけだ。


 そうなると、今は宮殿の本館という一番皇帝がいそうなところを虱潰しにしてる最中か。

 見つかるのは時間の問題だ。

 場所によっては即座に確保される。

 けどテリーの部屋に逃げ込めてたら、入り口をふさいで助けを待つ猶予ができるかもしれない。


(無事に逃げ込めてくれてたらいいんだけど)

(宮中警護レーヴァンが皇子の間にいることを確認しました)

(え!?)


 思わぬセフィラの報告に、僕は肩を揺らす。

 さらにセフィラから理由を聞いて、宮殿の屋根を見上げると、側近たちも揃って同じほうに目をやった。

 僕が見るのは宮殿の屋根の上に伸びる煙突だ。

 ただ、大臣たちの部屋がある棟なんかがあって、僕にはわからない。


「ヘルコフ、身体強化で視力を強化して、宮殿西の煙突を見て」

「はい? …………ありゃ、シャボン玉?」

「見えた? だったらあそこにレーヴァンがいる。勝手に入ることはないから、一緒に逃げ込んだ誰かがいるはずだ」


 僕はそう言って、人目の少ないルカイオス公爵の天幕に戻った。


 僕を見張ってたルカイオス公爵側の人は、良くわからない顔をしてる。

 ルカイオス公爵も報告を受けて逡巡するようだ。


「レーヴァンとは殿下の宮中警護の一人でしたな」

「そう、さっきこれで名指しの連絡を入れた。結果、暖炉の煙突からシャボン玉を上げたみたいだ。テリーが練習に使ってたのが、部屋にあったのかもね」

「シャボン玉とは確か、風の魔法の練習に使う液体から出る泡でしたな。なるほど」


 ルカイオス公爵もレーヴァンが基本的にストラテーグ侯爵の側にいることは知ってるだろう。

 その上で本館にいるなら単独ではないこと、そして煙突の位置と使われたシャボン玉から皇子の間であることも理解したらしい。


「連絡が取れると思っても?」

「それを今からレーヴァンに指示して可能なようにしてもらう」


 僕は小型伝声装置で受信機に指示を書き込む。

 レーヴァンには即席で、伝震装置を改良して向こうからの情報提供ができるように手を加えてもらうつもりだ。


 ただ、こっちから一方的に送ることになるから、できるだけわかりやすく、失敗の少ない方法を考えなきゃいけない。

 僕は頭の中でセフィラと相談しつつ、受信機で一番簡単に送信できる方法を考えた。


定期更新

次回:救出準備2

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― 新着の感想 ―
レーヴァンはアーシャの理解者の一人(不本意)ですから話が早いね。
次の閑話はレーヴァン(9回目)かな(‘∀’)わくわく
乗り切った後優秀さを敵勢力に知られてしまったのはどうするんだろう…?
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