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376話:宮殿占拠事件1

 ソティリオスを追って急いでいたところを、さらに無理をして馬車を進めた。

 すると帝都の外には人が溢れる光景が広がる。


 僕は止まった馬車の窓から顔を出した。


「何これ? 商人や町人だけじゃない。貴族の馬車も立ち往生してる?」


 集った人々も困惑してるようだ。

 見る先にはきっちりと閉められた帝都の門がある。

 昼日中にしまってるなんて明らかにおかしい。


 そこに馬車外のヘルコフが声をかけてきた。


「馬上から失礼。どうもこれ以上進むと後退もできなくなりそうです。様子を見てくるんで待っててください」

「では私も参りましょう。風を使って広範囲の声を拾いますので、お役に立てるでしょう」


 ウェアレルも外へ出ると、僕はイクトと一緒に待つことになる。

 ルキウサリアからの兵たちも、ひと目で異常事態が起きてることを察知して、周囲の警戒に当たってくれた。


(セフィラ、先に宮殿に行くことはできる?)

(現状、不測の事態が起きています。主人を置いてはいけません)

(じゃあ、せめて閉まった門の向こうの兵たちから情報を引き出して戻ってきて)

(了解しました)


 すぐ戻れる距離判定らしく、僕からすれば遠く人だかりの向こうへ行ってくれる。

 これ、僕は走っても行きに三十分はかかるな。

 人の頭の上を行くセフィラだからこそ、簡単に行き来できるんだろう。


 さらに言えば、閉まった門もセフィラには関係ない。

 黙ってる兵も関係ないし、本当に情報収集には重宝する。


「アーシャ殿下、少なくとも長々と腰を下ろしている者がいないので、門が閉じられてからは短いかと」


 御者席からイクトが教えてくれた。


 僕も窓から車内に戻って確認する。

 確かに色んな職業や身分の人がいる中、長々と居座る様子の人はいない。

 そんな人たちの中を動き回って情報収集する人も見える。

 つまり、いきなり門が閉ざされ、その上で誰も詳しくは知らないんだろう。


 それでも知りたいし、知らないといけない。

 そんな思いで待っていると、ウェアレルとヘルコフが戻ってきた。

 同時にセフィラも僕に帰還を報告するから、内側から馬車の戸を開く。


「狭いけど乗って」


 僕はウェアレルとヘルコフを招き、イクトには御者台から聞いてもらう。


「俺が聞けたのは、門が閉まって半刻ほど経ってるってことです。身分に関係なく、突然門から外に出されて閉められたそうで」

「私は、貴族で上は侯爵、役人に至るまで取り付く島もなく門を閉ざされたと。どうやらどこかの公爵家の命令らしいとの噂がありました」


 ヘルコフは直接門が閉まる瞬間を見た人物を見つけて聞き、ウェアレルは広く話を拾って、上の者からも噂を聞いた。


 そこにセフィラが姿を現して言う。


「門の番兵も詳しくは知らずにいます。しかし宮殿にて異変が起きたため、帝都全ての門を封鎖したこと、そしてそれを命じたのがルカイオス公爵であることはわかりました」


 思わぬ名前に僕たちは息を詰める。

 今さら心を読めるセフィラの情報を疑う必要はない。


 そうなると、解消できない疑問は置いておくしかない。


「身分関係なく外へ出した。そして半刻前にことは起きてる。そうなると、ソティリオスが乗せられた馬車はどうなってるだろう?」


 一日以下の差で追っていたはずだし、もしかしたら半日以下かもしれない。

 けれど詳しいところはわからなくなってる。


 さすがにルキウサリアから使っていた馬車を変えられたんだ。

 馬車の特徴がわからなくなって追うのが難しくなったから、御者の身体的特徴から追うことになった。

 それに加えてどうやら食料の補給もおざなりにして進んでいる。

 それでも向かう方角を捉えて、やはり帝都に向かってるってことで追ってきたんだ。


「帝都の門を潜っているかどうかということですね。正直、通り抜けていないのではないかと思われます」

「そうですね。身分関係なく門の外ということは、通行許可されていない者は全て押し出されたと思うべきでしょう」


 ウェアレルにイクトも同意する。

 そこにヘルコフも被毛に覆われた顎をこすりつつ言う。


「お貴族さまってことも公にはできない状況で、先に並んでた奴らより前に行くことはないでしょうな」

「じゃあ、セフィラ。周辺にソティリオスはいる?」

「該当なし」


 無情な答えが返ってきた。

 けど今は時間が惜しいから、それで十分だ。

 僕は考えをまとめる。


「急いでいたなら真っ直ぐこの門へ向かうはずだ。でも通ってない。そして門の周辺にも留まってもいない。じゃあ、次は何処へ行く?」

「引き返すのが順当ですが、それもないでしょう。セフィラが感知していないのであれば」


 僕たちと行き違ったはずはないと言うイクトに、ウェアレルとヘルコフも頷く。


「帝都内部のアジトは潰しましたが、まだ帝都近隣の街は手が届いていないはずです」

「その計画もあったが、二か月以上前のことじゃ、今どうなってるかわかりませんな」

「つまり、僕たちは確実にソティリオスを見失ったわけだ」


 僕の確認に迷ったけど、全員がしっかり頷く。


 僕としても現状は受け入れなければいけない。

 その上で次を考えるんだ。

 そうじゃないと動けないし、どうしても無視できない状況もある。


 その上で、今はルキウサリアからついてきてくれた護衛が、それなりの数いる。


「だったら、周辺での捜索はルキウサリア側にお願いして、僕たちは可能性を追おう。もしかしたら、運よくこれだけ人が集まる前に滑り込めた可能性を」


 つまり、ソティリオスが帝都内にいるかもしれないと。


「もう、そう決め打つ以外には不毛な捜索しかない。ただそれをするにも帝国側の人手が必要だ。それに、これが帝都内だったら使える」


 僕が取り出すのは、アズロスとして預けられたウェルンタース子爵令嬢からの手紙。

 帝都のウェルンタース子爵家、並びにユーラシオン公爵家に協力を要請できると言われたし、セフィラが封を開けずに内容を確認した結果、確かに僕と協力してほしいという要請が書かれてた。


 何より、宮殿で何が起きてるかを知らないと、心配すぎてソティリオス捜索にも身が入らない自信がある。


「そうですね。捜索を続けるにも人手を増やさなければこれ以上は無理でしょう」

「そうなると、俺たちがすべきは帝都に入る方法を考えることか」

「不穏な報せから考えれば、問題が起きたのは宮殿でしょうが」


 側近たちはそこまで言って、悩んでしまう。

 ルカイオス公爵は明確に僕を排除しようとしてる。

 その命令で閉められたなら、第一皇子だからって開くとも思えない。


 僕はできるだけ帝都の様子を思い描いて、突破口を探る。

 そうして浮かぶのは帝都の湖。


「…………よし、別荘地だ」

「「「あ」」」


 僕の呟きだけでわかって、全員で動き出す。

 ルキウサリア側に現状を伝えて、周辺を探索してもらうんだ。

 そしてその後の大まかな動きも打ち合わせて、僕を乗せた馬車は走り出した。


 湖を挟んで帝都の向かいにある別荘地。

 以前家族旅行で、帝都の門を抜けて向かった場所だ。

 別荘地は帝都の門の外で問題なく行けるし、何より湖に門はない。


「上手くいけば帝都にも入れるはずだ」

「まずは別荘地の使用人が、帝室の船を出すかどうかですね」


 馬車の中でウェアレルが言うことに、僕も不安は残る。

 別荘の使用人は家族と一緒に行って、会ったきりだ。

 皇帝も一緒だったから、あの時は何も言わなかった可能性もある。


 不安ながらかつて家族と旅行に来た円形の別荘へたどり着く。

 待ちきれず、僕は自分で馬車を降りて別荘の入り口に立った。


「いったいどちらさまで…………で、殿下!?」

「良かった、顔を覚えている人がいて。すぐに別荘で管理してる船を出して。宮殿へ向かう」


 僕を見てすぐに背筋を正す使用人。

 以前の滞在で顔見知りになった人だった。


「え、あの…………? 馬車でしたら門から行かれたほうが?」

「そう、まだこちらには話が来てないのか」

「あ、すでにご許可があるのですか? これは失礼いたしました。では、少々お待ちを。さぁ、どうぞ中へ」


 帝都の門が閉じられたことを知らないんだなって意味だったんだけど、勘違いされたようだ。

 すでに許可があり、僕と報せが行き違ったんだと。

 そう思い違うだけ、僕が帝室の一員として過ごしてたの知ってるからだと思うと、ちょっと嬉しい。

 宮殿と違って、僕が帝室所有の物を使うことに抵抗がないようだ。


 側近たちに目を向けると、それぞれが合図でどれも言う必要はないと示す。

 申し訳ないけどここは都合がいいから勘違いしていてもらおう。


「できるだけ急いでほしい」


 僕の催促にも、別荘の使用人は愛想よく応じてくれたのだった。


定期更新

次回:宮殿占拠事件2

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラミニアさんがアーシャの為に(贖罪込みで)頑張ったことがここで繋がるの良いですね。 [一言] ルカイオス公爵は黒幕と思しき人が何をやらかすか、ある程度は予想がついているっぽい?アーシャと秘…
[良い点] 別荘地の使用人、助かる。 [一言] とにもかくにも、帝都入りしないとですね。
[良い点]  急にアクションサスペンス物の風情にw  時間勝負でもあるが、別荘の使用人が変に帝都の噂話に毒されてなくて良かった。  先入観無く見ていれば、アーシャが皇帝一家の中で大切にされている事を疑…
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