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372話:消えたソティリオス2

 音楽祭が終わった翌日、僕は片付けに学園へ行くため着替えをしてた。

 そこに来訪者を知らせる声がかけられる。


「え、ディオラが来てる? こんな朝からどうしたんだろう?」

「王城からの急報とのことですが、内容が学園関係であるため、直接動ける姫君がってことらしいです」


 報せを持ってきたヘルコフが、ディオラ本人が来てることも教えてくれる。

 今は着替えてる僕の代わりにウェアレルが対応してるそうだ。


「屋敷の執事も通したなら、相当だね。ノマリオラ、テレサ。今から髪の色を変えてくれる?」

「はい、ご主人さま。可能な限り早くに」

「は、はい。急ぎます!」


 緊急事態と知ってもノマリオラはいつもどおり。

 けどテレサは心配を隠し切れずに声を跳ねさせた。


「ディオラが前に出てきたなら、たぶんすぐさまの危険はない。けれど、あまり外に出したくもない問題が起きてるんだと思う」


 僕は裏を読んで、テレサの安心材料にしてもらう。


 そして急いで髪を黒くした僕は、階下へと向かった。

 ディオラにはもうばれてるけど、他の使用人や騎士の目につくのを避けるためだ。


「アーシャさま。先ぶれもせず、お支度のお邪魔をしてしまいましたご無礼をお許しください」

「いいよ、ディオラ。いったい何があったの?」


 応接室の代わりに、屋敷の奥で人が寄り付かない晩餐室で話を聞く。

 焦りを浮かべたディオラは、僕の許しにも緊張の面持ち。


 それだけの理由があるらしく、ディオラもすぐに説明を始める。


「実は、昨夜よりユーラシオン公爵家のソーさんが戻 っておられないのです」

「え、ソティリオスが?」

「最後に会ったのはアーシャさま、いえアズさまだという情報は間違いないでしょうか?」

「そうだよ。あぁ、あの正門の辺りに登下校を見守る人員がいたから、そこからか」

「はい、ソーさんとお二人で和やかに話していらして、問題もなくと報告にはありました」


 あえて言うのは、つまりは僕が理由だとは疑ってないと示すため。

 けどソティリオスは帰っていない、つまり…………。


「行方不明?」

「そう、なります」

「その知らせは何処から?」

「何処とは? ユーラシオン公爵家のお屋敷からですが」

「ウェルンタース子爵家からは?」

「ウェルンさんですか? 確かにユーラシオン公爵家のほうからご連絡が行って、捜索に協力なさるとは聞いておりますが」

「いや、ソティリオスが乗っていった馬車は、ウェルンタース子爵家を名乗ったよ?」

「え?」


 僕はディオラと顔を見合わせる。

 お互いに目まぐるしく可能性を思考した上で、同時に頷いた。


「最初から説明しよう」

「はい、護衛の者も距離があったため仔細は不明とのことでした」


 僕はソティリオスと出し物やウィーリャについて話したことを説明する。

 そこにウェルンタース子爵家を名乗る馬車がやってきたことも。


「帝都のユーラシオン公爵家からの急報? そのようなことは聞いておりません」

「ユーラシオン公爵家がソティリオスの不在に慌ててるなら、そこは偽情報なんだろうね」


 けどそうなるとおかしい。


「ウェルンタース子爵家と言ったのはソティリオスからだった。御者の顔を知っている様子で。だから家紋も何もない馬車でもソティリオスは乗ったんだと思う」


 僕はセフィラが再現してくれる台詞を使って、当日の会話をそのまま伝える。


「確かに音楽祭で渋滞は起きておりました。ですが外からの宿泊客と、打ち上げまでの時間には差があります。公爵家が馬車を出せないほどではないはずです」

「うん、そこも嘘だったんだろうね。本当だったら、偽報で釣る必要がない」


 だったら何が目的で、そんな嘘を重ねたかだ。

 すぐにばれてもいいというなら、ソティリオスの安全は保障されない。

 だからこそめったなことも言えない。


「…………学園都市の何処までを探した?」

「学園内部は早朝すでに、密かに兵も入れて徹底捜索を。しかし姿はありませんでした」

「ユーラシオン公爵家側は、ソティリオスが打ち上げに参加と思ってたんだよね? いつ行方不明に気づいた?」

「月も登った後に、ウェルンさんが屋敷に戻った際にお聞きしたと」


 つまり屋敷側は、ウェルンタース子爵家令嬢が戻っても帰ってこないのはおかしいと気づいた。

 その上で、ウェルンタース子爵令嬢が帰ったと知って問い合わせたんだろう。

 婚約者として、一緒に行動することも多いから。


「ウェルンタース子爵令嬢は、ソティリオス不在についてなんと?」

「夜を徹してずっと捜していらっしゃいました。それは私も見ています。一度抜けると言って出て、友人方も連れずに正門へ参ったと」

「うん、僕に会いに行くとなるとそうだろうね。錬金術科に会いに来るのと同じノリだったんだろう」

「打ち上げの間、ウェルンさんは会場の入り口に人も置いて待っていました。私が帰るよりも長く。ソーさんがいらっしゃらないと仰っていたのも聞いています」


 ウェルンタース子爵令嬢は、いち早くソティリオスの不在に気づいた。

 けど、あくまで学園の中を探してたから見つからなかったんだ。


「そして帰っていらっしゃらないと知り、改めて学園へ戻られたそうです。正門の出入りについて問い合わせを行っています」

「そうだね、あの日はまだ正門しか出入りができなかった。その時、僕と通ったことは?」

「はい、報告されたそうです。そしてそのまま、戻られなかったことも。馬車に乗ってアーシャさまとは別れたことは、まだお伝えしていません」


 行方不明に気づいてもすでに夜。

 夜を徹して探せる限り探し、話し合いを両家で行った。

 結果、日の出を待って王城へ報告に。

 そして登校時間前に僕の所へ聞き取りとしてディオラがやってきたわけだ。

 たぶん城のほうも人員を出して捜索を続けてるんだろう。


「学園都市から出た可能性は?」

「……………ございます。なにぶん、流出の激しい時でしたので」


 音楽祭が終わったことで、人の動きが激しい時だった。

 確実にこれは時機を見計らっての行動 だろう。


「夕方の閉門近い時間か」

「はい、入管であれば厳しく精査もするのですが、音楽祭が終わり帰途に就く者も多く。退出であれば厳しく確認もしていなかったようです」

「馬車の中を入念に調べることもしない、か」


 言いながら僕はセフィラに確認する。


(馬車の中に誰か潜んでたりしてたのかな?)

(いません。御者のみです)

(御者がソティリオスをどうにかするには一度馬車を停めて?)

(御者が魔法使いであった場合、一時的に意識を奪うことは可能です)


 確かに魔法なら、馬車の中に放つだけで御者席からでもできる。

 ソティリオスは身を守るための護符の宝石を身に着けてたはずだ。

 けどそれも解けるのを早くする、もしくはかかりを浅くするだけ。


 魔法にかからないわけじゃないことは、このセフィラが実証済みだった。


「ディオラはこの後?」

「アーシャさまのお話から、その御者を割り出そうと考えております」

「だよね」


 つまりこの後ウェルンタース子爵家へ向かう。


 本当に御者がソティリオスと顔見知りであれば、確実にウェルンタース子爵家が把握してるはずだ。


「僕も行こう。アズロスとして、最後に見た目撃者だしね」

「よろしいのですか?」

「ウェアレル、学園のほうへの説明はお願い」


 僕が言うと礼を取って受諾する。

 そこにイクトが質問してきた。


「守りはいかように?」

「動けるようにはしておいて。なるべくディオラと行動するから」

「はい、アーシャさま、いえアズさまはお守りします」

「そこまでじゃなくていいから。僕はディオラのついでって形をとれたほうが都合はいい」

「あ、はい」


 勢い込んで答えたけど、やりすぎなことにディオラも気づいて恥ずかしげに応じる。


「今のところ、ユーラシオン公爵家の屋敷のほうに、身代金の要求も来てないんだよね?」

「はい、そのような接触があればすぐに知らせるようにと陛下も申しつけておりました」


 ルキウサリア国王からしても、帝国の有力貴族嫡子が自国でさらわれたなんて外聞が悪すぎる。

 ことの解決には全力で当たるだろう。


 ディオラは純粋な心配もあって、焦りを押さえられず立ち上がる。


「では参りましょう」

「急ぎだけど、また少し待ってもらっていいかな? 髪がね」

「あ、そうですね。では、馬車を寮のほうに回します」


 僕は今アーシャとして黒髪だ。

 アズロスとして動くなら、髪の色をとって寮のほうから出ないといけない。


 必要な偽装も今は面倒だ。

 身代金要求があれば、まだソティリオスに価値あると思えるけど。

 それすらないなら、もう用済みになってる可能性さえある。

 僕はできるだけ自分を落ち着けながら、急いで髪の色を落とすため階段を上った。


定期更新

次回:消えたソティリオス3

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― 新着の感想 ―
頭皮と髪への負担がヤバそう
>「実は、昨夜よりユーラシオン公爵家のソーさんが戻 っておられないのです」 >「え、ソティリオスが?」 ソティリオス、まさかの2回目、囚われのお姫様。 君がヒロインだったなんて、盲点だったよ……。 …
今更だが次期公爵に専属の護衛すら いない状態だったのか なんでだろ
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