370話:音楽祭5
音楽祭の最終日。
前日から残った花を全て放出することになった。
そのために午前中から、曲も決まってないのにみんなでどんな演出をするか大盛り上がりだ。
「もういっそ、大きく炎を上げるのはどうであろうか。色分けも花でできるとあれば、虹のように並べれば見栄えも良かろう」
「わたくしどもであれば、火の粉が散らないよう事前に術を組むことが可能です」
竜人のアシュルの提案に、クーラが安全について補足する。
「いやいや、こういうのは同じことをするなら、いっそ一から十まで全部見せるくらいがいいよ。最後の特別感としてさ」
商人のラトラスの意見に、同じく商人出身のロクン先輩が同意する。
「そうだよね、火だけを強化しても、すでに見たことある人もいるだろうし」
「あ、あの、それと、演出も、重要で…………。歌が静かであれば、やりすぎも」
ショウシも控えめながら意見を言う。
そうして話しながら全員手は止めない。
蟹の呪いを知りたいトリキスが、現状を整理するように話す。
「すでに前日から、花を用立ててもらっているところからは使用する花の種類が通達されている。同時に歌も決めていいのでは?」
「そうだねぇ、もう今日は今から歌決めちゃおうかー。そのほうが準備にも時間使えるし」
ステファノ先輩が、花の種類や色、数をメモした紙を片手に頷いた。
すると、そわそわする金髪のポーが意を決して声を上げる。
「あのあの! 今まで背景とか人形とかを考えたでしょ。だったら最後は、ウィーリャどうにかできないかな?」
「え、ウィーリャを燃やすのか? それはさすがにヤバいぜ」
「絶対違いますでしょう! なんて恐ろしいことをおっしゃるの!?」
戦いて耳を立てるネヴロフに、ウィーリャは毛を逆立てて否定する。
「最後であるのですし、花から演出を決めて、歌を合わせるなどはいかがかしら?」
「だけどよぉ、それも難しんだろ? 結局歌がどんな内容かで演出しねぇと」
富裕層の割に品に差のあるイデスとタッドが隣り合って意見を交わす。
未だに錬金術科に入った理由不明な二人だけど、基本的に協調性はある。
そこは貴族が大半の中にいる、平民だからこその気後れかもしれないけど。
考えてたらエルフのウルフ先輩が指を立ててみせた。
「やっぱり最後だし目新しいことするべきじゃないか? 外には今から場所取りしてるのもいるくらいだ」
「でも、派手にしすぎるとまた企画運営の学生たちから怒られるよ? 次は先生も来るかも」
トリエラ先輩がいうとおり、音楽祭全体の企画運営を任された学生と、揉めた。
客が増えたけど、場所が正門脇で、ここは音楽祭の間は唯一の出口なんだ。
そこで派手に演出して、足を止めさせての出し物。
人流が止まって、火を使うのも危険だと、そう言って、二日目の後から文句が来てた。
文句だけじゃなく、僕たちの出し物の停止さえ要求して。
「けどそれも、結局はアズが言い負かして帰らせたじゃない。なんだっけ、同じような手口、水遊びでもしたとか聞いたけど?」
手伝いのイア先輩が、懇親会のことを言う。
先にルール押さえて、後からずるとか言えないようにしたことだろう。
それに手伝いのジョーが肩を竦めて見せる。
「まぁ、知らなかったなんて許可出した側が言うなら、じゃあ判断間違った分謝れ、補填しろってのは、真っ当な言い分だろうな」
ジョーが言うとおり、錬金術科なら大したことしないと高をくくって許可したのは向こうだ。
その上でこっちは正式な許可も得て、計画書も提出した上で場所も認可された。
それは運営の学生のみならず、教師側も同じ。
もちろんそうして喧嘩売るだけだと後で面倒。
なので、見物と正門を手前で分けて整理するよう、運営側に提案もした。
そこの人手や労力は、対策不足の企画運営をした学生側が負うしかないけどね。
「で、結局アズはどんな腹案があるの?」
「うーん、火の粉をどうにかできるって言うなら、この燃え落ちる城館で敵に啖呵切る女領主の歌とかいいなと思うんだ」
それは用意してた歌の中で、一番攻撃的な歌だ。
夫を亡くし、幼い息子を抱えた女領主が主人公の物語。
周囲に攻め込まれながらも、死力を振り絞って戦った女領主の最期の場面。
最後に降伏を受け入れて城館に敵の将兵を招いた女領主は、そこで火を放って自分ごと敵を焼き尽くす烈女と化す。
逃がした幼い息子への祝福と、共に戦った兵たちへの鼓舞、そして戦果を上げて世を去る別れの歌。
「正直、これだけ情熱と力強さ、悲壮感がないまぜになった歌、難しいとは思うけど」
「で、できましてよ!」
「よーし、だったら城館に誘い込んだ場所の食堂を背景だー」
僕の懸念にウィーリャが声を裏返らせつつも即応する。
途端に、ウィーリャの強がりを気にせず、ステファノ先輩は花の配置を下書きし始めた。
今さら取り消せないで固まるウィーリャを見た後、ネヴロフが僕を見る。
「火の粉気にするなら、盛大に燃やすのか、アズ?」
「そうだね、盛大に花吹雪を燃やしてほしい」
「まぁ、花吹雪ですか。それを全て燃やすのは、確かに危険やも知れません」
「セーメー、花吹雪とはなんであるか? 聞いたことがない」
僕のアイディアに応じたショウシに、アシュルが聞く。
確かに花吹雪が起きる花木って、生まれ変わってから見たことないかも。
桜のイメージだったんだけど、こっちだと草原の花が風に舞い上げられるとかかな?
「はぁ、アズ先輩はなんでもすぐ思いついて、すげぇなぁ」
「いやぁ、あいつの場合はまずなんでも知ってるのが他と違うって」
肩を落とすタッドに、ウルフ先輩が手をひらひらと振りつつ慰める。
その間に説明して、花吹雪がわかった竜人のクーラが頷いた。
「つまり、降伏を受け入れたもてなしから一転、敵ごと燃やし尽して果てる様子を花吹雪を燃やすことで表すと」
「今日までに出た花びらも保存してるけど、歌ってるウィーリャちゃん、大丈夫かなぁ」
トリエラ先輩が心配そうに窺う。
ウィーリャは平気なふりしてるけど耳が下がってるね。
「でもでも、花吹雪が燃えて、ぱっとウィーリャ出てきたらすごくびっくりすると思うな!」
「そうですね、今まで燃やしたら終わりでしたから、そこから歌の佳境となるなら」
ポーとイデスも乗りきだ。
期待の声を受けて、ウィーリャの耳も立ってきた。
ロクン先輩が、下絵を描いてるステファノ先輩に指示を出す。
「じゃあ、背景との距離考えないと。その花吹雪の火の粉で燃える可能性もあるな」
「平面と炎と、人形もどうせなら使って敵の見立てにするか。何体いる?」
思い付きを口にするジョーに、イア先輩が指を立てた。
「そうそう、前のだと使う花の量多かったから、もっと簡易で、あと火を放ったら糸が切れてあえて崩れる機構考えたの」
わいわいと、新しいことに興味を持つ人も多く話は膨らむ。
できるだけをやりたいという意欲は、誰からも窺えた。
そんな様子を見てたらトリキスが首を傾げる。
「何故、錬金術は帝都ではあんな風評なのか、余計にわからなくなるな」
「そこは魔法が隆盛したことと、教会に睨まれたこと、あと実際の錬金術師が減ってしまったこととか色々要因があるんだよ」
「つまり、私の調べが足りなかったと」
同じ帝都出身の僕が答えたことで、悪くとってしまったようだ。
しかもトリキスのほうが高位の貴族。
地方領主の息子と思ってる僕にできて、自分にできないとなると自身の落ち度だってなるらしい。
親類が宮殿に上がってるなら帝室図書館も見れるかもしれない。
だったら、確かに足りなかったところもあるだろう。
ただ、膨大な図書の中、隠されたり仕舞い込まれたりの錬金術の書籍を探し当てるのも難しいのは確かだ。
「僕は錬金術以外あまり勉強もしてないからね。かけた時間の差だよ」
そう誤魔化しつつ慰めつつ、最後の取り組みを話し合う。
花吹雪と背景、そして敵としての花人形を燃やさない工夫などが話し合われた。
時間は駆け足ですぎる。
最終日の終演間際、僕たちが設置した正門わきの小さな舞台。
そこには大勢の観客が詰めかけていた。
時間からして他の催しを観ずに、いい場所を取る人まで現れてる。
「ウィーリャ、今回はちょっと危ないから異変があったら合図出してね。すぐ下がっていいから」
「まさか。これだけの舞台を用意されて逃げ出すわけにはまいりませんわ。…………今回の件のお礼とお詫びは、あ、後で。必ず」
強気に言い放ったウィーリャは、呟くように付け加えて舞台へと出て行く。
僕は振り返って準備に真剣になる錬金術科の生徒を見まわし、ちょっとした達成感を味わっていた。
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