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37話:皇子暗殺未遂2

 庭園保全のため、剪定される香草を求めて僕はイクトと二人で庭園を歩いていた…………んだけど迷子発見。


 僕たちに背を向ける形で左右を見ては行ったり来たり。

 何処へ行けばいいのかわからないと全身で訴えていた。


「緑の髪で歳の頃は四つくらいでかわいい盛りだなぁ。ふふ、イクト。あの子誰だと思う?」

「前にもありましたね、二度ほど」


 イクトは普段冷静なんだけど今は渋面だ。


「僕の弟ってどうしてこんなに可愛いんだろう」

「アーシャ殿下…………」


 イクトは止めるように僕を呼ぶ。


 うん、僕も過去二回の迷子については覚えてる。

 どっちも碌な結果にならなかった。

 けどね、今も泣きそうな顔で、不安な足取りで迷子が目の前にいるんだ。


「一人ってさ、心細いものだから。ごめん」


 謝って僕は弟の下に足を向けた。

 イクトは厳しい顔だけど周囲に目を配ってついてくる。


「やぁ、迷子かな? 何処に戻りたいの?」


 声をかけると双子の弟だろう四歳児は疑いもなく目を輝かせて振り返った。


 くぁいい!

 いや、可愛い!

 本当大人の勝手な事情とかの不快感も消し飛ぶほど!


「ワーネルのところ!」

「そうかぁ。じゃあ、君はフェルなんだね」


 弟である双子は緑髪のフェルメスと紺髪のワーネルジュスという名前だ。

 他にこんな年齢の子いるわけないし間違いなく僕の弟だろう。

 顔はそっくりだけど色は違うと聞いてた。

 後性格にも違いが出ているらしい。


「うん、フェルだよ。ワーネルどこか知ってる?」


 フェルは無邪気に聞いてくる。

 イクトに小さく呼ばれて指を差された。

 フェルの手を引いて、一緒にそちらに行ってみると泣き声が聞こえる。


「フェル? フェル?」

「ワーネル!」


 フェルは僕と繋いだ手をそのままに駆けて行く。

 一緒に駆け寄った先には青い目に涙を溜めたフェルとそっくり同じ顔のワーネルがいた。


 うん、可愛いの二乗。

 お互い慰め合ってるのも加わって三乗。


「この人が連れて来てくれたの。ワーネルの場所すぐにわかったんだよ」

「すごい! 魔法使い? 兄さまみたいにかっこいい!」


 すごい尊敬の目だ。

 これは嬉しい。

 そしてテリーも兄として慕われてるなんて誇らしいなぁ。


 以前会った時には迷子になって泣いてたけど、もうお兄さんなんだ。

 僕の三つ下だからテリーも六歳かぁ。

 結局一度顔を合わせただけだし、どれくらい大きくなってるのかな?


「僕が名乗れるとしたら錬金術師だよ。それで、君たちは何処から来たの? ワーネルはフェルを捜しに来た?」

「違うよ。ぼくがワーネルいなくなったってみんなが捜してたから捜してあげたの」


 どうやら迷子はワーネル。

 そして双子の片割れを捜して自分も迷子になったフェル。


 尊い。

 尊いけど、それって周りの大人は迷子二人目が出て困ってるだろう。


「イクト、僕が直接連れて行くとやっぱりまずいよね」

「そうですね。待っていてもらう形が一番かと。ただ周辺に捜す者の気配はありません」

「いや、きっとワーネルが迷子でフェルは待ってるよう言われたはず。それが一人で捜しに出てるとなると、さ」


 待っててって言ってもきっとフェルは聞かないし一緒にいないとまた迷子になる。

 だけどイクトも職責の上で僕を一人にはできない。

 前は乳母のハーティも一緒だったから手わけができたけど今はもういない。


 双子を置いて行くわけにもいかないし、僕の悪評なんて今さらだ。

 幼い弟二人が優先だろう。


「二人は何処で何をしてたの? 散歩?」

「ううん、お祝い。お菓子食べてお花見ながら。フェル、お熱でてたの」


 ワーネルがさっきまで涙を流していたことなど忘れたように、今は安心しきった笑顔だ。


 そして今の時分に花が咲いていて、お菓子を食べられる椅子かテーブルのある場所が目的地。


「お母上は一緒かな?」

「ううん、兄さま」

「兄さまと四阿でお菓子」


 テリーが主催のお茶会か快気祝いかな。

 そして花と四阿、二人の年齢を思えばここからそう離れていないはず。


 そう思って一番近くにある近くに花木のある四阿へ向かうことにした。


「あれ、誰もいない」

「二人ともいなくなったために総出で捜索かと」


 向かった四阿にはお茶会の用意がされてあり、たぶんここで間違いはない。

 けれど誰もおらず、イクトが推論を述べた。

 その間に戻って来られた元迷子二人が四阿へ走る。


「お礼にぼくの好きなお菓子わけてあげる!」

「ぼくあれ嫌い。のどもやもやする!」


 双子なのに味の嗜好に違いがあるようだ。

 面白いなぁ。


 何より二人が仲良く言い合いながら四阿に向かう姿が和む。

 それが僕に対してのお礼のためと思えばなおさら口元がにやけた。


「あなたは本当に慎み深く、慈愛に満ちた方ですね」


 イクトはなんだか見ていられないように双子から目を逸らしてそんなことを言う。


 まぁ、自分が仕えてる相手との落差すごいもんね。

 お茶会なんてしたことないし、見たことのない豪華なお菓子ばかりだし。

 花や布で飾られた四阿もふんだんに人手を割いてのことだろう。


「慎み深くなんてないよ、ただ僕は弟に成り代わりたいと思ってるんじゃなくて、弟たちと一緒にいられたらいいなと望んでいるだけだから。あと愛情は陛下からの血かもね」


 弟たちがそれぞれ両手にお菓子を持って笑顔で戻ってくる。

 必死に走る姿は転ばないか心配になるけど、僕は近づかない。

 近づいたらきっとまた碌なことにならないから。


「…………もし、宮殿から出られて、皇子でもなくなるようなことがあったなら、私はあなたと共に参りましょう。他の者の前では言えませんが、冒険者というのもアーシャ殿下には合っているように思っていたのです」


 それは僕が放逐される未来。

 ハーティ伝いに後見が後見する気ないことがわかったからこそあり得る末路。

 すでに公爵家に睨まれてる今、僕に出世という未来はない。


 そんな子供を見捨てない情はあるけどイクトは現実的だ。

 お酒でお金を稼ぐ手伝いをしてくれるヘルコフも現実的で厳しいことも指摘するけど、目標は高く楽観も忘れないって感じ。

 だからイクトはシビアと言ってもいい。


「うん、心に留めておく」

「受け入れて、しまわれるのですね」

「現実は受け止めるよ。錬金術だってあり得ないで現実を否定しても進歩はないんだし」

「やはりその強さは冒険者向きですね」


 声を低めて会話するうちに、笑顔で双子が戻ってきた。


「これね、ナッツとハチミツとベリーと混ぜて焼いたの!」


 小麦粉の焼き菓子っぽいものをフェルが差し出す。

 満面の笑顔は、きっとそれだけ好きなんだろう。


「これ、ミルクとお砂糖いっぱいに混ぜてあって美味しいよ」


 ワーネルもお菓子を差し出してくれる。

 スフレってやつに似てるけど、これはもやもやしないのかな?

 ともかく柔らかすぎて手づかみでは食べられない形状だ。


 毒見にイクトが動くので、僕はそれとなく双子に確認する。


「嬉しいな。ありがとう。だから、僕の連れにもわけてあげていい?」

「いいよ!」

「美味しいよ!」


 本当に無邪気で癒される。

 イクトもこんな二人が何か仕込むとは思ってないだろうけど、そこはやらなきゃいけないお仕事だからね。


 それにしてもやっぱり弟って可愛いな!

 あぁ、テリーにも会いたくなってきた。


定期更新

次回:皇子暗殺未遂3

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― 新着の感想 ―
ナッツ、ハチミツ、ベリーどれもアレルギーになってもおかしくない材料ばかりだねぇ(;・∀・)
[良い点] 小麦アレルギーかな?
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