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366話:音楽祭1

 ルカイオス公爵の来訪の結果は、言いたいことだけ言って帰った感じだ。

 僕もさっさと話せとは言ったけど、それにしても笑ってるのに愛想がなかった。


(まぁ、今さら何を言われても、僕もやり方を変える気はないけど)

(主人と同じく今までの距離を変える気はありませんでした)


 セフィラが言うとおり、僕も歩み寄りはないと決めて相対した。

 ただお互いに見すえるところは同じってだけの他人だ。


 少なくとも家族を害すことはないから、後はお互いに折り合えないところで今までどおり争うだけ。


「アズ、また溜め息ついてる」

「なんだ、なんかあったか?」


 先日のことを思い出してると、ラトラスとネヴロフに声をかけられた。


 また、というくらいにはため息を繰り返してたようだ。

 うん、だって帝都のほう気になりすぎること言うんだもん。

 けど今は音楽祭初日なんだよ。

 昼になった今、目の前には各所から集めて来た花の山があるし、離れられもしない。


「これからでしょう。しゃっきりなさい!」

「君のそれは極度の緊張だから、気を抜いたほうがいいと思うけどね」


 ウィーリャは威勢だけはいい声を僕に向けるけど、見れば毛がところどころぼわぼわしてるし、一番そわそわしてる。


「大丈夫よ、ウィーリャ。練習したのだもの」

「そうでしてよ! 後は自らを押し出す自信を持ちなさい!」


 ショウシとワンダ先輩は、目の細かいブラシを片手にウィーリャの被毛を整え始めた。


「あ、ワンダそこ足元!」

「きゃー!?」

「だー! 水!?」


 ロクン先輩が羽根を広げて忠告するのも遅く、花のために用意した水の入った桶に足を突っ込んで盛大に転ぶワンダ先輩。

 そして蹴り上げた桶と一緒に、頭から水を被るのはエルフのウルフ先輩。


 よし、これは気を散らしてる場合じゃないな。

 放っておくと花を駄目にされる可能性もありそうな惨状に、僕はルカイオス公爵の曲者な笑顔を追い払う。


「濡れたお二人は着替えを。ワンダ先輩は椅子を用意して、手順書を預けるので、座って全体を眺めつつ、手順が間違ってそうな人に声かけをしてください」

「うぅ、やることはあるのですわ。まだ、まだ…………」


 午前で出番の終わったワンダ先輩が、いっそ嬉しそうにこぶしを握る。

 その姿にウィーリャはひと言呟きつつ首を傾げた。


「何故?」


 謎のピタゴラを見た感想なんだろうけど、たぶん他の新入生たちも同じことを思ってる。


 そっちはともかく、まず目の前の花の数を選りわけないと。

 僕が指示を出そうとすると突然声が上がった。


「ねぇねぇ! これどうかな!」


 騒ぎを無視してたステファノ先輩が、突然騒ぎ出す。

 見れば何か絵を手に僕に向かって突進してきてた。


 ステファノ先輩が書いてた絵は完成し、展示されてる。

 自作を見に行くべきだし、製作者として観覧者と意見交換なんかもする。

 それがこの催しではあたりまえらしいのに、ステファノ先輩はずっとここにいた。


「えっと、これは…………また絵を大きくするつもりですか?」

「門にしてどーんと後ろに立てて、それで…………!」

「これ以上手間を増やさないでくださいます!?」


 僕に怒涛の勢いで案を出すステファノ先輩を、ウィーリャが叱りつける。

 それで退くほど、ステファノ先輩も神経細かったら一人登校し続けるなんてしてない。


「君の後ろに立つ絵だよ? 身長の倍くらいはないと映えないよ! 君自身の舞台なんだ。手間を惜しんでどうするのー?」

「う、ぐ…………」

「負けるな!」

「間違ってないわよ!」


 帝国貴族のトリキスと、レクサンデル大公国の富裕層イデスが応援する。

 制作側としては、これ以上の手間はいらないと言いたいところなんだろう。


 ちなみにヨウィーラン王国のタッドは作業をしつつ、チラチラ様子見。

 ポーは気にせず薬液の準備。

 竜人のアシュルがそれを手伝うので、クーラもそっちへつきっきりだ。


「ロクン先輩、ウルフ先輩。作業的に、ステファノ先輩の提案は何処までが現実的ですか?」


 僕は濡れた服を着替えて来たウルフ先輩と、様子を見てたロクン先輩に意見を聞く。

 ワンダ先輩には大人しく座っていてもらう。


 花はどんどんしおれて行くから、放っておけもしないし。

 そっちはラトラスとネヴロフに、色分けとまだ回復可能な花の選別をしてもらう。


「さすがに今から倍は難しいと思うけど。半分くらいなら、今から足せるかも?」

「いや、見栄えの話だろう? だったら花の量もある。今変更すべきじゃない」


 一部採用のロクン先輩に、ウルフ先輩は慎重な意見だ。


 時間と材料、絵にする門自体の案はすでにある。

 だったら倍は無理でも付け足すくらいならありか。


「門じゃなく、尖塔を足すとかどうでしょう? 城を描くわけですし」

「あ、それいい! よーし、それじゃあ、こうやって…………」

「あんのー? さすがに花の色見て、計画し直したほうがよくねーです?」


 すぐに描き直そうとするステファノ先輩に、タッドが現実的な問題を挙げた。

 タッド、本当にオレスがいないとただただ大人しいな。


 なので僕もタッドを推して、どうしてもペンを握ろうとするステファノ先輩を花の色分けに投入した。


「はーい、ちゃんと色見て絵に必要分選別した上で、足せるかどうか考えてくださいね」

「あ、花の大きさで並べた時には色味に違いが出るね。これ面白いから使えそう」


 ステファノ先輩は別のことに意識を向けてくれる。


「では大きさも選別するのかしら? 箱を持ってきますわ」

「ワンダ先輩! わたくしがやりますので!」


 ワンダ先輩が立とうとするのを、ウィーリャが獣人の身のこなしで素早く制す。

 一緒に歌の練習したし、今回のことで動くとまずいということを理解したようだ。


「ラトラス、こっちは選別作業続けるから、花の追加を探してきてくれる?」

「わかった。飾りを変える時に茎折れたのとかありそうだよね。ネヴロフ行こう」

「おう、花って数が揃うとけっこうかさばるし重いからな。任せろ」


 ラトラスは力のあるネヴロフを誘っていってくれる。

 商人の息子だから目敏くもあるし、手ぶらでは戻ってこないだろう。


「アズ先輩、花の活性剤できましたー」


 ポーに呼ばれて、僕は検品に行く。

 活性剤はしおれた花を一時的に瑞々しくする薬剤。

 桶に作った物を配分して、そのまま作ったポー他竜人二人に手分けして、しおれた花に吸わせるよう指示を出した。


 保存液はすでに作って、バスタブくらいの水槽に入れておいてある。

 後は時間との勝負だ。


(やっぱり人手がかかるし、人がいると場所も取るな)

(花を魔法で浮かせて、該当の箱に投げ入れることは可能です)

(それはセフィラの処理能力があるからで、僕がやってるように見せると悪目立ちする)


 今日ここにはルカイオス公爵も来てる可能性があるんだ。

 だから朝からこそこそ登校して、そのまま外からは見えないこの作業場で籠ってる。


 もう後は演目が終わって手伝いに来てくれる人たちを待つしかない。

 やれるだけやろうと決めた時、外から人がやってきた。


「また何かするんでしょ? 音楽祭だからってお休みいただいて手伝いに来たわ」

「なんでか、錬金術科だったんだから、後輩支援しろって言われた…………」


 やって来たのはイア先輩で、その後ろには卒業生のジョーもいる。

 どちらも器用で絵心がある。

 願ってもない人員だ。


(運がいいっていうには、タイミングが良すぎる。これ、テスタが手回したかな?)

(可能性は高いと思われます)


 休みをもらったのは仕事先から。

 卒業生の仕事先は、錬金術の書籍探しだ。

 わざわざ音楽祭だからって言ってるあたり、作為を感じる。

 そしてそんな作為を働かせる相手のあてはテスタくらいだ。


 なんにしても使えるなら使わせてもらうことにしよう。


「では、お二人も花の選別を手伝ってください。あ、あと、キリル先輩がいないので、ステファノ先輩のお守もおねがいします」

「おい、待て。作業しつつこいつの突飛な発言につきあえって言うのか?」

「えぇ? あたしじゃキリルみたいに止められないって」

「二人でよろしくお願いします」


 僕はそう言って、新たに絵を増やすための木材の在庫を確かめにその場を後にした。


定期更新

次回:音楽祭2

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルカイオス公爵が音楽祭現物に来たりしないかと密かに期待。 連れてきている側近たちは子供は既に卒業してそう、とか若い方はまだ学校に通う子供はいそうにないけど、派閥の子弟は流石にいるだろう…
[良い点] ウィーリャが落ち着いたところ。錬金術科がそれぞれの思いを込めて、音楽祭に意欲的になりましたね! [気になる点] 花と背景が派手に燃え上がることで、「錬金術ってやっぱり危険!」って風評に繋が…
[一言] アズが同年代の中で、わちゃわちゃしてるのホッとする~。 いよいよ音楽祭当日ですね! 錬金術科のみんなが無事に楽しめますように、、!
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