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361話:ルカイオス公爵の来訪1

 ルカイオス公爵がルキウサリアにやってくる。

 しかも僕に面会を求めることも父経由で報せが来た。


 人員が必要だから、ルカイオス公爵が噛んでるのはわかってたけど。

 やっぱり伝声装置のための人集めは父の伝手だけじゃ無理だよね。

 それに封印図書館と違って、伝声装置は国同士としてやってる。

 だからルカイオス公爵が、伝声装置を利用するのはないことじゃない。

 それで僕に連絡を取ってくると思ってなかった、こっちの想定の甘さだ。


(アズロスのことはルカイオス公爵に言ってないはずだけど、テリー助けた時の連絡で、もしかしたらばれてるかも?)


 悩む僕の手に熱が生じる。

 セフィラは、ウェアレル経由で誤魔化せる段階だという主張が、文字として現れた。

 確かにまだ知らんふりはできるけど、ルカイオス公爵自体が疑う要素を持ったことになる。

 今回僕に会う段取りはその件かもしれないんだ。


 ともかく狙いが見えないのはまずい。

 そんな状態で相対するわけにはいかない相手なんだ。


「何かあったの、アズ?」


 イルメにそう声をかけられたのは、授業終わり。

 教室に戻ったんだけど、僕が何も言わずに考え込んでたせいだろう。


 改めて周りを見れば、クラスメイトたちが僕に視線を集めていた。

 セフィラ、僕の思考に意見するより、こういう周りの状態のほう教えてよ。


「今日はずっと考え込んでたな」

「音楽祭のことか?」


 ウー・ヤーとエフィも気づいてたのか。

 いや、うん。

 考えごとしすぎて喋ってなかったからね。


 エフィたちはこれから、芸術系学科の手伝いに向かう。

 他の学科を交えた練習が放課後にあって、今からなんだ。

 それでも僕の様子がおかしいと心配して声をかけてくれた。


「うん、ちょっと段取り考えてた」


 僕は気遣いに感謝しながら、言葉では誤魔化す。

 それに一緒にやってるラトラスとネヴロフが、実際まだ手が足りてないところを話しだした。


「必要な薬剤も揃ってないし、やっぱり当日にならないと花の数が予測でしかないのが不安だよね」

「それもあるけどもうちょっとなんかほしいよな。投光器よりも地味じゃね? なぁ、花の絵を動かす方法ってない?」


 ルカイオス公爵のことは考えなきゃいけないけど、目の前の音楽祭も錬金術科としてはおざなりにはできない。


 これで目立たなきゃ、錬金術科に人も増えないし、まずは注目と興味を集めないと。

 それから実績を少しでも増やす足掛かりにするんだ。


「俺たちも参加する所で使う花の種類は確認しておくさ」

「当日の昼には確定しているだろうが、できるだけ早めに伝えよう」

「でも、やっぱり量がどれだけかが問題よね」


 エフィ、ウー・ヤー、イルメも気にしてくれつつ、個別に練習へと向かっていった。


 僕はラトラスとネヴロフと一緒に錬金術科の実験室へ。

 そこにはすでに、他の錬金術科が集まっている。


「あ、アズくんたち来たね」

「アズ、言われてたとおりワンダに話をつけたぞ」

「こんにちは、トリエラ先輩。ウルフ先輩もありがとうございます」


 エルフのウルフ先輩に頼んでたのは、ウィーリャのこと。

 ワンダ先輩は持ち前の不器用さで、作業なんかは任せられない。

 けど声や音感、情感を表すセンスは、すでに去年のマーケットで知っていた。


 それは四年目になる学園側も把握してるらしく、単体で歌う場を用意されてる。

 練習を他と合わせる必要もなく、練習時間は自主練で移動の手間は少ない。

 その分時間が空いてるから、人間の音楽に詳しくないウィーリャに指導をお願いしたんだ。


「で、これは貸しな」

「そこは仕事の内ですよ」


 抜け目ないウルフ先輩だけど、ワンダ先輩の協力は催しの成功のためには必須だ。

 それは竜人の元王子アシュルの学園生活に寄与するという仕事の内だろう。


 不満そうだけどそれ以上言わず、ウルフ先輩も作業に取り掛かる。

 僕たちは手の空いてる者たちで薬剤作りしなくちゃいけない。


「えっと、これ次どっちだっけ?」

「右っす。あ、です」


 羽毛竜人のロクン先輩に、新入生のタッドが応じる。

 人間でヨウィーランの富裕層出身で、つまり就活生のオレスと喧嘩するという生徒。


 ただそれ以外では常識的らしく、錬金術に対するやる気は低いけど特に騒ぐでもなく、手先も器用で…………。

 って、これマーケットの時のオレスにも同じこと思ったな。

 もしかしてヨウィーランの人って根は真面目だったりするの?


「タッドはけっこう器用かな? だったら、こっちの手順が多い別の薬剤の調合を手伝ってもらおうか。クーラも行けそうだね。イデスもこっちに来てくれる?」


 イデスはレクサンデル大公国の富裕層の少女。

 特に貴族関係のしがらみはないらしく、エフィにも僕たちにも無反応だ。

 レクサンデル大公国の競技大会が大変なことになったこと、知らないわけじゃないだろうけど。

 エフィ曰く、レクサンデル大公国内でも派閥あるから、競技大会やってるところの領主と仲悪い勢力もいるんだとか。

 ただし、その勢力にいですの実家が入ってるかどうかは不明。

 ともかく未だになんで錬金術科かわからないけど、こっちもやる気は低いわりに黙々とやってる。


 そして錬金術科入学にしっかり理由のある竜人のクーラは、僕の指示にそっと不満の目を向けてきた。


「ポーは焦りすぎだから、アシュルが見てあげて」


 うん、やる気のあるポーが案外不器用なんだよね。

 アシュルは一々手順確かめる手堅さが、逆に作業を遅くさせてる。


 そこセットにしておけばいいでしょ。

 必要薬剤は予備も含めて多めに欲しいんだ。

 できる人を遊ばせておくことはできないよ。


「お前らけっこう慣れてるな?」


 就活生になったオレスは、マーケットで器用さを発揮したけど、ラトラスとネヴロフの慣れのある作業の速さには追い付いてない。

 二人はこれと違う薬剤だけど、調合や製薬の作業は何回もやった経験があるからね。


「数必要なのはいいけど。これ臭いし、なんか匂い対処したほうがいいと思うぜ」


 ネヴロフのぼやきに、獣人の嗅覚かラトラスも頷く。

 その上で、別の問題をラトラスは挙げた。


「匂いもだけど、もう一つくらい目を引く仕かけないと駄目な気がする」


 ネクロン先生にも言われた言葉を聞きながら、僕はタッドとクーラ、イデスに手順教える。


「これであれば、向こうでやっても問題ないのでは?」


 手順を覚えたクーラは、あくまでアシュルの近くにいたがった。


「いや、向こうは可燃物だから。火を扱う作業は別の台でやらないと駄目だよ」


 花を覆う薬液は可燃性が高いから火気厳禁だ。

 できれば火気のない部屋が良かったけど、そんなスペースないしね。

 一応、燃え尽きたらパッと消えるタイプで、酸素と化合して燃え続けることはない。


「ふぅ、こんな地味ならいっそ舞台に立ってたほうが良かったかしら?」


 イデスは不満そうだ。

 富裕層で、貴族に並んで出られるだけの教育を受けた自覚がある感じかな。

 余計になんで錬金術科に? って思うけど。


「地味が駄目なら派手にする方法考えよう。もっとドカーンとやれたらいいな」


 ポーは上手くいかなくても楽しそうに手を広げて言う。


「作業中に急な動きは危ないよ。これは魔法でも薬学でも言えることだ。気をつけてね」

「は、はぁい」


 注意したらしょんぼりしてしまった。

 元は薬学目指してたって言うけど、適性どうだったんだろう?


 テスタの反応からして、僕が在学中に送り込むこと重視っぽかったけど。

 選ばれたからには、勉強はできたはずだよね。


(っていうか、どかーんって。もしかして計算したら行ける? 危険すぎるかな?)

(花の並びに留意が必要ですが、可能です。ただ仕込みに新たな計画が必要となります)


 僕の考えを読んでセフィラが応じる。

 そのまま考え込んで、いくつか現実的な計画の素案を練る。


 つまり花で絵を作って、それでっていう話だ。

 ネクロン先生に言われたし、ちょっと前にネヴロフ、今ラトラスといです、そしてポーにも指摘された。

 これは、僕に足りなかったのは舞台演出に対する観点か。

 うん、そんなの前世も含めて考えたことない。

 けどポーの単純な言葉で、いっそ単純に目を引く仕掛けを仕込むだけでもいいんだと切り替えができた。


「…………うん、よし。ちょっと先生に相談と、ステファノ先輩のところにも行ってくる」

「おい、お前が離れると危ないんじゃないのか?」

「アズが何か思いついたんで、こっちは作業を続けましょう」

「たぶん面白いことだな。決まったら教えてくれよ、アズ」


 僕を止めようとするオレスに、ラトラスとネヴロフが逆に止めて手を振って来る。


 僕は二人に手を上げて応じると部屋を出た。

 行く先はまず先生を捜すところからだな。

 僕のせいで忙しいヴラディル先生は難しくても、ネクロン先生かウェアレルがいてくれるといいんだけど。


定期更新

次回:ルカイオス公爵の来訪2

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― 新着の感想 ―
[一言] 人形を打ち上げ花火にするか 帰る人達に向けて「蛍の光」でも歌ってもらうか(ダンシングフラワーの発想に逝かない
[一言] 芸術は爆発だからなあ
[良い点] なんだかんだ、下級生にも一目置かれてますねえ。 [一言] 現場監督のアズロス(いつも通り)
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