357話:音楽祭の出し物2
僕は錬金術科アピールのために、音楽祭で出し物をすることにした。
そのために今、職員室に花の飾られた花瓶を持っていく。
占拠してた本は資料室に移され、室内にはヴラディル先生、ネクロン先生、その助手のウィレンさんが揃ってた。
そして魔法学科所属のはずなのに、もう普通にいるウェアレル。
「ロックゴーレム寄せの薬…………」
「それは想定外の副次効果なので、聞かれても答えられることはもう答えましたよ」
ウェアレルがなんか呟いてるけど、それは今日の本題じゃないんだよ。
他に言えることなんて、レクサンデル大公国で使った時は、効果範囲にいなかったから気づかなかったとかしかない。
そもそもどんな感覚器官でゴーレムが感知してるかもわかってないんだ。
って、僕が意識を逸らしてしまった。
「今日は音楽祭の出し物をしたいので、許可と協力のお願いにきました」
「うぅ、俺も知らない薬のせいで、レポート…………」
うん、話に身が入らないのはヴラディル先生もだった。
錬金術科なんだから、生徒がやらかしたとなればそうなるよね。
しかも特に授業関係なく作ってたから、報告もしてなかったし。
ただ当日の内にヴラディル先生とウェアレルには、個別に青トカゲの力が発端で作り出したことも含めて報告済みだ。
僕も王城から詳しい説明ほしいって、今日の放課後アポ取られたから頑張って事前説明をしていてほしい。
「はぁ、説明は手短に済ませ。錬金術科で今さらいい場所なんぞ取れん。それでもやるなら、遅れに遅れた上で他よりも目を引く必要がある」
最初からノータッチのネクロン先生が、話を進めるよう手を振る。
「花で絵を作ろうかと思います」
「今から花を発注するのは難しいですよ。展示も音楽も歌劇も何処でも使うので」
ウェアレルが心配してそう言ってくれるけど、そこが狙いだ。
「はい、なので終わった後に廃棄される花を集めて絵を作ります。そしてそれを全ての催しが終わった時に掲示します」
僕の提案に、反応はいまいち。
ヴラディル先生が一番最初に思いつく問題点を上げた。
「一日飾られた切り花なんて、どうやってもしおれてる。評価されるほどのものができるとは思えない」
それにウィレンさんも頷いた。
「それにお貴族さまって使い回し嫌うじゃない? 他で使って廃棄するようなものなんて、どんな絵を作っても鼻で笑われそう」
しおれた花ならなおさらだと。
そう言いたいんだろう。
「では、この花を触ってみてください」
僕は花瓶の花を差し出した。
受け取ったヴラディル先生は驚いた様子で赤い被毛に覆われた耳を立てる。
「うん? なんだこれ。花びらの表面が硬い…………」
「花によく似た何か、というわけではなさそうですね」
ウェアレルは茎や葉っぱも見て、首を傾げた。
ネクロン先生は僕に目を向けて、さっさと説明しろと言わんばかりだ。
「これは、昔の錬金術師がエッセンスを元に作った薬剤です。植物の保存液になります」
帝室図書館に眠っていたレシピの一つだ。
本当に、あそこは庭関係の錬金術が豊富なんだよね。
そしてこれを左翼棟で作った日は、ウェアレル午後休でいない時だった。
前世的に考えると、ラップのような手触りになるレジン液に近い。
ジャブッと薬液に浸して乾燥させれば、ぴったり密封してしまうんだ。
ただし、とても日光に弱いという特性がある。
「これは室内に保管するなら退色せず、枯れ落ちることもなくなる薬です。ただ日光に当てると表面を覆って保護する薬が茶色く変色してしまうんです」
時間経過でも結局茶色くなるけど、一年はもつようになると言うもの。
「計画を聞こう」
花を確かめて、ネクロン先生は先を促した。
「下絵をステファノ先輩に作ってもらうので、僕たちは保存液で枯れないようにした花を並べるだけ。そして錬金術科の学生は、出し物の終わったところから廃棄される花を集めます」
展示は翌日の準備で早めに撤収する。
劇も演奏も一回の出し物で使った花は、終われば廃棄となるんだ。
課題のために色々と回った結果、聞いた話。
去年裏方を手伝ったラトラスとネヴロフも、花をすぐ廃棄していたと言ってる。
「他の人たちが発表してる間に準備をします。薬液に逐次投入、乾燥。手に入った花の色と形によって、ステファノ先輩に絵を変えてもらうつもりです」
そんなライブ感のあることは、さすがに才能がないと任せられない。
けど、手に入る花の色や量が確定しない状況だと、その場で判断できる人が必要だった。
「花がしおれないようにして、廃棄された花を絵に。そして終わりに掲示って、誰が見るの?」
ウィレンさんが素直に浮かんだ疑問を投げかけて来る。
「それはもちろん、帰る人たちですよ。なので、場所を抑えたいのは、正門の付近です」
催しの間は基本的に学園の正門だけを解放する。
つまり、帰りの客は皆同じ正門を目指して集まることになるんだ。
僕の言葉にヴラディル先生が手を打った。
「確かに正門は出入りの関係で、展示も催しもないから今からでも行けるか」
「他が終わって帰るだけとなれば、許可される可能性もありそうですね」
ウェアレルとしても可能性はありそうだと応じてくれる。
ただネクロン先生は、変わらずあまり反応が良くはない。
「…………他の出し物の余韻をぶち壊すだけのものを出せるんなら、やる価値もあるな」
「ぶち壊すなんて、そこまでは」
「そこまで考えろ。ただ花で絵を作りましたじゃ、横目に見て終わるぞ」
ネクロン先生は、僕を指差して断言する。
その上で、自分の長いエルフの耳を引っ張り出した。
「だいたい、考え自体は面白いが匂いもしないんじゃな」
「そうですね。覆ってしまうので、花の匂いはしません」
「見た目だけしか勝負ができない。価値を上げるには花の香りという強みをなくして余りあるものが必要だ」
そう言われると、納得しかない。
色美しさと匂いで花は価値がある。
僕の考えた花絵は、色美しさはあっても、匂いがない時点でマイナス。
絵にしても花の持つ色美しさを補強するだけ。
マイナスになった芳香を補うものじゃない。
「別の匂いをつけるのも、本来の形にするだけでしょうし」
「花の香りを一部でも再現したところで、手間と時間がかかるぞ」
ネクロン先生は耳を引っ張りつつ考えながら駄目だしを続ける。
そこにヴラディル先生が、別方面の問題を投げかけた。
「まずはやるだけの人員集めるほうがいいんじゃないか、アズ」
「就活生は趣味のスティフくん以外は、去年と同じところから声がかかってるでしょうし。新入生もまだ割り振りをしていませんが、一部すでに参加表明はいたはずです」
ウェアレルが、錬金術科としての出し物でも、参加できない人がいると教えてくれる。
確かに人手の確保も早い内にしないといけないな。
「となると、また錬金術科を集めて説明会をしますか?」
「いや、クラスメイトには言ってるんだろう? すでにスティフの了承を得てるなら、就活生も話を聞いてるだろう」
ヴラディル先生が言うと、ウィレンさんが指を立てた。
「じゃあ、新入生たちに説明して協力を得ないといけないわけだ」
「…………畳み方足りなかったんじゃないか?」
ネクロン先生が不穏なことを言う。
懇親会は最初、言うこと聞かせるために畳めと言っていたからそのことだろう。
実際圧勝でいっそヘイトを買った。
けど屈服はさせてないし、反発があることも想像できる。
「じゃあ、まずはエフィにお願いして三人確保してみます」
テスタ関連なら一度断られても裏から手を回せるし。
ニノホトのショウシはけっこう押しが弱くて黙ってしまうから、お願いで押せば行けそうかな。
帝国貴族のトリキスや、そもそも反感しかないウィーリャは望み薄。
さて、何人捕まえられるか。
それに、花の芳香を補うプラス点も考えなくちゃいけなくなった。
まぁ、やれるところからやるしかないか。
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