356話:音楽祭の出し物1
錬金術科の発展は、今後の錬金術のため、さらには後から入学してくる弟のためにも必要だ。
つまり錬金術科が目立てるイベントは無視できない。
その協力を求めるため、アイアンゴーレムを捕まえることになったけど、結果としては…………。
「欠片は手に入りました。でも本体は国の預かりになりました」
「えー」
「えーじゃないだろう。何があったんだ、アズ?」
報告すれば、ステファノ先輩にキリル先輩が突っ込みつつさらに聞く。
僕以外の参加者、イア先輩、ラトラス、ネヴロフはぐったりしてて口を開かない。
指名されたし、これ、説明僕か。
「まず、ゴーレムを捕まえる罠を作りました」
「よく聞くのは落とし穴だな。あいつらは重くて這い上がれないらしい」
「そうそう、あとゴーレムって正面しか見えないらしいねー」
キリル先輩とステファノ先輩は、ゴーレムの基本情報を知ってるらしい。
「えぇ、なので狩人のやり方を参考に、誘き出すために魔力を発する魔法陣を設置しました。そして斜面に誘き出し、石を土台に土を固めた台を作り足をかけるように誘導します」
「えー? 大きな段差は登れないからゴーレムが破壊するって聞いたよー」
「直進が習性だから、落とし穴が有用だが、大きさがな。落とすには相当な人数が必要になるはずだが?」
「はい、なので、転がします。直立で落ちない分、掘る穴は浅く済みますし、足が高くなることでゴーレムは転がる以外で起き上がれなくなります」
けど浅くても穴は必要で、転がるスペースがないように調整もした。
そして足が高いと起き上がれないのは人間も同じで、人を模して二足歩行するゴーレムだからこその構造上の問題でもある。
「本体を国がと言うなら、捕まえられはしたんだな?」
キリル先輩の確認に僕は頷いて指を三本立てる。
「アイアンゴーレムを捕まえるまでに、三色のストーンゴーレムを捕まえました」
「わぁ、そんなにゴーレム集まってたの? それって何処ー?」
僕たちもアイアンゴーレム狙いだったのに、次々に寄って来るストーンゴーレムには困ったんだ。
何せそもそもが、二トントラックを正面から見上げるくらいの大きさ。
普通に寄ってこられると怖いし、浅くていいとは言え穴掘りも疲れる。
「実は、土を固めるために使った錬金術の薬が、どうもストーンゴーレムを寄せる効果があったようで…………」
「何? そんなものがあったのか?」
キリル先輩は未知の薬ということで反応する。
「僕たちもそんな効果予想外だったので、国の側が調査を含めてゴーレムごと保管すると」
「あー、だからヴィー先生が今朝からいないんだねぇ」
マイペースな割に、ステファノ先輩が目敏く言う。
実際、ヴラディル先生は錬金術科の教師ってことで呼び出しを受けて今は王城だ。
僕のほうもアーシャとして呼ばれて説明はしてるけど、本当に予想外の効能だったんだ。
寄せる範囲も風向き次第で、たまたま範囲に三体いたのは本当に偶然だし。
ゴーレムは直進する習性と、尽きない体力で山を踏破してしまうから、平地よりも山間のルキウサリアに集まってて、見つかってなかったことに不思議はない。
青いアイアンゴーレムのように目立つ色じゃないと、人も通らないところ歩いてたりするし。
「もう、準備して穴掘ってってやってるのにドカドカきてさー」
イア先輩がゴーレム四体捕獲の疲れを引きずる声で愚痴る。
同時に、イア先輩が予想外の状況にカリカリしていた様子から思うこともある。
(エルフで錬金術が禁忌の理由って、毒だけじゃなくて、こういう思わぬ作用なんじゃないかな? 魔物自体にデバフある種族みたいだし)
(思わぬ作用の実例は、ロムルーシで暴走した錬金術のようなことでしょうか?)
イルメがいないからセフィラがそんなことを聞いて来る。
(そう。例えば作った薬を保存してた瓶が、棚の崩壊で割れた。そしたら魔物寄せの効果で、錬金術師がいなくなった後に被害がとか? ともかくそんなことがあって禁忌扱いされたのかも)
(そのような過去の例があるかを、エルフに聴取しますか?)
(うーん、生まれ育った国がイルメとイア先輩じゃ違うからね)
僕が確証の取れない疑問を保留にしていると、ネヴロフがぐったりしたまま顔を上げる。
「そう言えば、ゴーレムって作れるって言ってたけど、持ってかれたしもう無理か?」
「あんな大きなの作ると、逆に素材のための費用かかりそうだよね」
ラトラスもゴーレムで建材という話から、まず鉄や石材の値段を心配する。
確かにそれは、僕もゴーレムが錬金術だと知ってからも、手を出さなかった一因だ。
「人工ゴーレムって、あんなに大きくないんだよ。たぶん今いるゴーレムは、造られてから育った姿。苗木から大木になったようなものなんだ」
本来はナイラやヴィーラくらいの大きさで、つまりは人間より一回り小さい。
それでも鉄の塊と考えると、個人で買いそろえるにはけっこうな値段がする。
「そうなると、錬金術でゴーレムを再現したところで、別物だと言われそうだな」
キリル先輩が言うとおり、世間的にはゴーレムは古代の魔法で生み出されたのが定説。
再現しようと心血雪ぐ魔法使いがいる以上、錬金術だと言っても反発があるだろう。
そしてテスタに聞いたけど、今稼働して人間の制御下にいるのは古いパーツのつぎはぎ状態のゴーレムだとか。
テスタたち一部は、成長してない状態のゴーレム見てるらしい。
それでもナイラたちより大きいし、ぼろいから、ナイラの保存状態の良さに感動したとか言ってた。
「ただ青いアイアンゴーレムは、本体を調べないとどうして青いのかはわかりません。なので本当に青いアイアンゴーレムを作りたいなら、この国に骨を埋める覚悟で国の下で研究するしかないでしょう」
「そっか、わかったー」
「え、ちょっと?」
軽いステファノ先輩の答えに、イア先輩が慌てる。
「俺この国に定住するよぉ」
「うそー!?」
帰郷予定の国にすでに工房があり、人員も確保してるとかでイア先輩は焦る。
けどステファノ先輩はマイペースに答えた。
「工房は無理だけど、人はこっちに呼べばいいよー」
「おい、スティフ。今まで段取りしてたイア先輩の苦労を察してやれ」
軽く叱るキリル先輩に、イア先輩は落ち着きを取り戻し、思考を巡らせる。
「…………あの青いアイアンゴーレムが成長した姿なら、ゴーレムとしての中核以上に余分な部分がある。だったら、その研究に必要ない部分の権利を主張して、国許で売れば?」
ぶつぶつと計画を立てようとするイア先輩は、瞬きもせず鬼気迫る表情。
「あれって大丈夫か?」
近寄りがたい雰囲気にネヴロフが不安がるので、僕とラトラスは予測を伝えた。
「確かに素材は希少だ。その上で画材に加工も必要になる。たぶん酸化鉄の塊だから、希少価値で値段も張るし、一定量手に入るなら商売にできるんじゃない?」
「売り渋りで細く長く維持もできると思う。その間に先輩が本当に青いアイアンゴーレム再現できれば、すでに販路がある状態で安定を狙えるかも?」
「よし、スティフ! すぐに研究を初めて!」
「その前に音楽祭のための絵の仕上げが先だ」
僕たちの言葉に頷いたイア先輩が勢いに乗るのを、キリル先輩が無慈悲に叩き払う。
中心人物のはずのステファノ先輩は、マイペースに僕に言った。
「アズ、依頼達成だから、絵を描いてしまったら君のお願いを聞くよー。あ、暇な時は助言ちょうだーい」
「うーん、今回薬が思わぬ効果を出してしまったので。その点について、ちょっと先生方に相談してからでいいですか?」
慎重に当たる僕に、今度はキリル先輩が興味を示した。
「出し物では、錬金術で作った薬を使うのか?」
「はい、そっちは僕らが思いつきで作った物ではなく、エッセンスから作れる薬なのでまた違うとは思いますが」
落ち着きを取り戻したイア先輩は、腕を組んで頷いて見せる。
「確認は大事よ。また何かあって、いきなり私たちごと兵に囲まれるなんてこと起きるかもしれないし」
実は僕のアイアンゴーレム捕獲は、ルキウサリア国王にも報告してあった。
危ないって止められもしたけど、大丈夫って言った上で罠の説明もして、実際試して浅い穴でも起き上がれない証明もしたんだ。
それでも子供なんてゴーレムの一撃で命を落とす。
結果、当日は近くに演習を言い訳にしたルキウサリア軍が待機してた。
そして四体ものゴーレムが僕たちのほうへ向かったことは観測されてたんだとか。
なので慌てて駆けつけてくれた。
一応僕たちを守るためだったんだけど、イア先輩からすれば兵に囲まれる騒ぎに発展した恐怖体験だったようだ。
「ステファノ先輩には、僕の留学の時に作ってくれた女神の絵を食べ物で描くようなことをしてもらいたいので、そのつもりで」
「へー、つまり今度は食べ物じゃないんだぁ。楽しみだなー」
首食べるのはもう嫌だしね。
ともかくまずは、基本的な人材の確保はできそうだった。
定期更新
次回:音楽祭の出し物2




