355話:音楽祭に向けて5
結局決まったのは、青いアイアンゴーレムの生け捕りだった。
アイアンゴーレムは基本黒だけど、その個体は青いそうで、レアらしい。
ただ僕が錬金術的に思うのは、錆びずに酸化してるのかな? ってところ。
生け捕りに参加するのは僕とラトラス、ネヴロフ、そしてイア先輩。
「少人数で大丈夫か? ゴーレム討伐なんて一軍出すようなことなんだぞ?」
「自分の国にはいなかったから話を聞くばかりだが、相当強敵なようだな」
心配するエフィに、ウー・ヤーが逆に興味を持ったようだ。
ゴーレムが自生してるのが北で、人工ゴーレムを作っていたのは中央部。
だから南東のチトス連邦出身であるウー・ヤーは知らない。
「北のエルフの国には、ドワーフが嗾けたゴーレムが朽ちて記念碑扱いになってるわね」
イルメが僕も知らないことを話す。
北辺の獣人の住処は途中で海に隔てられ、そこに出現するゴーレムもさすがに海は渡れないため、本来はエルフの住む大陸西にはいないはずだった。
ただ、上手く捕まえて船にでも乗せれば、大陸北西に住んでるドワーフの所まで持ち込む可能性だとか。
「記念碑って…………。そっちの練習も大変そうだけど、こっちも不安だよ。絵の具の材料採取ってことで、裏方の点数貰えないかな?」
ラトラスはぼやきつつも、少しでもプラスを増やそうと考えてるらしい。
音楽祭はできる人とできない人が顕著な催しだ。
特に教養として芸術を身につけてない平民出身者の多い学舎では、やれることがない。
だから裏方として後見することで評価を行う催しだ。
学内でもやすやすとは交流を持てない貴族子女と話す機会として、コネクション作りにも使われる。
「ゴーレム作れるならさ、岩ゴーレムにして歩いてもらって建材運べないか?」
ネヴロフが考えてるのは故郷に作る水道橋のことかな。
「うん、それが本来のゴーレムの使い方らしいからね。岩で作って、岩を運ばせて最後はゴーレム自身も建材として使うんだ」
結果としてそれが暴走状態になり、今じゃ魔物扱いだけど。
アイアンゴーレムも鉄素材なんてルキウサリアでは産出されないから、長い年月をかけてここまで流れて来たんだろう。
「あ、そうだ。色違い先生から、第一皇子殿下からの指示を書いたメモ預かってたんだよ」
僕が思い出して言った途端、クラスメイトが押し寄せた。
「つまりは錬金術に対する助言ね」
「そのメモは何処だ」
「待って、本当に助言なんてくれるの?」
イルメとエフィは前のめりなんだけど、ラトラスは皇子相手ってことで気後れしてる。
「あの、メモは教室に…………」
「よし、さっさと戻ろうぜ!」
「いや、その前にアズに客だな」
ネヴロフに引っ張られたと思ったら、ウー・ヤーが止めた。
廊下の先の教室を見ると、ソティリオスがいる。
そしてとても胡散臭そうな顔をしてた。
「今、第一皇子殿下と聞こえたんだが」
「あー、ははは」
タイミング悪いなー、前からだけど。
そして気にせずクラスメイトは話しちゃう。
「そう言えば、ソーって政敵って感じの関係なんだっけ」
「血縁というのも、そうした争いで手心を加える理由にはならないからな」
さすがに気まずそうなラトラスだけど、ウー・ヤーは全く気にしない。
それを聞いてソティリオスも短く言い添えた。
「それは親の話だ」
「あら、だったらあなたは第一皇子と交流があるの?」
「いや、そんなことは聞いたことがないな。でも、入学体験では一緒にいたか?」
知らないからこそ聞くイルメに、一度見てるエフィが首を捻る。
ただそれにソティリオスはすっごく顔を顰めた。
「うん、よくわからない俺でもこれはわかるぞ。仲悪いな?」
「…………交流は、あまりない。だが、他に比べれば、比較的ある」
ネヴロフの遠慮ない言葉に、ソティリオスが言いつくろった。
そんな話ののりで、教室へはソティリオスも含めて入る。
ソティリオスは一番話が通じると思ったのか、エフィを見て言った。
「してやられた覚えがあるならわかるだろう? あれは喋り口こそ鈍いが、性格が悪い」
「あ、う、いや…………その…………」
「否定できないくらいの人なのね」
エフィが言葉を選ぼうとしたら、イルメがずばっと断定してしまう。
それにソティリオスは大いに頷いた。
「たぶん頭は悪くない。だが対応が悪い。それを是正しようともしない。その上で表立って敵対して来た者には容赦なく皇子として対処させる」
ソティリオスからしたらそう見えるのか。
僕だけってなると、昔のテリーの宮中警護とか、元近衛、それにエフィってところかな。
まぁ、間違ってはいないね。
「だが、弟には慕われると言うなら、身内に甘いタイプか?」
「けど俺たち村人のために色々作ってくれたぜ。それに、皇子に直談判してやるって押しかけても殺されなかったし」
冷静に考えるウー・ヤーに、無邪気に言うネヴロフだけど、後半の言葉に他は退く。
あったね、そんなこと。
しかもワゲリス将軍のところにも突撃して、結局その突撃って両村が統合されるまで続いたんだよ。
僕は一回やられて、ヘルコフが追い出したから、基本的な被害者はワゲリス将軍だった。
「えっと、さきにソーの要件聞く? メモ書き読む?」
満場一致で僕からの指示メモになった。
ソティリオスも聞いてやろうって構えだ。
第一皇子に対して敵愾心強すぎるよ。
一応メモは僕の口頭説明をウェアレルがメモして、見られてもいいようにしてる。
その上で補足説明をウェアレルから受けて伝えるって言う態だ。
「誰から行こうかな。あ、ネヴロフとウー・ヤー被ってるし、そこから」
僕のネヴロフとウー・ヤーが疑問を顔に浮かべる。
「錬金術科の専用の道具を作ってる、技師を名乗る鍛冶師の人に教えを請えって。話は通しておくからって。ネヴロフは道具がない場所で、錬金術は今以上にやりようがないはずだから、自作できるように。ウー・ヤーは錬金術的な金属の扱いを実地で学べるように。って、どうしたの?」
言った途端、二人とも勢いがしぼんでる。
それを見てラトラスが耳を立てた。
「たぶん、鍛冶師ってところで暑いからだよ。二人とも寒さには強いんだけどね」
「あー、なるほど。じゃあ、暑い所でも体調崩さないよう、まずは体を冷やす方法を編み出さないとね。熱くなる粉末作れたし、今度は冷える粉末探してみようか」
「「それだ!」」
僕が対策を考えるよう言うと、ネヴロフとウー・ヤーが揃って指を差して来た。
鍛冶経験のあるウー・ヤーは、地元だと冷却室という体を冷やす部屋があるけど、こっちではないと知って近づけなかったらしい。
「で、次はエフィね。もう現象の理屈わかれば上級の魔法使えるはずだから、そこら辺の体系論じれるよう試行錯誤あるのみだって」
「待て、さらっととんでもないことを言ってるぞ。俺が、上級魔法を使える前提か?」
「魔法的な常識を外して、錬金術での理屈を魔法に取り込めって」
実際僕ができるし、僕より魔力も魔法の才能もあるならできるはずなんだよね。
「それじゃ、ラトラス。ディンク酒って言う完成品がすでにあるなら、今以上の量産か、販売のためのアピールに使える錬金術を模索したらどうかって。例えば、投光器で物語じゃなく、ディンク酒美味しいって伝える創作物を作る」
ようはCMだけど、考えたこともなかったようで耳がくるくると動いて考え込む。
「私を最後にした理由はあるのでしょうね、アズ?」
「もちろんだよ、イルメ。イルメには、まず精霊を疑えってさ」
イルメが険のある表情をするから、僕は手を上げて制止しつつ続ける。
「ヴラディル先生にも言われたでしょ? 錬金術に関わる精霊と呼ばれる存在と、エルフが精霊と言って奉る存在は本当に同一か? 赤くて、棘があって、単純な花弁としべでできていない花があるという特徴だけを抜きだせば同じだけど、薔薇とアザミじゃ別物ってこともある」
「…………えぇ、そうね。つまりは、錬金術で語られる精霊がいることを第一皇子は疑ってはいないのね。その上で疑いをまず持って来るということは、違うと考えている?」
イルメも考え込んでしまった。
ひと通り伝えると、目が合ったソティリオスが一つ頷いた。
「何かしら問題を含んでるあたり、やはり性格が悪い」
「まぁ、否定しないよ」
結局はみんな、今やってることとは別に一からやれって言う無茶ぶりだからね。
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