353話:音楽祭に向けて3
帝都で政変が起きる予定だと報せがきた。
それはそれで大変だけど、伝声装置の有効活用の一例ができたわけだ。
ただそれだけに気を取られるわけにもいかず、学園生活もやらないといけない。
まずは昼休みや放課後に時間を見つけて、錬金術科以外の教師を回って補習のお願い。
前段階でアポ取りしないと話も聞いてもらえない。
これは貴族的礼儀だけど、前世でも社会人として必要なことだったな。
それに虎獣人のウィーリャを思うと、学園で教えて実践させるのも納得の手間だ。
「え? あぁ、あなたが。ちょっと待ってちょうだい」
音楽教師のところへ行くと、何やら他に対応中だった。
アポ取ってたけど、返事からしてその時なら話聞けるかもしれない程度の返事。
何せ音楽祭が近い。
芸術系の学科は学生に限らず教師も出入りの業者も忙しいんだ。
今も何やら業者とやりとりしてる上に、自主練の学生もいて、できを評価してほしいと待ってる生徒もいた。
「本当なら補習なんて拒否したいところなんですけどね」
音楽教師としては、他科で授業にも出なかった学生なんてということだろう。
「でもあなたに関して王城からお達しが来ているから、特別ですよ。二度はないわ」
「あぁ、そうなんですね。お手間をおかけします」
カリカリしてる音楽教師に表面上は下手に出る。
忙しい相手に自分の都合押しつけて、こっちまでカリカリしてたら話は進まない。
僕もまだ他に予定があるから、さっさと終わらせるためにも、前世の処世術を使う。
それでちょっとは溜飲が下がったらしく、音楽教師も動いてくれた。
何やら譜面をいくつか手に取り始める。
「競技大会見物に行って、事件に巻き込まれるなんてあなたたちも災難ね。しかもあなただけ帝都に親がいるから呼び戻されたそうじゃない」
どうやら教師にはそういう説明がされたようだ。
その上で王城にも情報を上げるという貢献をしたから、有用な学生である僕に補習を用意するよう言われてるとか。
「あなたの去年の成績からして、これくらいかしら」
音楽教師は譜面を選んで差し出した。
と思ったら、見える範囲で楽器の練習していた生徒に向かって声を上げる。
「今の誰! 盛り上がりの前よ、丁寧になさい! 蹴躓くように音外してるんじゃない!」
「すみませんでした!」
声楽でもやってるのか、音楽教師の声はめちゃくちゃ通りがいい。
その上で乗りがけっこう体育会系もかくやと言う厳しさだ。
大汗かいてたり、息切れしてたり、指や腕、首周りにサポーターしてる人もいる。
「それ覚えて、暗譜で弾いて。音楽祭の後に授業終わりあたりでテストするから」
「はい、ありがとうございます」
僕はとっとと撤退。
乗りが怖いのもあるけど、この後はすでに予定してもらった礼儀作法の補習がある。
「エーレガントに! 上品に、優雅に、何より洗練された身ごなし、言葉選び、身だしなみです!」
補習に参加すると、僕以外にすでに小テストで通れなかった学生たちがいた。
補習に時間を取られると音楽祭の練習もできない。
そのせいで苦手意識からやる気のない人と、やることがあるからやる気にみなぎってる人と両極端になってる。
簡単に座学があって、敬意の表し方によって変わる礼を執る恰好の実践。
それらを受けて、最後に小テストで補習の成否が決まる。
「男爵家のあなたに、五代前から男爵を名乗ることになった六十歳未婚当主が挨拶をする」
「こ、これは男爵。私は」
「やり直し」
学生の身分を把握した上で、架空の人物の情報を提示。
正解の対応ができるまで、時間いっぱいリトライ形式。
僕の番になると、音楽教師とは違って、他の生徒と同じ扱いで問いかけられた。
「帝国傘下の王国の王族の目に留まることがあった。挨拶の前に行き合う。すべきことを」
「場所は何処でしょう?」
僕は小領主の子供ってことになってるから、突然王族の目に留まると言われて、理由も善し悪しの指定なしだと含意が広すぎる。
情報欲しくて場所指定してもらおうと思ったけど、何かひっかけかな?
「ではその王族の王城で、広間へ至る前の廊下である」
状況設定の追加情報ゲット。
となるとやることは一つ。
僕は教師の前から退いて、礼を執って控えるだけ。
だって目に留まったって学生が発言権あるわけもないし。
「…………よし、合格」
「ありがとうございました」
これはあれだ、たぶん焦って喋ると駄目なやつだ。
意地悪だけど、実際口開いたらつまみ出される場面に引き出されたことあるし、無駄じゃない気もする。
その後は武術の一環で乗馬して、教養程度の範囲で難しいことはせず合格。
語学も習得済みの範囲だった。
算術や幾何学、弁証法なんていう前世にはない授業もあったけど、どれも名前が違うだけで、算数、数学、弁論と言った前世でもやった内容で難なくクリア。
「よし、七科目行けた」
「お前、それでどうして錬金術科に入ったんだ」
「キリル先輩、とステファノ先輩」
「補習それだけこなせるなんて、よく集中力持つねー」
就活生になった先輩たちと、錬金術科の廊下で行き合った。
「どうして錬金術科にっていうのは、補習の教師方からも言われました。でも、錬金術やるのに、錬金術科以外にありますかと聞いたら、誰も何も言えませんでしたよ」
「入学すぐの魔法学科のことといい、アズはぶれないな」
錬金術の邪魔されるから、魔法学科〆たことをキリル先輩が持ちだす。
すると、興味ないことには無関心なステファノ先輩が僕に寄って来た。
「音楽祭、君は何をするのかなぁ? 面白いこと何か考えてるー?」
「僕は今年が初めての参加なので」
正直芸術系の経験がない。
音楽はピアノあったからやったけど、あとは妃殿下の心配りで弟たちとスケッチしたり、触ったことない楽器の扱いを教えてもらったり。
ほんと、さわりだけだ。
「ただ、錬金術科として、何かすべきだとは考えています」
補習をさっさとクリアすると、教師からなんでそっちに入学したんだと言われた。
それだけ錬金術を下に見て、それが当たり前だと思っている、悪意のない問い。
錬金術科以外に入れなかったという前提で、教師も話してるんだ。
そんな認識、放置しておくわけにはいかない。
「やりがいや、やった結果というものを発表する場があるのに、それをしないから評価もされない。だったら、音楽祭のような場でできることを探そうと思います」
「今までは基本的に音楽祭は裏方の手伝いだ。スティフくらいの一芸がなければ、錬金術科から参加したところで恥をかくだけになる」
キリル先輩は認めつつも、生半可ではマイナス評価になることを忠告してくれる。
「そうですね。けっこう学内を回って、音楽祭について聞きかじりました。参加したことがないなりになんとなくイメージはついているつもりです」
音楽祭と言われてるけど、展示会もある。
音楽や演劇のステージが主であると同時に、美術や服飾もまた発表の場にしてるとか。
「芸術的と評価できる展示を一つ、錬金術科でもできたらと思ってます」
「面白そー。君が考えるなら、きっとまた見たことも聞いたこともないことだよねぇ」
期待するステファノ先輩に、キリル先輩が耳を引っ張って僕から離した。
「お前は自分の絵をまず完成させろ。筆が乗らないだとかぐずぐずいうから、こうして少しの散歩をしてるんだろうが」
どうやらステファノ先輩は絵画を出す予定で、そのマネジメントをキリル先輩がしてる。
「展示だけでしたら当日お時間ありますか? でしたら手伝いをお願いしたいんですが」
「待て、こいつの気を散らすな。本気でやる気がなくなると投げ出すんだ」
すでに経験があるらしいキリル先輩のストップに、ステファノ先輩が笑う。
「それってさぁ、逆に言うと当時までは君の手は空いてるのかな? だったら絵の具の材料取って来てほしいんだ」
「おい、スティフ」
「あの色があったら、全体が決まると思うんだー。いや、決まる。うん、なんか口に出したらそれしかない気がしてきたぁ」
やる気になるステファノ先輩に、止められないと悟ったキリル先輩が僕を見る。
協力してもらうためにも、僕に否やはない。
「それで、絵の具の材料は何を取って来るんです?」
「アイアンゴーレム」
「はい?」
「青いアイアンゴーレムがいるから、欠片を探して拾ってきてー」
予想以上に無茶のお願いに、キリル先輩が今度は襟首を掴んで後ろに下げる。
僕も現実的なキリル先輩から、ことの説明を受けるため止めることはしなかった。
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